脱・化石燃料へ!未来のエネルギーを創る太陽光活用プロジェクトの舞台裏

メガソーラー

カーボンニュートラルの動きが世界的に進むなか、日本でも化石燃料の使用を減らすための取り組みが各地で始まっています。その拠点のひとつが、山梨県の「米倉山メガソーラー」です。ここでは太陽光発電のほか、太陽光から生まれる電気を最大限に有効活用するための実証試験も行われています。これからの暮らしに欠かせない太陽光活用プロジェクトの最前線をレポートします。

 

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日照時間日本一を誇る山梨県に建設された、内陸部最大級のメガソーラー

都心から中央道を使い、車で約2時間の場所にある山梨県甲府市下向山町。近隣に東日本で最大級の前方後円墳「甲斐銚子塚古墳」があるこの地域には、もうひとつ“最大級”の名所があります。それが、内陸部では国内最大級の規模を誇る「米倉山メガソーラー」です。

米倉山太陽光発電所

展望台から見た、米倉山太陽光発電所。

 

ゆめソーラー館やまなし

次世代エネルギーPR施設「ゆめソーラー館やまなし」。太陽光エネルギーをはじめ、山梨県が主導で取り組んでいる再生可能エネルギーの有効活用に関する「P2G」システムや「超電導フライホイール」などの技術について知ることができる施設。もちろん館内の電気もすべて太陽光発電などの再生可能エネルギーで賄われている(開館時間/9:30~16:30、入館無料)。

 

東電RP・安達「米倉山メガソーラーとは、日照時間が全国一の山梨県と東京電力リニューアブルパワーの共同事業である『米倉山太陽光発電所』と、山梨県営の『米倉山実証試験用太陽光発電所』をあわせた総称です。また、敷地内には太陽光発電のメリットや仕組みを紹介するほか、太陽光から生まれるエネルギーを有効活用するための技術を、わかりやすく紹介する『ゆめソーラー館やまなし』というPR施設もあります」

そう教えてくれたのは、米倉山太陽光発電所を管理している、東京電力リニューアブルパワーの安達 忠さん。”内陸部では国内最大級”という米倉山太陽光発電所ですが、その規模はどれくらいになるのでしょうか?

東京電力リニューアブルパワー 甲府事業所 総括グループマネージャー 安達忠さん

東京電力リニューアブルパワー 甲府事業所 総括グループマネージャー 安達忠

 

東電RP・安達「米倉山太陽光発電所で使用されているソーラーパネルは、全部で約8万枚。パネル全体の敷地面積は、12.5ヘクタールにもなります。だいたい東京ドーム3個分の広さ、と言えばわかりやすいでしょうか?」

まさにメガソーラー! 確かに、敷地内の展望台からでも、全体を確認することができませんね。

東電RP・安達「さらに言えば、米倉山のソーラーパネルは1カ所にまとめて設置されているわけではなく、広さや形が異なる11の区画に分かれて設置されています。ですから、施設全体の面積はさらに広大になるんです」

米倉山太陽光発電所を上空から捉えた写真

米倉山太陽光発電所を上空から捉えた写真。広大な土地をいくつかの区画に分けて、ソーラーパネルが敷き詰められていることがよくわかる。

 

一般的にメガソーラーは、埋め立て地など平地を利用して建設されることが多いもの。対して米倉山太陽光発電所は、名前のとおり山の中に建設されているため、さまざまな工夫がこらされています。

ソーラーパネル

ソーラーパネルの設置角を10度にして、架台を小型化している。

 

東電RP・安達「山間部にある発電所ということもあり、日陰になっても比較的安定した出力が期待できるCIGS系のソーラーパネルを採用しています。また、本州に建設された太陽光発電所のソーラーパネルの設置角は30度が一般的なのですが、米倉山の場合は、やはり山間部ということで風が強く、風圧の影響を小さくするため10度になっています」

山間部のメガソーラーを管理するため、いちばん苦労するのは“自然との戦い”⁉

メガソーラーならではの広大な面積というだけでなく、山間部の太陽光発電所ということでメンテナンスもなかなか大変なのだとか。同じく東京電力リニューアブルパワーの齊藤直樹さんと依田信二さんに、米倉山ならではの“苦労”について聞きました。

東京電力リニューアブルパワー 甲府事業所 総括グループ 齊藤直樹さん

東京電力リニューアブルパワー 甲府事業所 総括グループ 齊藤直樹

 

