【対談:東京都×東京電力】なぜ、太陽光発電の義務化は必要なのか?

対談:東京都×東京電力

エネルギーに対する問題意識が高まる中、特に注目されているのが「太陽光発電」です。行政や電力会社も、太陽光発電導入を促進する取り組みを積極的に進める中、東京都では「住宅等への太陽光発電設置」義務化へ向けて動き出しています。しかし、なぜ、そこまで「太陽光発電の設置」は重要視されているのでしょうか? 東京都環境局と東京電力エナジーパートナーとの対談を通じて、その重要性をお伝えします。

木村さん


木村 真弘(東京都環境局 建築物担当部長)
東京都庁入庁後、環境政策や住宅政策等に従事。特に気候変動対策については、地球温暖化防止活動推進センターやキャップ・アンド・トレード制度の企画運営等、長年携わっている。現在は、大規模及び中小規模の新築建物に関する条例制度改正等を担当している。

 

後藤さん


後藤 邦彦(東京電力エナジーパートナー株式会社 販売本部 お客さま営業部 戸建住宅電化営業部 サービス企画グループ マネージャー)
早稲田大学大学院理工学研究科で建設工学を専攻。東京電力株式会社に入社後、オール電化住宅の普及・拡大業務に従事。国土交通省住宅局に出向し、住宅省エネルギー基準に関する業務を経験。現在は「エネカリプラス」等の新サービス開発・運営業務に携わる。

 

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「電力の安定供給」に向けて、より一層密な連携を進める2者

対談の様子

 

EV DAYS編集部:本日は東京都と東京電力の2者対談となりますが。まずは、2者の関係について伺えますか?

木村氏(東京都環境局):東京都と東京電力さんの今までの関係というと、電気は重要な公共インフラですから設立以来の長いお付き合いになります。最近の例で言えば、電力危機対応のため、東京電力さんの「でんき予報」の情報を東京都のホームページに表示できるようにして、都民の皆さまにも電気の使用状況を共有しています。

後藤氏(東京電力EP):そうですね、行政の方々とは、足並みを揃えて長年やってきましたが、特に東京都さんとは関係が深いです。最近では「連携協定(※1)」を結ばせていただいたことも大きいですね。電力の安定供給やカーボンニュートラルに向けた取り組み、災害時の関係での連携も密接に行っています

 

【※1:東京都と東京電力ホールディングスの連携協定】
2022年6月に東京都と東京電力ホールディングスが締結した協定。エネルギーをめぐる厳しい世界情勢の長期化の恐れを踏まえ、電力の安定供給とカーボンニュートラルを着実に進めるため、双方で具体的に取り組んでいくことを約束した。
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木村氏(東京都環境局):東京都は、電力をはじめとしたエネルギーの一大消費地ですが、すべてを東京都内で賄うことはできないので、近隣の県からも供給を受けています。東京電力さんは、関東一円の都市に電力を供給していますので、非常に重要な存在ですね。

後藤氏(東京電力EP):そう言っていただけると有難いです。我々としても、電力を安定して供給したり、さらに省エネに関する取り組みを進めたり、幅広く活動するためには、東京都さんとの連携は非常に重要だと考えています。我々の取り組みは東京都さんのエネルギー利用の考え方にほぼ一致しますので、これからもより一層の連携をお願いしたいと思っています。

「HTT」と「TTT」。東京都・東京電力がともに意識する、エネルギー利用の考え方

対談の様子

 

EV DAYS編集部「共通する考え方」というと、どのような点ですか?

後藤氏(東京電力EP):東京都さんの「HTT」というキャンペーンです。今回の対談テーマである「太陽光発電」とも深い関係がありますが、我々が提案している「新電化の暮らし」のコンセプトは同じ内容を訴求しています。

EV DAYS編集部:なるほど、まずは「HTT」とは何なのかを伺えますか?

木村氏(東京都環境局)「HTT」は、東京都が2022年度に始めたキャンペーンで、すなわち、電気を「減らす・創る・蓄める」の頭文字を取ったワードです。都民の皆さまに対し、「減らす」であれば節電行動、「創る」であれば太陽光発電の設置、「蓄める」であれば蓄電池や電気自動車(EV)の導入などを呼びかけています。補助制度もさまざまご用意しています。

 

HTTについて

東京都が2022年度に始めた「HTT」キャンペーン。中長期的にエネルギーの安定確保やカーボンニュートラルにつなげる観点から、さまざまな取り組みを行っている。

 

木村氏(東京都環境局):中身は今までも言っていたことと同じだと思いますが、順番も非常に大事だと思っています。まずはやはり、使うエネルギーを減らすということが第一。省エネ行動のほかに、建物の断熱性能を高めることも大切ですね。こういった対策をした上で、太陽光発電で必要な電力を「創る」ということ。そして、さらに蓄める。太陽光などで創った電気を蓄めることができれば、夜も使えます。カーボンニュートラル、ゼロエミッションに向けては非常に大事な取り組みなので、都民の皆さまにご理解いただくように、いろいろ訴えかけている状況です。

