「災害への備えとして役立つ」「電気代の節約につながる」などのメリットがあることから、注目を集めている「V2H(Vehicle to Home)」。“電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV・PHEV)の大容量バッテリーを家の電源として活用するシステム”だということは知っていても、仕組みや機能を詳しく理解している人は、少ないのではないでしょうか。EVのある暮らしを豊かにしてくれる、V2Hについてイラストを交えながらご紹介します。
- そもそもV2Hって何? 注目されている理由は?
- V2Hの導入に必要な条件は?
- V2Hの仕組み・役割を図解
- V2H機器の主な2種類を紹介
- V2H導入のメリット・デメリットを解説
- 今後さらなる活用が期待されるV2H
注:本記事で「EV」と表現する場合、「BEV(Battery Electric Vehicle)」を意味しており、PHVやFCVとは区別しています。
そもそもV2Hって何? 注目されている理由は?
V2HはEVの「もったいない」を有効活用するシステム
まずは「V2H(Vehicle to Home)」の概要について、簡単にご説明します。
直訳すると“車から家へ”となることからもわかるように、V2HとはEVやPHVに蓄えられた電気を、家庭で有効活用するためのシステムや考え方を指す言葉です。
近年のEVやPHVに搭載されるバッテリーは、数百kmもの長距離走行に対応できるほど大容量になっています。しかし、それだけの大容量バッテリーが走行していない時間帯には、いわば「置物」になってしまっているという、もったいない事実があります。
この「もったいない」を有効活用するのがV2Hです。V2Hを導入すれば、普通の蓄電池に比べ数倍~十数倍もの容量があるEVやPHVの大容量バッテリーを家庭用電源としても使えるようになるのです。また、V2Hを導入することでEVやPHVの充電をより効率的に行えるようにもなります。どのように効率的に使えるのか、といった具体的なメリットについては後述いたします。
〈図〉V2Hがある場合・ない場合の違い
V2Hが注目されている3つの理由
現在、V2Hが社会的に注目されている主な理由として、次の3つが挙げられます。
Ⅰ.EVやPHVを災害時の非常用電源として利用できる
ひとつめの理由は、災害対策です。台風や大雪などの自然災害による停電で、家庭の電気が使えなくなってしまったというニュースを耳にすることがあると思います。そうした事態への備えとして、EVやPHVの大容量バッテリーを非常用電源に利用できるV2Hが注目されているのです。
非常用電源としては、家庭用の蓄電池も普及し始めていますが、EVやPHVのバッテリーはそれよりも、はるかに大容量です。車種によって性能は異なりますが、停電時でも家庭の電力を最大約5日間は供給できるとされています。
〈表〉V2Hを利用した場合の給電可能時間例
メーカー | 車名 | 電池容量 | 放電可能時間※1 |
---|---|---|---|
日産 | リーフe+ | 62kWh | 111時間 |
日産 | リーフ | 40kWh | 72時間 |
ホンダ | Honda e | 35.5kWh | 63時間 |
三菱 | アウトランダー エクリプスクロス(PHEV) | 13.8kWh | 24時間※2 |
トヨタ | プリウスPHV | 8.8kWh | 15時間※2 |
※1 条件:1時間あたり400Wh使用、全電池容量の80%を使用、V2Hの充放電効率90%で試算。
※2 バッテリーのみを使用した場合の時間です。エンジンでの発電を組み合わせると放電可能時間は大幅に増加します。
Ⅱ.地球環境にやさしい電気の使い方ができる
V2Hが注目されているふたつめの理由は、エコロジー(環境保全)への貢献です。
太陽光発電を利用している家庭でV2Hを導入すると、太陽光発電のクリーンな電気でEVやPHVに充電し走行できるのはもちろん、太陽の出ていない夜などにそのクリーンな電気を家へ戻し利用することができます。
再生可能エネルギーである太陽光で発電したクリーンな電気をご家庭でなるべく多くご利用いただくことにより、CO2排出量が削減され、環境にやさしい生活を送ることができるようになります。
これまでFIT(固定価格買取制度)を利用し、太陽光発電の余剰電力を売電していた人も多いと思いますが、国が約束した買取期限が切れる(「卒FIT」と呼ばれる)と、一般的に買取価格が大幅に低くなります。その際の余剰電力を有効活用する方法としても、V2Hの導入は合理的といえるのです。
〈表〉FIT時と卒FIT時の売電単価等の違い
条件 | 単価の目安 |
---|---|
FIT時の売電単価 ※ | 48円/kWh |
卒FITの売電単価 | 7〜9円/kWh |
電気代の購入単価 | 20〜30円/kWh |
※2020年度までに「卒FIT」する太陽光発電10kW未満(単独発電)の場合
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Ⅲ.電気代が節約できる
画像:iStock.com/malamus-UK
V2Hを導入し、EVやPHVの大容量バッテリーを家庭用の電源として活用すると、電気代の節約が期待できるようにもなります。
ご存知の方も多いと思いますが、電力会社が提供する料金プランのなかには、夜間の電気料金単価を安く設定しているものがあります。
この料金プランを利用し、夜間にEVやPHVを充電すれば、車の走行コストを節約できるほか、大容量バッテリーに蓄えた電気を昼間の家庭で利用することで、家庭全体の電気代節約にもつながるのです。
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V2Hの導入に必要な条件は?
