車名のとおり、BMW Xモデル初のM専用モデルであり、BMW Mモデル初のPHEVでもある「BMW XM」は、BMW M史上で最強のパワーを身につけているのも特徴です。威風堂々たるスタイリングと、重量級ながらサーキット走行をも可能としたダイナミックなパフォーマンスを、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。
往年の「M1」以来となるBMW M専用モデルであり、BMWがSAV(=スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)と呼ぶBMW Xモデルの最高峰に位置し…という話はさておき、購買意欲旺盛な富裕層が求めるハイエンドSUVの世界で、並み居る競合に対して目を向けさせるべく、他のXモデルとは差別化を図り、“BMW M”の持てる力を集結して開発された異彩を放つニューモデルは、なんとPHEV。すべてを標準装備したフルスペック&ワンプライス設定とされたことも特徴だ。
極めて押し出し感の強い、異様なルックスに驚く
増殖しつづけるBMW Xモデルは、電動化にも力を入れてきた。iXを筆頭に100%EVを達成したモデルもあれば、何らかの形で電動化の要素を取り入れたモデルがいくつもある。そんな中に、さらに突如として現れたのが、「XM」だ。
どんなクルマなのかを考える前に、まずはそのルックスに驚かずにいられない。当初はてっきりコンセプトカーだと思ったほどの異様さである。それを量産して市販化してしまったところがすごい。思えばBMWは、すでにi8やi3のようなぶっ飛んだクルマも市販化してきたわけで、BMWにとってXMぐらいはどうってことないのだろうか。いずれにしても恐れ入る思いだ。
BMWの象徴であるキドニー・グリルからして、こんなに大きく派手になるとは驚いた。よく見るとクロームで縁取られていて、いかにもおカネがかかっていそうな感じがする。暗闇では光を放ち、よりいっそう存在感を増す。
このところBMWのラグジュアリーモデルに採用されている上下2分割のツイン・サーキュラー&ダブル・ライトが、XMにもテイストを微妙に変えて採用されている。上がウインカーを含むLEDデイタイム・ランニング・ライト、下がアダプティブマトリックス機能とコーナリングライト機能を備えたLEDヘッドライトだ。
サイドビューでは立体的なシルエットとともに、斬新な力強いデザインの23インチホイールや、サイドウインドウに沿って配されたゴールドのアクセントバンドが目を引く。
リアは横方向に伸びるスリムなLEDコンビネーションライトや、バンパーにビルトインされたかのような、縦に配された六角形デザインのMデュアル・エギゾースト・テールパイプが印象的だ。BMWとしてかつてやったことのないさまざまなことに視覚的にもトライしたことがうかがえる。
走りに振り切ったPHEVのパワーユニットもすごい
さらにはパワーユニットもすごい。PHEVはどんどん増えているが、組み合わされるのが4.4リッターもの排気量を持つV8ツインターボだなんて、いまどきよほどのスーパースポーツでないとやらない。もちろんXMはハイパフォーマンスモデルだが、一応は乗用車の範疇でありながら、そこまでやるとは驚いた。
件のV8エンジンだけで489ps(360kW)もの最高出力を6000rpmで引き出し、650Nmもの最大トルクを1600–5000rpmという幅広い回転域で発揮するのに加えて、同197ps(145kW)を発生する電気モーターを組み合わせ、システムトータルでは最高出力653ps(480kW)、最大トルク800Nmを発揮するというからかなりのものだ。BMW史上最強のパワーユニットのひとつに違いない(EVを除く)。
フロア下に搭載されるリチウムイオンバッテリーの容量は29.5kWhと、PHEVとしてはかなり多め。おかげで2.7トンを超える巨漢ながら、燃料を使うことなくスペック上では最大約100kmのゼロエミッション走行が可能となっている。普通充電に対応していて、充電するには車両の左フロントフェンダーにある充電ポートにケーブルを挿し込めばよい。ちなみに充電ケーブルはロゴマークの入った専用キャリングバッグに収まっている。このあたりの気の利かせ方は、XMが高級車であることをあらためて感じさせる。
始動時は必ずEV走行するなりしないなり、いろいろ任意で設定できるようになっている。ハイブリッドモードでは、さすがはMモデルの一員らしく、走り重視のキャラクターとなり、エンジンの出番が増える。積極的にエンジンをかけて充電してSOCをキープするようなモードも選べる。
予想どおり、エンジンフィールはすばらしいのなんの。低回転域から力強く、トップエンドにかけて伸びやかに吹け上がっていく。そのときのエキゾーストサウンドが、これまたホレボレするほど美しくて迫力もある。
