電気自動車(EV)は災害などが発生して停電になったとき、バッテリーに蓄えられた電気を取り出して非常用電源として使うことができます。しかし、車内に電源コンセントを備えていないEVは、そのまま給電することはできません。その際に必要となるのが「外部給電器」です。この記事では、外部給電器の種類やその使い方を解説します。
【今回お話を聞いた方】
本郷安史さん
一般社団法人「災害時電源等派遣互助協会(パワーエイドジャパン)」事務局長。EVによる災害時の電源確保を支援するため、全国の自治体や企業の互助ネットワークの構築や、災害時および平常時の外部給電器活用方法に関する理解促進イベントなど、様々な活動を行っている。
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災害時からアウトドアまで、外部給電器があればもしものときに電化製品が使える!
外部給電器とは、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)の大容量バッテリーに蓄えられた電気を取り出すための装置のことです。
EVやPHEVはバッテリーに電気を蓄えています。しかし、貯まった電気は「直流」ですので、そのままでは「交流」で動く家庭用の電化製品を使うことができません。そのため、外部給電器を車につなぎ「直流」の電気を「交流」に変換することで、災害時にスマートフォンを充電したり電化製品を使ったりすることが可能になります。
災害時の非常用電源には、ほかにも「定置型蓄電池」がありますが、EVやPHEVが搭載しているバッテリーは定置型蓄電池に比べるとかなり容量が大きいため、長時間にわたって電気を供給することができます。
また、外部給電器があればEVやPHEVでキャンプに行ったときに複数の電化製品を使うこともできます。特に冬場には、ヒーターやホットカーペットなどの暖房機器を稼働できるので快適なアウトドアライフを送ることができるでしょう。
このように、外部給電器には多くのメリットがあるのです。
EVやPHEVにおける外部給電の種類とは?
EVやPHEVの大容量バッテリーに蓄えられた電気を外部に給電するには、大きく分けて「車内に備えられた100V電源コンセントを用いて給電する」「車の急速充電口に特定の機器をつけて給電する」という2つの方法があります。それぞれ見ていきましょう。
車内に備えられた100V電源コンセントを用いて給電する
100V電源コンセントとはEVやPHEVの車内に装備された「給電用コンセント」のことです。給電用コンセントを備えていれば外部給電器をつなげる必要がなく、車体のみで電化製品などに電気を給電することができます。
ただし、100V電源コンセントは手軽に使える一方、EVやPHEVの全車種に装備されているわけではありません。日本車でも装備されていない車種やメーカーオプションとなっている車種も多い上、欧米車の場合は、給電用コンセントを備えたEVやPHEVはほとんどないのが現状です。
また、車内にコンセントが2口付いている車種もありますが、使用できる電気は2口合計で最大1500Wまでとなっているのが一般的です。
〈図〉100V電源コンセントの給電の仕組み
車の急速充電口に特定の機器をつけて給電する
100V電源コンセントを備えていないEVやPHEVの場合、車体の前部や側面の急速充電口に特定の機器をつなげて給電を行います。そのため急速充電に未対応のPHEVは例外を除き使用できません。現在、EVやPHEVではこの方法が最も一般的と言えるでしょう。
さらに、これは以下の2つの機器を使う方法に分けられます。
①外部給電器(V2L)
外部給電器(V2L)は、EVやPHEVの駆動用バッテリーの電力を取り出して交流100V等の電源に変換する装置のことです。V2Lとは「Vehicle to Lord」の略称で、車内の100Ⅴ電源コンセントよりも大きな電力を給電できるため、最近とても注目されています。
2019年の台風15号による千葉県大規模停電の復旧作業や避難所に電気を供給する際に、業務用として使用されていた機器でしたが、2021年に、ニチコンが小型・軽量化して普段づかいの利用も想定した「パワー・ムーバー ライト」をリリース。今後はキャンプなどのアウトドアユース、そして地域のお祭りなど野外イベントなどでの利用も広がりそうです。
〈図〉外部給電器(V2L)の給電の仕組み
②V2H(充放電設備)