EVやPHVを所有している人にとってメリットが多いV2Hですが、残念ながらすべての家庭で導入できるわけではありません。そこで、V2Hを導入するための条件を確認しておきましょう。
(条件1)自宅と駐車場が隣接していること
V2H導入の必須条件となるのが、EVやPHVを駐車させる場所が自宅に隣接していることです。
V2Hは、EVやPHVと家とを有線でつなぐシステムです。そのため、導入の前提としてEVやPHVを自宅のすぐそばに駐車させる必要があります。
そのため、基本的には、駐車場付きの戸建て住宅に住む人が利用できるということになります。自宅から離れた場所に駐車場を借りている人や、集合住宅に住んでいる人は、V2Hの導入が実質的に困難であることには注意しておきましょう。
〈図〉V2Hを導入できる駐車スペースの位置
(条件2)電力会社の承諾を受けること
V2Hを利用するためには、電力会社(送配電事業者)が所有する配電線とV2H機器を接続するための承諾を受ける必要が生じる場合があります。
後述する「系統連系」型のV2H機器は、電力会社から見た場合に「発電可能な機器」とみなされているからです。
といっても、電力会社からの承諾手続きはV2H機器を設置する業者が代行してくれるので、導入する個人がそのことを意識することは、ほとんどないでしょう。ちなみに、系統連系認証(JET認証)を取得しているV2H機器なら、承諾手続きが比較的スムーズに行えます。
〈コラム〉太陽光発電があると、より効率的な運用が可能
V2H導入の必須条件ではありませんが、V2Hのメリットをフル活用するためには、太陽光発電との連携が推奨されています。
太陽光発電で得られる電気を利用することで、環境への貢献や、電気代の節約が期待できるからです。
逆に言えば、すでに太陽光発電を利用している家庭なら、V2Hの導入がおすすめとも考えられます。また、V2Hの導入をきっかけに太陽光発電の設置を検討してみるのもよいのではないでしょうか。
V2Hの仕組み・役割を図解
ここまではV2Hの意義について解説しましたが、EVやPHVに蓄えられた電気を家庭で利用するために、なぜ専用のV2H機器が必要になるのでしょうか。
「もっとシンプルに自宅とEVやPHVを電気ケーブルでつなげないの?」と思う人もいるかもしれませんが、なかなかそう簡単にはいきません。V2H機器が必要となる大きな理由は、互いに使用している電気の種類の違いにあるのです。
(役割1)直流と交流を変換しEVやPHVと家をつなぐ
EVやPHVのバッテリーに蓄えられた電気は、乾電池と同じ「直流」という種類です。一方、家庭用の電気は「交流」です。
つまりEVやPHVの電気は、そのままの状態では家庭で利用することができません。そこで、直流から交流、交流から直流に変換するための仕組みが必要になります。その役目を担うのがV2H機器というわけです。
〈図〉V2Hの主な役割1
V2H機器がなくても専用のコンセントを使えば、EVやPHVの充電は可能ですが、EVやPHVの電気を家で利用するためには、V2H機器が必要になります。また、V2H機器には、家の全ての電気を賄えるほど大きな電気を変換する能力もあります。
(役割2)電力会社や太陽光発電の電気を賢く使い分ける
V2H機器の役割は、EVやPHVと家とをつなぐことだけではありません。機種によっては、電力会社から送られる電気や、自宅の太陽光発電で作られた電気を、条件に合わせて賢く振り分けることもできます。
太陽光発電の有無やそれがFIT期間中か卒FITかなど、各家庭の目的・条件に合わせていくつかある運転モードを選択・設定すると、自動的に電気の充放電を制御してくれます。
〈図〉V2Hの主な役割2
V2H機器の主な2種類を紹介
V2H導入を検討する際、特に注意しなければいけないのが、V2H機器の種類です。現在販売されているV2H機器は、大きくわけて「非系統連系」と「系統連系」の2種類あり、「系統連系」型のV2H機器が市場では主流となっています。
では、それぞれの違いについて解説します。
Ⅰ.「非系統連系」型
V2Hで扱う電気の系統はEVやPHV(のバッテリー)、電力会社(から送られる電気)、太陽光発電(で作られる電気)の3つになります。
「非系統連系」とは、それらの系統が連携しないことを指します。たとえば、家に電気を供給する際、非系統連系型のV2H機器では3つの系統のうち、ひとつしか選ぶことができません。たとえば、EVやPHVから家庭に給電しているときには、電力会社や太陽光発電からの電気が利用できないということになります。
