2020年7月の発表から約2年。満を持してリリースされた日産・アリアは、日本国内のみならず、世界的にも注目されるEVです。流麗なフォルムと、技術の粋が注がれた車体が織りなす、新時代の使い勝手はどんなものか。モータージャーナリストのまるも亜希子さんが試乗します。
2010年12月に初代リーフが誕生してから、10年でグローバル販売台数が50万台を突破するなど、世界のEV市場をリードしてきた日産。その長年積み上げてきたノウハウと新技術を惜しみなく注いで、新世代のEVとして登場させたのが、今回紹介するアリアです。
試乗したのは66kWhバッテリーを搭載し、航続距離470km(WLTCモード)を実現している「アリアB6」の2WDモデル。EV先駆者として手掛ける特徴はどんなところにあるのか、日産ならではの魅力はどんなものか、使い勝手とあわせてチェックしたいと思います。
●Check1:エコノミカル
空力性能と電力制御技術で、安定したバッテリーコントロールを実現
充電のタイミングや方法、電気の使い方などを工夫することで、維持費の節約にもつながるのがEVの魅力のひとつです。ドライブモードを「エコ」にして効率よく走ったり、高効率なエアコンを搭載し、季節によって大きく増えがちなバッテリー消費を抑えたりする技術がアリアには採用されています。空力性能では不利なSUVというスタイリングにもかかわらず、空気の流れを整えるファストバックシルエットや、フルフラットなアンダーフロアのおかげで、無駄なバッテリー消費を抑えています。
また、アリアは日産が長年蓄積してきたEVのノウハウを生かし、高速道路を走行した後に急速充電をする場合、たとえば100km/hで走行してバッテリー残量16%で30分の急速充電を繰り返した場合でも、安定した充電量が得られる性能を実現しています。
充電はB6グレードの場合、50kWの急速充電で80%まで約65分。6kWの普通充電(200V)で満充電まで約12時間となっています。外出先での充電では、新車・中古車を問わず誰でも入会できる「日産ゼロ・エミッションサポートプログラム3(ZESP3)」があり、4つのプランが設定されています。
急速充電の無料充電が10回(100分相当)ついた「プレミアム10」が月額4400円、20回(200分相当)ついた「プレミアム20」が6600円、40回(400分相当)ついた「プレミアム40」が1万1000円。3年定期契約にすると、それぞれ月1,650円割引になりおトクです。
無料回数を超えた分の急速充電の料金は、「プレミアム10」が10分385円、「プレミアム20」が330円、「プレミアム40」が275円。普通充電は回数無制限で無料です。急速充電の無料回数がついておらず、その都度支払いをする「シンプル」は月額550円で、急速充電が10分550円、普通充電が1分1.65円となっています。
家庭で充電する場合の電気代は、1kWhあたり31円(全国家庭電気製品公正取引協議会の公表情報参照 ※)と考えると、500km走行するのに約2600円となります。ガソリン価格が高騰している昨今では、かなりランニングコストが抑えられるのではないでしょうか。
※電力量料金のみの金額です。基本料金・燃料費調整額・再生可能エネルギー発電促進賦課金は加味していません。
●Check2:プライス
価格は539万円から。さらに補助金や減税も活用可能
アリアはバッテリー容量や駆動方式の違いによって、4グレードが設定されています。66kWhで2WDとなる「B6」は539万円。4WDとなる「B6 e-4ORCE limited」は720万600円。91kWで2WDの「B9 limited」は740万800円、4WDの「B9 e-4ORCE limited」は790万200円です。
ガソリンモデルの同クラスSUVと比べると、高額に感じるかもしれませんが、アリアはクリーンエネルギー車(CEV)の補助金対象となっており、交付条件を満たしていれば国から最大92万円の補助金が受けられます。さらに、地方自治体からも補助金を受けられる場合があり、東京都の場合は45万円(再エネ電力導入で60万円、太陽光発電設備導入で75万円予定)となっています。購入検討時には最新の補助金情報を確認してみましょう。維持費の面でも、購入時と1回目の車検時にかかる重量税が免除されるほか、購入翌年度の自動車税が概ね75%減税となるのもうれしいところです。
●Check3:ユーティリティ
家族みんなが使えて、移動中でも楽しめる工夫が
アリアのボディサイズは全長4595mm、全幅1850mm、全高1655mmで、日産のMクラスSUVのエクストレイルと比較すると、全幅が30mm広いものの、全長は95mm、全高は85mmコンパクトです。
それでも室内はLクラスSUV並みの広さを実現しており、丁寧かつクリーンなデザインで仕上げられたインテリアと相まって、まるでラウンジのような心地いい空間となっているのが特徴です。
スイッチOFFの時は文字も突起もないインパネに、電源が入るとスイッチの表示が浮かび上がり、指先でタッチすると振動が返ってくるという操作感は、ちょっと未来的。ブラインドタッチのしやすさ、老眼のドライバーの使いやすさに関しては未知数ですが、新しい試みとしてワクワクさせてくれるところです。
