宇宙開発に人型ロボット、さらにツイッター社買収など、話題に事欠かないイーロン・マスク氏率いるテスラが、満を持して日本に導入したのがモデルYです。モデルXに続き同社2番目のSUVは普及型と位置付けられているものの、そのパフォーマンスたるや驚きの連続だとか。モータージャーナリストのまるも亜希子さんがレポートします。
化石燃料時代からの脱却を目指し、誰もがあっと驚く未来のビジョンを提案して魅力的なEVを次々と世に送り出している、アメリカのテスラ。サプライチェーンの混乱や上海ロックダウンなどの困難にぶちあたろうとも、その勢いは衰えを見せません。そんなテスラから2022年6月に日本上陸した最新モデルは、クーペのようなフォルムが特徴的なSUVのモデルYです。
モデルXよりひと回りコンパクトなサイズで、ドアも一般的なヒンジタイプになり、本国では3列目シートの設定もありますが日本では5人乗りのみとなっています。後輪駆動の「RWD」とハイパワーで4WDの「パフォーマンス」があり、今回は「RWD」に試乗。使い勝手を含め、レポートをお届けします。
●Check1:エコノミカル
航続距離は500km超え! さらにスマートな充電が利用可能
モデルYのバッテリー容量は公開されていませんが、航続距離(WLTCモード)は「パフォーマンス」(ロングレンジ)が595km、「RWD」(スタンダードレンジ)が507kmと非常に長いです。どちらもテスラが独自開発した最大250kWの高出力充電器、スーパーチャージャーを使って走ることを念頭に置いています。テスラ専用のスーパーチャージャーステーションは現時点(2022年10月27日)で、日本国内に53カ所あり、今後も増えていく予定。日本でもっとも普及している「CHAdeMO」規格の急速充電器もアダプターを使えば利用できます。
充電時間が短いのもテスラ車の特徴で、「ロングレンジ」バッテリーは250kWの出力に対応しており、「スタンダードレンジ」バッテリーは170kWまでの対応ですが、それでもわずか15分で250km走行分程度の充電が完了するとのこと。EVに乗りたいけど充電時間が長いのが気になる、という人にも魅力的ではないでしょうか。
また、スーパーチャージャーでは充電ケーブルを差し込むと同時に車両情報を自動で認識して充電がスタートする「プラグ&チャージ」方式のため、手間いらずで便利です。充電料金は月額料金がなく利用ごとに都度払いとなっており、充電器の出力やその時の車両状態による充電スピードによって、課金される料金が変わる仕組み。例えば同じ250kWのスーパーチャージャーでも、充電スピードによって1分20円または40円と、適用料金が変わります。充電完了後に料金の概算見積もりがタッチスクリーンに表示され、ユーザーがアカウントに登録したクレジットカードで支払うことになります。ガソリン代と比べても圧倒的にリーズナブルです。
●Check2:プライス
ベースグレードは643万円~。円安の影響はあるものの、補助金などが
昨今の円安の影響で、輸入車全般の価格が改定されており、テスラの価格も例外ではありません。2022年10月27日時点での価格は、ベースグレードの「RWD」が643万8000円。デュアルモーターAWDの「パフォーマンス」が833万3000円となっています。
ただ、EVはクリーンエネルギー車(CEV)として補助金が受けられます。条件を満たす必要はありますが、モデルYの場合は国から65万円、さらに各地方自治体が独自に補助金を設定している場合があり、東京都の場合は条件により45~75万円となっています。購入時にはお住まいの自治体に問い合わせてみるといいですね。
さらに、購入時と1回目の車検時にかかる自動車重量税が免除されるほか、購入翌年度の自動車税が75%減税となります。
●Check3:ユーティリティ
明るく広々。家族にうれしい大容量のラゲッジスペースも
テスラでは、スマートフォンに専用アプリをダウンロードしておけば、ドアに近づくだけで自動で開錠し、運転席に座ってステアリングコラムのシフトレバーをDに入れれば、すぐに走り出すことができます。スマホのバッテリー切れなどのために予備のカードキーはありますが、スマホから窓を開け閉めしたり、エアコンの操作やフロントフードを開閉したりと、いろんな操作が可能となっています。駐車中の車両に何か異常があった際の通知や画像なども届くので、スマホ利用をオススメします。
インテリアは、物理スイッチが最小限となり、15インチのセンタータッチスクリーンがぽつんと置かれているシンプルな空間。ライト、ミラー、ワイパーの調整や作動といった操作も、タッチスクリーンで操作するか、音声認識による操作で完了します。
充電中など停車している時間を楽しむための機能が充実しているのも、従来のテスラ同様ですが、今回新たに加わった「カラーライザー」では、タッチスクリーンやスマホに表示される愛車のボディカラーが、好きな色に塗れるようになっています。試乗ではついつい、実際にはあまり見ないメタリックピンクに塗って楽しんでしまいました。
