EVとPHEV、どっちを選ぶ?あなたの乗り方に最適な車をプロが伝授

EVとPHEVどっち選ぶ?

ガソリンを使わずに走行できる電動車として注目される電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV・PHV)。いずれも外部充電によって車を走らせることができるという点では、排ガスを出さないゼロエミッション・ビークル(ZEV)の仲間で「プラグイン車」という呼び方でまとめられることもあります。果たして自分に合ったプラグイン車はどう選べばいいのでしょうか。その基準を考えてみましょう。

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“電動化の波”が到来。EVとPHEV、どっちを選ぶ?

自動車業界の大きなトレンドが電動化です。カーボンニュートラルやCO2(二酸化炭素)排出量削減の旗印のもと、世界中でプラグイン車の市場が拡大しています。

プラグイン車というのは外部充電のためにプラグを挿せる車のことで、自動車業界ではEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)を指す言葉として使われています。EVは電気だけで走行する車、PHEVはエンジンとモーターで走行するHV(ハイブリッド車)のバッテリーを大きくし、外部から充電した電力でも走行できる車のことです。

〈図〉EVとPHEVの構造の違い

〈図〉EVとPHEVの構造の違い

 

実際、日本では環境対応車(※1)に給付されるCEV補助金の対象として、EVだけでなくPHEVも含まれています。また、欧州では市場シェアをガソリン車、ディーゼル車、プラグイン車といったカテゴリに分けて認識していることが多いです。

日本におけるプラグイン車も確実に選択肢は増えています。特にマーケットトレンドの主役といえるSUVカテゴリーではEV、PHEVともに多数のラインナップから選ぶことができます。

そうしたモデルでは価格帯が集中していることもあります。プラグイン車を選ぼうと考えているユーザーが、EVとPHEVを自然にライバルとして比較することができるような状況になっているのが現実です。

※1:「低公害車」や「エコカー」とも呼ばれ、環境への負荷が小さい車の総称のこと。

 

 

EVとPHEV…迷ったら、航続距離に注目しよう

日産アリア

日産 アリアB6

 

では、実際にプラグイン車の中から選ぶ際、何を基準に選べばいいのでしょうか。ここからは、具体的にEVとPHEVの車種を比べながら考えていきましょう。

比較するのに最適なのが、EVの日産「アリアB6」と、PHEVの三菱「アウトランダーPHEV」の2モデルです。その理由は、価格帯もSUVという車格も全く同じくらいのプラグイン車であるからです。

〈表〉アリアB6 主要スペック1)

ボディサイズ 全長4595mm×全幅1850mm×全高1655mm
駆動方式 FWD(前輪駆動)
乗車定員 5名
バッテリー総容量 66kWh
航続距離(WLTCモード) 最大470km
価格(税込) 539万円

 

〈表〉アウトランダーPHEV 主要スペック2)

ボディサイズ 全長4710mm×全幅1860mm×全高1740~1745mm
駆動方式 4WD(四輪駆動)
乗車定員 5名
バッテリー総容量 20kWh
航続距離(WLTCモード) EV走行83~87km HV走行16.2〜16.6km/L
価格(税込) 462万1100円~532万700円

 

スタイリングや走りの特徴の違いも気になるところですが、EVとPHEVを比較する際に注目してほしいのが航続距離です。

アリアのカタログ1)を見ると、一充電航続距離(WLTCモード)は470kmとなっています。バッテリーを満充電しておけば、余裕を見ても400km程度は走ることができると期待できる性能です。

一方、アウトランダーPHEVのカタログ2)からは2つの航続距離がわかります。まずバッテリーを満充電にした状態で、エンジンを使わずにどれだけEV走行できるかというスペックについてはグレードによって異なりますが、航続距離が長いほうを見ると87kmとなっています。PHEVの場合は、バッテリーの充電を使い切ったあとはHVとして走行するのですが、HVとしての燃費が優秀なグレードのスペックは16.6km/Lとなっています(いずれもWLTCモード)。

三菱 アウトランダーPHEV

三菱 アウトランダーPHEV

 

アウトランダーPHEVの燃料タンク容量は56Lとなっていますから、単純計算するとHVとして最大930kmを走行可能ということです。バッテリーの電力と合わせて一気に1000km超のドライブが可能という航続性能を誇っています。

