電気自動車のミニバンはいつ販売される?日本・海外の現状と今後を紹介

EVミニバン

これから本格的に普及していく電気自動車(EV)は、2023年2月時点ではハッチバックやSUVなどのボディタイプが主流です。しかし、日本ではミニバンもファミリーカーとして人気を集めています。EVのミニバンは今後、日本国内で販売されるのでしょうか。欧州などで販売されているEVのミニバンの種類や性能、価格などを中心に、近い将来の国内販売が予想されるEVのミニバンを紹介していきます。

 

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電気自動車のミニバンはいつ発売される?

横並びの車

画像:iStock.com/Oleksandr Filon

 

ミニバンはファミリーカーとして日本では非常に人気の高い車ですが、国産車のEVのミニバンはまだ登場しておらず、2023年2月時点では輸入車のEVのミニバンも国内に導入されていません。EVのミニバンはいつ国内で販売されるのでしょうか。ミニバンの種類や特徴、メリットとともに、EVのミニバンの発売が予想される時期を紹介します。

 

そもそも「ミニバン」ってどんな車?

厳密な定義があるわけではありませんが、一般的に3列シートをもち、多人数が乗車可能なワンボックスタイプの乗用車をミニバンと言います

もともとアメリカで生まれた車のカテゴリーで、アメリカでは全長5m、全幅2m以上の大きなボディをもつバンを「フルサイズバン」と言い、このサイズより小さいものがミニバンと呼ばれるようになりました。当時の代表車種に日本でもよく知られているシボレー「アストロ」などがあり、ミニと言ってもかなり大きなサイズの車種も含まれます。

日本では1990年代から2000年代にかけてミニバンの人気が高まり、現在は比較的価格の安いコンパクトモデルから、ファミリー層が使いやすいスタンダードモデル、さらに全長5m近いサイズの高級モデルまで、国産メーカーの多くが多種多様なミニバンをラインナップしています。ライフスタイルに合わせて車種を選べるので、もっとも人気の高い車のカテゴリーのひとつとなっています

 

 

ミニバンの種類や特徴、メリットを解説

国産車のミニバンは、一般的にボディサイズなどの車格によって種類が分けられています

たとえば、ボディサイズが大きなミニバンはLLクラスやLクラス、3ナンバーサイズなどと呼ばれ、スタンダードなミニバンはMクラスや5ナンバーサイズ、ミニバンのなかでは車体が小さいモデルはSSクラスやSクラス、コンパクトサイズなどと呼ばれています。一般的にボディサイズが大きくなればなるほど、それに比例して車両価格も高くなっていく傾向があります。

ミニバンは室内に3列シートを備えている車種が多いため、大人数で移動できるのが特徴です。室内高があるので荷物をたくさん搭載することができ、シートアレンジも多彩なのでフラットシートを活用して車中泊したりと、キャンプや家族旅行などでも活躍します。また、ドア開口部が広く、スライドドアを採用している車種が多いので、子どもや高齢者が乗り降りしやすいというメリットもあります。

 

EVのミニバンはいつ日本で発売される?

前述のように、EVのミニバンは2023年2月時点ではまだ日本国内で発売されていません。ただし、欧州などの海外では販売されている車種もあり、ドイツの車メーカー・フォルクスワーゲンは2022年12月にミニバンの新型EV「ID. Buzz」を日本でも公開しました。導入時期は市場動向を見極めて判断するとのことですが、近い将来、EVのミニバンが日本国内で発売されるのは間違いないと考えていいでしょう。

 

 

電気自動車のミニバンの価格はどれくらい?

 車の価格

画像:iStock.com/AlexLMX

 

EVのミニバンはなぜ2023年時点で国内発売されていないのでしょうか。また、EVのミニバンが国内で発売されるとしたら車両価格はどれくらいになるのでしょうか。自動車市場でミニバンと人気を二分するSUVとの比較を交えて紹介します。

 

ミニバンとSUV、どちらがEVに向いている?

