「水力発電100%の電気」が生まれる舞台裏。発電所に潜入してみた!

水力発電

電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV・PHEV)を購入する際に、国から補助金を受けられることは知っていますか? 環境省の補助金は、EVなら最大80万円、PHVなら最大40万円が受け取れます。その条件のひとつが「再生可能エネルギー100%電力メニュー」を契約すること。“再生可能エネルギー100%電力”とはどんなものなのでしょうか? 環境にやさしい電気が作られるまでの、知られざる舞台裏をご紹介します。

 

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再エネ100%メニューって何? どうやって生まれるの?

車

いきなりですが、みなさんは「アクアエナジー100※」という東京電力エナジーパートナーの電気料金プランを知っていますか? 端的に説明すると、CO2フリーの水力発電100%で供給する(とみなされる)エコな電気料金プランです。

……ん? 「(とみなされる)」ってどういうこと? と思いましたよね。それに、水力発電についても「大きいダムがあって…?」というぼんやりしたイメージしかない人がほとんどでしょう。この記事ではそんな疑問を「アクアエナジー100の起案者へのインタビュー」「水力発電の現場レポート」の2つから解消していきます!

ちなみに……EV DAYS編集部が気合いを入れすぎて、レポートが1万字(!)に及びますので、もし「現場レポート」から読みたい方は、コチラをクリックしてください。

では、奥深い「再エネ100%電力」が生まれる舞台裏を見ていきましょう!

 

※現在、「アクアエナジー100」は新規の受付を一時停止しております。

 

再エネ100%メニューの起案者に直撃! 誕生の舞台裏

さて、まずは再エネ100%の電力メニュー「アクアエナジー100」が誕生した経緯から探っていきましょう。料金プランを企画した東京電力エナジーパートナーの吉家弘之(きっか・ひろゆき)さんにお話を聞きました。

〈お話を聞いた人〉
吉家弘之さん

吉家弘之さん

「アクアエナジー100」の起案者。試行錯誤の末、一般家庭向けの再生可能エネルギー100%の料金プランとしては国内初となる「アクアエナジー100」を企画した。東京電力エナジーパートナー株式会社 経営戦略本部商品開発室 室長補佐。

 

環境志向の高まり、多様化するニーズに応えるため開発

そもそも「アクアエナジー100」が生み出された背景には、世界的な脱炭素への動き電力小売全面自由化が大きく関係しているそうです。

「地球温暖化防止に向けた取り組みとして、世の中の企業では事業運営に必要なエネルギーを再生可能エネルギーで100%まかなうことを目指す『RE100』への加盟が増加しています。一方で、一般のご家庭でもCO2フリーへの関心が高まって、太陽光発電の導入が広がっています」

たしかに、近所を歩いていても屋根に太陽光パネルを設置しているご家庭はここ数年で増えてきているように感じます。

吉家さん

「東京電力グループはこれまで、水力、風力、太陽光、バイオマス等の再生可能エネルギーの開発を推進してきました。この知見とノウハウを活かして、地球環境に貢献する取り組みをしていくというのが、グループ全体の大きなテーマです」

そのような中、2016年4月に電力の小売全面自由化が実施されました。

「お客さまが自由に電力会社を選べるようになったのをきっかけに、多様化するニーズにお応えすべく、環境に関心の高いお客さまに選んでいただけるよう『アクアエナジー100』を企画しました。当社が販売する電気のうち、発電・供給の安定性に優れている水力発電を活用することで、再エネ100%・CO2フリー(とみなされる)を実現しています」

出ました! その「(とみなされる)」というのは、一体どういうことなんですか!?

【使用量<発電量】で再エネ100%・CO2フリーを実現

吉家さん

「電気というのは、発電されて送電線網に入ると、水力・風力・火力などの区別なく混ざり合ってしまうんです」

〈図〉電気がご家庭に届くまでの流れ

電気がご家庭に届くまでの流れ

なるほど。混ざり合ってしまうので、「これは水力発電の電気」「これは火力発電の電気」などと分けて供給することはできないということですね。

「そこで、水力発電100%での供給を実現するために、【プランに加入されたお客さま全体の電気使用量】と【水力発電所で発電される電気の量】を30分ごとに比較し、常に発電量が使用量を上回ることを確認する仕組みを採用しました。そうすることで、お客さまが使う電気は100%水力発電による供給だとみなすことができるわけです」

〈図〉「アクアエナジー100」の仕組み

「アクアエナジー100」の仕組み

「実際に発電所では30分単位で発電量の記録をつけています。一方のお客さま側でも30分単位の使用量を計測できるメーターが設置されている。そこで、それらの値をひとつひとつ足し上げて、水力による発電量が使用量合計を上回ることをチェックしています」

へえー! 30分単位ということは、一日48回分、年間で1万7520回分の記録を照らし合わせていることになります。何ということでしょう、そんなに細かい地道な作業で「アクアエナジー100」は成り立っているのですね!