東電RP・齊藤「太陽の光を電気に変える太陽光発電所ですが、もちろん設置すればあとは勝手に発電してくれるというわけではなく、定期的なメンテナンスが必要になります。米倉山の場合は、『普通巡視』と呼ばれる毎月1回の巡視のほか、3カ月に1回『精密巡視』を行い、ソーラーパネルや設備に異常がないかを確認しています。また、6年に1回、大規模な『点検』を行っています」

もちろん、定期的なメンテナンスだけではありません。ソーラーパネルの不具合などのトラブルに備えるため、24時間体制の監視も行っており、緊急時にはすぐ現場に駆け付けなければなりません。

東電RP・齊藤「先ほども紹介したように、米倉山のメガソーラーは11の区画に分かれており、各区画を巡るだけでも大変なんですが、異常の連絡があった場合の緊急対応が、また一苦労。リモート監視では、どの区画のどのエリアで不具合が出たというところまではわかるんですが、どのパネルに不具合があるのかは、現場で直接数百枚のパネルを一枚一枚調べなければいけないんです」

そんな大変な作業に加え、山の中にある太陽光発電所ならではのトラブル対策が必要ともいいます。

東京電力リニューアブルパワー 甲府事業所 総括グループ 依田信二さん

東京電力リニューアブルパワー 甲府事業所 総括グループ 依田信二

 

東電RP・依田「具体的には雑草対策と鳥獣対策ですね。定期的に除草作業をしても、すぐに雑草が生えてしまいます。そうすると、草や実を目当てにイノシシのような動物たちが集まってきてしまうんですよ。草を食べるだけならいいのですが、彼らがパネルの上に乗ったりしてパネルを破壊してしまうこともあるんです。

防護柵などの対策はとっているのですが、場合によっては柵を突破してしまうこともありますから、柵の点検も欠かせません。また、過去には近隣にカラスのねぐらがあったようで、夕方になると反射する物が気になるのか、カラスがソーラーパネルに物を落とすイタズラを仕掛けてくる、といったこともありました」

2012年1月の営業開始以来、雑草対策と鳥獣対策には常に気を遣ってきたとのこと。当初は、敷地内でヤギを飼育し、雑草を食べてもらっていたそうです。

米倉山太陽光発電所

 

米倉山太陽光発電所の年間発電電力量は、約1200万kWh。一般家庭で換算すると、約3400軒分の電気を生み出しています。ちなみに、米倉山太陽光発電所のおかげで年間約5100トンの二酸化炭素が削減されることになるそう。そんな、私たちの暮らしを明るい未来につなげる太陽光発電所が、今回紹介した人々の地道な努力によって支えられていることが、おわかりいただけたのではないでしょうか?

 

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太陽光で水素を「つくる」? エネルギーの有効活用に役立つ「P2G」システムとは

さて、冒頭でも紹介したように、米倉山メガソーラーには米倉山太陽光発電所のほかに、山梨県営の「米倉山実証試験用太陽光発電所」があります。パネル設置面積1.26ヘクタール、3960枚のソーラーパネルで構成されるこの発電所は、名前のとおり「実証試験」のために利用されています。いったい、どんな実証試験をしているのでしょうか?

東電HD・矢田部「簡単にいうと、太陽光発電で生まれた電気を効率よく貯蔵するために役立つシステムの試験です。ここでは『NEDO水素社会構築技術開発事業/水素エネルギーシステム技術開発』をはじめとして、いくつかのエネルギー貯蔵システムの試験が行われており、そのうち我々が関わっているのが『P2G(ピーツージー)』と呼ばれる、太陽光から水素をつくるシステムです」

このように教えてくれたのは、東京電力ホールディングスでエネルギー利用の技術を統括している矢田部さんです。

東京電力ホールディングス 技術統括室 矢田部隆志さん

東京電力ホールディングス 技術統括室 矢田部隆志

 

「P2G」とは「Power to Gas」の略称。直訳すれば「電力」から「ガス」へ、ということになりますが、具体的には何をしているのでしょう? 早速、P2Gシステムの実証試験施設を案内してもらいました!

