アウディは2025年までに30種類の電動化モデルを提供し、そのうち20種類はまったくCO₂を排出しない完全な電気自動車(EV) とするという目標を掲げています。アウディのプレミアム電動SUV「Q8 e-tron」に、スポーツグレードの「Sモデル」が加わりました。その未知なる走りをモータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。
電動化を推し進めるアウディの電動フルサイズクーペSUVのSモデルには、最高出力503ps(370kW)、最大トルク973Nmで0-100km/h加速4.5秒を誇る高性能なパワーユニットが与えられている。それとともに、左右独立して制御可能な2基のリアモーターにより左右輪のトルクを変えることで旋回性能を向上させるという「電動トルクベクタリング機構」が搭載されていることが特徴だ。
3年前から完成されていた「e-tron」の走りが、さらに研ぎ澄まされた
アウディはバッテリーと電気モーターの両方を搭載した車両に「e-tron」の名を与え、すでにいくつかのモデルを世に送り出してきた。完全EVの第一弾として登場し、2021年に日本に導入された前身の「e-tron」のあまりの完成度の高さには、乗った誰もが驚いたものだ。
高度なバッテリーのヒートマネージメントにより、「200km/hでアウトバーンを巡行して150kWで充電できるクルマ」であることをアピールしていたのを思い出す。当時すでにそれを実現していたことには、あらためて恐れ入る思いだ。
やがて高性能版の「e-tron S」が加わり、一方で4ドアクーペのスポーツカー「e-tron GT」や弟分のコンパクトSUV「Q4 e-tron」といったe-tronファミリーが増殖する中で、件の「e-tron」はフラッグシップSUVという位置づけをより明確にする意味合いも込めて、2022年のフェイスリフト時に「Q8 e-tron」に改名した。
その高性能版であるSモデルの「SQ8 Sportback e-tron」が日本に上陸した。SUVクーペのSportbackのみの設定で、フロントに1基、リアに2基の計3基の電気モーターを搭載しているのもポイントだ。
モーターの最高出力はフロントが213ps(157kW)、リアは188ps(138kW)×2で、通常走行時はリアモーターのみが駆動し、素早い加速が必要な場面や滑りやすい路面などでフロントモーターのトルクが加わるという仕組みとなっているが、そこからがすごい。リアモーターは左右独立して制御可能で、コーナリング時に左右輪のトルクを変えることで旋回性能を向上させる「電動トルクベクタリング機構」を実現している点に注目だ。
思わず唸る、味わったことのないハンドリングの妙味
ユニークな意匠で前後にスライドさせる方式のシフトセレクターをDレンジにセットして走り出すと、いたって乗りやすく快適ながらめっぽう速くて安定した、いかにもアウディのSモデルらしいドライブフィールにまず感心する。
大いに気になっていたハンドリングにも目からウロコが落ちた。応答遅れを感じさせることがない俊敏なステアリングレスポンスは、アウディ車が共通して持つ美点だが、SQ8 Sportback e-tronの走りは、これまで味わったことのないものだった。
動き始めの味付けが絶妙で、まさしくステアリングを切ったとおりに切った分だけ、ミリ単位で正確に動く。それも極めて俊敏でありながら俊敏すぎないあたりのさじ加減も絶妙だ。ましてやこれほど大柄で重くて重心の高いクルマが、操舵したとおりこんなにきれいについてくるとは想像を超えていた。
ハンドリングのクイックさを売りとするクルマはいくらでもあるが、それとは異質だ。レーンチェンジしたときや、元の車線に戻るときに揺り戻しもなく、極めてスムーズにヨーモーメントが立ち上がって収束する。おかげで姿勢を乱すこともなければ修正舵も必要ない。複合的に大小Rの連なる首都高速のような状況ではよりそれがよくわかる。
タイトなコーナーでは小さな舵角のままグイグイと曲がっていく。舵角や前後左右のGやアクセルとブレーキの踏み込み量などをセンシングして常に最適に制御しているに違いない。そうした見えないところで非常に高度なことをやっていながらも、それをけっしてひけらかさないところもアウディらしい。
環境にも人にもやさしい、最先端の“作り込み”
撮影車両には、「ダークAudi rings & ブラックスタイリングパッケージ」(価格19万円)、「アルミホイール 5アームインターフィアレンスデザインチタングレー 10.5J×22(Audi Sport)+285/35R22タイヤ」(価格41万円)、「インテリアパッケージ(ステアリングホイール 3スポークレザー マルチファンクションパドルシフトヒーター、リアシートUSBチャージング) 」(価格7万円)、「プライバシーガラス」(価格8万円)、計75万円のオプションが装着されていた。
