再生可能エネルギーを効率的に活用するための方策として、VPP(仮想発電所)という新たな仕組みが注目されています。しかし、VPPとはどのような仕組みなのかを知らない人もいることでしょう。そこで、VPPの意味やメリットをわかりやすく解説。VPPの背景や実用化に向けた取り組み事例についても詳しくご紹介します。
- VPPとは? どんな仕組みなの?
- VPPと一緒に語られるDR・DERとは?
- 今、なぜVPPが必要とされているのか?
- VPPが実現する3つのメリット
- VPPはエネルギー問題解決の一翼を担う、大切な取り組み
VPPとは? どんな仕組みなの?
VPPとは「仮想発電所」という意味
VPPとは「バーチャルパワープラント(Virtual Power Plant)」の略称で、直訳すると「仮想発電所」を意味します。発電所(=電気を生み出すもの)ではあるものの、火力発電所や水力発電所などの実態を持たず、“仮想の存在”であることが特徴です。
では、従来の発電所とどのような違いがあるのでしょうか?
VPPと従来の発電所の違い
一般的に、私たちが家庭や会社で使用する電気は、火力発電所や水力発電所など、大規模な設備を有する発電所でつくられ、送電線や変電所を通じて送られてきます。
そんな中、昨今は環境意識の高まりや世界的なカーボンニュートラルの流れから、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーによる発電が増加しています。もちろん、化石燃料を消費しないため、環境にやさしいというメリットがあるのですが、再生可能エネルギーによる発電の多くは天候や気温など、自然の影響を大きく受けるため、日による発電量の変動が避けられないというデメリットもあるのです。
そこで再生可能エネルギーをはじめとする電気の需給バランスを保つため、電気を使う側の機器を制御したり、点在する太陽光発電や蓄電池をネットワークでつなぎ、あたかもひとつの発電所のように活用する仕組みが研究・開発されています。このような仕組みをVPPといいます。
VPPの具体的な仕組み
具体的には、家庭・ビル・工場などに点在する複数の小規模な発電設備(太陽光発電等)や蓄電設備(蓄電池、電気自動車〈EV〉等)、需要設備(空調・給湯設備、生産設備等)を、IoTなどの情報技術で集約・遠隔制御を行ないます。
これにより、再生可能エネルギーを含めた大規模発電所から供給される電力に過不足があった場合、電気を融通しあって、需給バランスをとるのです。
〈図〉VPPと大規模発電所の仕組み
ここまで読んでいただいてわかるとおり、VPPは「仮想発電所」と表現されますが、「発電」だけではなく、「蓄電」を含めた電気の需給バランスをとる役割も担っており、これらを一元的にモニタリングするシステムです。
つまり、発電して余った電気は足りないところに回され、余剰電力は蓄電に回されるなど、地域全体の発電量を分配して効率よく使うことができるのです。
このように、VPPをうまく活用することは、電気の需給のバランス調整に役立ち、電気の安定的な供給にも貢献します。さらにVPPは、再生可能エネルギーによる発電の有効活用にも役立ちます。こうしたVPPの数々のメリットについては、後述で詳しくご紹介します。
VPPと一緒に語られるDR・DERとは?