P2Gシステムの実証試験が行われている建屋

P2Gシステムの実証試験が行われている建屋。

 

建屋内部

建屋内部。中央にあるのが、電気分解で水素をつくる3台の「水電解槽」。右側には、太陽光発電で得られた電気を交流から直流へと変換する「整流器」。

 

体育館くらいの広さがある施設の中は、何やら複雑そうにみえる機械がいっぱい。見る限り、かなり複雑なシステムのようですが……。

東電HD・矢田部「確かに複雑に見えるかもしれませんね。しかし基本となる仕組みは、中学校の理科で教わる『水の電気分解』です。皆さんも、水の中に電極を入れて電気を流し、陽極には酸素、陰極には水素を発生させる実験をした記憶がありますよね? それを巨大にしたものが、この施設なんです」

水電気分解の仕組みを示す模型

建屋の入り口には、中学校の理科の実験を思い出させる、ここで行われている水電気分解の仕組みを示す模型が。

 

水電気分解の仕組みを示す模型の一部

水電気分解の仕組みを示す模型の一部。純水に浸された特殊な膜に電気を流すと水が分解され、陽極側には酸素、陰極側には水素が発生する様子がよくわかる。

 

ちなみに、電気分解で水素をつくる実用的な仕組みには、大きく分けてアルカリ水溶液を使う『アルカリ水電解』と、純水を使う『固体高分子型水電解(PEM型)』の2つがあるそう。そのうち、この施設で採用しているのはPEM型山梨県の水道水をフィルタにかけることで得られる純水を利用し、水素をつくっています

P2Gシステムの中核となる「水電解槽」

P2Gシステムの中核となる「水電解槽」。

 

東電HD・矢田部「アルカリ水溶液に比べ、安全に扱えるのが純水のメリット。太陽光と純水からつくり出されるため、より環境負荷が低い『グリーン水素』であることもPEM型の魅力のひとつです」

「水電解槽」の内部

「水電解槽」の内部には、効率よく水素を発生させるために東レが開発した、「HC電解質膜」がミルフィーユ状に重ねて収められている。

 

ちなみに、この施設でつくられる水素の量は、1時間あたり370ノルマル立方メートル(Nm3)。これは、0℃の状態で約33.3kgに相当する量になります。

東電HD・矢田部「水電解槽でつくられた水素は『MHタンクシステム』と呼ばれる、水素を安全に貯蔵する装置を経由して、運搬用のトレーラーに充填されます。そして、トレーラーに充填された水素は、近隣の工場とスーパーに出荷されています

MHタンクシステム

「水電解槽」で発生した水素は、いったん建屋内の「MHタンクシステム」に貯蔵される。

 

水素運搬用のトレーラー

建屋の外に駐車されている水素運搬用のトレーラー。3台のトレーラーが、米倉山と出荷先を往復している。

 

全国一の日照量を誇る山梨県の太陽光と、同じく山梨県の水道水を利用してつくられる、いわば“純・山梨産”のグリーン水素。先ほど、近隣の工場とスーパーに出荷されていると聞きましたが、どのように利用されているのでしょうか?

 

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P2Gでつくった水素が、脱・化石燃料の大きな切り札になる!

東電HD・矢田部米倉山のP2Gシステムでつくった水素は、石油や石炭にかわる燃料としての利用を想定しています。日本は、2050年のカーボンニュートラル実現を宣言していますが、そのために、まず考えなければならないのが、化石燃料の直接消費を減らすこと。工場のボイラーや材料の溶解といった製造工程で使われる燃料を、グリーン水素に置き換えることができれば、大幅なCO2削減が可能になります。いままで電化するのが困難とされていたこのような領域に、太陽光発電の電気から水素を作り、その水素を活用する、いわゆる『間接電化』が今後ますます重要となっていきます」

聞けば、産業や運輸、家庭など社会全体で消費されるエネルギーのうち、約7割がいまだに化石燃料の直接利用で賄われているとのこと。化石燃料を水素に置き換えることで、大幅なCO2削減ができるだけでなく、太陽光発電を利用したP2Gシステムでつくるグリーン水素なら、資源の有効活用にもつながるといいます。

〈図〉用途別にみた最終エネルギー消費における化石燃料直接消費の割合

〈図〉用途別にみた最終エネルギー消費における化石燃料直接消費の割合

出典:EDMBエネルギー経済統計要覧(2020年版)

 

東電HD・矢田部「家庭で使用される熱をつくるためなら、電気のパワーでも問題ないのですが、工場で使われるような高温の蒸気や熱となると、電気だけではパワー不足になってしまいます。そこで役立つのが、パワフルな燃料となる水素です。石油や石炭といった化石燃料は採掘しなければ得られませんし、採掘できる量にも限りがあります。対して、太陽光発電を利用したP2Gシステムで得られる水素は、人類が自分の手でつくることができる。しかも環境にやさしい燃料なんです。これって、すごいことだと思いませんか?」

