電気自動車(EV)の大きなメリットのひとつに「災害時に非常用電源として活用できる」という点があります。しかし、EVから電気を取り出す方法を知らなければ、いざというときに使えず、宝の持ち腐れになってしまいます。そこで、EVを非常用電源として活用する3つの方法についてEV DAYS編集部が解説します。
- なぜEVは災害時の非常用電源になるのか?
- 災害時にEVから電気を取り出す3つの方法
- EVを非常用電源として利用するときの注意点
- EVから取り出した電気で何日間生活できる?
- 能登半島地震の被災地でもEVが電気を供給
- EVを非常用電源として活用する方法を再確認しよう
なぜEVは災害時の非常用電源になるのか?
災害時にEVを非常用電源として活用できると聞いても「本当にEVが災害時に役に立つの?」と疑問に思う人がいるかもしれません。そこで活用方法の前に、まず「なぜEVが非常用電源として注目されているのか」について簡単に解説します。
EVなら災害時に長時間の電力供給が可能になる
災害時に停電が起こると、エアコン、冷蔵庫、照明など、生活に欠かせない多くの機器が使えなくなり、連絡や情報収集の手段として重要なスマホの充電もできなくなります。災害の規模によっては電気が復旧するまで数日程度かかる場合もありますから、非常用電源には一定以上の大きさの蓄電容量があると安心でしょう。
その点、近年のEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)が搭載する駆動用バッテリーは大容量化しており、軽自動車のEVで20kWh、普通車のEVであれば40〜100kWh程度、PHEVでも10~30kWh程度のバッテリー容量があります。
一方、同じく災害時の非常用電源に使える定置型蓄電池は10kWh前後の製品がほとんどですから、いかにEVのバッテリー容量が大きいかがわかるでしょう。容量が大きければ大きいほど多くの電気を蓄えられ、長時間にわたる電力供給が可能になります。
また、車は移動できるため、屋外や避難先などで不自由な生活を強いられる場合も一定の電気を供給することができます。こうしたことからEVは「動く蓄電池」とも呼ばれています。
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非常用電源として利用可能なEV・PHEVの条件
ただし、すべてのEV・PHEVが災害時に非常用電源として利用できるわけではありません。駆動用バッテリーに蓄えられた電気を家に給電したり、屋外や避難先で電化製品に給電したりするには、充放電設備(V2H)や外部給電器(V2L)と接続してEVの「直流」の電気を家庭用の「交流」の電気へと変換するなどの必要があります。また、車両もV2HやV2Lに対応している必要があります。
これらの機器を介さずに駆動用バッテリーに蓄えた電気を取り出して電化製品に使いたい場合は、車載インバーターで直流の電気を交流に変換して車内コンセントから供給するAC100VコンセントがEV・PHEVに備わっていなければなりません。
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【国産車・輸入車】外部給電機能を備えるEV・PHEV一覧
こうした外部給電機能を標準装備またはオプション設定されたおもなEV・PHEVを以下にまとめました。輸入車には外部給電機能をもたない車種がまだ多いですが、国産車のEVはほとんどがV2H・V2Lに対応しています。
なお、V2H・V2L(DCタイプ)は急速充電口に接続するため、急速充電に非対応のPHEVは使用することができません。ただし、PHEVに限らず普通充電口に接続するV2L(ACタイプ)を使用できる車種も一部あります。
〈表〉おもなEV・PHEVの外部給電機能(現行車)※メーカー50音順
メーカー | 車種 | 車の種類 | バッテリー容量 | V2H | V2L | AC100V コンセント |
スバル | ソルテラ 1) | EV | 71.4kWh | ○ | ○(DC) | ○(1個) |
トヨタ | bZ4X 2) | EV | 71.4kWh | ○ | ○(DC) | ○(1個) |
プリウス 3) | PHEV | 13.6kWh | × | ○(AC) | ○(2個) | |
日産 | サクラ 4) | EV | 20kWh | ○ | ○(DC) | × |
リーフ 5) | EV |
40kWh |