天井は、乗用車最大級の大きさだというガラスルーフが広がり、明るくて開放的な室内を演出。
後席スペースもゆったりしており、これならファミリーユースにも十分です。シートアレンジは、ラゲッジ側に後席を6:4で倒すことができるスイッチが備わり、使い勝手が向上。スッキリとフラットに拡大するラゲッジは、最大で2100Lにもなるのでアウトドアレジャーなどの大荷物もたっぷり積めます。
●Check4:エモーショナル
SUVながら低重心。スマートな走りが魅力
「RWD」は最高時速が217km/h、0-100km/h加速が6.9秒。「パフォーマンス」は最高時速が250km/h、0-100km/h加速が3.7秒(ロールアウトを差し引いた値)と、スーパーカーも真っ青の速さを秘めているモデルY。それはアクセルをベタ踏みせずとも、赤信号が青に変わった瞬間に少し踏み込むだけで、スカッと爽快な加速を味わうことができ、いつもの道のドライブがまったくちがう印象になりました。
モデルYはSUVということで、最低地上高がセダンより約4cmアップの172mm確保されています(2名乗車時)。これなら少しくらいの荒れた道や雪道でも、気を使うことなく走れるのがうれしいところ。でも乗り味はドッシリとした安定感があり、マンホールなどを乗り越えてもバタつきが最小限に抑えられていると感じました。走っているうちに、だんだんSUVではなくもっと低いクルマを運転しているような気分になってくるのが不思議です。後席にも座って試乗したところ、ガラスルーフから都心の高層ビルと空が広がり、気持ちのいいドライブになりました。
今回はシングルモーターの「RWD」でしたが、「パフォーマンス」はデュアルモーターでAWDになるので、さらにパワフルかつ安定感のある走りが楽しめそうです。
●Check5:ハウスベネフィット
V2Hには非対応。テスラ専用の家庭用充電器が利用可能
モデルYは世界最高クラスの高性能バッテリーを搭載しており、長持ちさせるためにもっとも重要なのは、使用していない間も充電プラグを差し込んだままにしておくこと。バッテリーを0%まで放電させてしまうと、場合によってはコンポーネント交換が必要となってしまうそうなので、家庭用の充電器を設置した方がバッテリーは長持ちするといいます。テスラ専用の家庭用充電器「ウォールコネクター」は、200Vで最大出力9.6kW。モデルYの充電口は左リヤフェンダーのあたりにあるので、これから自宅に設置する場合は位置を考慮するといいですね。
また、ウォールコネクターの設置が難しかったり、既存の充電用コンセントがあったりする場合には、コンセントから充電できる「モバイルコネクター」も用意されています。100V・1.2kW/200V・3.2kWのコンセント対応です。なお、車両のバッテリーから家庭への電力供給ができる「V2H」には、残念ながら対応していません。
使い勝手のいい万能SUV。今なら約3カ月で納車可能!
モデルXは、鳥が羽ばたくように開くファルコンウイングドアや、ラウンジのような3列シートなど、驚きの仕掛けが盛りだくさんで新鮮に映ったものでした。同じSUVでも、モデルYにはそうした驚きの仕掛けはなく、広大なラゲッジやシートアレンジのしやすさなど、きめ細かく実用性を向上させているところが印象的。それでも、タッチスクリーンでほとんどの操作をする運転環境や、スマートフォンからもさまざまな操作ができる未来感、走行中や駐車中の映像が保存されていて、いつでもタッチスクリーンやスマホで確認できる機能など、テスラならではの新発想のカーライフは十分に魅力的だと再確認できました。
また、多くの自動車メーカーが納期の目処が立たず苦慮しているこのご時世に、モデルYは3カ月程度での納車が可能とのこと。そして上海工場での生産に切り替わって品質が向上し、ボディ剛性や静粛性などがアップしていると実感できたことも、テスラ躍進の要因だと感じます。充電時間や航続距離というEVの弱点を独自の技術でクリアし、これまでのクルマにはなかったユーモアあふれる機能で停まっていても走っていてもユーザーを楽しませてくれるテスラ。積載性が高く雪道や悪路も安心のモデルYは、ファミリーやアウトドアレジャーにも理想的なEVではないでしょうか。
●家庭と暮らしのハマり度 総合評価
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「連載:モータージャーナリスト・まるも亜希子の私と暮らしにハマるクルマ」
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
この記事の監修者
まるも 亜希子
カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。