 

環境に配慮し徹底的に設計されたエコなプラン

そんな「アクアエナジー100」ですが、一般家庭向けの再生可能エネルギー100%の料金プランとしては国内初のサービスなのです。販売エリアは関東で、アンペア契約(10A〜60A)のお客さまが対象となっています。プランのポイントを詳しく見ていきましょう。

〈図〉「アクアエナジー100」6つのポイント

「アクアエナジー100」6つのポイント

 

【Point】「CO2排出量ゼロの電気」の調達を徹底!

吉家さん

「1番のポイントは、やはり水力100%でCO2フリーとみなされる電気であるということです。東京電力リニューアブルパワーが運営する水力発電所のうち、約140箇所の一般水力発電所で発電された電気を供給しています」

一般水力発電と異なる形式の揚水式発電所は、火力発電などの電気を使って水を調整池に汲み上げるため、CO2フリーとはならないので除外しているそうです。

いやー、細かいところまで徹底していますね! これでもう、水力100%でCO2フリーとみなされる電気であるということに異論はないですね。そして、これだけ多くの水力発電所から電気を調達するため、昼夜を問わず電気を届けているとみなすことができるというわけですね。

【Point】尾瀬の自然体験にダム見学ツアー、魅力的な物産品などの特典!

ダム

丸沼ダム(群馬県利根郡片品村)

そして「アクアエナジー100」には加入者特典が用意されています。特典は、発電所の立地地域の魅力が感じられる「ツアー特典」と「物産品特典」の2種類があり、抽選で提供されます。

「ツアー特典」には、普段立ち入れないダム内部などを見学できる「ダム見学ツアー」や尾瀬の木道整備体験ができる「自然観察ツアー」などがあるそうです。

※「ツアー特典」は新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年度は中止、2021年度も催行見送りとなっています。

 

【あわせてチェックしたい】ダム見学ツアーの様子を知りたい方へ(動画)
▶︎東京電力HD 動画アーカイブ「TEPCO 丸沼ダム見学会」

 

一方の「物産品特典」には、地域の朝採り野菜やダム洞道で熟成させたダム熟成酒などがラインナップされているのだとか。ダム熟成酒……とても気になりますね。飲んでみたい!

【Point】石油などの燃料価格に電気代が左右されない!

「アクアエナジー100」は火力発電の電気を使わない(とみなされる)ので、通常の電気料金プランに適用される「燃料費調整制度」の対象外となっています。……ん? 対象外って言葉の響き、何か損でもするんでしょうか!?

吉家さん

「いえいえ、そうではありません。火力発電に使う石油や天然ガス、石炭などの燃料って、けっこう価格が変動するんですよ。それを電気代に反映させるのが燃料費調整制度です。つまり、燃料代が上がれば電気代も上がるし、燃料代が下がれば電気代も下がる。『アクアエナジー100』は、その影響を受けないということです」

【Point】お客さまからいただいた電気代はさらなるエコ活動に運用!

風景

画像:iStock.com/ tsutsuzaki

「また『アクアエナジー100』では、いただいた電気代の一部を、水力発電設備の改良や水源涵養林の育成など水力電源の維持・拡大に活用しています。環境に配慮した事業活動を実施し、国のエネルギー・環境政策を踏まえた地球温暖化対策や、水力発電所の立地地域の観光振興に取り組んでいます」

料金はちょっと割高…でも、CO2フリーという環境価値はプライスレス

なるほど、本当によく考えられているんですね。ここまで徹底して設計された「アクアエナジー100」ですが、ここで料金プランを確認しておきましょう。

〈図〉「アクアエナジー100」料金体系

アクアエナジー料金単価表

※電力量料金には、別途再生可能エネルギー発電促進賦課金がかかります。

みなさんの料金プランと比べてどうでしょうか? 吉家さんによると、「アクアエナジー100」の料金水準は、一般的な電気料金プランと比べて基本料金が割高な設定になっているといいます。

これは、CO2フリーという環境価値が含まれているためです。環境にやさしい電気なので、その価値が料金に反映されているということですね。

それでも「割高なのかぁ〜」と嘆息しているアナタ。その環境価値がどのように生み出されているのか、知りたいですよね? では、これから現場にご案内します! 「アクアエナジー100」の電気が作られている水力発電所のひとつ、佐久発電所に行ってみましょう!