○ | ○(DC) | × | |
アリア 6) | EV | 66kWh 91kWh |
○ | ○(DC) | × | |
BYD | DOLPHIN 7) | EV | 44.9kWh 58.56kWh |
○ | ○(DC/AC) | × |
ヒョンデ | KONA 8) | EV | 48.6kWh 64.8kWh |
○ | ○(DC/AC) | ○(1個) |
マツダ | MX-30 EV MODEL 9) | EV | 35.5kWh | ○ | ○(DC) | ○(2個) |
CX-60 10) | PHEV | 17.8kWh | ○ | ○(DC) | ○(2個) | |
三菱 | eKクロス EV 11) | EV | 20kWh | ○ | ○(DC) | × |
アウトランダーPHEV 12) | PHEV | 20kWh | ○ | ○(DC) | ○(2個) | |
メルセデス・ベンツ | EQA 13) | EV | 70.5kWh | ○ | ○(DC) | × |
レクサス | RZ 14) | EV | 71.4kWh | ○ | ○(DC) | ○(2個) |
参考資料
1)スバル「ソルテラ」
2)トヨタ「bZ4X」
3)トヨタ「プリウス」
4)日産「サクラ」
5)日産「リーフ」
6)日産「アリア」
7)BYD「DOLPHIN」
8)ヒョンデ「KONA」
9)マツダ「MX-30 EV MODEL」
10)マツダ「CX-60」
11)三菱「eKクロス EV」
12)三菱「アウトランダー」
13)メルセデス・ベンツ「EQA」
14)レクサス「RZ」
災害時にEVから電気を取り出す3つの方法
EVの駆動用バッテリーに蓄えられた電気を取り出すには、大きく分けて「車内のコンセントから給電する」「V2H機器から家に給電する」「可搬型のV2L(外部給電器)から給電する」という3つの方法があります。車内のコンセント以外は専用の機器が必要になりますので、その点も含めて詳しく紹介しましょう。
電気を取り出す方法①車内のコンセントから給電する
3つの方法のうち、もっとも手軽かつ簡単なのが車内のコンセント(AC100Vコンセント)から給電する方法です。EV・PHEV・HEV(ハイブリッド車)には標準装備またはオプション設定でラゲッジルームなどにAC100Vコンセントを備える車種があります。
コンセントがあれば特別な機器を用意する必要がなく、車両本体のみで給電可能です。上の写真のように、基本的には電源プラグを差し込むだけで電気を取り出せます。細かい利用手順は車種によって異なりますので、メーカーの取扱説明書を参照してください。
なお、コンセントが1口か2口かにかかわらず、使用できる電気は最大1500Wまでとなっているのが一般的です。電化製品には電気ポットやホットプレートなど消費電力が1000W以上のものもありますが、使用する時間をずらすことにより、AC100Vコンセントからの給電でも多くの電化製品を利用可能です。
電気を取り出す方法②V2H機器から家に給電する
2つめがV2H機器を通じて家に給電する方法です。V2Hはヴィークル・ツー・ホームの略称で、EVと家をつなぐ充放電システムのこと。EVユーザーのなかには、自宅にV2Hを導入し、EVの駆動用バッテリーに蓄えた電気を家庭用電源として活用している人も少なくありません。
災害時に停電が起きた場合、このV2Hシステムを自立運転に切り替えることにより、EVのバッテリーに蓄えられた電気を家に給電し、非常用電源として活用することができます。停電時に給電できる最大出力は機器によって異なりますが、主流は「全負荷型」と呼ばれる最大出力が約6kWのV2H機器で、家全体に電気を供給することが可能です。電気があれば避難所に行かず在宅避難をできる可能性が高まります。
なお、停電時に電気を家に給電するためには前述のとおり、一般的にV2Hを「自立運転」モードに切り替える操作が必要になります。
操作が必要と聞くと面倒に感じるかもしれませんが、慣れれば手順はそれほど難しくありません。もっとも普及しているニチコン「EVパワー・ステーション」の場合、分電盤の切替スイッチを操作し、あとはV2H機器とEVを充電ケーブルと12V電源ケーブル(必要な車種のみ)で接続し、機器本体の「放電」ボタンを押せば自立運転が開始されます15)。最近は上記の切り替え操作が不要で、切り替えを自動で行ってくれるハイスペックタイプのV2H機器も販売されています。
