災害時の備えや省エネに役立つ。“EVと連携する住宅”を建てる3つのメリット

EVと連携する住宅セキスイハイム

戸建で電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を所有する場合、車を蓄電池として有効活用するV2Hや太陽光発電との組み合わせがよく推奨されています。そんな”EVと連携する住宅”には、実際どんなメリットがあるのでしょう。そこでEV DAYS編集部が、専門家に教えてもらいました。

いま、“EVと連携する住宅”が注目される理由

今回取材に伺ったのは、業界でいち早く太陽光発電やV2Hを連携する住宅づくりに取り組んできた「セキスイハイム」で有名な積水化学工業さん。同社では、V2Hが登場して間もない2014年、太陽光発電とV2Hを組み合わせた業界初のスマート住宅「VtoHeim(ブイトゥハイム)」を発売しました。2018年には、定置型蓄電池も1つのパワコンで組み合わせられるトライブリッドモデル(※)が登場。太陽光発電、蓄電池、V2Hの3つの手段で、万が一のときにも、たっぷりの電気をまかなえるスマート住宅を実現しています。

「VtoHeim」の開発に初期から携わってきた太田真人さんにEVと連携する住宅を建てるメリットやコツについて伺いました。

※トライブリッドパワコン🄬はニチコン株式会社の登録商標です

 

【今回の取材でお話を聞いた方】

積水化学工業株式会社 太田真人さん


太田真人さん(積水化学工業株式会社)
住宅カンパニー 経営戦略部 マーケティング部 スマート推進室長兼フェロー。工学博士、一級建築士。初期から「VtoHeim」の開発に携わる

積水化学工業のEVと連携する住宅についてはこちら

 

V2Hは「Vehicle to Home(車から家へ)」の略で、その名のとおりEVやPHEVなどに蓄えた電気を、家庭用の電気として有効活用する仕組みのことです。最初の機器が発売されたのは2014年。すでに10年近くの歴史があるのですが、ここ数年EV・PHEVの普及拡大に伴い、ようやく関心が高まりつつあります。

なぜこうした“EVと連携する住宅”がいま、注目を集めているのでしょうか?

太田さん「V2Hや太陽光発電を備え、EVと連携する住宅が注目を集めるようになったのは、災害などによる停電時でも、EVやPHEVから家庭に電力を供給し、『普段とほとんど変わらない暮らしができる』というメリットへの認知が広がったからです。

地震や台風など、自然災害の増大とともに、電気がストップし、不便な暮らしを強いられる事態が他人事ではなくなっている今日このごろ。万が一のときには、自分たちで電気をまかないたいと考える人が増えているのです」

セキスイハイムの「VtoHeim」は、太陽光発電とV2H機器、EVあるいはPHEVをセットに考えたものです。同社ではさらに定置型蓄電池を加えた「VtoHeim Plus」も提供しています。

定置型蓄電池に加えて、EVやPHEVを住宅と連携することを推奨しているのはなぜでしょうか?

 

電気自動車を自宅で充電する様子

 

太田さん「一般的な定置型蓄電池の容量は大きくても12kWh程度で中間期などは十分ですが、暖房や給湯などのエネルギーを多く使う冬期は更に大きな容量が備わっているほうがより安心です。

その点、EVやPHEVのバッテリー容量は大きいものなら60kWh以上と定置型蓄電池の5倍から10倍近くの容量があり、長時間の停電が発生しても普段とほとんど変わらない暮らしができます

 

 

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“EVと連携する住宅”を建てる3つのメリット

積水化学工業株式会社 太田真人さん

 

停電時にはEVと連携する住宅に大きなメリットがあることはわかります。しかし平時にもメリットはあるのでしょうか? 太田さんは、太陽光発電、V2H機器、EVまたはPHEVの3点を“EVと連携する住宅”の基本仕様としたうえで、①経済性、②環境性、③レジリエンスの3つをメリットに挙げます。それぞれ具体的にはどのような効果が期待できるのか、詳しく教えてもらいました。

 

メリット①経済性

ぶたさん

画像:iStock.com/erdikocak

 

ひとつめのメリットは経済性です。太陽光発電を行っている場合、つくった電気で住宅内の自家消費やEVやPHEVへの充電をまかなうことができるので、その分、電気代がかからなくなります。太田さんによると、建物そのものの省エネ性能を高めれば、さらに電気代は安くなるといいます。

太田さん「太陽光発電だけだと、夜間は電力会社の電気を使用しなければなりませんが、V2Hを組み合わせると、夜間は車に蓄えた電気が使えます。その分、光熱費も大幅に下がるわけです。『VtoHeim』の場合、建物自体の断熱性能を高め、全室空調システムなどを導入することで、室内の快適さを保ちつつ、さらに省エネの効率性を上げています」