シートは前席、後席ともゆとりがあり、後席の足元もしっかりと広く確保されているので、ファミリーでも使いやすいでしょう。日常の移動から、家族全員での長距離ドライブまでカバーしてくれるはずです。
小ぶりなシフトレバーと、ドリンクホルダー、スマホのワイヤレス充電器やアームレストなどを備えた電動コンソールは、前後150mm移動するので使いやすい位置に配置することができます。ディスプレイはどの席からも見やすいよう、12.3インチを2枚連結した統合型インターフェースディスプレイとなっており、多彩なコンテンツを自在に配置してタブレットのように使えるのも新鮮です。
移動中のお子さんも飽きることなく楽しめそう。EVは走るだけでなく、停車中も含めて乗る人みんなが楽しめる乗りものという考え方が、さまざまなところに生かされていると感じました。
●Check4:エモーショナル
大ぶりながら小回りバツグン。EVビギナーも満足できる走り
試乗したのはアリアの中ではバッテリー容量の小さなグレードでしたが、それでも出足からのなめらかさとパワフルさは十分すぎるレベルです。加速フィールがタイムラグなくスッと得られ、そのままどこまでも続いていくような気持ちよさ。ハンドルの操作感もスッキリとしていて、高速域ではしっかりとした安定感がありながら、低速域でも重量のあるEVを運転しているようなかったるい感覚はなく、EVビギナーでも違和感なく運転しやすいのではないかと思います。
市街地を走っていて感心したのは、雨が降っても風が強い中でも保たれていた高い静粛性。遮音ボディや遮音ガラスの採用はもちろん、ノイズの通り道となるところに吸音材を入れたり、タイヤにも吸音材が配合されていたりするという徹底ぶりです。そして、このボディサイズとは思えない、小回り性能の高さにも驚きました。
エアコンユニットの配置場所を変えたことで、MクラスSUVより小さな最小回転半径5.4mを実現しており、車庫入れや狭い曲がり角もラクに操作できます。アリアと同クラスのSUVは小回りがきかないモデルも多いので、市街地での乗りやすさも備えたプレミアムSUVという、日産らしいEVだと感じました。
●Check5:ハウスベネフィット
自宅から音声操作も。V2Hにも対応した近未来なカーライフ
アリアの充電口は、運転席側のフロントに普通充電用、助手席側のフロントに急速充電用が設置されています。これから自宅に充電器を設置する場合には、位置を考慮するといいですね。
また今回、アリアに搭載された「NissanConnect」※は、自宅から車内、目的地までをシームレスにつなげることができる、新世代のコネクテッド技術です。たとえば自宅でアレクサを使っている場合には、出かける前に自宅で「アリアのエアコンをつけて」などとエアコンの操作やバッテリー残量の確認ができるほか、外出先からの帰り道では、自宅に近づいたらアリアに「家の照明をつけて」と話しかけて操作をすることも可能。
「ハロー ニッサン」と呼びかければ、周辺の施設や天気予報の確認、音楽やニュースの再生なども自然言語で操作でき、カーライフが一気に未来的に変わります。また、スマホのアプリによる車の各種操作はもちろんのこと、今流行りの無線による車両ソフトウェアのアップデートが可能なOTA(Over The Air)機能も備わっています。
※NissanConnect サービスへの加入(有償)が必要
そして、車の大容量バッテリーを家の蓄電池として使えるV2Hにも対応。災害時の備えとしても心強いですね。
ユーザーの声もきっちり反映させて、「使いやすい近未来」を実現
EVを市場に送り出してから10年以上の実績を持つ日産が、今またもう一度、将来を見据えたEVを真剣に作ったらアリアになった。そう感じたポイントが“大きすぎないボディサイズとラウンジのような室内を両立したパッケージ”と、“電動感を押し出しすぎず、小回り性能も犠牲にしないスッキリとした走り”です。充電時間やバッテリーの耐久性など、これまでのEVユーザーの「こうしてほしい」という声もフィードバックされていると感じます。
木村拓哉さんがムーンウォークを披露したTVCMでも話題となった、車外からリモート操作でアリアを前後に動かせる機能「プロパイロット リモート パーキング」※や、より緻密な制御を実現したハンズオフ走行などの「プロパイロット2.0」※、自宅から目的地までずっとつながるコネクテッドシステムなど、技術の粋を集めた機能を採用しています。十分に未来を感じさせる機能は揃えつつも、使う人が戸惑うほど先には行き過ぎず、私たちの暮らしの相棒としてちゃんと頼りになる存在に仕上がっているのがアリアではないでしょうか。バッテリー容量の大きい「B9」や4WDの「e-4ORCE」は2022年夏頃の発売予定ということで、どんな違いがあるのかも楽しみです。
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「連載:モータージャーナリスト・まるも亜希子の私と暮らしにハマるクルマ」
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
この記事の監修者
まるも 亜希子
カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。