電気自動車のミニバンはいつ販売される?日本・海外の現状と今後を紹介

EVミニバン

電気自動車(EV)のボディタイプは世界的にSUVやハッチバックなどが主流です。しかし、日本国内ではミニバンがファミリーカーとして人気を集め、2025年夏には国内初となるEVミニバンが販売を開始する予定です。そこで、欧州や中国などで販売されているEVミニバンの種類や性能、価格などを中心に、近い将来の国内販売が予想されるEVミニバンを紹介していきます。

 

※この記事は2023年2月22日に公開した内容をアップデートしています。

 

EV充電設備

 

 

電気自動車のミニバンはいつ発売される?

横並びの車

画像:iStock.com/Oleksandr Filon

 

ミニバンはファミリーカーとして日本で非常に人気の高い車で、今後EVの普及が進んでモデルラインナップが多様化していけばEVミニバンも増えていくと予想されます。ミニバンの特徴、メリットを解説したうえで、EVミニバンの発売時期を紹介します。

 

そもそも「ミニバン」ってどんな車?


「ミニバン」という車のカテゴリーに厳密な定義があるわけではありませんが、一般的に3列シートをもち、多人数が乗車可能なワンボックスタイプの乗用車をミニバンといいます。

もともとアメリカで生まれたカテゴリーで、アメリカでは全長5m、全幅2m以上の大きなボディをもつバンを「フルサイズバン」といい、このサイズより小さいものがミニバンと呼ばれるようになりました。当時のミニバンの代表車種に日本でもよく知られているシボレー「アストロ」などがあり、基準がフルサイズのため、ミニといってもかなり大きなサイズの車種も含まれます。

日本では1990年代から2000年代にかけてミニバンの人気が高まり、現在は比較的価格の安いコンパクトモデルから、ファミリー層向けのスタンダードモデル、さらに全長5m近いサイズの高級モデルまで、国産メーカーの多くが多種多様なミニバンをラインナップしています。ライフスタイルに合わせて車種を選べるので、もっとも人気の高い車のカテゴリーのひとつとなっています。

 

 

ミニバンの種類や特徴、メリットを解説


国産車のミニバンは、一般的にボディサイズなどの車格によって種類が分けられています

たとえば、ボディサイズが大きな高級ミニバンはLクラス、ファミリー層向けのスタンダードなミニバンはMクラス、車体が小さいミニバンはSクラスやコンパクトサイズなどに分類されています。なお、一般的にボディサイズが大きくなればなるほど、それに比例して車両価格も高くなっていく傾向があります。

ミニバンは室内に3列シートを備えている車種が多いため、多人数で移動できるのが最大の特徴であり、メリットです。

また、シートアレンジも多彩なのでフラットシートにして車中泊したり、室内高を利用して荷物をたくさん搭載したりと、キャンプや家族旅行などでも活躍します。さらに、ミニバンはドア開口部が広く、スライドドアを採用している車種が多いので、子どもや高齢者が乗り降りしやすいというメリットもあります。

 

EVのミニバンはいつ日本で発売される?


EVミニバンは2025年5月時点ではまだ日本国内で販売されていませんが、フォルクスワーゲングループジャパンはミニバンタイプのEV「ID. Buzz」を2025年夏に発売すると発表しています。

一方で、欧州や中国などの海外にはすでに販売されているEVミニバンがあり、近い将来、「ID. Buzz」以外のEVミニバンが日本国内で発売される可能性も高いと考えていいでしょう。

なお、PHEV(プラグインハイブリッド車)のミニバンとしては、トヨタが「アルファード」「ヴェルファイア」のPHEVモデルを販売しています。PHEVのミニバンについては、以下の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

 

 

電気自動車のミニバンの価格はどれくらい?

画像:iStock.com/AlexLMX

 

EVミニバンに興味がある人がもっとも気になるのは車両価格でしょう。EVミニバンの価格はどれくらいなのか、自動車市場でミニバンと人気を二分するSUVとの比較を交えて紹介します。

 

ミニバンとSUV、どちらがEVに向いている?


