メルセデスEQのフラッグシップモデルが、満を持して日本に導入されました。新開発のEV専用プラットフォームを採用した初めてのモデルであり、すべてにおいて新しい時代のラグジュアリーを体現した、100%EVのハイエンドモデルでもあります。その特別な世界観を、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。
メルセデスの電動モデルのサブブランド「EQ」が始動して数年、EQC、EQA、EQBといったSUV系モデルに次いで、ついに真打ちのフラッグシップサルーンが日本にやってきた。
既出のSUV系のEVが内燃エンジンを搭載するベース車を基に電動化したのとは違って、初めてEV専用プラットフォームを採用しているのも特徴。メルセデスが長年培ってきたラグジュアリーと快適性の理想を実現したEVであると謳われており、資料には数々の「初」の文字が並ぶ。
空気抵抗を示すCd値わずか0.20の“ワン・ボウ”フォルム
この2~3年で欧州勢を中心に急速に自動車の電動化が進み、さまざまなニューモデルが登場したわけだが、それでも全長5mをゆうに超えるラージクラスのサルーンとなると、PHEVこそあっても100%EVというのはパッと思い浮かばない。そこにいちはやく現れたのが、メルセデスのEVのフラッグシップサルーンである「EQS」だ。
実車に触れると、とにかく何から何まで新しく、驚きの連続。こんなにも先進的なEVが2022年秋現在すでに存在することに、驚かずにはいられなかったほどだ。しかも本国では1年も前にすでにデビューしていたのだからなおのことだ。
“ワン・ボウ(弓)”フォルムとキャビンフォワードによる外見も斬新そのもの。全長5.2mを超える堂々たる体躯で、ホイールベースも3.2mを超え、タイヤの外径もかなり大きめ。すでに4ドアクーペを作り慣れているメルセデスにおいても、既存のモデルたちとは異質の斬新さを感じさせる。このボディ形状が空力にも寄与して、日本導入時点における量産車として世界最良となる、わずか0.20というCd値を達成している点にも注目してほしい。ちょっと調べてみるとわかるが、0.20というのは相当なものなのだ。
EQファミリーの一員ゆえか、押し出しをあまり強めてないフロントフェイスのブラックパネルには、最先端の運転支援を実現するための各種センサーが内蔵されている。リアビューでは横一文字のコンビランプが目を引く。これほど思い切ったアーチ状のルーフラインにされたことにも驚いたが、独立したトランクではなく5ドアのハッチバックとされていることにも驚いた。
未来感に包まれた先進のインテリア
アナログを残しつつもデジタル仕立てとした未来感あふれるインテリアもインパクト満点だ。眼前と中央、助手席前に配された3枚の高精細パネルとダッシュボード全体を1枚のガラスで覆った「MBUX ハイパースクリーン」(EQS 450+ではオプション)は圧巻そのもの。これほどの面積を1枚でまかない、しかも絶妙に湾曲した形状としているあたり、相当に手間とお金がかかっているのは想像にかたくない。
ダッシュの左右に配された、ジェットエンジンのタービンを模したというエアアウトレットも目を引く。複雑な形状のブレードは見た目にも非常に印象的なだけでなく、エアコンの空気を効率よく配分する機能をも備えている。
センターコンソール前部がダッシュとつながり、下側は宙に浮いたような構造となっているのも、センタートンネルを不要とした新しいEV専用のプラットフォームを採用したからこそ実現できたものだ。ドア内張りには宙に浮くような格好でアームレスト等が配されているほか、美しく造形されたシートの輪郭に沿って照明付きパイピングが施されていて、周囲が暗くなると自動的に一連のアンビエントライトが点灯し、より雰囲気のあるナイトドライブを演出してくれる。
ディスプレイの表示のスタイルは、EQS 450+の場合で、「スポーティ」「クラシック」「ジェントル」「ナビ」「アシスト」「サービス」の6タイプが選べる。「MBUX AR ナビゲーション」は車両前方の現実の景色をナビ画面の一部に映し出すとともに、進むべき方向を矢印で示してくれる。さらに、オプションの「AR ヘッドアップディスプレイ」には、それがフロントスクリーンの約10m先の景色に重ねて表示されるので、より視線移動が小さくてすむ。
HEPAフィルターを採用した空気清浄システムにより、室内の空気をクリーンに保ってくれるのもありがたい。もちろんメルセデスならではの上質な香りが楽しめる「パフュームアトマイザー」も用意されている。
日本で販売されるEVのなかで最長の、航続距離700km
