EVならではのメリットのひとつである「回生ブレーキ」。走行時の運動エネルギーを電気エネルギーに変えて回収し、再利用する機構です。しかし、どのくらい「回生ブレーキ」によって電気エネルギーは貯まるのでしょうか? “下り坂で電池残量が増えていく”という不思議な仕組みを体感するべく、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんが、「富士スバルライン」で検証しました。果たしてその結果は?
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回生ブレーキの威力を体感するために、いざ富士山へ向かう
まず、回生ブレーキの検証にあたって車両の状態や目的地までの走り方が重要となる。なぜなら車両の状況によっても結果が変わってくる可能性があるからだ。ということで、下り坂による充電の結果だけでなく、富士山までの車両の状態や走行の様子も一緒にレポートしよう。
今回の検証で使用する車両は、EVの代表格である日産「リーフ e+(60kWh)」のGグレード。5月に出たばかりの最新モデルは、純白の「ピュアホワイトパール」が追加されたほか、エンブレムやフロントグリル、アルミホイールのデザインが新しくなり、インテリジェントルームミラーが見やすくなるなど仕様が向上されている。
ちなみに、日産本社のある横浜で引き取った車両は、オドメーター※1の表示が3,177kmとまだ新しいので、バッテリーの劣化はほぼないと考えられる。
※1:車を製造してから現在までの距離を示す計器のこと。
〈図〉用賀〜スバルライン料金所入り口
ドライブコンピュータで車両の状況を確認してみると、スタート地点である用賀駅での充電状態(SOC)は85%、外気温は27℃を示している。3名乗車で、中央自動車道~富士吉田線と走り、河口湖ICから検証地点である富士山五合目を目指す。
中央自動車道の相模湖あたりでは渋滞していたものの概ね順調で、高速道路は制限速度が80km/hのところがほとんどだった。状況によっては途中で充電も考えたのだが、目的地に最も近い急速充電器のある「谷村PA」で充電状態を確認したところ、56%も残っており、そのまま富士山の麓にあるスバルラインに向かうことにした。
下りでの回生の効率を落とさないように、上り方に気を付ける
ここで、舞台となる山梨県河口湖町を起点とする有料道路「富士スバルライン」について触れておこう。以下が「富士スバルライン」の概要となる。
【富士スバルライン(有料道路)の概要】
距離:約23.5km
料金所標高:1,088m
富士山五合目標高:2,305m
標高差:1,217m
山梨県側から富士山に行く際のゲートとなる「富士スバルライン」は、渋滞することが多く、毎年夏の一定期間、富士山の自然環境保護を目的としたマイカー規制が行われている。2022年は7月15日〜8月31日までマイカーの通行が規制されていたが、EVはマイカー規制から除外されるのだ。なお、今回はマイカー規制期間ではなかったため、交通量は多い印象だ。
続いて、「富士スバルライン」を上る前の状態は以下の図のとおりだ。
検証にあたって上り方も注意する必要がある。スピードを上げて走るとバッテリー温度が上がって、下りの際の回生の効率が落ちてしまう可能性があるからだ。そのため、上りは一定の速度で走るよう心がけた。
上りのタイミングで数値を一度リセットし、電費をチェックする。バッテリー温度は中央(適正値)という表示だ。
さて、ここでリーフの走行モードについて解説しよう。リーフは、一般的な2ペダル車と同じで、DレンジとBレンジの2つのモードがある。Bレンジを選択するとDレンジより回生が強まるので、急な下り坂を走る際にブレーキを踏む頻度が少なくなる。また、スイッチでECOモードを選ぶことができ、選択すると加速や空調の効きがマイルドになる。さらに、リーフには発進から加減速、停止までをアクセルペダルの操作だけで制御できるe-Pedalも搭載されている。これらをそれぞれ設定してから上ることになる。
上りは穏やかな走行がカギとなるため、パワーも出足もいいDレンジのノーマルモードで、e-Pedalはオフにして走行することにした。外気温は20℃のところ、エアコンは日産車ということで23℃に調整した。
〈図〉スバルライン料金所入り口〜富士山五合目
上りは穏やかな走行に成功。充電量を20%消費
五合目に到着した時にドライブコンピュータの数値を確認すると、以下の図のとおりの数値を示していた。
上り坂で充電残量が20%減ったので、計算すると約12kWhの電力量を使ったことになり、バッテリーが問題なければもう一往復できることになる。
いざ、検証開始! 充電残量22%からどれくらい回復するのか?