多くのEVは床下に大容量バッテリーを配置しています。そのためセダンなどに比べて車高を高く設計できるSUVは、無理なく床下にバッテリーを搭載できるメリットがあります。

ミニバンも車のパッケージとして考えると、SUVと同様にEVに向いている車種のひとつといえますが、近年のミニバンは車両の安定性や乗降性の向上などの観点からフロアを低くする「低床化」がトレンドです。低い床下にバッテリーを搭載するには高い技術力が必要ですから、以前に比べてEVミニバンを開発するためのハードルが上がってきているのは事実でしょう。

また、EVは高速道路などを走るときは空気抵抗によってバッテリーの電力消費量が多くなり、電費が悪くなりがちです。箱型ボディのミニバンよりSUVのほうが空気抵抗は少ないので、高速域に限ればSUVのほうが電費もよくなる可能性があります。

 

 

EVのミニバンの車両価格は600万円前後~?


EVはコストの高い大容量バッテリーを搭載しますので、車のサイズにもよりますが、EVミニバンの車両価格は同クラスのガソリン車のミニバンよりも高くなることが予想されます。

ちなみに、欧州で現在発売されているEVミニバンの価格帯は本国価格で600万円前後からとなっています。日本で販売されているミドルサイズSUVのEVとそれほど大きく変わりません。

ただし、仮に欧州ブランドのEVミニバンが日本に導入されることになったとしても、本国価格のまま国内で販売されるわけではありませんので、あくまで参考程度にお考えください。

 

 

EV充電設備

 

日本発売が発表されている、電気自動車のミニバン

それでは、日本国内で販売予定のあるEVミニバンにはどのような車種があるのでしょうか。すでに日本販売を発表している車種を紹介します。

 

日本円価格は1ユーロ=162円で計算。

 

フォルクスワーゲン「ID. Buzz」

画像:フォルクスワーゲン

 

日本では「ワーゲンバス」の愛称で知られ、フォルクスワーゲンのアイコンともなっている古き良き時代のトランスポーター「Type Ⅱ」。このワーゲンバスのイメージをEVに落とし込んだのがフォルクスワーゲンのEVミニバン「ID. Buzz」です1)

フォルクスワーゲンは、受注開始時期は未定としながら、「ID. Buzz」を2025年夏に日本市場で発売すると発表しています。

右がフォルクスワーゲン「Type Ⅱ」(画像:フォルクスワーゲン)

 

ドイツ本国ではエントリーモデルの「ピュア」「フリースタイル」、ミドルグレードの「プロ ショートホイールベース」「プロ ロングホイールベース」、上位グレードで四輪駆動の「GTX 4MOTION ショートホイールベース」「GTX 4MOTION ロングホイールベース」の6モデルがあり、バッテリー容量はエントリーモデルが59kWh航続距離は最大334km(WLTP。以下同様)です。

ミドルグレードと上位グレードのショートホイールベースモデルは、バッテリー容量が79kWhで航続距離はそれぞれ最大461km、421km。同じくロングホイールベースモデルは、バッテリー容量が86kWhで航続距離はそれぞれ最大487km、473kmとなっています。

画像:フォルクスワーゲン

 

なお、エントリーモデルとショートホイールベースモデルは2列シートで乗車定員は5名となっていますが、ロングホイールベースモデルはミニバンらしく3列シートを備えており、最大7名まで乗車可能です。

「ID. Buzz」の本国価格はエントリーモデルが約5万ユーロ(約810万円)からとなっていますが、日本導入モデルの販売価格は2025年5月時点ではまだ発表されていません。

 

 

日本上陸が期待される、電気自動車のミニバン

日本発売は発表されていないものの、期待される車種はまだあります。日本よりEVが普及している欧州と中国の自動車市場で販売されているEVミニバンのなかから、おもな車種を紹介します。

 

以下、メーカーを50音順で表示しています。日本円価格は1ユーロ=162円で計算。

 

I.シトロエン「e-ベルランゴ エレクトリック」

画像:ステランティス

 