ドライブフィールは、「ラグジュアリーと快適性の理想を実現した」と述べているとおり、さすがは「EQ」である上に「S」の名がつくメルセデスらしく、驚くほど静かで滑らかだ。世に数あるEVひいては高級車の中でも、これほどまでに極めているクルマは他にあまり心当たりがない。後席に要人を乗せるショーファーとして使われるケースも多いクルマだろうから、何よりも快適性が求められるのはいうまでもない。
これほど大柄で車両重量もそれなりに大きいクルマながら、EQS 450+で最大4.5度(最大10度にアップグレード可能)というリア・アクスルステアリングも効いて取り回し性にも優れ、ステアリング操作に対しても正確無比の精度で応えてくれるあたりも、さすがというほかない。
動力性能の高さをアピールするタイプのEVではないが、それなりに力強い。また、音による車両の挨拶、車内に響く疑似エンジン音や回生時に聞こえる音などサウンドのスタイルを3通りから選択できるのも面白い。より高い性能を求める向きには、システム出力が実に最大761ps(560kW)というAMGモデル「EQS 53 4MATIC+」もすでにスタンバイしている。
いずれも107.8kWhのリチウムイオン電池を搭載し、一充電当たりのWLTCモード航続距離は、後輪駆動のEQS 450+で実に700kmに達している。これはEQSの日本導入時点において日本で販売されている100%EVで最長を誇り、当面は首位の座に君臨しそうだ。バッテリーの保証も容量70%を10年または25万kmまでと、国内最長クラスで安心できる。
加減速のマナーも、とにかく乗員に不快に感じさせないよう配慮されている。回生ブレーキにありがちな違和感もない。3段階の減速度に加えて設定された「インテリジェント回生」の秀逸な制御にも感心した。前走車や車速などの状況に合わせて強めに回生したりコースティングしたり、より効率よくかつ乗りやすく適宜制御してくれる。
「何が起こっているのか」を検知して適切に対処
その世界観を味わうため、運転を交代して後席にも乗ってみた。するとほどなくクルマ側が後席に人が座っていて助手席に誰もいないことを検知して、自動的に助手席を前にスライドさせて後席の足元空間を広くしてくれた。
なにせ、クルマ全体で最大350個ものさまざまなセンサーを搭載しているというから、そのときそのときでクルマがどのような状態にあるのか、すべてお見通しということ。これぐらいは序の口で、距離や速度、加速度、照明の状態、降水量、気温、シート着座の有無、ドライバーのまばたきや乗員の発話などを検知し、アルゴリズム制御のコントロールユニットで処理することで、先回りして適切な機能を適切なタイミングで表示し対処してくれるというのだからたいしたものだ。
車内はフロアにバッテリーを搭載するため床面は高めで、わずかにセンタートンネルがある。リアシートのヒップポイントも高めに設定されているので後席でも見晴らしがよく、広大なサンルーフとあいまって、絶大な解放感をもたらしてくれる。
欧米系輸入車初となるV2H対応。生活を一変させる一台
充電については、6.0kWまでの交流普通充電と、150kWまでの直流急速充電に対応しており、バッテリー事前温度調整機能や、充電中断に対する機能も備えているほか、車内のディスプレイには、どの機能を制限したらどれぐらい走行距離が増えるといった非常に細かい情報も表示させることができる。また、欧米系の輸入車EV・PHEVとして初めて、車載バッテリーに蓄えられている電気を電源として使えるV2Lや自宅で使えるV2Hに対応したのもEQSの特徴のひとつだ。107.8kWhもの大容量バッテリーを、自宅の家電などに使えるという安心感は大きいはず。
とにかくもう、このクルマが手元にある間、こんなことまでできるのかという驚きの連続だった。繰り返すが、こんなにも進化したEVがすでに存在するなんて、技術の力とそれを実現したメルセデスの底力には畏れ入る思いだ。ライフスタイルを大きく変えるポテンシャルを有する一台とお見受けした。
〈スペック表〉
EQS 450+
全長×全幅×全高 | 5225mm×1925mm×1520mm |
ホイールベース | 3210mm |
車両重量 | 2530kg |
バッテリー容量 | 107.8kWh |
システム最高出力 | 333ps(245kW) |
システム最大トルク | 568Nm |
WLTCモード一充電走行距離 | 700km |
駆動方式 | RWD |
税込車両価格 | 1578万円 |
〈ギャラリー〉
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