 

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「アクアエナジー100」の電気はここから生まれる! 佐久発電所を直撃レポート

佐久発電所全景

みなさん、そもそも佐久発電所ってどこにあるか知っていますか? 長野県に佐久という地名があります。軽井沢の近くですね。千曲川が流れる自然豊かな土地に、ダムがあって発電所があるのか……と思って調べてみると、ぜんぜん違う場所にありました。

おわかりでしょうか? 群馬県渋川市の利根川沿いに立地しています。このあたりに佐久という地名はありません。では、なぜ「佐久発電所」という名称なのでしょうか。まずはその歴史からご紹介します。

創設者の奥さんの名前が命名の由来に

もともと、佐久発電所は東京電力グループのものではなかったそうです。浅野財閥の関東水力電気が建設し、1928年(昭和3年)に完成しました。このとき、創設者である浅野総一郎さんの妻「作」さんの雅号「佐久」を取って、「佐久発電所」と名付けられたのだと伝えられています。

そんな佐久発電所の歴史から教えてくれたのは、東京電力リニューアブルパワーの矢内弘人(やない・ひろと)さんと岡田将志(おかだ・まさし)さんです。

東京電力リニューアブルパワーの矢内弘人さんと岡田将志さん

東京電力リニューアブルパワーの矢内弘人さん(右)と岡田将志さん

おや、ヘルメットの「TEPCO」ロゴが赤ではなく緑色ですね。さすが再エネ専門の会社! こんなところにも自然への意識が感じられます。

おふたりのご案内で、さっそく佐久発電所を見学していきましょう!

【注】次のような流れで見学します。該当部分にジャンプしたい方は、以下のリンクをクリックしてください。

▶︎ 水力発電の基本
取水ダムの役割
調整池の役割
サージタンクの役割
発電所の仕組み

 

取水ダムと発電所の距離は約12km! その仕組みとは?

「発電所を見る前に、水力発電がどのような仕組みになっているのか知っていますか?」

矢内さん

いきなり矢内さんに質問されて、返答に窮してしまいました。そもそも佐久発電所が長野県の佐久にあるものだと思っていたくらいですから……。

でも、そうですね、水力発電といえば大きなダムがあって、そこから轟々と水が流れて、その勢いを利用して電気を生み出す、というイメージがあります。

「はい。いわゆるダム式という形式ですね。しかし、佐久発電所の場合は水路式という形式で、取水ダムと発電所は遠く離れているんです。利根川の取水口である綾戸ダムから発電所までは、約12km離れています」

12km! そんなに離れているのですね! では、水の力はどのようにして利用しているのでしょうか。

〈図〉水力発電の4つの仕組み

水力発電の4つの仕組み

「水力発電所の発電方式は主に4つあります。①流れ込み式(自流式)②調整池式③貯水池式④揚水式、です。どれも共通するのは、水が高いところから低いところへ落ちる力を利用して水車を回し、電気を起こすということです。高低差が大きければ水の力は強くなりますし、高低差が小さければ水の力は弱くなります。つまり、水力発電所は、この高低差が重要なポイントなのです」

なるほど。高低差をつくるために、佐久発電所は地形上、取水ダムから遠く離れた場所に発電所を建設しているのですね。

「ちなみに、佐久発電所は②調整池式を採用しています」と岡田さん。「取水口の綾戸ダムから真壁調整池を経由して、発電所に水を送っています。この約12kmの行程を、導水路でつないでいます

〈図〉佐久発電所の水の流れ

佐久発電所の水の流れ

へえー! そんなに大規模な構造物が、今から約100年も前につくられたのですか! すごいですね。

「これから詳しくご案内しますので、まずは水の流れの原点である綾戸ダムへ行ってみましょう」

はい、よろしくお願いします!

取水ダムの役割は取水だけじゃない! 水をきれいにして下流へ

ダム

さあ、やってまいりました! こちらが佐久発電所の取水口(※)となっている綾戸ダムです。それにしても山が青々として美しい風景ですね。取材したのは5月の中旬です。写真には写っていませんが、山には野生の藤が咲いていてとてもきれいでした。

(※)佐久発電所は利根川のほかに吾妻川からも取水しています。4機ある発電機の内、1〜3号機は利根川から、4号機は吾妻川からの取水です。発電機については記事の後半でご紹介します!

