メルセデスEQE SUV。超絶オールラウンダーのAMGモデル

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積極化に電動化を進めるメルセデスは、SUVのラインアップも充実しています。中でも「EQE SUV」は、オンロードからオフロードまで高い走行性能を誇り、取り回しに優れながらも、室内空間や荷室が広くSUVとしての使い勝手を兼ね備えています。そのAMGモデルが実現したかつてない世界観を、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。

メルセデスEQの中でも、EQE SUVはフラッグシップの「EQS」とともに電気自動車専用プラットフォームを用いているのが特徴だ。2022年のセダンに次いで、2023年には2モデルのSUVが日本に上陸した。今回紹介するのは、適度なサイズで使い勝手に優れ、舗装路も未舗装路も問わない走行性能を誇る「プレミアムオールラウンダー」ぶりが光る「EQE SUV」の、より高級で高性能なAMGモデル。その日本導入における「ローンチエディション」だ。

 

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豊富に揃うメルセデスのEVラインアップのなかでも、上級志向のモデル

まずはこのクルマの位置づけを整理しておこう。「メルセデスEQ」というのは、2019年にスタートしたメルセデスのプレミアム電気自動車ブランドで、すでに充実したラインアップを日本でも構築している。

車体

 

2024年初の時点で計7モデルがあり、うちSUVが5モデルと豊富で、車名の最後で表す「A」「B」「C」「E」「S」がある。Eセグメントとなる「EQE SUV」は、上から2番目に位置し、EQシリーズの最後発モデルとなる。

後ろ

 

EQシリーズの中でも、コンパクトクラスは内燃エンジン搭載車とプラットフォームを共有しているのに対し、セダンも含め大柄なクラスには新たに開発した電気自動車専用のプラットフォームを用いている点が特徴だ。

マーク

 

さらに、今回の「Mercedes-AMG EQE 53 4MATIC+ SUV」は、EQE SUVのAMGモデルとなる。AMGというのは、もともとメルセデスを扱う独立したチューナーだったが、2000年に当時のダイムラー・クライスラーの傘下に収まり、さらに2014年からは「Mercedes-AMG」として、ダイムラーのスポーツカーブランドとなった。数字の「53」はパフォーマンスを示し、上に「63」と「65」、下に「43」があり、別系列のコンパクト系に「45」と「35」がある。

 

やわらかなフォルムの大柄ボディは、脅威の空気抵抗値

写真を見ると、やわらかなフォルムからして、それほど大きくないように感じた人が多いことだろうが、それなりに大柄だ。実際には全高こそ1.7mを下回るが、全長は5m近く、全幅は2mを超えており、少し離れてサイズ感が掴みにくい状況で眺めてからクルマに近づいていくと、ちょっと感覚が狂う。

前方

 

前方から見るとどちらがどちらか即座に判別がつかないほど顔立ちやフォルムが似ている上級機種のEQS SUVとは、3列シートか2列シートかという大きな違いがある。また、EQS SUVにはAMGラインパッケージはあるが、2024年初時点ではAMGモデルは存在しない。

ボディの上面と下面を工夫することで、SUVタイプでありながら、空気抵抗を示すCd値で0.25を実現したというのは驚異的な話だ。ボンネットはサービス工場でのみ開閉可能で、ウォッシャー液を補充するためのサービスフラップのみ左フェンダー側面に設けられている。

横側

 

そこそこ大きなボディサイズと、3mを超えるホイールベースにより、車内空間は広々としている。フロアはフラットで、頭上の開口の大きなガラスルーフにより開放感も抜群だ。

 

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環境にも配慮した、先進的なインテリア

運転席

 

インテリアは、上質に仕立てられた空間にデジタルの要素を積極的に取り入れている。特徴的なMBUXハイパースクリーンは、助手席にも人が座ると、助手席の前のディスプレイも表示できるようになり、乗員はテレビを観たり、走行中でもカーナビの目的地を手動で設定できたりする。

車内

 

もちろん、メルセデスが先駆者である対話型インフォテイメントシステムの「MBUX」や、最新の安全運転支援システムが搭載されており、こちらを見ながら運転できそうなほど精彩な「MBUX AR(拡張現実)ナビゲーション」や、フロント下方の路面をあたかも透けて見えるかのように映し出す「トランスペアレントボンネット」も装備されている。

運転席

 

一方で、リサイクル材や再生可能原材料が積極的に採用されている。たとえば、グラブハンドルに中古タイヤの熱分解オイルと農業廃棄物に由来するプラスチック、ルーフライナーとピラートリム表面にはリサイクルペットボトルフレーク、床面のカーペットには漁網など海洋プラスチックごみから作られたナイロン糸を使用しているという。

室内の空気をよりクリーンに保つHEPAフィルターを装備した空気清浄システムや、PM2.5の量を随時確認でき、イオナイザーやパフューム機能などを備えたエアクオリティ機能も充実している。EQE SUVでは新たにヒートポンプを採用したことで、冷暖房効果の効率がよくなり、さらに快適に車内ですごせるようになった。

後部座席

 

後席の居住性も十分に確保されている。写真の仕様でもオプションはまったく装着されていない。さすがはAMGモデル、いわゆる“ツルシ”のままでも装備がかなり充実していることがうかがえる。