多くのEVは床下にバッテリーを配置しています。そのためセダンなどに比べて車高を高く設計できるSUVは、無理なく車体にバッテリーを搭載することができます。この利点はミニバンにも当てはまり、車のパッケージとして考えると、SUVと同様にミニバンもEVに向いている車種のひとつと言えるでしょう。

ただし、ミニバンよりSUVのほうがEVとして有利な点もあります。EVは高速道路などを走るときは空気抵抗によってバッテリーの消費電力量が多くなり、電費が悪くなりがちです。箱型ボディのミニバンよりSUVのほうが空気抵抗は少ないので、高速域に限ればSUVのほうが電費もよくなる可能性があります。

 

 

EVのミニバンがなかなか国内で発売されない理由

EVは大容量のバッテリーを搭載しているので、ガソリン車やハイブリッド車(HEV)に比べると車両価格が高くなる傾向があります。EVにはランニングコストが安いメリットがありますが、ガソリン車などに比べて車両価格が高ければ、一般的なご家庭のユーザーはEVへの買い替えに躊躇してしまうことでしょう。

そのために富裕層が好む大型・高級SUVから先にEVの市販化を進める車メーカーが多くなっている、と考えることもできます。そうしたSUVに比べるとミニバンはファミリーカーのイメージが強いので、「EV化するのはまだ早い」と判断されているのかもしれません。

 

 

EVのミニバンの車両価格は500万円台前半?

EVはバッテリー容量が大きく、航続距離が長い車種は車両価格が高額になる傾向があります。また、EVに求められる航続距離は個々のユーザーの使い方によって変わってきます。

そうしたこともあり、EVのミニバンの車両価格がいくらになるかは一概には言えませんが、欧州で現在発売されているEVのミニバンの価格帯は本国価格で500万円前半から900万円台となっています。

日本で販売されているスタンダードな価格帯のEVは300万〜600万円台ですから、500万円台から購入可能ならSUVやハッチバックのEVとそれほど大きく変わりません。ただし、仮に日本に導入されるとしても、本国価格のまま国内で販売されるわけではありませんので、あくまで参考程度にお考えください。

 

 

【コラム】欧州では拡大!? 海外の電気自動車のミニバン事情

海外のミニバン事情

画像:iStock.com/400tmax

いま世界的にSDGsを意識した事業計画に取り組む企業が増えています。運送業界も例外ではなく、海外ではトランスポーターをEV化する事業者が増加し、欧州などではラストワンマイルを担うEVコマーシャルバン(商用車)とプラットフォームを共有するEVのミニバンの販売が始まっています。

EVが搭載するモーターには低回転からトルクを発揮する特性があり、重い荷物を積んで上り坂を登るときにも力強く加速します。まさにEVはトランスポーター向きと言えますが、荷物の代わりに大人数を運ぶことのできるミニバンにEVが設定されたら、とても便利になるはずです。こうした欧州のようなトレンドがいずれ日本にもやってくるかもしれません。

 

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今後、日本で発売される? 電気自動車のミニバン

すでにEVのミニバンが販売されている海外にはどんな車種があるのでしょうか。EVが比較的普及している欧州で発売されているEVのミニバンのなかから、おもな車種を紹介します。
※日本円価格は1ユーロ=140円で計算しています。

 

以下、メーカーを50音順で表示しています。

 

I.シトロエン「e-ベルランゴ エレクトリック」1)

シトロエン「e-ベルランゴ エレクトリック」

 

日本でも販売されているシトロエン「ベルランゴ」は欧州で人気のミニバンで、そのEVモデルが「e-ベルランゴ」です。フランス車らしい個性的なデザインが魅力で、乗用車とコマーシャルバン(商用車)が設定されています。

ボディの全長が異なる「Mバージョン」と「XLバージョン」とがあり、標準サイズの「Mバージョン」の乗員定数は5名、3列シートの「XLバージョン」の乗員は7名となっています。シートアレンジも多彩で、3列目シートは取り外しが可能。それによりアウトドアグッズなど比較的大きな荷物も積むことができます。

シトロエン「e-ベルランゴ エレクトリック」 荷室

 

バッテリー容量は50kWhで航続距離は280km(WLTPモード)です。本国価格は「Mバージョン」が3万6750ユーロ(約514万円)、「XLバージョン」は4万1700ユーロ(約583万円)からとなっています。

 

II.フィアット「Eウリッセ」2)

フィアット「Eウリッセ」

 

2022年に日本上陸をはたした「500e」に続くフィアットの市販EVの第2弾が、3世代目となる「ウリッセ」をベースにしたEVミニバンの「Eウリッセ」です。ボディサイズは標準版と全長を延ばしたロング版から選択可能。バッテリー容量も50kWhと75kWhの2種類あり、航続距離はそれぞれ230km、330km(いずれもWLTPモード)となります。インテリアは「4輪のリビングルーム」をコンセプトにしており、乗員定数7名の「ラウンジ」バージョンは2列目のキャプテンシートを回転させて対面シートにすると、格納式のテーブルと合わせてビジネスミーティングも可能です。

シート

 