知的なイメージのアウディには、Sportbackの流麗なフォルムがよく似合う。標準モデルより張り出した力強いホイールアーチをはじめ、Sモデル専用のアグレッシブなデザインの前後バンパーや各部に配されたシルバーのアクセント、印象的なデザインの5本スポークの大径ホイールなども目を引く。
ブラックを基調とするインテリアは、各部に「S」ロゴが誇らしげに配されている。
ダイヤモンドステッチを施した上質なバルコナレザースポーツシートや、マットブラッシュトアルミニウムダークのデコラティブパネル、S専用ビューを採用したバーチャルコックピットプラス、16スピーカーを備えたBang & Olufsen 3Dサウンドシステムなどが標準で装備される。
センターに配された2段構えのタッチディスプレイは操作に対する反応がわかりやすくて使いやすい。
一方で、ケミカルリサイクルと呼ぶ革新的なプロセスにより、自動車の混合プラスチック廃棄物をアップサイクルしたシートベルトバックルカバーを採用することもお伝えしておこう。
夜間のドライブでは、アウディが誇る最先端のライティングテクノロジーにより、高解像度の光を直接投影することで高精細な配光制御を実現したというデジタルマトリクスLEDヘッドライトの照明に感心する。これはもうどれだけ文字を読むよりも、ぜひ実車で体験してみてほしい。それは安全なだけでなく芸術的ですらある。
CHAdeMO規格の150kWの急速充電にも対応した、将来性の高い一台
車体はアウディが縦置きの中~大型車向けに開発したモジュラープラットフォームの「MLB evo」をベースに、アルミとスチールを適材適所に配置した複合ボディコンセプトを採用したほか、バッテリー関連を積むためのサブフレームが追加されている。
ホイールベースのキャビン直下に配置された駆動用バッテリーは低重心化にも寄与しており、車検証によると前軸重が1370kg、後軸重が1350kgと前後重量配分のバランスに優れることも走りに効いているに違いない。
大径で低偏平のオプションの22インチタイヤを履きながら、突き上げも気にならない。
2.7tを超える車両重量にあわせてチューニングされたアダプティブエアサスペンションを標準装備するウィッシュボーン式の足まわりは、重量級の車体をしっかり支え、快適な乗り心地とダイナミックな走りを高いレベルで両立させていることにも感心する。
Sモデルらしく動力性能もなかなかのものだ。Dレンジでも十分すぎるところ、Sモードにするとよりアクセルレスポンスが鋭くなり、ブーストの領域に入るとさらに力強さを増す。ブーストモード作動時で、0-100km/h加速はわずか4.5秒というだけのことはある。
大容量のバッテリーにより一充電走行距離は482kmに達しており、CHAdeMO規格の150kWの急速充電にも対応している。さらに、アウディ ジャパンでは、より快適な電気自動車ライフに向けた環境作りとして、ポルシェ ジャパン、フォルクスワーゲン ジャパンとともに「プレミアム チャージング アライアンス(Premium Charging Alliance)」という急速充電サービスを拡大しており、全国のアウディe-tron店にすでに設置されている50kW-90kWの急速充電器を150kWへとアップグレードを進めているところだ。
そんなところにも、アウディがEVにかける意気込みを感じる。将来性をたっぷりと感じさせる一台に仕上がった。
撮影:小林岳夫
〈スペック表〉
アウディ SQ8 Sportback e-tron
全長×全幅×全高 | 4915mm×1975mm×1615mm |
ホイールベース | 2930mm |
荷室容量 | 528リットル |
車両重量 | 2720kg |
モーター種類 | 交流非同期式モーター |
フロントモーター最高出力 | 213ps(157kW) |
リアモーター最高出力 | 188ps(138kW) |
システム最高出力 | 503ps(370kW) |
システム最大トルク | 973Nm |
0-100km/h加速 | 4.5秒(ブーストモード作動時) |
バッテリー容量 | 114kWh(正味エネルギー容量106kWh) |
一充電走行距離 | 482㎞(WLTCモード) |
電費 | 249Wh/km(WLTCモード) |
駆動方式 | 4WD |
最小回転半径 | 5.7m |
サスペンション | 前後ウィッシュボーン式 |
タイヤサイズ | 前後285/45R20(撮影車は285/35R22) |
税込車両価格 | 1492万円 |
※本記事の内容は公開日時点での情報となります
〈ギャラリー〉