都市全体が発電所に!?次世代ソーラーテクノロジーで変わる未来の暮らし

ペロブスカイト

いま、次世代ソーラーテクノロジーとして期待されているのが「ペロブスカイト太陽電池(以下、ペロブスカイト)」です。屋根以外の様々な場所に設置できるという特性が、私たちの生活スタイルや行動に変化をもたらすと予測されています。ペロブスカイトが普及したら私たちの暮らしがどう変化するのか、専門家に聞いてみました。

【今回の取材でお話を聞いた方】

前田雄大さん

前田雄大さん
エネルギーアナリスト。2007年に外務省へ入省し、2017年から気候変動対策に携わる。パリ協定に基づく成長戦略をはじめ、各種国家戦略の調整も担当。2022年より現職。脱炭素・気候変動に関する講演や企業の脱炭素支援を手掛けるほか、YouTubeチャンネル「GXチャンネル」で情報を発信している。
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ノーベル賞クラスの大発明! ペロブスカイトが切り開く未来の暮らし

今回お話をうかがったのは、エネルギー問題や脱炭素に精通している、エネルギーアナリストの前田雄大さん。“未来のソーラーテクノロジー”と言われる「ペロブスカイト太陽電池」はどんなものなのか、そして新技術が社会に普及することで、どんな暮らしが実現できるのか。ペロブスカイトによって変わる未来を教えてもらいました。

世界が注目。太陽光発電に「革命」を起こすと言われる理由は?

大面積フィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュール

左:大面積フィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュール(提供:PRtimes)

 

そもそもペロブスカイトとは、ソーラーパネルの名称ではなく、モジュールの構造のことを指します。では、現在使われている一般的なソーラーパネルと何が違うのでしょうか。

「ペロブスカイトの最大の特徴は、フィルムのように薄くて軽く、曲げられるという点にあります。現在普及しているソーラーパネルはシリコン製が多いのですが、一定の厚みがないと、太陽の光エネルギーから電気への変換効率が落ちてしまいます。しかし、ペロブスカイトの場合、理論的には薄くてもシリコン製と同程度の変換効率を可能にしました」

このような特徴から、今後技術開発が進めばシリコン製のソーラーパネルに取って代わると考えられると前田さんは話します。ちなみに、発明者は桐蔭横浜大学の宮坂力教授で、「ノーベル賞を取れるかも」と言われるほど革新的な発見であるそうです。

コストや素材の面でも、多くのメリットがある

レアメタル

 

また、従来の太陽光発電より導入コストが安価であるという点も大きな特徴だと述べる前田さん。

「ペロブスカイトは、もともと安価につくれる結晶構造とされてきました。今はまだまだ開発途中なものなので、シリコン製のソーラーパネルに比べてコストがかかりますが、技術改良が進み量産化できるようになれば、安価につくれる可能性があるのです」

これは、産出量が少なく希少な非金属・レアメタルに依存しないでつくれるということが理由だそうです。

「ペロブスカイトは、それほど希少ではない物質、いわば、どこにでもある物質でつくれるのです。資源の確保が容易なので、量産化する上でも、コストを考えてもメリットが大きいですよね」

 

ペロブスカイトの特徴

 

このように期待を寄せられているペロブスカイトですが、実用化に向けてまだまだ開発途中の様子。私たち一般家庭に普及するのは、もう少し後になると前田さんは言います。

「現状は、シリコン製のほうが、発電効率が高く、ペロブスカイトの耐久年数も長くて5年ほど。とはいえ、発電効率を見ると理論的にはシリコン製と同等かそれ以上になるとされていますし、耐久性もここ数年で研究が進んでいます。

また、日本では東芝が『2025年の量産化を目指す』と発表しています。私的には実際に普及するのは、それよりもう少し後になると予測していますが、いずれ課題がクリアされて量産化できるようになるでしょう」

 

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ペロブスカイトで変わる未来の暮らしを描いてみよう

ペロブスカイト 使用イメージ図

 

実用化されれば、これまでのソーラーパネルとは違う使い方ができそうです。ペロブスカイトが普及した場合、私たちの暮らしをどう変えるのか、未来予想図を語ってもらいました。