 

〈表〉エネルギー関連の生活費比較(年間)※1

  一般住宅+ガソリン車(※2) VtoHeimPlus+EV(※3)
光熱費(電気代) 28万7000円 2000円
自動車燃料費 8万円 1万5000円
36万7000円 1万7000円

※1:積水化学工業による試算。
※2:太陽光発電・V2H・蓄電池なし。
※3:太陽光発電:10.36kW、蓄電池:4.9kWh、EVバッテリー:20kWh。詳細な試算条件はこちら。

 

積水化学工業の調べによると、太陽光発電、V2H、蓄電池を備え、建物の省エネ性能を高めた「VtoHeimPlus」に住み、EVを所有する家庭の場合には、一般住宅とガソリン車の組み合わせに比べ、トータルで年間35万円以上の削減と生活費の大幅なコストダウンを見込むことができるそうです。

 

 

メリット②環境性

環境のイメージ

画像:iStock.com/pcess609

 

ふたつめのメリットは、環境性です。EVやPHEVを利用するだけでもガソリン車に比べ、CO2排出量は大幅に削減することができますが、住宅からもCO2は排出されています。

積水化学工業の調べによると、一般住宅に住んでガソリン車を所有する家庭のCO2排出量は、年間約4200kgです。一方、「VtoHeimPlus」に住んでEVを所有している家庭のCO2排出量は、なんとマイナス約900kgでした。CO2を排出するどころか、排出量を実質ゼロ以下に減らせる「マイナスエミッション」が実現するのです。

 

〈表〉CO2の排出削減量の比較(年間)

〈表〉CO2の排出削減量の比較(年間)

※:積水化学工業による試算。詳細な試算条件はこちら。

 

太田さん太陽光発電で住宅からの排出量が減らせることに加え、EVによって自動車からの排出も減ることが“合わせ技”で効果を発揮します。若い世代を中心に、環境にやさしい暮らしを求める人が増えている印象を受けますが、そうした人にとって太陽光発電とV2Hを組み合わせた住宅は、理想の選択の1つだと言えそうです」

 

 

メリット③レジリエンス

防災のイメージ

画像:iStock.com/ Victoria Kotlyarchuk

 

みっつめのメリットは、レジリエンス(災害対応力)です。災害などによる停電時でも普段のように電気が使える点は、EVと連携する住宅の最も大きな魅力だとも言えます。

とはいえ、実際にどれほどの電気が使えるのでしょうか。太田さんに「VtoHeim」に住む人の実例を教えてもらいました。

太田さん「太陽光発電4.8kW、EVのバッテリー容量30kWhのご家庭で、台風による停電が発生しましたが、EVの充電量85%の状態で一晩、問題なく電気を使うことができたそうです。夜19時から翌朝の6時まで、冷蔵庫やテレビ、照明などを普段どおりに使ったにもかかわらず、朝6時時点でEVの充電残量は50%ほど残っていたと聞いています」

この家庭では、IH調理器で料理を作り、食洗器で皿を洗い、お風呂に入るなど、いつもとほぼ変わらない生活をされたのに、電気が切れるどころか、余裕を持って使うことができたと言います。

 

積水化学工業株式会社 太田真人さん

 

太田さん「このご家庭の停電時24時間の消費電力量の合計は、17.2kWhでした。停電前5日間の消費電力量の平均は、17.1kWh/日で、停電時でも普段とほとんど同じように電気を使っても問題がなかったようです」

一夜明けて、晴れて太陽光発電が使えるようになると、今度は太陽光の電気を家庭で利用しつつ、EVにも充電ができるようになりました。このように、夜間はEV、昼間は太陽光発電という使い方の繰り返しによって、天候が安定していれば、停電が数日間にわたったとしても、普段に近い暮らしが継続できるのです

 

【試算条件】

≪共通≫建築地域:名古屋/UA値0.54/延床面積:134.12㎡ /オール電化/調理:電気/給湯:エコキュート/電力契約:中部電力「スマートライフプラン(夜トク)」(2023年4月)/再生可能エネルギー発電促進賦課金:3.45円(2023年4月)/燃料費調整単価:(2023年2月~4月平均)/太陽光買取価格:16円 

≪VtoHeimPlus≫PV:10.36kW/蓄電池:4.9kWh(グリーンモード)/空調:快適エアリー(1階)+エアコン(2階)   