外部給電器は避難場所やアウトドアなどで活用することを想定した「V2L(Vehicle to Load)」ですが、EVやPHEVの大容量バッテリーを一般の家庭で有効活用するための機器もあります。それが「V2H(Vehicle to Home)機器」です。
V2H機器を導入すると、自宅が停電したときにEVやPHEVの大容量バッテリーから電気を自宅に供給できるなど、災害対策となります。また、たとえば夜間の時間帯が安い電気料金プランに加入している場合、夜間にEVやPHEVを充電し、昼間にその電気を自宅に給電して使えば、電気代を節約することができます。
さらに、機器によりますが、V2Hは最大6kWの高出力で充電できるため、EVやPHEVの充電時間が従来の半分程度に短縮できるといったメリットもあります。
〈図〉V2Hの給電の仕組み
なお、V2Hに対応していない車種も存在しています。主に輸入車はV2Hに対応していない場合が多いです。詳しくは、以下の記事で紹介していますので、参考にしてください。
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車種で異なる外部給電機能
前述のように、EVやPHEVの全車種が給電用コンセントを備えているわけではなく、車種によって外部給電の方法が異なります。実際のところ、EVやPHEVの外部給電機能はどうなっているのでしょうか。
国産車の中から、主なEVやPHEVの外部給電機能について表にまとめました。
〈表〉日本メーカーの車種別の外部給電機能 ※1
車種名 | 給電用コンセント | V2L・V2H対応 |
日産 リーフ | × | 〇 |
日産 アリア | × | 〇 |
日産 サクラ | × | 〇 |
トヨタ bZ4X | 〇 | 〇 |
ホンダ Honda e | 〇 | 〇 |
マツダ MX-30 EV MODEL | 〇 | 〇 |
トヨタ プリウスPHV | 〇 | 〇※2 |
トヨタ RAV4(PHEV) | 〇 | ×※3 |
三菱 アウトランダーPHEV | 〇 | 〇 |
※1:年式やグレードによって異なる場合があります。
※2:急速充電(V2L・V2H)対応はオプション設定。普通充電口を利用したAC100V 1500WのV2L「ヴィークルパワーコネクター」は利用可能。
※3:急速充電(V2L・V2H)は非対応。普通充電口を利用したAC100V 1500WのV2L「ヴィークルパワーコネクター」は利用可能。
国産EVでもっとも普及している「リーフ」をはじめ、日産のEVは給電用コンセントを備えていません。
その一方、上記のほとんどの車種が急速充電に対応し、いざというときには外部給電器をつなげることができます。そう考えると、災害時などには避難先でも使用できる外部給電器を活用するのがもっとも現実的と言えるでしょう。
外部給電器はどんなタイプが一般的なの?
EVやPHEVの電気を移動先で活用できる外部給電器にはどのような種類があるのでしょうか。
災害時の電源確保をEVやPHEVで支援する「パワーエイドジャパン」で事務局長をつとめる本郷さんによると、現在販売されている外部給電器にはいくつかのタイプがあると言います。
「ひとつは自動車メーカーが自社の車両でのみ使用することを想定して発売した外部給電器で、たとえば三菱の『MiEV Power BOX』。出力は1.5kWで、価格も15万円程度のためユーザーからも好評です。ただし、2021年12月のフルモデルチェンジ以降のアウトランダーPHEVやeKクロスEVは非対応となります。もうひとつは医療機器への給電も可能なホンダのハイスペック外部給電器『Power Exporter 9000』。200Ⅴも使え出力9kWと大容量ですが、価格は約120万円で重量も51kgあるため、あまり一般的ではないかもしれません。
様々な車に対応し、なおかつ車のラゲッジルームに積んで移動できるという点で、使い勝手がいいのはニチコンが販売する『パワー・ムーバー』シリーズではないでしょうか。中でも『パワー・ムーバー ライト』は従来モデルに比べてかなり小型化・軽量化されているので、キャンプなどでも使いやすいと思います」(本郷さん、以下同)
外部給電器ならほとんどの電化製品を使える
ニチコンの「パワー・ムーバー ライト」は、高さ45.6cm×幅55.3cm×奥行29.2cm、重さは約21kgです。これはハッチバックタイプのEVやPHEVのラゲッジルームにも余裕で収まるサイズです。また、持ち運びしやすいように、ケースには伸縮式ハンドルとキャスターが付いています。