後藤氏(東京電力EP):我々も2022年2月から「エネカリプラス」という太陽光発電などの電化機器を初期費用0円で設置できるサービスを始めましたが、そのコンセプトが「(電気を)つくる・(蓄電池などで)ためる・(効率よく)つかう」というものなんです。「つかう」という部分は、省エネ給湯機であるエコキュートを使うということで、東京都さんの「H」=減らすという考えが前提にあります。「TTT」とは書いてないですけど、頭文字を取るとほぼ同じですね。まずは使っている機器の効率を上げたりすることで、そもそものエネルギーの消費量を減らす。それでも、エネルギー消費量はゼロにはならないので、太陽光で発電した電気を効率よく使い、余ったエネルギーを蓄電池などに蓄めて自家消費を向上させるというのをセットでおこなっていくことが、これから強く求められてくると思っています。

 

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「住宅への太陽光発電導入」はなぜ必要? 重要性とメリットを改めて考える

対談の様子

 

EV DAYS編集部:双方同じような考え方の中で、重要なポイントのひとつが「創る(T)」といった観点での太陽光発電です。東京都は9月9日に「環境基本計画」(※2)の改定およびそれに関連する「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」の策定を公表。住宅における太陽光発電の義務化を検討されています。今一度、住宅に太陽光発電を導入する意義について伺えますか?

 

【※2:東京都環境基本計画】
2022年9月9日に改定・発表された、サステナブル・リカバリーを進め、50年、100年先も魅力ある豊かな都市として発展していくための環境計画。「戦略0」として「危機を契機とした脱炭素化とエネルギー安全保障の一体的実現」を掲げるなど、「成長」と「成熟」を両立する、持続可能で、安全・安心、快適な都市を目指すための具体的な方策を打ち出している。
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木村氏(東京都環境局)東京という大都市の特性とも関わるのですが、この窓から見ていただいてわかるとおり、東京は建物が多い、非常に都市化が進んでいる街です。そのため、東京でできる電力の自給を考えた場合に、建物の屋根は非常に大きなポテンシャルがあると考えています。

後藤氏(東京電力EP):「基本方針」でもこの点、触れられていましたね。運輸部門や産業部門などの最終エネルギー消費量はここ20年で着実に下がっているのですが、唯一、家庭部門は上昇してしまっています。

木村氏(東京都環境局):さらに、都内CO2排出量の7割超が建物でのエネルギー使用に起因しているという点を踏まえても、住宅を含めた建物で再エネによる電力自給を考える必要性は高いと考えています。もちろん、利用者にも非常に大きなベネフィットがあります。自分で創った電気を自分で使うことができるので、万が一、停電になってしまっても、最小限の生活が可能となる災害に強い家にすることができるわけですから。

後藤氏(東京電力EP):自然エネルギーを活用することによって、カーボンニュートラルに自分自身も貢献できる、という点もポイントですね。

木村氏(東京都環境局):ええ、以前よりも太陽光発電は普及して、設置費用も大分下がってきています。また、太陽光パネルも20年から30年程度とかなり長い間使えるというものですので、自家消費部分と売電分をあわせていくと、十分、経済的にもメリットが生まれてくるというふうに思っています。

 

太陽光発電がのった住宅街

画像:iStock.com/kokouu

 

EV DAYS編集部:なるほど。ちなみに…ですが、太陽光発電を設置すると、電気を購入してもらう量が減るわけですが、電力会社としてはどうなのでしょうか?

後藤氏(東京電力EP):おっしゃる通りで、電力会社なので一昔前までは電気をどれだけ売れるか、という考えが主軸でした。しかしこれからは、電気を売るだけではなく電気に関連する設備機器までご提案することで、もう少しみなさまの暮らしの中に入り込んだサービスを…という発想に変わってきております。そのひとつとして「エネカリ/エネカリプラス」をご用意しました。機器導入に関する初期費用の利用者のご負担を減らすメリットを感じていただき、安心で快適な暮らしをご提案する。そうしたビジネスをやっていきたいなと思っています。

木村氏(東京都環境局):「基本方針」の中でも、購入という選択肢のほか、「エネカリ/エネカリプラス」のように、初期費用をかけずに太陽光発電を設置していただくという選択肢も取れるよう記載しています。太陽光発電を自宅につけるという意味では全く同じですし、初期費用はかからないという点では、非常に大きなメリットになりますからね。

「住宅の屋根に太陽光パネルがあるのが当たり前」という世界に向けて

EV DAYS編集部:太陽光発電を設置する意義は、十分に納得できました。ただ、世間で注目を浴びている「太陽光発電の義務化」は、なぜ必要なのでしょう? 個人宅の住居に関する義務化は「いささかやりすぎでは?」という声もあったかと思いますが…。義務化の件、後藤さんはどのように受け取られましたか?