五合目の外気温は17℃の表示ながら、そうとは思えない汗ばむほどの陽気。せっかく来たのでしばし散策を楽しんだ後、ドライブコンピュータをリセット。検証ルートは、五合目からスバルライン料金所を目指して、回生ブレーキの検証スタートだ。
撮影で少しだけ車両を動かしたため、検証開始時には充電状態が22%、航続可能距離が61kmに減ってしまった。以下が検証前の日産「リーフ」の状態だ。
バッテリー温度も中央を指していて問題ないことを確認の上、走行モード等の設定については、急勾配を下る際に一般ドライバーに推奨されているBレンジで走ることにした。加えて、できるだけ標準の状態で走りたかったため、ノーマルモードで、e-Pedalはオフにした。
さらに、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)※2を制限速度の50km/hに設定した。本来のACCの使い方ではないことは承知しているが、車速を維持し、制限速度の50km/hを上回らないようにするため、あえて使うことにした。
むろん、カーブのキツいコーナーは適宜フットブレーキも使用する。車速を意図的に上げて、ブレーキをグンと強く踏めば回生量はもっと増えるはずだが、今回はそうせず、あくまで一般ドライバーの普通の運転を再現することを心がけた。
希望的予想としては、23.5km先のゴール地点、スバルライン料金所で航続可能距離が120kmほどになってくれれば御の字だが、果たしてどこまで伸びるのか…。
※2:車に搭載した専用のセンサーとCPU(コンピューター)を用いたシステムが、アクセル操作とブレーキ操作の両方を自動的に行ない、運転を支援する機能のこと。 前走車がいる場合、センサーがそれを検知し車間距離を一定に保ちながら走る「追従走行」が可能となる。
平均電費がどんどん向上。航続可能距離も増えていく!
走り出すと、もちろん平均電費はどんどん上がり、すぐに99.9km/kWhに達した。4.5km走ったところで、充電残量は1%回復し23%に。ACCも車速の維持が秀逸で、他車では下り坂で設定車速よりだいぶ速くなるものも見受けられるところ、日産「リーフ」はしっかり50km/hを維持してくれることもわかった。
6kmあまり走った標高2,010mの四合目あたりで充電状態は24%、航続可能距離は65km、11.4km走った標高1,840mの三合目あたりで充電状態は26%、航続可能距離は77kmに増え、まずまずの感触だ。
充電状態が22%から30%へ! 8%の回生を達成
さらに、19.6km走ったところで航続可能距離は100kmジャストに。充電状態はキリのよい30%に届かせたいと思っていたところ、残り1kmで30%を達成する。航続可能距離は、ゴールのスバルライン料金所に着いたところで114kmまで増えた。検証結果は、以下のとおりだ。
ちなみに、パワーメーターに表示される回生量は、三合目あたりまではほぼ8目盛り中1~2目盛り、そこからさらに下ると2~3目盛りを示していた。やはり麓のほうが、勾配がきついようだ。これは上り坂の電費の傾向とも整合性がとれている。
バッテリー温度は、負荷の大きい道だと、市街地を普通に走っていても上がることがあるのだが、検証時は問題なく、ゴールの料金所についた時点でも中央を維持していた。
というわけで、約23.5kmの坂を下って航続可能距離は61kmから114kmと53kmも増え、充電状態は22%から30%と、8%増えた。8%と言うと少ないと思う人もいるかもしれないが、今回はバッテリー容量の大きい日産「リーフe+(60kWh)」なので、8%というのも実はなかなかの数字だったりする。
むろん8%にも幅があって、7%に近かったり9%に近かったりするわけだが、計算上は概ね4kWh半ば~5kWhも電力を回生できて、上りで12kWh使った3分の1以上は回収できたことになる。極端な検証ではあるが、回生ブレーキの威力がイメージいただけたのではないかと思う。
EVは、回生を活かした走行を計算して走るのが楽しい!
ガソリン車の場合は、走れる距離というのは残った燃料の量でおのずと決まってしまい、減る一方で増えることはない。しかし、EVの場合は回生するので走るルートや走り方によって、航続可能距離が増えるところが面白い。今回の検証は極端なケースではあるが、実は日常生活の中でも同じことは大なり小なり起こっていて、同じ目的地を行き来するにも道の選び方によって意外と燃費が違うこともあり得る。そんな新たな発見があるのも、EVに乗る醍醐味のひとつだったりする。