壁や曲面、至るところに太陽光発電を設置できるようになる

建物

画像:iStock.com/Petmal

 

「ペロブスカイトの形状を活かせばこれまで太陽電池を設置できなかった場所、たとえば家の壁面にも貼れるようになりますよね。また、もともと屋根に何かを乗せることを想定していない古民家など、重量の問題で設置できなかった場所にも使用できるようになるでしょう」

さらに、ペロブスカイトのユニークな特徴である「曲げられる」という点も、設置場所に大きく貢献すると言います。

「湾曲した部分にも使えるのは重要です。極端な例ではありますが、たとえば東京ドームの屋根一面にペロブスカイトのソーラーフィルムを貼って、日中に発電。それを蓄電して夜のナイターゲームに使うという想像もできるでしょう。見た目の問題はいったん置いといて、ですが(笑)」

 

ドーム

画像:iStock.com/SYMFONIA

 

東京ドームの例のように、人目につく建築物にソーラーフィルムが設置できるようになると、私たちの生活スタイルや行動が変わると前田さんは予測します。

「街を歩いていてソーラーフィルムを見る機会が増えると、次第にそれらを生活にうまく取り入れた方が経済的かつエコになると実感する人は多くなるはずです。すると、たとえば『晴れているときに乾燥機を回して太陽光を有効活用しよう』といった行動が起きるでしょう。電気が生活者にとって身近になり、それをうまく使おうとする、行動変容が進むと思います」

EVやスマホにも。まだまだ広がる活用シーン

ペロブスカイト

画像:iStock.com/Trodler

 

前田さんがペロブスカイトに対して思い描く未来は、家や建物だけにとどまりません。

電気自動車(EV)や電車にペロブスカイトを貼ることも考えられますよね。動くものに貼る場合は、風などの影響で耐久性がより重要になりますが、技術が発展すればあり得るでしょう。

また、今も車にソーラーパネルを載せている市販車はありますが、ペロブスカイトなら曲面もふんだんに使えるので、車のボディ全体をラッピングするという未来が訪れるかもしれません」

このほか、生活の中にペロブスカイトを取り入れるシーンはもっと身近なアイテムにも広がると考える前田さん。例として、こんな使い方を教えてくれました。

「スマホの裏面や、スマホケースにペロブスカイトを貼り付けて発電する未来もあるかもしれません。たとえば、陽当たりのいい窓際にスマホを置く光景が当たり前になるとか(笑)。そのほか、スーツケースに貼って、移動中に発電するといった使い方なども面白いかもしれませんね」

ペロブスカイトで実現するエネルギー自立型の社会

原っぱに立つ大きな木

画像:iStock.com/Misha Kaminsky

 

このようにペロブスカイトによって太陽光発電が身近になると、自分で発電した電気を使うという「エネルギーの自立」が進みます

「たとえば最近は、原油価格の高騰で電気代が上がっていますよね。しかし、エネルギーの自立が進めば、そういった価格高騰の影響を受けにくくなるわけです。さらに、エネルギーの自立によって災害にも強くなります。停電が起きても、自家発電したり、蓄電していた電気でまかなえたりしますから…。

また、自治体が家庭で余った電気を地域の中で融通する仕組みを整えていけば、エネルギーの地産地消が進むのではないでしょうか。ペロブスカイトは、そういった未来の実現にも寄与できると思います」

もちろん、現状は課題が多く、実用化には時間がかかりますが、私たちの生活を大きく変えるポテンシャルを秘めています。当たり前に使えるようになった時、どんな生活が可能になるのか、想像が膨らみます。

 

この記事の監修者
“前田
前田雄大

エネルギーアナリスト。2007年に外務省へ入省し、2017年から気候変動対策に携わる。パリ協定に基づく成長戦略をはじめ、各種国家戦略の調整も担当。2022年より現職。脱炭素・気候変動に関する講演や企業の脱炭素支援を手掛けるほか、YouTubeチャンネル「GXチャンネル」で情報を発信している。