後藤さん

 

後藤氏(東京電力EP):国に先駆けての義務化なので、すごく先進的な取り組みをされているなと思いました。国のほうでも新築住宅の省エネ基準の義務化が2025年度からあり、その前段で太陽光発電も義務化に入れるかどうかという議論が1、2年前くらいにあったんです。国としては、最終的にそこは入れない形での義務化になったのですが、東京都さんはそれを対象とした形の規制を進められるというので、非常に注目しています。

木村さん

 

木村氏(東京都環境局):ありがとうございます。たしかに、いろいろなお声をいただきましたが、「義務化」という言葉の印象が強いので、十分な説明が必要なのは理解しています。今回の新たな制度は、目標として2025年4月スタートを目指していて、住宅購入者ではなく年間延床面積で合計20,000㎡以上の住宅を供給されるハウスメーカーさん等を義務化の対象としています。もちろんその分の費用がかかる可能性が高いわけですので、それを購入される都民のみなさまも無関係ではありません。ただ、太陽光発電の義務化という部分ばかりが注目されるのですが、よりよい住宅や都市環境をつくるための一連の流れの中にあることをご理解いただきたいと考えています。

EV DAYS編集部:一連の流れとは、どのようなものでしょうか?

木村氏(東京都環境局):先ほどお伝えした「HTT」の順番で、まずは「減らす」ということが大事なので、住宅の断熱・省エネ性能基準の義務化を行います。これによって、より少ないエネルギーでも室内の温度差が少なく快適で健康維持につながる住宅となります。
これに続くのが、「創る」という視点での太陽光発電の設置の義務化です。
今後のエネルギー確保や脱炭素化の視点を踏まえると、都知事もお話しているとおり、「住宅に屋根があるのが当たり前。屋根が発電するのも当たり前」という状況をつくっていきたい、すなわち、新築住宅には太陽光パネルがついているのが標準的な世の中にしていきたいと思っています。

3点目は、「蓄める」という視点、ZEV(ゼロエミッション・ビークル)の充電設備の義務化です。ただ、電気自動車などの普及はこれからなので、駐車場のある戸建住宅では将来に備えて充電設備の配管を用意してください、という内容にとどめています。将来的にはZEVを購入し、自家消費の促進や災害時のレジリエンス向上として、V2H(Vehicle to Home)の導入も誘導基準という位置づけに据えています。

この流れを知っていただけると、理解していただきやすいかと思います。

EV DAYS編集部:非常に合理的な流れですね。

木村氏(東京都環境局):この新制度については、都民の方によりわかりやすくお伝えするため、「太陽光発電設置『解体新書』」(※3)という冊子をつくりました。これは東京都のホームページにも載せています。制度の中身自体の解説や、先ほどの設置するメリット、設置した後のメンテナンス等々に対しての疑問への答えも一通り書いているので、これをご覧いただけると、義務化への疑問が解けるのではないかなと思います。

太陽光発電設置『解体新書』

 

【※3:太陽光発電設置「解体新書」】
2022年9月に発表された、太陽光発電設置に関するQ&A集。太陽光発電自体から制度に関してまで、さまざまな疑問に答えている。
▶︎詳しくはこちら

 

2025年4月の新制度施行を目指して。太陽光発電の意義をより多くの方へ理解してもらいたい

木村さんと後藤さん

 

EV DAYS編集部:ここまでお話をお伺いして、読者の方もより理解を深めていただけたのではないかと思います。最後に、お二方からメッセージをお願いします。

木村氏(東京都環境局):2030年にカーボンハーフ、2050年にCO2排出実質ゼロというのが東京都の目標です。次の都議会で可決いただけたなら、制度施行まで、2年3か月ほどの時間がありますが、事業者の方々には、この制度に対応する準備をしていただき、都民の方に対しては、太陽光発電のメリットや、そういった住宅に住むことの意義をよりご理解いただくように取り組んでいきます。この間は太陽光発電の“標準設置ムーブメント”を起こす期間と位置付け、普及が大きく進むような支援やキャンペーンなどを行っていきたいと考えています。

いろいろなチャンネルで触れていただける機会を増やしていくことが大事だと思っていますので、わかりやすい冊子をお作りしてご覧いただいたり、SNSや動画、実際のイベントなどを使って、都民の方のご理解をいただけるように努めていきます。ぜひ、さまざまな場面で触れていただけるとうれしく思います。

後藤氏(東京電力EP):太陽光パネルなどの価格は下がってきていて、過去より導入しやすい状況になっていると思います。しかし、それでも新築住宅に太陽光発電や蓄電池を導入するのは、初期費用がかかります。もしハウスメーカーさんなどが提案したとしても、入れたくないという施主さんもいるのは、当然のことだと思っています。なので、そういうところも含めて、我々は初期費用の負担を軽減できるサービスの提案を行い、世の中的に普通に太陽光発電を導入できる、という認識を持っていただけるような活動をしていきたいです。

EV DAYS編集部:本日はお時間いただき、ありがとうございました!

 

太陽光発電の初期費用の負担を軽くする「エネカリ/エネカリプラス」

東京電力グループの「エネカリ/エネカリプラス」は、太陽光発電の導入を手軽にするサービスです。初期費用はゼロ円(※)で、毎月定額の利用料を支払うだけで機器導入が可能。また、契約期間が満了すると、機器を自分のものにすることができます。

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この記事の著者
EV DAYS編集部
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