ここからは安全のため、ヘルメットをきちんと被って見学していきます。それでは案内人の岡田さん、よろしくお願いします!

毎秒56トン! そんなに取水して大丈夫?

ダム

「こちらがダムの上流側です。まずはここで水を堰き止めるのですが、今日は水の量が多いので、完全には堰き止めずに下流へ水を流した状態にしています」

たしかに先ほどの写真では水がしぶきを上げて流れ出ていますね。季節や気候などによって水量は変動するので調節しているそうです。ちなみに、すべて自動で制御されているのだとか!

ダムを見学

「そして、この下から取水しています。最大で毎秒56トンの水をここから取り込んでいます」

毎秒56トン! そんなに水を取ってしまっては、下流に影響が出てくるのではないかと心配になりますよね。でも、そこはきちんと国の決まりがあって、毎秒一定量(4.733トン)を下流に放流することで問題はないのだそうです。ちゃんと考えられているんですね!

あ、取水口の位置関係が少しわかりづらいですよね。ここです。

ダム見学

この下の……

ダム見学

ここです!

「流木やいろいろなゴミまで一緒に取り込んじゃうといけませんから、この取水口である程度大きなゴミを除去するようになっています。引っかかったゴミは、自動のアームで引き上げてベルトコンベアに乗せてゴミ置き場まで運んでいます」

ベルトコンベア

こちらがゴミを運ぶベルトコンベア

今は機械で行っていますが、昔は大きな鋤(すき)のような道具を使って手作業でゴミを引き上げていたそうです。大変だったんですね……。便利な世の中になりました。

さらにゴミや砂礫を取り除いて水をきれいに

さあ、次の行程です。取水口で取り込んだ水は、導水路を通って一度溜め池(沈砂池)に広がります。ここでは取水口で除き切れなかったゴミを取り除き、二手に流れが広がり水流が弱まることで、水に含まれる砂礫を沈殿させて水をきれいにするのだそうです。

岡田さん

「取水口と同じようなゲートがありますよね。あそこでゴミが取り除かれるようになっています」

ここで引っかかるゴミは、ペットボトルや空き缶などが多いそうです。実際に集められたゴミ置き場を見ると、生活ゴミの多さが目立ちました。みなさん、ゴミを山や川に捨てるのはやめましょうね!

溜池

そして、広い溜め池で水の流れが緩やかになることで、水中の砂礫が沈殿していきます。ゴミや砂礫を取り除くことで発電所の水車に損傷をあたえないようにしているのだそうです。

溜池見学

さあ、ここまでくれば綾戸ダムの行程は最終段階です。「一度広げた水を、今度はまた狭く細くして水の流れを速くします」と岡田さん。なるほど、だんだんわかってきました。

水門

この水門で二手に分かれていた水の流れをひとつに集約し……

水路

水流を強めて、導水路へと流していくのですね

導水路

この導水路が、約12km先の真壁調整池につながっているのです!

いやー、なるほど。第1行程の綾戸ダムはここまで。まだスタートしたばかりですが、何となく全体の流れが見えてきました。このあとは、第2行程、約12km先の調整池へと続きます。さっそく真壁調整池に行ってみましょう!

調整池は電気の安定供給を担う重要設備!

みなさん、ここでおさらいです。綾戸ダムで取水した水は、ゴミや砂礫を取り除いたのち、導水路を通って約12km先の真壁調整池に向かいます。では、真壁調整池を詳しく見ていきましょう。

〈図〉佐久発電所の水の流れ

佐久発電所の水の流れ

真壁調整池全景

真壁調整池全景

さあ、約12km先の真壁調整池にやってきました。こうやって見てみると、広々としたのどかなただの池のように見えます。そんなことを思っていると、矢内さんが説明してくれました。

矢内さんと岡田さん、筆者

「いやいや、これも立派な発電所の設備なのです。真壁調整池は約18万4千㎡、野球グラウンド13面分の広さがあります。ここで、発電に使える水を約70万トン溜めておくことができます。25mプールだと2000杯分ですね」

ケタが大きすぎて逆にイメージが付きません! でも、重要な設備だということはわかりました。大容量の水を溜めておくことで、たとえば、電気がたくさん使われる時間帯に合わせて発電することも可能なのだそうです。

発電所の設備

前方をよく見てみると、何やら“設備っぽいもの”が

「あそこが真壁調整池の水槽です。あの水槽から、鉄管を通って発電所に水が流れるようになっています」と岡田さん。なるほど、では水槽へ行ってみましょう!