 

EVらしい加速と抜群の日常性、使い勝手と高性能が両立した走り

 

走りのほうも、AMGモデルとして期待にしっかり応えてくれる。前後に搭載した永久磁石同期モーターにより、システム全体で最高出力625ps、最大トルク955Nmという圧倒的なスペックを実現しているとおり、踏み込んだときの瞬発力と伸びやかな加速フィールはなかなかインパクトがある。性能の高さを誇示するEVが世にいくつもある中でも、AMGならさりげなくここまでできることを知らしめている。

車体

 

ローンチエディションには標準装備される「AMGダイナミック・プラス・パッケージ」では、「RACE START」により発進時に最高出力と最大トルクを一時的に増加させることもできる。これにより、0-100km/h加速は3.5秒、最高速は240km/hを誇るというからタダモノではない。

走行サウンドはいくつかの音色から選べて、加減速の強弱にあわせて聴覚でも走りを楽しめるサウンドエクスペリエンス機能による演出も面白い。走り系のモードを選択すると、より大きなボリュームで楽しめる。

後方

 

ごく普通に走ると、リニアなアクセルレスポンスと静かでなめらかな走りで、いたって乗りやすい。フロントの駆動を切り離すことでセーリング効果が増して電費を向上させるという、ディスコネクトユニットと呼ぶ新たな機構も電費の向上に貢献しているに違いない。

メーター

 

ステアリングホイールのパドルにより回生ブレーキの減速度を3段階から選べるほか、「D Auto モード」のインテリジェント回生がある。これが非常にスグレモノで、レーダーと連動して前走車との車間距離を調整して停車まで追従しつつ、もっとも効率がよくなるよう自動的に回生のレベルを最適に調整してくれるので、高速道路だけでなく市街地でも非常に重宝する。

 

V2Hに対応した89kWhのバッテリー容量は、449kmの走行距離を実現

 

車体

 

一充電走行距離は449kmとまずまず。自社調べによる充電の所要時間は、CHAdeMO充電器による急速充電で、電池残量10%から80%まで、気温32.5度の屋内の150kWタイプで約49分、気温31度の屋外の90kWタイプで約54分、気温28度の屋内の50kWタイプで約102分。普通充電は気温約31度で電池残量10%から100%まで、定格30A/6kWのウォールユニットなら約17時間で充電できるという。

充電口

 

さらに、日本仕様だけ特別に、車外へ電力を供給できる双方向充電が採用されている。家庭の太陽光発電システムで発電した電気の貯蔵装置として、あるいは停電時などに電気を家庭に送る非常用電源としてV2Hを利用することができるのだ。

走行中

 

ハンドリングの切れ味は鋭く、応答遅れのないアクセルレスポンスとの相乗効果で、大柄ながらキビキビとした一体感のある走りには操る楽しさがある。実際の車両重量やボディサイズよりもずっと軽くコンパクトに感じられる。

後方

 

さらには、AMGモデルの一員らしく、ステアリングが少し重めで手応えがあり、足まわりもいくぶんか引き締められていて、グリップ感も高い。トルク可変の効果か、コーナー立ち上がりでアクセルを踏み込んだときリアが踏んばって前へ前へと進もうとする感覚が強く、反応が極めて素早いあたりも従来の機械式四輪駆動とは一線を画する。

 

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小回りも利く、プレミアムオールラウンダー

 

この走りにはリアアクスルステアリングも利いている。後輪が最大10度も切れて、5.1mと小型車並みの最小回転半径を実現しており、逆位相となるタイトターンでは驚くほど俊敏な回頭性を示し、Uターンではびっくりするほど小回りが利く。同位相となる高速コーナーではより安定して走れる。車外で見たときのリアタイヤに大きな角度がついている様子も、なかなかインパクトがある。

タイヤ周り

 

ダイナミックセレクトを選択すると、エンジン、足まわり、ステアリング、ESPなどの設定が変わる。走り系モードを選ぶと足まわりが引き締まって瞬発力が増す一方で、SUVらしくオフロードモードも設定されている。

EQE

 

電気の力で、より高い利便性や快適性、安全性、走行性能を実現したEQE SUVのAMGモデルとして、より付加価値を高めた同モデルの“プレミアムオールラウンダー”ぶりは、なかなか見応えと乗り応えがあった。

 

〈クレジット〉
撮影:小林岳夫

 

〈スペック表〉
Mercedes-AMG EQE 53 4MATIC+ SUV Launch Edition

全長×全幅×全高 4880mm×2030mm×1670mm
ホイールベース 3030mm
最低地上高 150mm
車両重量

2660kg

ラゲージルーム容量 520~1675リットル
システム最高出力 625ps(460kW) ※RACE START時:687ps
システム最大トルク 955Nm ※RACE START時:1000Nm
フロントモーター最高出力 165kW
フロントモーター最大トルク 346Nm
リアモーター最高出力 295kW
リアモーター最大トルク 609Nm
バッテリー容量 89kWh
一充電走行距離 449km(WLTCモード)
電費 241Wh/km
駆動方式 4WD
最小回転半径 5.1m
タイヤサイズ 275/40R21(前後)
税込車両価格 1707万円 

 

〈ギャラリー〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。