EVのネットワークが未来を変える。電力のスペシャリストが目指すエコで強い社会

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私たちが毎日、当たり前のように使っている電気。そんな電気の“送配電網”を工夫することで、より環境にやさしく、効率的な社会を実現しようとする取り組みがあることを知っていますか? 一般送配電事業を行う東京電力パワーグリッド株式会社では、電気自動車(EV)を上手に連系させて再エネ普及を促すための実証実験を行っています。EVの連系がもたらす未来の姿とは? その取り組みを取材しました。

担当者に直撃! 東京電力パワーグリッドの取り組みとは?

そもそも、「EVを連系させる」とは一体どういうことなのでしょうか? 世界中のパソコンがインターネットでつながっているように、EV同士が、あるいはEVと何かがネットワークでつながって、人工知能か何かで制御する……!? そんな疑問を抱きながら、東京電力パワーグリッドの方々にお話を聞きました。

電力のスペシャリストとして取り組む3つのミッション

東京電力パワーグリッド株式会社の方々

小林直樹さん(中央)、吉村大輔さん(右)、三浦一輝さん(左)。ともに東京電力パワーグリッド株式会社 事業開発室 グリッドエッジ事業開発グループ

 

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まずは東京電力パワーグリッドがどんな事業を行っているのか、基本的なところから聞いていきましょう。小林さん、お願いします!

「はい。東京電力パワーグリッドは一般送配電事業者として事業を展開しています。一般送配電事業とは、発電所から発電された電気を変電所や鉄塔、電柱を通じてお客さまへ届ける事業のことです。たとえば、変電所や電線といった設備の保守・点検のほか、停電時の復旧作業なども行っています。

また、この送配電事業を安定的に、より効率的に行い、価値あるものにするための取り組みや開発も行っています。たとえば、『ゼロエミッション』『レジリエンス向上』『分散化社会の構築』につながる付加価値事業の創出にも取り組んでいて、EVの普及は重要な要素と考えています」

……前半はよくわかりました! しかし、後半の「ゼロエミッション」「レジリエンス向上」「分散化社会の構築」――これが何のことだかよくわかりません。もう少し詳しく教えていただけますか?

ミッション①:「ゼロエミッション」でエコな社会を実現

小林直樹さん

小林直樹さん(ERAB〈エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス〉統括、グリッドエッジ事業開発グループ グループマネージャー)

「『ゼロエミッション』は、環境を汚染するような廃棄物を排出しない=ゼロにするということです。たとえば、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー由来の電力は、CO2を排出しないので『ゼロエミッション』にあたりますね」

ミッション②:「レジリエンス向上」で災害に強いインフラを

「次の『レジリエンス向上』ですが、レジリエンスとは、回復力や復元力といった言葉を意味します。日本は台風や地震など自然災害が多く、最近は被害も大きくなっていますよね。レジリエンス向上とは、つまり、災害で被害を受けたインフラの復旧能力を向上する(お客さまに早く電気をお届けする)ということです」

〈図〉東京電力パワーグリッドが重要視するミッション

東京電力パワーグリッドが重要視するミッション図

なるほどー、よくわかりました! でも疑問なのですが、そのようなこととEVとは、どのような関係があるのでしょうか?

「はい、それが次の『分散化社会の構築』に関わってきます」

 

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EVを蓄電池として活用することですべてのミッションがつながる!

ミッション③:新たな電源構造で「分散化社会の構築」を

「分散化社会の構築」については吉村さんが教えてくれました。

吉村大輔さん

吉村大輔さん(グリッドエッジ事業開発グループ)

「日本の電力は、大部分が火力発電所や原子力発電所といった大規模電源によってまかなわれていました。大きな電源(集中型エネルギー)から各地に電気が送られる、いわば“中央集権的”な構造です。

しかし、東日本大震災を契機に集中型エネルギーによる課題が浮き彫りになりました。電気は貯蔵できないため、需要と供給のバランスを保つために『供給量の調整』を行います。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、天候などの条件によって発電量が大きく左右されます。また、発電量の抑制や制御が難しく、さらなる導入の拡大が見込まれていることもあり、電気の品質(電圧や周波数など)を安定させるといった観点での課題もあります。

こうした状況に対して、集中型エネルギーに加え、各地に分散している電源(分散型エネルギー)も上手に使って社会に活用しようという取り組みを現在行っており、これを『分散化社会の構築』と呼んでいます」

なるほど。たとえば、住宅の屋根や遊休地などに設置される太陽光発電は電源の分散化の代表的な例ですね。……ん? でも、それにEVがどう関わっているのですか? 教えてください、吉村さん!