「Eウリッセ」にはさまざまなシートアレンジのオプションがあり、8人乗りを選択することもできます。本国価格は5万9500ユーロ(約833万円)から。ファミリー向けというより富裕層向けやビジネスユースを想定した高級ミニバンと言えるでしょう。

 

 

III.フォルクスワーゲン「ID. Buzz」3)

フォルクスワーゲン「ID. Buzz」

 

日本では「ワーゲンバス」の愛称で知られ、フォルクスワーゲンのアイコンともなっている古き良き時代のトランスポーター「Type Ⅱ」。このワーゲンバスのイメージをEVに落とし込んだのがフォルクスワーゲンのEVミニバン「ID. Buzz」です。切れ長で表情のあるヘッドライトがなんとも言えず特徴的です。

フォルクスワーゲン「ID. Buzz」

 

バッテリー容量は77kWhで航続距離は最大423km(WLTPモード)。室内は床下の低いプラットフォームの採用によりゆったりしているものの、2列シートで乗車定員は5名。商用車版の「ID. Buzzカーゴ」も設定されています。本国価格は6万4581ユーロ(約904万円)。近いうちに日本に導入されるEVのミニバンがあるとしたら、それはこの車になるかもしれません。

 

IV.メルセデス・ベンツ「EQV」4)

メルセデス・ベンツ「EQV」

 

メルセデス・ベンツ「Vクラス」は日本国内でも比較的見かけることの多いミニバンですが、そのEV版が「EQV」です。メルセデス・ベンツにとって初のEVのミニバンであり、「Vクラス」の堂々としたボディはそのままに、「EQV」はグリルやバンパーなどのデザインでガソリンモデルとの差別化を図っています。

シート

 

乗車定員は6〜8名とグレードによって異なり、ボディはロングとエクストラロングの2種類を設定。全長はそれぞれ5140mmと5370mmで、後者は広いラゲッジスペースがさらに拡大されています。バッテリー容量は「EQV250」が60kWh、「EQV300」が90kWhで、航続距離は236~363km(WLTPモード)となります。本国価格は6万8056ユーロ(約952万円)から。フィアット「Eウリッセ」と同クラスの高級ミニバンと言えます。

 

 

V.ルノー「カングー E-Tech エレクトリック」5)

ルノー「カングー E-Tech エレクトリック」

 

デビュー25周年を迎えたルノー「カングー」の乗用車版EVとして2022年のパリモーターショーで初公開され、まもなく欧州で販売を開始するのが「カングー E-Tech エレクトリック」です。厳密に言うと、「カングー」はミニバンではなくMPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)と呼ばれる車種なので、「ミニバンのように使えるEVのMPV」ということになるのかもしれません。

ルノー「カングー E-Tech エレクトリック」

 

外観はガソリンモデルと共通ですが、専用グリル内のルノーエンブレム奥に充電口をレイアウトしています。なお、バッテリー容量は45kWhで航続距離は285km(WLTPモード)。個別に交換が可能な8個のモジュールで構成され、8年または16万kmの保証つき。それ以前にバッテリー容量が公称容量の70%を下回った場合はルノーが無料で交換してくれるとのこと。本国価格は3万7500ユーロ(約525万円)からとなっています。

なお、2022年の年末に「カングー E-Tech エレクトリック」の兄弟車にあたる、メルセデス・ベンツ「EQT」6)が発表されました。「EQV」に比べ非常にコンパクトなサイズのため日本の道路にも合いそうです。こちらにも注目です。

メルセデス・ベンツ「EQT」

 

 

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国内で最初に発売される電気自動車のミニバンが楽しみ

欧州で販売されるEVのミニバンは、トランスポーターとして使われる商用EVバンをベースとしたEVのミニバンと、富裕層の送迎などに利用される高級EVのミニバンに大別されます。日本国内で人気を集める国産メーカーのミニバンのように、ユーザーの用途に応じて種類が細分化されているわけではありません。

しかし、EVの普及が進めば、ファミリーカーとして使い勝手のいいEVのミニバンの需要も高まっていくことでしょう。そのときどんなEVのミニバンが国内導入されるのか、今後が楽しみです。

 

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この記事の著者
陰山 惣一
陰山 惣一

エンタテインメントコンテンツ企画・製作会社「カルチュア・エンタテインメント株式会社」の「遊び」メディア部門「ネコパブリッシング事業部」副部長。「Daytona」「世田谷ベース」「VINTAGE LIFE」など様々なライフスタイル誌の編集長を経て、電気自動車専門誌「Eマガジン」を創刊。1966年式のニッサン・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いし、その日常をYouTubeでレポートしている。