≪一般住宅≫空調:エアコン
≪クルマ≫年間走行距離:6,500km/ガソリン車燃費:13.7km/ℓ(国土交通省 自動車燃費一覧・令和4年3月版より、普通/小型自動車(WLTCモード)より平均)/EV電費:8.1km/kWh(WLTCモード)/EV:日産サクラ(20kWh)/EV容量使用:85% /ガソリン代:168.2円/ℓ 

≪CO₂換算≫電気:CO₂排出量=(買電量ー売電量)×CO₂排出係数で試算。排出係数は環境省・経済産業省R5.1.24公表 電気事業者別排出係数より0.441kg-CO₂/kWh(代替値)を用いた(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc)。/ガソリン:排出係数=2.32㎏-CO₂/ℓを用いた。 

※実際の光熱費・CO₂排出量はお客様の邸ごとの敷地条件、プラン、設備仕様、生活スタイル、電気自動車運転スケジュール、今後の購入電気代単価の変動等によって変化します。

 

 

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導入にかかる費用負担を軽減するコツは?

自宅で充電する電気自動車のイメージ

 

このように災害時にも平時にもメリットがある“EVと連携する住宅”ですが、気になるのは建てるコストでしょう。太陽光発電とV2H機器に加え、EVあるいはPHEVとさらに定置型蓄電池を備えるとすると、一般住宅を建てるよりもお金がかかるのではないでしょうか?

太田さん「省エネ性能や環境性能が一定基準を満たせば、実はランニングコスト(光熱費など)だけでなく、補助金を受けることでイニシャルコスト(購入費用)を下げることが可能です」

高断熱、省エネ、創エネの3点を兼ね備えた住宅は、「ZEH(ゼッチ/ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」と呼ばれ、条件を満たせば、経済産業省、環境省などが提供する補助金を申請することができます1)

 

〈表〉ZEH関連の補助金額 令和5年度の例(※1)

ZEH 55万円/戸
+蓄電システム:2万円/kWh(※2)
+低炭素化に資する素材を一定量以上使用、または先進的な再エネ熱利用技術を活用する場合、定額加算
ZEH+ 100万円/戸
+蓄電システム:2万円/kWh(※2)
+低炭素化に資する素材を一定量以上使用、または先進的な再エネ熱利用技術を活用する場合、定額加算
次世代ZEH+ 100万円/戸
+蓄電システム:2万円/kWh(※2)
+V2H設備:補助対象経費の1/2 又は75万円のいずれか低い金額を加算 など

※1:予算がなくなり次第、終了。
※2:上限20万円かつ補助対象経費の1/3以内。

 

太田さんZEHは、住宅で使用するエネルギーと太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にすることを目指した住宅です。さらに省エネと再エネを掘り下げたZEH+(ゼッチプラス)、次世代ZEH+などもあります。たとえば、ZEH+を建てる場合、国から100万円の補助金を受けることができます。さらにV2Hを設置すると、その機器購入費の半額や工事費にあたる補助金も別の支援事業から支給されます(※)

また、東京都では、太陽光発電のある住宅に設置するV2Hの設備導入費の1/1を支給するなど、お住まいの自治体によっては、より有利な制度を利用できることもあるそうです。住宅の省エネ性能を上げることで、光熱費や自動車燃料費も削減できることを考えると、長い目で見ればしっかりと元がとれそうな気がします。

なお、EVを連携する住宅には、太陽光発電とV2H機器、そしてEVかPHEVがあれば十分という気もしますが、昼間にEVで外出する場合、当然ながらその間、太陽光で発電した電気をEVに貯めることはできません。そのためセキスイハイムでは、V2Hのほかに定置型蓄電池も一緒に備えることを勧めているそうです。

※2023年5月時点で、2023年度分の予算超過のため申請受付は終了しています

 

積水化学工業株式会社 太田真人さん

 

太田さん「V2Hのほかに蓄電池も設置すると、それぞれのパワーコンディショナー(パワコン)も取り付けなければならず、建物の外観が損なわれるという人もいらっしゃいます。そのため、『VtoHeim』は、太陽光発電、V2H、蓄電池の3つのパワコンを一体化した『トライブリッドパワコン』を用意することで外観のデザイン性を担保しています」

太陽光発電、V2H、蓄電池の3点セットで導入するとなると、イニシャルコストの増大が気になるところですが、前述の試算から太田さんによると「設備の導入費用だけなら、ランニングコストの削減によって最長15年もあれば回収できるはず」ということです(※)

何となく敷居の高いイメージがあった“EVと連携する住宅”ですが、意外と手に届きそうな気がしてきました。EVの普及拡大とともに、いずれ住宅の新たなスタンダートとなる予感すらあります。

※ランニングコストは利用状況や外部環境により変わります

 

 

 

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この記事の著者
EV DAYS編集部
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