「多少の慣れは必要ですが、使い方も非常に簡単です。1.5kWのコンセントが2口備えられた3kWモデルなので、車で移動可能な場所ならどこでも一定の電気を給電することができます」
以下の表は、ニチコンによる「パワー・ムーバー」シリーズの活用シーンをもとに、災害時の避難所で複数の電化製品を使用した際の消費電力をまとめたものです1)。出力が3kWあれば、ほとんどの電化製品を使えることがわかります。
〈表〉家電別の消費電力1)
電化製品 | 消費電力 |
スマホ充電5台 | 25W |
送風機 | 500W |
赤外線ヒーター | 900W |
冷蔵庫 | 50W |
電気ポット | 1200W |
合計 | 約2.7kW |
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外部給電器を使って実際に電化製品を5台動かしてみた
災害などの緊急時に備えて外部給電器をEVやPHEVのラゲッジルームに積んでいたとしても、いざというときに使用方法がわからなかったら本末転倒です。
そこで、実際にEVと接続し、本郷さんに外部給電器の使い方を教えてもらいました。なお、EVは60kWhのバッテリーを搭載した日産「リーフe+」を、外部給電器は出力3kWのニチコン「パワー・ムーバー ライト」を使用しました。
〈表〉ニチコン「パワー・ムーバー ライト」のスペック2)
出力仕様 | 3.0kW(AC100Vコンセント×2口) |
寸法 | 高さ45.6cm×幅55.3cm×奥行29.2cm |
重量 | 約21kg |
特徴 | ・複数の電化製品を同時に使用できる。 ・操作が簡単で動作音が静かである。 |
また、家電は以下の5台で検証しました。
〈表〉家電別の消費電力
電化製品 | 消費電力 |
赤外線ヒーター | 900W |
電子レンジ | 500W |
電気ポット | 1250W |
ホットプレート | 1300W |
炊飯器 | 200W |
合計 | 約4.2kW |
※私物のため各家電に記載されている数値になります。
STEP①給電器を取り出して充電口の近くに置く
まずラゲッジルームから給電器を取り出して、EVの急速充電口の近くに設置します。今回使用したリーフの場合は、充電口がフロントグリルの上部に配置されているため、車の前方に置きます。
「『パワー・ムーバー ライト』の給電コネクタケーブルの長さは、コネクタの根元から給電器のケース出口まで2mです。接続する充電口から離れた場所に置くと、給電コネクタケーブルが届かなくなります」
STEP②給電コネクタを充電口に挿し込む
リーフの充電ポートのカバーを開け、急速充電口に給電コネクタを「カチッ」と音がするまで挿し込みます。
「充電口にしっかり挿し込んだら、安全のために給電コネクタが抜けないことを確認してください」
STEP③電源ケーブルをリーフに接続する
次に、12V電源ケーブルを給電器と車内の電源ソケットに接続します。
「12Ⅴ電源ケーブルは5mの長さがあります。なお、ケーブルは、ドアではなく、窓から出すのが一般的です」
STEP④EVのパワースイッチをACCにする
次に運転席にあるパワースイッチをACC(アクセサリ)にします。日産「リーフ」の場合、ブレーキペダルを踏まずにスイッチを1回押せばACCモードになります。
「パワースイッチをACCモードにしないと、リーフに接続しても給電器が反応せず、慌てることになります。リーフの場合は、モードが変わったことがモニターに表示されないためよく確認しながら行いましょう。
なお、ACCモードにする方法は車種によって違います。リーフ以外のEVやPHEVに乗っている方は、事前に車の取扱説明書を読んで確認することをおすすめします」
STEP⑤給電器の開始ボタンを押す
給電器の開始ボタンが点滅し始めたらボタンを押します。使用開始目安ランプが「点滅」から「点灯」へと変わり、「出力1」「出力2」ランプが点灯したら、それが給電開始の合図です。
「ここで気をつけたいのは、『パワー・ムーバー ライト』の場合、昼間だと開始ボタンや使用開始目安ランプの点灯がわかりづらいことです。点滅や点灯が見えづらいときは、手のひらで太陽光を遮光するなど工夫しましょう」
STEP⑥リーフのパワースイッチをOFFにする