日本でも販売されているシトロエン「ベルランゴ」は欧州で人気のミニバンで、そのEVモデルが「e-ベルランゴ」です2)。フランス車らしい個性的なデザインが魅力で、乗用車とコマーシャルバン(商用車)が設定されています。

ボディの全長が異なる「Mバージョン」と「XLバージョン」とがあり、標準サイズの「Mバージョン」の乗員定数は5名、3列シートの「XLバージョン」の乗員は7名となっています。シートアレンジも多彩で、3列目シートは取り外しが可能。それによりアウトドアグッズなど比較的大きな荷物も積むことができます。

画像:ステランティス

 

バッテリー容量は51kWhで航続距離は最大335km(WLTP)です。本国価格は「Mバージョン」が3万6850ユーロ(約597万円)、「XLバージョン」は3万7850ユーロ(約613万円)からとなっています。

 

II. ZEEKR「009」

画像:ZEEKR

 

ZEEKR(ジーカー)は中国の民営系自動車メーカー大手「吉利(ジーリー)汽車」の傘下にあるEVブランドで、2025年に日本市場に進出することを表明しています。その際に販売を開始すると予想されているのがミドルサイズSUV「X」と、大型ミニバンの「009」です3)

駆動用バッテリーには世界最大手メーカーの「CATL(寧徳時代新能源科技)」が開発した三元系リチウムイオン電池を採用し、その容量は最大で140kWh、航続距離は中国独自のテスト基準にもとづいた走行モード「CLTC」で822kmに達するといいます。

「009」はトヨタ「アルファード」「ヴェルファイア」などよりもひと回り大きい全長5.2mの高級ミニバンのため、中国本国での価格も43万9000元(878万円:1元=20円で計算)〜と高額です。日本に導入されることになれば、フォルクスワーゲン「ID. Buzz」に続く国内で2車種目のEVミニバンとなりそうです。

ボルボ「EM90」(画像:ボルボ)

 

なお、「吉利汽車」同様、スウェーデン生まれの自動車ブランドのボルボも「浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)」傘下におり、ボルボ初となるEVミニバン「EM90」はZEEKR「009」とプラットフォームを共有する兄弟車です。ただし、現時点では「EM90」の日本導入は未定です。

 

 

III.メルセデス・ベンツ「EQV」

画像:メルセデス・ベンツ

 

メルセデス・ベンツ「Vクラス」は日本国内でも比較的見かけることの多いミニバンですが、そのEV版が「EQV」です4)。メルセデス・ベンツにとって初のEVのミニバンであり、「Vクラス」の堂々としたボディはそのままに、「EQV」はグリルやバンパーなどのデザインでガソリンモデルとの差別化を図っています。

画像:メルセデス・ベンツ

 

乗車定員は6〜8名とグレードによって異なり、ボディはロングとエクストラロングの2種類を設定。全長はそれぞれ5140mmと5370mmで、後者は広いラゲッジスペースがさらに拡大されています。バッテリー容量は「EQV250」が60kWh、「EQV300」が90kWhで、航続距離は244~364km(WLTP)。本国価格は5万9800ユーロ(約969万円)からとなっています。

 

 

IV.ルノー「カングー E-Tech エレクトリック」

画像:ルノー

 

ルノー「カングー」の乗用車版EVとして2023年に販売を開始したのが「カングー E-Tech エレクトリック」です5)。厳密にいえば、「カングー」はミニバンではなくMPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)と呼ばれる車種となっており、「ミニバンのように使えるEVのMPV」ということになるかもしれません。

画像:ルノー

 

外観はガソリンモデルと共通ですが、専用グリル内のルノーエンブレム奥に充電口をレイアウトしています。なお、バッテリー容量は45kWhで航続距離は最大285km(WLTP)。個別に交換が可能な8個のモジュールで構成され、8年または16万kmの保証つき。それ以前にバッテリー容量が公称容量の70%を下回った場合はルノーが無料で交換してくれるとのこと。本国価格は3万5500ユーロ(約575万円)からとなっています。

ルノー「グランカングー E-tech エレクトリック」(画像:ルノー)

