EV(電気自動車)ユーザーのなかには、災害対策や経済面を考えて「V2H」や「太陽光発電」の導入を検討している人もいることでしょう。ただ、これらの設備はコストがかかり、なかなか導入に踏み切れない人が多いのも事実。しかし、EV系YouTuberの阿部慎司さんは「V2Hや太陽光発電があると安心で経済的に暮らせるし、長い目で見れば導入コストの回収も可能です」と言います。
【今回の取材でお話を聞いた方】
阿部慎司さん
普段は会社員として働くかたわら、EV系YouTuber としてYouTubeチャンネル「EVファミリー【電気自動車に乗る家族のリアル】」を運営。2022年12月、自宅にV2H、定置型蓄電池、多機能パワーコンディショナーから構成される「トライブリッド蓄電システム」と太陽光発電を導入。経済的かつ安心安全なエコな暮らしを目指している。
V2H・太陽光発電・蓄電池をすべて導入した理由とは?
阿部さんが自宅に導入したのは、V2Hだけでも太陽光発電だけでもありません。V2Hと定置型蓄電池、そして、太陽光でつくった電気を家庭内で使ったり売電したりできるように変換してくれるパワーコンディショナーの3つで構成される、「トライブリッド蓄電システム」と呼ばれる大がかりなものです。
なぜV2H、太陽光発電、定置型蓄電池の3つをすべて導入したのでしょうか。阿部さんは「2022年春に日産『アリア』を購入したのですが、このEVの存在が非常に大きかった」と言います。
阿部さん「私が最初にマイカーとして購入したのは三菱『アウトランダーPHEV』で、2人目の子どもが生まれたのを機に乗り降りがしやすいミニバンの日産『セレナ e-POWER』に買い替えたんですね。ただ、『セレナ』も電動車ではあるんですが、EVとして走行できる『アウトランダーPHEV』とシリーズハイブリッドの『セレナ』ではまったく違います。EV走行が気持ちよすぎて『セレナ』では満足できず、次第に『やっぱりEVに乗りたい』という気持ちが抑えきれなくなったんです」
そのとき阿部さんの目にとまったのが、すでに予約注文を開始していた日産「アリア」の特別限定車「B6 limited」でした。考えたすえに、阿部さんは予約注文の締切日前日に「アリア」の購入を決断。念願のピュアEVを手に入れることになったのです。
阿部さん「プロパイロット2.0やリモート パーキングなどの先進機能といい、室内の居住性といい、EVならではの静粛性といい、『アリア』は非常に満足度の高い車でした。この車に乗って確信したのが、自分はこの先、もうEV以外の車には乗らないだろうということ。それなら、自宅に導入する設備もEVのメリットを最大限に生かせるものにしたほうがいいと思ったんです」
車を移動手段としてではなく「家の一部」として使う
ミニバンからEVの「アリア」に乗り換えて数カ月後、まず阿部さんが真っ先に導入を検討したのがV2Hでした。
阿部さん「すでに自宅の駐車場には『アウトランダーPHEV』の購入時に設置した200Vの充電用コンセントがあり、『アリア』の充電には当初それを使っていました。しかし、V2Hを導入すれば車と家がつながり、災害時に『アリア』の大容量バッテリーを非常用電源として使うことができます。うちには小さい子どもが2人いるので、いざというときEVに蓄えられた電気を家庭に戻せるのはすごく大きな安心材料でした」
その次に検討したのが太陽光発電です。太陽光発電を組み合わせれば、太陽光でつくった電気を使って「アリア」を走らせることができるので走行コスト(電気代)を安く抑えられ、「アリア」の電源のグリーン化によって環境負荷を軽減することもできます。
阿部さん「もっとも、最初はV2Hだけを先に導入し、太陽光発電は後から入れようと思っていたんです。ただ、その方法では太陽光発電とV2Hの機器間で電気が移動するときに直流・交流変換による電力ロスが発生するんですね。そこでトライブリッドについて調べると、パワコンを通じて太陽光で発電した電気が直流のままV2Hとつながるため、電力ロスが少ないことがわかったんです」
別々に導入するより電力ロスが少ないのなら、最初にかかる導入コストが大きくなったとしても、より効率的な運用ができるシステムを選んだほうが長期的にはおトクになるかもしれません。
日産「アリア」を購入してから半年余り、こうして阿部さんは自宅に「トライブリッド蓄電システム」を導入することになったわけです。
阿部さん「日中に太陽光発電でつくった電気の余剰分をEVに蓄えておき、余剰電力が多いときは夜間にEVから家に電気を戻して家庭内で使っているのですが、このやり方で月々平均1万円程度の電気代の節約になっています。昼間にEVで外出しても、定置型蓄電池があるので電気をムダにすることがありません」
EVに乗り換え、自宅にV2Hや太陽光発電を導入してみてわかったのは、以前に比べて車の用途が明らかに変化したことでした。こうした暮らしにおいては、車は単なる移動手段のひとつではなく、「まるで家の一部のようになる」と阿部さんは言います。
電力を自給自足するエコな暮らしは「気持ちがいい」
しかし、「EVが家の一部のようになる」と聞くといいこと尽くしのように感じますが、「トライブリッド蓄電システム」にはデメリットもあります。なかでも、最大のデメリットといえるのが、設備の導入時にかなり高額なコストを負担する必要があることです。
V2H、太陽光発電、定置型蓄電池の導入時に利用できる補助金の金額は自治体ごとに異なりますが、阿部さんの場合、各種の補助金を活用しても約350万円の導入費用がかかったそうです。
もっとも、阿部さんは「たしかに導入にかかる費用は高額になりますが、その投資はいずれ回収できます」と言います。
阿部さん「先ほど月々平均1万円の節約になっていると言いましたが、それに加えて、エンジン車に乗っていたときはガソリン代が月約5000円かかっていました。つまり、EVに乗り換えて太陽光発電などを導入した結果、現在は月々約1万5000円のお金が節約できている計算です。
この家は持ち家ですから、子どもたちが大きくなるまで20年以上は住み続けるでしょう。もっと言うと、半年ほど使ってトライブリッドの特性もわかったので、今後はさらに効率的に使っていけそうですし、いまのスタイルに最適な電気料金プランへの変更も検討しています。そう考えると、導入時にかかったコストは回収できるはずです」
もちろん、阿部さんは損得だけを考えてEVを購入し、「トライブリッド蓄電システム」を導入したわけではありません。導入の一番のポイントは家族の安心安全。さらに、もうひとつ付け加えるとすれば、それは「気持ちよさ」だと言います。
阿部さん「EVはCO2(二酸化炭素)を出さない環境にやさしい車とされる一方、製造時にCO2を排出しているとか、さまざまな意見があります。でも、少なくとも自分は太陽光発電でつくった電気で充電してEVを走らせている。EVは乗っていて気持ちのいい車ですが、そう思って乗ると、より気持ちがいいんです」
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