矢田部さん

 

さらに、太陽光発電を利用したP2Gシステムは、電気の安定供給という観点からも、非常に効果的なのだそうです。

東電HD・矢田部「ご存じのように太陽光発電は、気象条件によって発電量が大きく変動します。簡単に言えば、昼間はたくさん発電するけれど、夜は発電しないわけですね。一方、電気は昼も夜も必要になりますから、太陽光発電はある意味で、需要と供給のバランスが悪い、ともいえます」

〈図〉時間帯別にみた電力の需要と発電量のバランス例

〈図〉時間帯別にみた電力の需要と発電量のバランス例

グラフは九州エリアの2020年5月17日の実績値。需要に対し発電量が上回る時間帯には、電力市場価格がほぼ0円になっていることがわかる。

 

グラフからもわかるように、需給のバランスは電力市場価格にも影響するため、太陽光の発電量が増えると、極端に市場価格が下がる時間帯が発生します。

東電HD・矢田部「そこで、求められるのが、太陽光発電で生まれる電気を賢く貯めて活用するための仕組みです。P2Gシステムのように、日中の余剰電力を水素に変えて貯めておけば、太陽光発電で得られるエネルギーを無駄なく有効に活用できるわけですね」

米倉山メガソーラーで行われているその他の実証試験も、基本的には太陽光発電で生まれるエネルギーをさまざまな形で貯蔵するためのもの。ちなみに最近話題となっている、EVのバッテリーをネットワーク化し、巨大な蓄電池のように活用する「VPP(仮想発電所)」もエネルギーの有効活用に役立つ技術のひとつです。

太陽光発電の「地産地消」が、私たちの明るい未来を築く

最後に、太陽光発電の未来について面白い話を聞くことができました。キーワードとなるのは、再生可能エネルギーの「地産地消」です。

矢田部さん

 

東電HD・矢田部「太陽光発電には、他の方式に比べ設置のハードルが低いというメリットがあります。しかし、規模が大きいメガソーラーとなれば話は別。実は、米倉山のような場所にメガソーラーを建設するのは、これまでの考え方だとあまり効率的ではないとされていたんです」

その理由は、電気を届ける送電の仕組みにあります。現在、全国に張り巡らされている送配電網は、基本的には大きな川の流れのように、発電所を源流に支流を増やしながら、各家庭まで一方通行で届けられる仕組みになっています。そのため、新たに発電所を設けるためには、大きな川の流れを新たにつくりなおす必要があり、そのためのコストがかなりかかるのだとか。

東電HD・矢田部「そこで大切になるのが、再生可能エネルギーの『地産地消』という考え方です。太陽光発電所で生まれた電気を、その地域で使うことにすれば、送配電網をつくりなおす必要がありませんし、エネルギーの運搬によって起こるエネルギーのロスも減らせます。先ほど、米倉山でつくった水素は近隣の工場やスーパーに出荷しているといいましたが、これも同じ話ですね。ご家庭のソーラーパネルを含め、小さな規模の太陽光発電で生まれた電気や今回のような水素を、その地域で効率よく消費する『地産地消』の仕組みがきちんと実用化されれば、カーボンニュートラル社会の実現は、さらに近づくでしょう。P2Gシステムの実証試験を含め、我々が思い描く太陽光発電の未来は、そこにあるのです」

矢田部さん

 

暮らしに必要なエネルギーは、自分たちでつくる。そして、身近な範囲で消費する。太陽光という再生可能エネルギーを有効活用する技術は、どうやら私たちの明るい未来に欠かせないものになりそう。実用化が待たれるところですね!

 

太陽光発電を自宅にも! 賢く導入する方法とは?

これからの暮らしに欠かせない太陽光発電ですが、大規模な発電施設だけのものではありません。個人宅への設置も進んでいます。

中でも、初期費用などの導入コストをかけない方法が注目され、東京電力グループも「エネカリ/エネカリプラス」を提供しています。

初期費用ゼロ円でソーラーパネルを導入できるうえ、設置からメンテナンス、保証もついているので、維持コストを含めて将来の家計を計画的に設計することができます。

エネカリ/エネカリプラス」について詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

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※「エネカリプラス」は別途足場代等の費用がかかる場合があります。

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
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