歩く2人

「それにしてものどかな所ですね〜」「いいでしょ? 地元なんですよ」(岡田さん)

説明を受ける筆者

さて、水槽を見る前に、まずは真壁調整池の概要を説明してくれました。真壁調整池は佐久発電所の調整池として、1928年(昭和3年)に完成した重力式コンクリートダムなのだそうです。

重力式コンクリートダムは、水圧をダム自体の重さで支えるもので、日本では最も多い種類のダムだといいます。堤の高さは約26mもあるのだとか! しかしそのほとんどは、地中に埋もれていて外からは見えません。

設備

それでも、筆者にとっては堤の階段を登るのも一苦労でした。あ、先に申し上げておきます。高所恐怖症なんです……。

ダム

水槽にやってきました。綾戸ダムから導水路を通ってきた水は、奥に見える池に突き出した陸地付近(下の写真の赤丸あたり)で一部が調整池に注がれ、一部が池底の導水路を通って水槽につながっているそうです。

見学の様子

丸のあたりから池底の導水管を通って……

見学の様子

ここにつながっているのですね

水槽

水量が増えれば、空いている隙間から調整池へ流れ出るようになっています

そして、この水槽からさらに鉄管を通して発電所へとつながっているわけです。なるほどー。長い道のりを経て、ようやく発電所にたどり着くのですね。次はいよいよ本丸の発電所か! と思って発電所のほうを見てみると、気になる建造物が見えました。

巨大な煙突?「サージタンク」の役割とは?

煙突

発電所付近にそびえ立つ巨大な煙突のようなものは一体……

「あれはサージタンクです」と岡田さん。「サージタンクは、発電機を急停止するときなど、水の流れを止めたとき、鉄管に大きな水圧がかかるのを防ぐために水を逃がしておくタンクです」

タンク内は常に一定量の水で満たされており、その水位は、この真壁調整池の水槽の水位と同じなのだとか! タンクの容量に余裕がある状態で止水した場合、その空間に水が流れ込むので鉄管への負荷が軽減されるそうです。また、一時的にタンク内の水が増えても、鉄管でつながっている真壁調整池の水槽と同じ水位にまた戻るという仕組みになっているのだといいます。

〈図〉真壁調整池の水槽とサージタンク内の水位

真壁調整池の水槽とサージタンク内の水位

なるほど、サージタンクは発電所を安全に停止するために重要な設備なのですね。調整池もサージタンクも大事な役割を担っていることがよくわかりました。では、いよいよ最後の行程、佐久発電所へ行きましょう!

地上75m! サージタンク頂上から見える景色は…

みなさん、ついに長い道のりを経て、利根川の水は発電所へと流れ着きます。ここまで約8000文字、貴重なお時間を割いて読んでいただきありがとうございます。あともう少しです! いよいよ本丸の発電所の登場です!

発電所へつながる鉄管

発電所へつながる鉄管

桜

両岸には桜の木が植えられているそうで、春にはこうなるのだとか! 絶景ですね!

だんだん日も傾いてきました。発電所の建屋に案内してもらう道中、目の前にそびえるサージタンクを見上げて、思わず足がすくんでしまいました。

サージタンク

それにしても高いですね! その高さ、なんと75.2m!

ん……? 何やら外周に螺旋状の階段が見えますね。まさかとは思いますが……。

サージタンクの説明をする岡田さん

改めてサージタンクについて説明してくれる岡田さん

岡田さんには申し訳ないですが、ほとんど説明が頭に入ってきません。まさかとは思いますが……ここ、登るんですか?

サージタンク

はい、仕事です。腹をくくりました……。

サージタンク

サージタンクからの景色

眼下に鉄管が見えてきました

景色

遠くの景色を見ると、足の震えが少し治まります

そうこうしているうちに、眼下には発電所の建屋が見えてきました。1〜3号機につながる鉄管が3本、はっきりと確認できますね。

発電所の建屋と3本の鉄管

発電所の建屋と3本の鉄管

ちなみに、4号機は吾妻川から取水していると前述しましたが、右の木立に隠れるようにして水路が通っているのがおわかりでしょうか? 少し見えづらいですが、ここから4号機に水が流れるのだそうです。1〜3号機と4号機の違いは、このあと説明します。今はとにかく、足が震えています……。