「はい! EVは、車(移動手段)としてだけではなく、大容量バッテリー(蓄電池)としても活用することができます。いわば“動く蓄電池”ですね。EVに蓄えた電気を電源として使うことができるのです。もちろん、災害時にも電源として使うことができます。EVが普及すれば、電源の分散化につながるわけです」

〈図〉東京電力パワーグリッドが重要視するミッション

東京電力パワーグリッドが重要視するミッション図

よくわかりました! 災害時にもEVを電源として活用することができれば、送配電網が被害を受けていても電気を使うことができますね。ということは、EVによる「電源の分散化」が、災害に強い「レジリエンス向上」につながるわけですね!

東京電力パワーグリッドの方々

「そうです。しかも、EVの普及はすなわち『ゼロエミッション』の拡大にもつながります。先ほど話したように、再生可能エネルギーは天候などの条件によって発電量が大きく左右されます。EVは排気ガスを出さないだけでなく、発電量が多い時に電気を充電する蓄電池として機能することで、再生可能エネルギーの導入拡大につながることも期待されます」

天気の良い日に太陽光発電で使い切れない量の電気が生み出されても、EVに蓄えておくことで、夜間や、天気の悪い日や、万が一のときにも無駄なく活用することができるというわけですね。

〈図〉太陽光発電をEVで無駄なく活用するV2Hの仕組み

太陽光発電をEVで無駄なく活用するV2Hの仕組み

 

 

なるほどー。そう考えると、EVは「ゼロエミッション」「レジリエンス向上」「分散化社会の構築」すべてのカギになるのですね! EVと送配電ネットワークが連系することによって、これらのミッションの実現につながるのです。

【現場レポート】どんな実証実験をしているの?

さて、東京電力パワーグリッドが取り組む3つのミッションがわかりました。東京電力パワーグリッドでは、これらの課題を解決するためにEVを使った実証実験を行っているそうです。一体どのような実験を行っているのでしょうか? 三浦さんが説明してくれました。

三浦一輝さん

三浦一輝さん(グリッドエッジ事業開発グループ)

「主に3つの実証実験を行いました。①『最適充電制御・運行管理実証』②『V2X活用実証』③『カーシェアリング実証』です。それぞれ苦労しましたが、成果を上げることができています」

ありがとうございます。……すみません、ちょっと難しいので、 ひとつずつ、詳しく教えてもらってもいいでしょうか!

「はい。口頭だけだとわかりづらいと思うので、実際に実証実験の現場を見に行ってみましょう」

よろしくお願いします!

実証実験①『最適充電制御・運行管理』
:業務用車両のEV化促進へ。充電コストの効率化をシステムで実現

EV車

「まず『最適充電制御・運行管理実証』ですが、これは、企業などの業務用車両を効率的に運用するための実証実験です。たとえば、100台の業務用EV車両を一度に充電すると、かなりの電気を一度に消費することになってしまいます。

企業の電気設備は、一定の負荷を超えてしまうと、設備増強や電気料金の見直しが必要になってきます。そうならないように、EVの充電を制御・管理する仕組みをつくりました」

EVの充電を制御・管理!? そんなことができるんですね。仕組みはどのようになっているのでしょう。

車両側のデータ(バッテリー残量など)を収集してデータベース化し、EVの充電に使用する電気設備側の電気容量と照らし合わせ、効率的な充電スケジュールを組むことで、設備側の契約電気容量を超えないように制御・管理しています」

制御盤

こちらが最適充電を管理する制御盤。すべて実証実験のためにつくられたそう!

なんだか簡単そうに聞こえますが、実施にあたっては相当な苦労があったのではないですか?