VPPについて理解したところで、一緒に語られることの多いDRやDERという言葉についてもご紹介します。
DRとは
VPPに関連するキーワードのひとつに「DR(デマンドレスポンス=Demand Response)」があります。DRとは、電気の需要(消費)と供給(発電)のバランスをとるために「電気を使う側が使用量を制御すること」です。
あまり知られていませんが、私たちが普段、使用している電気は基本的に貯めることができません(もちろん、蓄電池は存在しますが、大容量の電力を長期で蓄えておくのは経済性の観点からもまだ難しい状況です)。そのため、電力会社としては常に電気の需要と供給を一致させ続ける必要があります。つまり、各電力会社は電気の使用量を予測しながら発電量の調整を行い、電気の需給のバランスを一定に調整しているのです。
DRも同様で、2種類の方法で電気の需要と供給を調整しています。それが、電気の需要を増やす「上げDR」と、需要を減らす「下げDR」です。
蓄電設備やEVなどへ充電することで電気の需要を増やすのは「上げDR」。一方、節電などによって電気の需要を減らすことは「下げDR」に該当します。
〈図〉上げDRと下げDRの仕組み
なお、DRはVPPで活用されるほか、電力会社が、電気料金の設定単価や付与ポイント量を変更することで、需要パターンを変えるといった独自のDRを実施することもあります。
DERとは
VPPに欠かせないもうひとつのキーワードに「DER(Distributed Energy Resources)」があります。これは、直訳すると「分散型エネルギーリソース」という意味で、さまざまな場所に分散された電源のことを指します。
〈表〉主なDERの例
・自家発電設備 ・太陽光発電 ・蓄電池 ・EVの大容量バッテリー ・エコキュートなどの給湯設備 ・エアコンなどの空調設備 |
これらは、需要側(電気を使う側)に設置されることが多く、「DSR(需要側電源=Demand Side Resources)」と呼ばれることもあります。
VPPにおいて、DERは制御の対象であり、電気の需要に対して供給を一致させるときや需給の瞬時の変化に対応するときなど、柔軟に需給バランスを保つのに活用されます。
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今、なぜVPPが必要とされているのか?
それでは、なぜ今、VPPという新しい仕組みが求められているのでしょうか? すでに説明した事項もありますが、改めて確認していきましょう。
VPPが登場した背景のひとつに、電力システムのあり方が変化しているという点が挙げられます。前述どおり、これまでの電力システムは、電気を使う量(需要)に対して発電する量(供給)を合わせていくという考え方が主流でした。
しかし、東日本大震災に伴い電気の需給がひっ迫したことなどをきっかけに、このあり方を見直そうとする動きが生まれました。つまり、電気の需要と供給の双方を制御しながらエネルギーを管理すべきだという考え方にシフトしていったのです。
また、再生可能エネルギーを利用した太陽光発電や風力発電の導入が進んでいることもVPPが必要とされる一因と言えます。太陽光発電や風力発電は、天候など自然の状況によって発電の出力が大きく左右されます。そのため出力の制御が難しく、これまでのように供給側を制御するだけでは、電気の需給バランスを維持することが難しいのです。
一方、再生可能エネルギーを利用した発電方法には、発電の際、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出しないというメリットがあります。温暖化対策としてCO2排出量の削減が求められる中、今後も再生可能エネルギーの導入は増加するでしょう。
そこで、VPPという新しい仕組みによって分散型エネルギーリソースを制御し、電気の需給バランスを適切に維持しようという取り組みが注目されているのです。それに加えて、VPPによって出力の変動する再生可能エネルギーもさらに有効活用できるようになると期待されています。
VPPが実現する3つのメリット
続いて、VPPにはどのようなメリットがあるのかも、改めて具体的に解説していきます。
メリット①再生可能エネルギーを無駄なく効率的に利用できる
再生可能エネルギーを利用した太陽光発電や風力発電などは、天候によっては需要よりも多く発電することがあります。たとえば、会社や工場などが停止する祝日など電気の需要が比較的少ない日の場合、晴れていると太陽光発電は需要より多く発電する場合がよくあるのです。すると、供給が過剰になり、電気が余ってしまいます。
この場合、電気の供給に対して需要が足りていない状態です。そこで、VPPを利用してバッテリーやEVなどに電気を貯める「上げDR」の制御を行います。これにより、無駄になっていた電気を貯めることができ、需要があるタイミングでこれらの電気を利用することで、無駄なく使うことができます。
このように、VPPが必要に応じて適切な制御を実施すると、出力が変動しやすい再生可能エネルギーを無駄なく効率的に利用できるというメリットがあります。
メリット②電気の需給バランスを安定化できる
電気の需要は常に変動しており、特に気温が著しく上昇したり、下降したりする夏季・冬季には、需要が著しく増大することがあります。このように電気の需要が急激に増えると予想されるときには、通常、供給を増加させると同時に、需要を抑制するといった対応が必要になります。
万が一、電気の需給バランスが崩れてしまうと、最悪のケースでは大停電につながる恐れがあります。電気の安定的な供給のためには、需給バランスを維持することがとても重要なのです。
そこで、VPPを利用して分散型エネルギーを制御し、需給バランスの維持に役立てることが期待されています。具体的には、需要家の自家発電設備(太陽光発電など)を稼働したり、蓄電池やEVから放電したりするほか、空調や照明といった需要設備の稼働を減らすこと(下げDR)も有効な対策だと言えるでしょう。
メリット③負荷平準化によるコスト削減が期待できる
これまでの電力システムでは、電気の需要のピークに合わせて発電所(基数、稼働量など)を維持・管理することが一般的でした。しかし、需要がピークに達する時間は年間で見るとほんのわずかです。そのわずかな時間のために、発電所を建設したり、維持・管理したりするコストが発生していたのです。
VPPによって、電気の需要のピークを抑えたり、ピークをズラしたりすることができるようになると、その分発電所の建設・維持・管理コストを削減できるようになります。発電のコストが下がれば、わたしたちの電気料金にも反映されることが期待されます。
このように、VPPをうまく活用することで、電力システム全体でより経済的にエネルギーを利用できると考えられているのです。
VPP実用化に向けた取り組みは?