サージタンク頂上

ようやく頂上に着きました。さすが、岡田さんも矢内さんも余裕の表情ですね。サージタンクの中に水が溜まっているのが確認できます。

黒々とした水

黒々とした水が日に照らされてキラキラ輝いています

景色を眺める

しばらくしたら慣れて、榛名山を眺める余裕もできました

サージタンクから見える景色は、まさに絶景でした。登ってみて実感しましたが、佐久発電所がいかに自然に囲まれた場所にあるのかがよくわかります。

西側には目の前に利根川が流れ、目線を上げると榛名山がそびえています。さらに、その先にはうっすらと浅間山も確認できました。東側には、どこまでも伸びる赤城山の広い裾野が見渡せ、あまりの美しさに息を呑みました。とにかく山々がきれいで、自然の尊さを改めて感じます。

ただ、また登りたいかと言われたら、もう二度と登りたくないです……。

はい、それでは、最後に発電所を見てみましょう!

 

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いよいよ発電所。“水力100%・CO2フリー”の電気が私たちのもとへ!

発電所

ついに正真正銘、最後の行程が行われる発電所です。建屋が見えてきました。想像していたよりもレトロでオシャレな建物ですね。

建屋の中から見た3本の鉄管とサージタンク

建屋の中から見た3本の鉄管とサージタンク。大量の水が発電所に向かって流れ落ちる構造になっています。
発電所に響きわたる轟音。巨大な水車が水の力で回っている

発電所

さあ、そして中に入ると発電機が現れました。手前から1、2、3、4号機と並んでいます。まずは1号機から見てみましょう。

「1号機で使われている水車はフランシス水車といって、毎分300回転して2万8000kWの出力で発電することができます。1〜3号機は同じ形式です」と岡田さん。

説明をしてくださる岡田さん

仕組みをシンプルに説明すると、落差を生かして流れ込んできた水が、水車を高速で回転させて電気を生み出しています。その回転速度は凄まじく、すぐ隣で説明してくれている岡田さんの声が届かないほどの轟音を発しています。水車がいかに高速で回転していて、その動力である水の力がいかに強力であるかがわかります。

あ、水車がどんなものなのか気になりますよね。建屋に入る前に、実際に使われている水車と同型のものを見せてもらいました。

フランシス水車

こちらが展示されていたフランシス水車。いかにも重そうで、これが水の力だけで高速回転しているとは、にわかには信じられません! いやー、水の力ってすごいんですね。

一方、吾妻川から引いた水で運転している4号機は、高低差が小さくて水量の多い所で用いられることが多いカプラン水車という形式だそうです

説明をしてくださる岡田さん

岡田さんご説明ありがとうございます!
CO2フリーの電気が変圧器を通り、私たちの家庭へ

さて、建屋の外に出ると、そこには変圧器があります。発電された電気は変圧器を通り、送電線網に入って私たちのもとに届けられます。

送電線網の見学

送電線網の見学

ここから私たちに電気が届けられます

送電線網に入れば、もう水力発電だろうが火力発電だろうが区別なく混ざり合ってしまうことは、記事前半で吉家さんが教えてくれました。しかし、ここまで見学してきて、水力発電の電気は環境に配慮され生み出されていることを実感しました。

発電に使われた水は、また導水路を通り利根川に流れ込むようになっているといいます。つまり、上流で取水した水が、電気を生み出したのちに、また元の川へ戻されているということです。その過程に、CO2はもちろん、一切の汚染物質は排出されていません

私たちのもとに届く電気がない交ぜになったものだったとしても、佐久発電所で生み出された水力100%・CO2フリーの電気は、たしかに存在しているのです。そして「アクアエナジー100」は、そんなエコな電気でまかなわれているのです。

あなたのエコライフは、もうすでに始まっている!

アウトランダーPHEV

せっかくなので、東京電力グループでも社用車として利用しているアウトランダーPHEVで佐久発電所の見学を行いました。ご協力をいただいた皆さん、ありがとうございました!

ここまで約1万文字、最後までお付き合いいただいた読者のみなさん、どうもありがとうございます。再エネ100%電力がどんなものなのか、「アクアエナジー100」がどんな料金プランなのか、そして、その電気がどのようにして作られているのか。少しはおわかりいただけたかと思います。

この記事を読んで環境への関心や再エネ100%電力への興味を少しでも持っていただけたなら、足を震わせながらサージタンクに登った甲斐があります。

それにしても、うれしい限りです! なぜなら、ここまで読んでいれば、あなたは環境への意識を高められたということなのですから。そうです、あなたのエコライフは、もう始まっているのです!

※本記事の内容は公開日時点での情報となります。

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部