 

「カングー」シリーズには、よりミニバンらしく使えるロングホイールベース仕様の「グランカングー E-tech エレクトリック」も2023年に追加されました。「カングー」の乗車定員が5名なのに対して、「グランカングー」は3列シートを備えており、最大7名まで乗車可能です。こちらのバッテリー容量は45kWhで航続距離は最大265km(WLTP)。本国価格は3万9000ユーロ(約632万円)からとなっています6)

なお、「カングー E-Tech エレクトリック」にはプラットフォームを共有する兄弟車もあります。ルノーとの提携によって開発された新型「Tクラス」のEV版、メルセデス・ベンツ「EQT」7)です。「EQV」に比べ非常にコンパクトなサイズとなっているので日本の道路にも合いそうです。こちらのモデルも注目です。

画像:メルセデス・ベンツ

 

 

 

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【コラム】商用車向き!? 海外のEVミニバン事情

画像:iStock.com/charfsinn86

 

いま世界的にSDGsを意識した事業計画に取り組む企業が増えています。物流業界も例外ではなく、海外ではトランスポーターをEV化する事業者が増加し、欧州などではラストワンマイルを担うEVコマーシャルバン(商用車)とプラットフォームを共有するEVのミニバンの販売が始まっています。

日本でもラストワンマイルを受け持つ配送車両にEVの軽商用車、“軽バンEV”を採用する物流企業が増えてきました。

EVが搭載するモーターには低回転から大トルクを発揮する特性があり、重い荷物を積んで上り坂を登るときにも力強く加速します。まさにEVはトランスポーター向きといえますが、荷物の代わりに大人数を運ぶことのできるミニバンにEVが設定されたら、とても便利になるはずです。こうした欧州のようなトレンドがいずれ日本にもやってくるかもしれません。

 

 

EVミニバンがなかなか国内で発売されない理由

2025年夏、ようやくフォルクスワーゲン「ID.Buzz」が発売されますが、これまでEVミニバンは期待されながらも、国内でなかなか発売されませんでした。EVミニバンがこれまで国内で販売されていなかった理由のひとつは車両価格です。ミニバンはファミリーカーですので、一部の高級ミニバンを除けば、一般的なご家庭の自動車ユーザーが買い求めやすい価格帯に車両価格を設定する必要があります。

しかし、EVは駆動用バッテリーにコストがかかり、ガソリン車やハイブリッド車(HEV)に比べると車両価格が高くなる傾向があります。EVはランニングコストが安く済みますが、車両価格が高ければ、ファミリー層は購入に躊躇してしまうことでしょう。

こうした販売面を考えて国産自動車メーカーがEVミニバンの開発に躊躇している可能性もあります。そもそも、欧州などではミニバン人気がそれほど高くなく、商用車以外にミニバンの車種はほとんどありませんでした。欧州や中国にファミリー層に向けた価格帯のEVミニバンが少ないのは、そういった事情もあります。

 

 

EV充電設備

 

今後発売される電気自動車のミニバンが楽しみ

海外の情勢を見ると、いまのところEVミニバンはトランスポーターとして使われる商用EVバンをベースとした600万円前後のモデルと、富裕層の送迎などに利用される高級EVミニバンに大別されます。日本国内で人気を集める国産メーカーのミニバンのように、ユーザーの用途に応じて種類が細分化されているわけではありません。

しかし、EVの普及が進めば、ファミリーカーとして使い勝手のいいEVミニバンの需要も高まっていくことでしょう。そのときどんなEVミニバンが登場するのか、今後が楽しみです。

 

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※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
陰山 惣一
陰山 惣一

エンタテインメントコンテンツ企画・製作会社「カルチュア・エンタテインメント株式会社」の「遊び」メディア部門「ネコパブリッシング事業部」副部長。「Daytona」「世田谷ベース」「VINTAGE LIFE」など様々なライフスタイル誌の編集長を経て、電気自動車専門誌「Eマガジン」を創刊。1966年式のニッサン・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いし、その日常をYouTubeでレポートしている。