ただし、このようにEVと家をつなげて非常用電源にするには機器本体の購入と設置工事が必要です。EVのバッテリーに蓄えられた電気は「直流」のため、家庭で利用するにはV2H機器で「交流」に変換しなければならないからです。
V2H機器の導入コストは本体価格(税込希望小売価格)と設置費用を合わせて85万〜180万円程度と高額ですが、一定の条件を満たせば導入コストの多くを国や自治体が交付するV2H補助金で補うことが可能です。
〈表〉国の補助対象となるおもなV2H機器と補助上限額(工事費は別途補助あり)16)
メーカー | 型式 | 補助上限額 |
オムロン ソーシアルソリューションズ | KPEP-A-SET-AC | 30万円 |
ダイヤゼブラ電機 | EPJ-S60EV | 30万円 |
デンソー | DNEVC-SD6075 | 30万円 |
東光高岳 | CFD1-B-V2H1 | 25万円 |
ニチコン | VCG-666CN7 | 29万9000円 |
VCG-663CN7 | 18万2000円 | |
VSG-666CN7 | 30万円 |
おもなV2H機器のスペックなどについてもっと詳しく知りたい方、国や自治体が交付する2024年度のV2H補助金についてもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧になってください。
電気を取り出す方法③外部給電器(V2L)から給電する
3つめが外部給電器(V2L)から給電する方法で、V2Lは「Vehicle to Load:ヴィークル・ツー・ロード」の略語になります。V2HがEVの駆動用バッテリーから取り出した電気を「定置型の機器」を通じて家に給電するのに対し、V2Lは「可搬型の機器」に備え付けられているコンセントを通じて電化製品などに直接給電します。
DCタイプのV2Lは高価なこともあり、自治体や病院・企業などが避難所やBCP対策、屋外イベントなどでの業務用途で使用することが主流となっています。しかし、2021年にニコチンが小型・軽量化した「パワー・ムーバー ライト」を発売したことで、アウトドアのレジャー使用など個人用にも以前よりは身近な存在になりました。
「パワー・ムーバー ライト」の最大の特徴は、旅行用の小さなキャリーバッグ程度のサイズ感にもかかわらず、AC100V/1500Wのコンセントを2口備えていることです。かりに大きな災害によって屋外や避難先で過ごすことになったとしても、最大出力が合計3.0kWあるので、複数の電化製品を同時に使用することが可能です。
〈表〉電化製品別の消費電力の例17)
電化製品 | 消費電力 |
スマホの充電5台 | 25W |
送風機 | 500W |
炊飯器 | 700W |
冷蔵庫 | 50W |
電気ポット | 1200W |
デスクライト5台 | 400W |
合計 | 約2.9kW |
電気を取り出す方法も難しくありません。「パワー・ムーバー ライト」の場合、基本的に操作はV2H機器を自立運転に切り替える方法と同じです。大きく異なるのは、可搬型の機器のため、外部給電器をEVの急速充電口のそばまで運ぶ必要があることでしょう。
DCタイプの外部給電器(V2L)の価格は給電できる最大出力が大きくなればなるほど価格もあがり、税込希望小売価格で50万円程度~と安価ではありませんが、V2H機器と同様に国から補助金が交付されます。
〈表〉国の補助対象となるおもな外部給電器と補助上限額18)
メーカー | 型式 | 補助上限額 |
豊田自動織機 | EVPS-L1 | 50万円 |
ニチコン | VPS-4C1A | 21万6000円 |
VPS-3C1A-Y | 15万円 | |
本田技研工業 | EBHJ | 36万4000円 |
EBNJ | 26万7000円 |
ちなみに、V2Lには上記で紹介した急速充電口に接続するDC(直流)タイプだけでなく、普通充電口に接続するAC(交流)タイプもあります。ACタイプの場合は車内コンセント同様、最大出力は1500W程度までで、メーカーごとの専用機器となっています。屋外で電化製品を使用する場合、車内コンセントだとコードを通すため窓を開けたままにしなくてはいけませんが、V2Lの場合は窓を閉めたままV2Lに備え付けられているコンセントを使用できるため便利です。
また、ACタイプの場合、EV・PHEV購入時に機器が標準装備されていることが多く、オプションでも数万円程度とDCタイプと比べて非常にお手頃な価格となっています。
参考資料