〈図〉非系統連系のイメージ(EVから家に給電する場合)
また、非系統連系型のV2H機器は、停電時に太陽光発電からEVやPHVに充電ができない点にも注意が必要です。
Ⅱ.「系統連系」型
対して「系統連系」型のV2H機器は、EVやPHV(のバッテリー)、電力会社(から送られる電気)、太陽光発電(で作られる電気)の3つの系統を、同時に利用することができます。
〈図〉系統連系のイメージ
停電時にも、太陽光発電からEVやPHVに充電ができるため、昼間に発電された電気をEVやPHVに貯めておき、夜間に家庭へ給電することで、停電が続いても電気を使い続けることが可能になります。
V2H導入のメリット・デメリットを解説
最後に、V2H導入のメリットとデメリットについてあらためてまとめておきます。V2Hを導入するメリットとしては、次の4つを挙げることができます。
(メリット1)災害時の非常用電源を確保できる
V2Hを導入することで、EVやPHVの大容量バッテリーを家庭の非常用電源として活用できるようになります。
EVやPHVのバッテリーは大容量なので、車種によっては数日分の電力を供給することも可能です。
また、太陽光発電を設置している場合なら、停電していても昼間に発電された電気をEVやPHVに蓄えておき、夜間に家庭へ給電することもできます。
(メリット2)電気代の節約が期待できる
夜間の時間帯が安い電気料金プランに加入している場合、夜間の時間帯の電気をEVやPHVに充電し、昼間の家庭で利用するようにすれば、電気代の節約が期待できます。もちろん、EVやPHVの走行コスト節約にもつながります。太陽光発電を設置している場合なら、余剰電力をEVやPHVに蓄えて利用することで、卒FITの家庭なら特におトクになります。
(メリット3)EVやPHVの充電時間が短くなる
多くのV2H機器では、EVやPHVの充電時間を大幅に短縮することができます。通常の家庭用200Vコンセントと比較した場合、最大2倍の速度で充電できるので、EVやPHVを頻繁に使う方は重宝するでしょう。
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(メリット4)太陽光発電の余剰電力を賢く使える
太陽光発電で作られた電気を家で使いきれない場合、V2Hを導入すれば余剰電力の使い道を自動で切り替えてくれます。余剰電力が発生したらEVやPHVに充電し、満充電になったら自動的に売電に割り振るという使い分けをすれば、節約だけでなくエコロジーにも貢献できるでしょう。
一方、V2Hのデメリットとしては、以下の2つを挙げることができます。
(デメリット1)導入にかかる費用が高額
まず挙げられるのは価格です。現在、主流となっている機器の本体価格は約40万円~80万円程度となっており、決して安い買い物とはいえません。また、別途工事費も必要です。工事費は、電気の配線など導入する家の環境によって大きく異なります。
なお、TEPCOホームテックでは約83〜124万円でV2H機器の本体から施工までを行っているほか、V2H機器や太陽光発電設備を初期費用0円、月々定額利用料で導入できる「エネカリ」というサービスを提供しています。
また、国や自治体によってはV2H導入に対し補助金を支給してくれる場合もあるので、制度を活用すれば導入の費用を抑えることも可能です。
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(デメリット2)V2H機器の設置場所が限定される
システムの性質上、V2H機器の設置場所はEVやPHVと自宅の中間に位置する必要があります。具体的には、自宅のガレージに設置することになる場合が多いです。
そのため、ガレージが小さいとV2H機器を設置することにより、車が駐車できなくなる可能性もある点には注意が必要です。導入を検討する際には、駐車スペースと車のサイズを測っておくほか、充電ケーブルが車の給電口に届くかといったシミュレーションを行うとよいでしょう。
今後さらなる活用が期待されるV2H
EVやPHVを災害時の非常用電源として活用できるほか、充電時間の短縮も可能となるなど、V2HはEVやPHVに乗る人たちの間で、これからさらに注目されるシステムになっていくことでしょう。
すでにEVやPHVを利用している人はもちろん、購入を検討している人も、この機会にV2Hの導入を検討してみてはいかがでしょうか。