このように航続距離の数字を見るとアウトランダーPHEVの優位性を感じるかもしれません。なにしろ、日本では昔から「大は小を兼ねる」と言われるようにオーバースペックであることを評価する文化があるからです。

しかし、よく考えてみてください。ノンストップで一気に1000kmも走るようなことはあるでしょうか。

 

 

 

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平均的な日本のドライバーは月間500km走る

車走行のイラスト

 

確かに東京から鹿児島まで走行するというユーザーの方であれば、1000kmオーバーのロングツーリング性能を持っていることは愛車選びの基準となるかもしれません。しかし、平均的な日本のドライバーはそれほどの距離は走りません。

ソニー損保が2020年に実施したアンケート調査3)では、年間の平均走行距離は6017kmでした。2014年に実施した同アンケートでは7204kmでしたから、日本のドライバーは年々走らなくなっています。

年間6000kmとすると、月平均は500kmです。毎日乗っているとして計算すると、1日16.6kmです。また、週末ドライブだけと限定しても一度のドライブで運転しているのは100km程度ということになります。日本のドライバーには1000kmを超えるような航続性能はオーバースペックとも言えるのです。

もちろん、これは平均値の話です。愛車で500km以上離れた田舎に帰省することを恒例にしているようなユーザーからするとEVの航続距離では心もとないと感じるのは事実でしょう。そうしたケースではPHEVの長い航続性能が魅力となります。

 

 

給油や充電によるストップ時間は重要か?

車の充電中のイラスト

 

また、長距離を走ることの多いユーザーが重要と考える要素のひとつは、給油や充電によるストップ時間の違いでしょう。高速道路で長距離移動をする場合、EVでは急速充電を利用することが大前提となります。一般的な急速充電器では最大30分の充電が可能となっていますが、すなわち30分間のストップを強いられるわけです。

一方、PHEVはバッテリー充電をしても構わないのですが、本質的にはHVですからガソリンを給油することで、すぐに走り出すことができます。給油に要する時間はせいぜい10分くらいでしょう。特に急いでいるようなときは、充電と給油のいずれにも対応するPHEVの多様性はメリットとして感じられるはずです。

アウトランダーPHEVは満充電+満タンであれば1000km以上を一気に走れます。しかし、それだけの距離を走った上で、ガソリン給油して休息をとらずに走り続けるというのは、現実味に欠けているのも事実でしょう。

このように100~200kmごとに休息するといったドライバーであればEV、PHEVの航続性能が違うことは、実質的にはあまり意味がないかもしれません。

バッテリーが重しになる!? PHEVのジレンマとは?

車で走行中のイラスト

 

また、長距離を走るほどPHEVにはある種のジレンマが生まれてきます。

仮に「アウトランダーPHEV 」で1000kmを一気に走ったとして、外部充電による電力は最初の87kmで使い切った計算になります。HVとして走行する際にもバッテリーは必要なのですが、20kWhと大きく重いバッテリーの恩恵を受けることができるのは、1000km走行のうち8~9%程度でしかないのも事実です。

つまり、ほとんどの走行時間においてバッテリーは単なる重しであって、「無用の長物」になってしまっているのです。仮に長距離を走ることを前提としているのであれば、わざわざPHEVを選ばないで、通常のHVの方がコスパの面でも有利と言えます。

むしろPHEVはバッテリーの電気だけで走ることのできる近距離メインで使うほうが、その構造的なメリットは引き出しやすいのです。つまり、充電した電気だけを使うEV走行の割合をできるだけ増やすことが、ランニングコストや乗り味の面でPHEVの旨味を存分に味わうことにつながるのです。そうなると、PHEVに航続性能を求めるのは本筋ではないとも言えます。

しかし近距離ばかりで使っているとエンジンを積んでいる意味がなくなってしまいます。また、HVとして長距離を走れる安心感は、バッテリーが無駄な重しとなってしまうことを意味します。これこそがPHEVのジレンマなのです。

 

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実は、小さなEVで十分なケースも多い

日産リーフ(提供:日産自動車)

日産 リーフ(提供:日産自動車)

 

同様のことはEVの選択においても言えます。

前述で、平均的な日本のドライバーは月間500km程度しか走らないということをご紹介しました。今回、EVの例として挙げているアリアB6の一充電航続距離は470kmですから、月に一度満充電すれば事足りてしまうくらいの距離しか日本のドライバーは乗っていないのです。