15)ニチコン「停電時自立運転」
16)次世代自動車振興センター「令和5年度補正・令和6年度当初予算 V2H充放電設備の導入補助金 ご案内」
17)ニチコン「Power Mover®︎ 活用シーン」
18)次世代自動車振興センター「令和5年度補正・令和6年度当初予算 外部給電器の導入補助金 ご案内」
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EVを非常用電源として利用するときの注意点
いくら災害時にEVを非常用電源として活用することができるといっても、使用上の注意を守らないと故障や事故につながります。外部給電する際の注意点を「EV側」「電化製品側」に分けてそれぞれ簡単に紹介します。
電化製品に給電するときのEV側の注意点
車両を誤って発進させないように、AC100Vコンセントを使用するときはシフトポジションを「P」に入れ、パーキングブレーキを作動させましょう。
また、猛暑日など車内が高温になるときや真冬の極端に外気温が低いときなどには、AC100Vコンセントの給電機能が自動で停止したり作動できなかったりする場合があります。車内が高温なら日陰などに移動して室内温度を下げ、逆に温度が低ければ走行するなどして車両を温めると給電できる可能性があります19)。
EVから給電するときの電化製品側の注意点
大前提として、多くの電化製品は屋外での使用を想定していません。そのため、外気温が極端に高いとき・低いときは故障したり作動不良になったりする可能性があります。加えて防水仕様の電化製品を除き、雨や水のかかる場所では使用しないでください。
また、前述のようにAC100Vコンセントで使用できる電力は一般的に最大1500Wですから、それを超える電化製品を使用すると車両の保護機能が作動して自動停止します19)。
参考資料
19)経済産業省「災害時における電動車の活用促進マニュアル」
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EVから取り出した電気で何日間生活できる?
かりに大きな災害で停電が起きた場合、EVを非常用電源にすると何日間生活することができるのでしょうか。東京電力グループでは、一般家庭の平均モデルとして1カ月あたりの平均的な使用電力量を260kWh 20)と公表しています。つまり、1日あたりの使用電力量の目安は約8.7kWhとなります(260kWh÷30日)。
災害時はさすがに節電するでしょうから、1日約6.0kWhの電力量が必要になると仮定した場合、計算上、バッテリー容量20kWhの日産「サクラ」から取り出す電気なら3日間程度、バッテリー容量60kWhの日産「リーフe+」から取り出す電気なら10日間程度は生活できることになります。もちろん災害発生時にEVが常に満充電状態とは限りませんから、使用できる日数は充電残量によります。
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能登半島地震の被災地でもEVが電気を供給
EVは実際の災害でも非常用電源として利用されています。たとえば、2024年1月1日に発生した能登半島地震では、日産の販売店が石川県穴水町や珠洲市などの避難所や役場に「リーフ」や「アリア」といった8台のEVを無償貸与し、被災者のみなさんがスマホやAED(自動体外式除細動器)の充電に使ったと報道されています。
日産は2019年の千葉県大規模停電の際も、停電地域に50台以上の「リーフ」と外部給電器(V2L)を提供して電力供給を行っています21)。日本は諸外国に比べて台風、大雨、地震などの自然災害が非常に発生しやすい国土です。災害時にEVを非常用電源として役立てる動きは今後ますます広がっていくことでしょう。
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EVを非常用電源として活用する方法を再確認しよう
災害時に外部給電機能を備えるEV・PHEVがあれば、家族の安全安心はもちろん、多くの人の役に立つことができます。自動車メーカーも非常用電源としてのEVの重要性をこれまで以上に認識しており、数年前に比べて外部給電機能をもつEV・PHEVが国産車にも輸入車にも増えてきました。本記事を参考に災害時にEVを非常用電源として活用する方法をいま一度確認してみてはいかがでしょうか。
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