VPPやDRを用いた新しいエネルギービジネスは、「エネルギー・リソース・アグリケーション・ビジネス(ERAB)」1)と呼ばれ、2016年には経済産業省資源エネルギー庁を事務局として「ERAB検討会」が設置され、重点政策としてVPP実証事業が進められています。
なかでも大きな取り組みのひとつが、経済産業省資源エネルギー庁の補助事業として2016〜2020年度に行われた「VPP構築実証事業」です。多くの自治体や企業がこのプロジェクトに参画し、VPPを構築するためにはどのようなシステムが必要かなどについての検討が行われました。2) 2021年度からは「蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業」が開始され、東京電力グループ各社も引き続き参加し、東京電力ホールディングスがアグリゲーションコーディネーター※1として中心的な役割を担っています。3)
また、近年話題の取り組みとして、沖縄県宮古島市がエネルギー自給率向上を目指し、2021年より開始したVPP事業が挙げられます。4) 島内の建物の屋根などに太陽光発電などの小規模な電力を設置しコントロールすることで、国内でも例を見ない規模のVPPを実現しました。この事業は、電⼒ネットワークと協調しながら、再⽣可能エネルギーを電⼒系統の中に取り入れる土台を作ったとして評価されています。
※1:制御した電力量を束ね、一般送配電事業者や小売電気事業者と直接電力取引を行う事業者
参考資料
1) 経済産業省「エネルギー・リソース・アグリケーション・ビジネス検討会」
2) 経済産業省「アグリゲーションに係る実証事業等の概要と進め方について」
3) 東京電力ホールディングス「分散型エネルギーリソースを活用した実証事業を開始」
4) eco island MIYAKOJIMA official site「エコアイランド宮古島、再エネ自給率48.9%達成に向けて」
VPPはエネルギー問題解決の一翼を担う、大切な取り組み
VPPには、電力システムを経済的かつ効率的に運用する上でさまざまなメリットがあります。また、今後は再生可能エネルギーによる発電がさらに進みます。無駄なく利用するためにも、VPPによる柔軟な需給の制御が役立つでしょう。
2022年時点だと、VPPは実証事業が行われている段階で、VPPの構築に必要なシステムの開発や制度の設計が進められています。分散型エネルギーリソースを効率よく活用するために鍵を握る、VPPの早期の実用化が待ち望まれているのです。
なお、VPPでは家庭用の太陽光発電や蓄電池も大きな役割を持つことになります。エネルギーの自給自足による光熱費の節約にもつながるため、太陽光発電や蓄電池の導入を前向きに考えてみましょう。これらの初期費用を抑えられるサービスもあるので、検討してみてください。
太陽光発電や蓄電池の導入を手軽にする「エネカリ/エネカリプラス」
太陽光発電や蓄電池の初期費用を抑える方法のひとつとして知っておきたいのが、導入費用がゼロ円(※)になる東京電力グループの「エネカリ/エネカリプラス」です。暮らしのスタイルに合わせて必要な機器を選択した上で、定額サービスを利用できます。
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