しかしEVの運用において自宅や職場での基礎充電を基本としているのであれば、ほぼ毎日充電器につなぐことができます。そうであれば、アリアB6でさえバッテリーを積み過ぎていると言えるかもしれません。

日産で言えば、ファミリカー級のEVとして「リーフ」をラインナップしています。リーフには40kWhと60kWhという2種類のバッテリーが用意されています。

リーフ(40kWh)の一充電航続距離(WLTCモード)は322kmとなっています。一カ月に500km程度の走行距離であれば、週に一回満充電するような利用方法でほとんどストレスを感じることなくEVを乗りこなすことができると言えます。

日産リーフ(提供:日産自動車)

日産 リーフ(提供:日産自動車)

 

〈表〉リーフ(40kWh)主要スペック4)

ボディサイズ 全長4480mm×全幅1790mm×全高1560mm
駆動方式 FWD(前輪駆動)
乗車定員 5名
バッテリー総容量 40kWh
航続距離(WLTCモード) 最大322km
価格(税込) 370万9200円~407万6600円

 

週末のドライブに使うとしても、せいぜい片道100kmくらいのルートを想定しているのであれば40kWhのバッテリーを積むリーフでも途中で充電せずとも余裕で走り切ることができます。あえてバッテリーを大きくする必要はありません。

平均的なドライバーで、デザインや室内空間を除き航続性能だけを考えれば、リーフでも十分なはずで、大は小を兼ねる的な発想で150万円以上も予算が高くなるアリアを狙う必要はないとも言えます。

前半で触れたようなEVとPHEVの比較だけではなく、EVの中から選ぶ場合においても自分の使い方(一度に走る走行距離)と車両の航続性能のバランスを考えることは重要なポイントと言えるわけです。

前述したように、年間6000kmということは平日に15~25km程度の利用をしているという使い方も想像できます。通勤や買い物といった日常使いの典型と言えるもので、まさに日本の軽自動車に求められている性能でもあります。

もちろん、まったく余裕がなく最低限のニーズを満たすといった選び方をすると後悔してしまうかもしれません。しかし余裕を持たせすぎるのも賢いお買い物とは言えない部分があります。適材適所といった視点を持つことで、自分に最適なプラグイン車を選ぶヒントになることでしょう。

そのときに重要なのは、年間の走行距離だけでなく、一度に移動する最大距離を考えることです。「500km以上を一気に走りたい」と言うのであれば、燃料タンクが大きめのPHEVを狙うといいでしょうし、「そこまで走らない」と言うのであれば、いまどきのEVであれば十分にカバーできるはずです。

いずれにしても、「大は小を兼ねる」という発想は、無駄なバッテリーを運ぶことになるというジレンマにつながります。自分の用途はEVで十分にカバーできると思ったならば、より具体的に一日で走行する最大距離をイメージすることで、自分に必要な航続性能というのが見えてきます。

 

参考資料
4)日産「リーフ」

 

結論、プラグイン車を選ぶ基準は「1日の最大走行距離」にあり

車走行中のイラスト(タイヤと道)

 

ここまでの記事を整理すると、次のようなイメージになるでしょう。

〈図〉1日の最大走行距離に適したおすすめ車種

1日の最大走行距離 おすすめ車種
500km以上 PHEV
300~500km 中型サイズ以上のEV(例・日産アリア/トヨタbZ4X)
100~300km 小型サイズのEV(例・日産リーフ/レクサスUX300e)
100km以下 軽自動車などの小さなEV(例・日産サクラ・三菱ekクロスEV/ホンダHonda e)

 

もっとも、これはあくまでイメージであって1日の走行距離が100km超というユーザーであっても軽EVを毎晩充電すれば問題なくカバーできるケースもあるでしょう。

車の使い方は千差万別ですが、EVとPHEVの選び方としては、1日の最大走行距離を目安にして選んでみてはいかがでしょうか。そうして満足度の高いカーライフを送っていただければと思います。

 

この記事の著者
山本 晋也さん
山本 晋也

1969年生まれ。1990年代前半に自動車メディア界に就職し、中古車雑誌編集長などを経て、フリーランスへ転身。2010年代からWEBメディアを舞台に自動車コラムニストとして活動中。タイヤの有無にかかわらずパーソナルモビリティに興味があり、過去と未来を俯瞰する視点から自動車業界の行く末を考えている。