給電を確認したら、再度リーフのパワースイッチを押してOFFにします。リーフの場合、ACCの状態から2回押すとOFFに切り替わります。
「パワースイッチをOFFにしないとリーフの消費電力が多くなり、バッテリーに蓄えられた電気が早く消費されてしまいます。また、このとき12Ⅴ電源ケーブルは取り外してください」
STEP⑦電化製品の電源プラグを挿し込む
すべての準備が整ったら、使用する電化製品の電源プラグを給電器のコンセントに挿し込みます。「パワー・ムーバー ライト」の場合、1.5kWのコンセントが2つ付いていますが、今回のように家電を複数台稼働させる際はテーブルタップを使用するのがおすすめです。
「電化製品のプラグをコンセントに挿したら、給電コネクタ、電化製品のケーブルを『入線口』に通してケースを閉めてください。雨天のときは漏電する危険性もありますので、安全のために閉めたほうがいいでしょう」
コラム:給電器は持ち運びも簡単にできる
給電器と聞くと、大きくて重そうなイメージがあるかもしれませんが、今回使用した「パワー・ムーバー ライト」はサイズ的には旅行用のキャリーバッグ程度となります。重量も給電器としては軽い約21kgで、大人の男性なら片手で持つこともできるのがポイントです。
「伸縮式ハンドルとキャスターが付いていますので、車のラゲッジルームから出して地面に置けば、あとはハンドルを伸ばして使用する場所まで引いていくだけ。実際に使ってみれば非常に扱いやすいことがわかると思います。災害時やアウトドアシーンではこうした使い勝手の良さが非常に重要になります」
災害時には避難場所でスマホの充電など多岐にわたり活躍
今回、準備した5台の電化製品を同時に使うと給電器の出力(3kW)をオーバーしてしまいますが、避難場所やキャンプなどでこれらの電化製品をすべて同時に動かすシーンはそれほど多くありません。ホットプレートや電子レンジなどは常に電源を入れて使用する電化製品ではないからです。また、炊飯器や電子レンジには省エネ性能が高い製品もあります。
実際に今回、給電器に赤外線ヒーター(900W)、電気ポット(1250W)、炊飯器(200W)を接続しながら電子レンジ(500W)でお弁当を温めてみましたが、この4台の合計出力は2850Wでしたので、問題なく使うことができました。そこにスマホの充電を加えても、合計の電力は3kW以下です。
ただし、今回使用した「パワー・ムーバー ライト」のコンセントは2つですので、複数の電化製品を同時に使いたい場合は延長コードが必要です。また、給電器につなげる家電の消費電力を計算して使用しないと出力をオーバーしてしまうため、その点は注意したほうがいいでしょう。電気を使いすぎると保護回路が働き、使いすぎのコンセントへの電気の供給が自動的に停止されます。その際は、使っていた家電をいくつか停止してから、再度開始ボタンを押してください。
なお、「パワー・ムーバー ライト」の価格は税込みで49万5000円ですが、国の補助金を利用すれば35万円程度で購入可能になります。災害時、キャンプなどのアウトドア、野外イベントと幅広いシーンで活用できることを考えると、それだけの価値はありそうです。
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外部給電機能を考慮してEVを選ぼう
ここまで見てきたように、いくらEVやPHEVでも、外部給電機能がなければバッテリーに蓄えられた電気を取り出すことはできません。災害時やアウトドアなどにEVを活用するためには、100V電源コンセントを備えた車種を選ぶか、今回ご紹介したように車の急速充電口に接続して使う外部給電器が必要になります。
「現在、車内に電源コンセントを備えたEVやPHEVはそれほど多くありません。EVの普及拡大が進んでいけば、電源コンセントを備えた車種も増えていくと思いますが、いまのところ外部給電器が必要な車種が多いのが実情です。
せっかくEVを所有しているのに、災害時に非常用電源として活用できなかったら宝の持ち腐れです。災害などのもしものときに備え、外部給電器の使い方を知っていただくのと同時に、これからEVやPHEVを購入する人はその車がどこまで外部給電機能に対応しているかをよく確認したほうがいいでしょう」
災害時に外部給電機能をもつEVやPHEVがあれば、多くの人の役に立つことができます。アウトドアライフもより快適になるでしょう。