おとなしく走ると、一定のSOCを維持できていれば、モードを問わずエンジンを止めて静かで快適なドライブを楽しめるようになる。モーターだけでもけっこう力強く走れて、ストレスを感じることはなかったあたりもさすがである。先発のiXほど派手ではないが、EV走行時に聴こえる音も未来感があって楽しい。
そんなわけで、エンジンで走ってもモーターで走っても楽しめて、双方の巧みな連携によって、どんなシチュエーションを走っても楽しめてしまう。
約3トンという車重をものともしない、軽やかな身のこなし
このエクステリアを目にしたあとだと、インテリアがやけに常識的に感じられる気もするところだが、運転席側に湾曲させた最新のカーブドディスプレイを配したインパネまわりは、いつもながら見やすくて使いやすくわかりやすいことに感心する。
頭上には立体感のある彫刻的なデザインがルーフライニングの表面に施されていて、周囲が明るいとわからないが、暗くなると美しいイルミネーションによる演出を楽しませてくれる。陰影が強調されて、なかなか見応えがある。これを見られるならナイトドライブも大歓迎というものだ。
極めて先進的である一方で、あるいは派手な外見とは裏腹に、インテリアはこうした渋めのトラッドなカラーコーディネートも選べる。インパネやドアトリムの一部には経年した風合いを意図的に施したヴィンテージレザーを配して独特の世界観を演出している。加えて、標準装備されるBowers & Wilkinsのオーディオが、すばらしいサウンドを聴かせてくれる。
ステアリングホイールの左右スポークの上には、パドルシフトとともに赤いボタンが配されていて、あらかじめ設定しておいた好みのモードの組み合わせを瞬時に呼び出すことができる。
相反する魅力を両立させた、インパクト満点の一台
さらに走るほどに軽やかな身のこなしに感心した。これほど大きくて重くて重心もそれなりに高いであろうクルマにもかかわらず、何か特別な仕掛けでも付けたかのように、コーナーが連なる道でもスイスイと駆けぬけていける。ステアリングをきったとおり正確に応答してイメージしたラインをトレースすることができ、ロールも小さく、極めて俊敏でありながら挙動が乱れることもなく安定している。
これには電子制御ダンパーとアクティブ・ロール・スタビライザーを備えたアダプティブMサスペンション・プロフェッショナルが効いている。さらに、応答遅れのない一体感のある動きに俊敏な回頭性とMモデル初となるインテグレイテッド・アクティブ・ステアリングが効いているに違いない。
走り始めてしばらくは乗り心地がやや硬い気もしたのだが、実際にはときおりタイヤの音が発せられるだけで、乗り心地はいたって快適に保たれる。これだけ運動性能が高いと、足まわりもそれなりに固められているはずのところ、もちろん強化されているものの、不快に感じさせることがないあたりのさじ加減も絶妙だ。
後席についても、走りを優先すると乗り心地が硬くなりがちなところ、XMはそうなっていなかった。「M」らしく走り最優先のクルマかと思いきや、広々とした空間にソファのように肉厚のクッション感のあるシートが備えられていて、究極的な走行性能とともに快適な移動空間を兼ね備えたクルマでもあることが理解できた。この価格帯のBMWを買う人が何を求めているか、そんなことはわかってますよといわんばかりだ。
環境性能と走りの良さを高次元で両立し、紳士的な居住性とワイルドなビジュアルインパクトも持ち合わせている。とにかくもう何から何まで、XMはあらゆるものがインパクト満点のクルマだった。
〈クレジット〉
撮影:小林岳夫
〈スペック表〉
全長×全幅×全高 | 5110mm×2005mm×1755mm |
ホイールベース | 3105mm |
最低地上高 | 220mm |
車両重量 | 2710kg |
ラゲージルーム容量 | 527~1820リットル |
エンジン | 4394cc V型8気筒DOHCガソリンツインターボ |
エンジン最高出力 | 489ps(360kW)/6000rpm |
エンジン最大トルク | 650Nm/1600-5000rpm |
電気モーター最高出力 | 197ps(145kW)/6000rpm |
電気モーター最大トルク | 280Nm/1000-5000rpm |
システムトータル最高出力 | 653ps(480kW) |
システムトータル最大トルク | 800Nm |
バッテリー総電力量 | 29.5kWh |
EV走行換算距離(等価EVレンジ) | 102.6km |
トランスミッション | 8速AT |
駆動方式 | 4WD |
0-100km/h加速 | 4.3秒 |
タイヤサイズ | F 275/35R23 R 315/30R23 |
税込車両価格 | 2130万円 |
〈ギャラリー〉