「一番大変だったのは、EVを業務用車両として使う方々の『移動の途中で充電が切れるのではないか?』という不安を解消するため、運用を工夫することでした。EVを利用する方々の不安を取り除くためには、可能な限りバッテリー残量が高い状態で毎朝を迎えるようにしなくてはいけません。技術的にはこれが一番大きな課題で苦労しました」

配線

配線などもすべて手作業で組み上げられたそう! 精密に設計されています。

最適充電制御・運行管理は苦労の甲斐もあり成功したといいます。エコで効率的な社会の実現に一歩近づいたわけですね!

実証実験②『V2X活用』
:「分散化された電源」を同時制御。電気の需給バランスを保つ基礎づくりに

EV車充電の様子

「次に『V2X活用実証』ですが、これはV2X(Vehicle to X)機器を設置し、充放電の制御をする実証実験です。太陽光発電などの再エネ電力を余すことなく活用するため、電気が余っているときはEVへ充電し、電気が足りないときはEVから電気を取り出す、といったことを制御・管理する取り組みです。

イメージしやすいように要約すると、複数の拠点をネットワークでつなぎ、司令室が各拠点のEVの充放電を制御・管理して全体の電気の需給バランスをコントロールしているのです」

〈図〉V2X活用実証のイメージ

V2X活用実証のイメージ図

※ACはアグリゲーションコーディネーター、RAはリソースアグリゲーターのことです。詳しくはこちらをご覧ください。

これぞまさに、EVと送配電ネットワークが連系することによって生まれる「電源の分散化」ですね! さすがにこの実証実験には大変な苦労があったのではないでしょうか?

「複数のメーカーのV2X機器を設置したので、メーカーによって通信プロトコル(※)が異なり、規格を合わせて同時制御する必要があり苦労しました」
※コンピュータ同士が通信を行うためのルールのようなもの

V2X機器を同時制御する設備

アイケイエス、ニチコン、三菱電機のV2X機器を同時制御しているそうです!

とはいえ、最終的に実験は成功したそうです。ネットワークでつながっている複数のV2X機器を同時に制御できたといいます。

ネットワークでEVがつながり、足りない電気を供給したり、余った電気を蓄電したり……なんだか「ゼロエミッション」「レジリエンス向上」「分散化社会の構築」にぐっと近づいたような気がします! EVの連系の実現はもう時間の問題ですね!

実証実験③『カーシェアリング』
:業務用EV車両の導入ハードル低下へ。休日のカーシェア転用の需要調査

カーシェアリング実証

「最後に『カーシェアリング実証』ですが、これは企業などの業務用車両を休日にも運用して効率化するための実証実験です。東京電力パワーグリッド江東支社にて、平日は社員が業務利用し、休日にカーシェアリングユーザーが利用する形で実施しました」

利用ニーズの調査など事前準備に苦労したそうですが、カーシェアリングは結果的にかなりの高稼働となったのだとか。EVの利用ニーズの高さがうかがえますね。また、こうした取り組みでEVに触れる機会が増えれば、EV普及の拡大、ひいてはEVネットワークの拡大にもつながりますね!

 

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EVでつながる未来は着実に近づいている!

東京電力パワーグリッドの方々

実証実験の成果によって、現在よりもいっそうEV普及の拡大が期待できると小林さんはいいます。EVが普及し利用範囲が拡大すれば、CO2削減によるエコ社会の実現はもとより、電源の分散化によって災害に強い社会の構築も実現するでしょう。

しかし、「そのためにはまだまだ課題がある」とも小林さんはいいます。

「現時点では、再エネ電力だけでは電力需要を到底まかないきれませんし、災害等の影響で発電所が停止した場合の急激な供給力の低下に対応することもできません。また、今後、国際的な脱炭素化への流れの中で、火力発電に頼らない電源をどう確保していくのか、最適な電源の組み合わせや構造づくりをどう実現していくのか、これは国家的な課題でもあります」

東京電力パワーグリッドが目指す未来は、まだ遠いところにあるのかもしれません。でも、今回取材をしてみて、着実にその未来に近づいていることが実感できました。

東京電力パワーグリッドのみなさんは、今後もさまざまな取り組みを通じて、私たちの生活を支え、そして私たちの社会をより良いものへと導いてくれるでしょう。

普段当たり前のように使っている電気の裏側には、未来を見据えて日々努力している人たちの姿がありました。EVのネットワークでつながる社会……みなさん、ワクワクしませんか?

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
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