EVはどこまでカスタムできる? プロショップの見解

カスタムされたテスラ『モデル3』

日本のカスタム文化は世界的に注目を集めており、日本ならではのスタイルはもちろん、国産カスタムパーツも豊富にあります。ラインナップが増えているEVにおいても、カスタムのニーズは増えていくはず。エンジン車とは動力方式の違うEVに、カスタムできる余地はあるのでしょうか…?

日本車を日本のパーツでカスタマイズすることは、北米を中心に人気が広がり、今や「JDM」などとも呼ばれ、世界中で人気を博しています。成熟した文化として多くのユーザーに親しまれるなか、EVは今後新たな“カスタムベース”として注目を集めるに違いありません。

とはいえそもそもガソリン車とEVは、作りからしてまるで違います。一般的にEVはガソリン車より圧倒的に少ない部品で構成されていることから、交換できるパーツ数は多くはなさそうです。また従来の整備とは違うアプローチが求められるため、「下手に触れない」という印象もあるかもしれません。そこで、プロショップの見解を尋ねてみました。

 

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カスタムは可能なものの、待ち構えるEVならではのハードル


「EVのカスタムはもちろん可能です。これまでに、テスラ モデル3をベースにカスタムを施したデモカーを制作しています。またモデルYのほか、ヒョンデ IONIQ5を購入し、今後デモカーに仕立てる予定です。とはいえ内部はすべて電気関連の技術で構成されており、エンジン車とは設計思想が違います。またテスラは従来の自動車メーカーが作ったわけではないので、これまでの常識は通用しませんし、新たな技術とノウハウが求められます」

A PITオートバックス東雲

 

こう語るのが、A PITオートバックス東雲の森田泰彰さん。オートバックスのなかでもカスタムの実績が豊富な旗艦店で、チューニングに関わるリーダーを務めています。EVのカスタムに対しては、ユーザーの潜在的なニーズを感じているといいます。

A PITオートバックス東雲の森田泰彰さん

 

「カスタムしたガソリン車に乗り続けたお客さまには、EVに乗り換えてもやはり自分だけの一台にしたいという欲求があると思います。ただ多くのカスタムショップには、EVの電気技術に精通したエンジニアがいません。さらに、テスラなどにはメーカーが提供するクルマの“虎の巻”(技術書)がない。加えて何かを試作・テストするにも、壊したら自分の工場で修理できませんし、どこまでできるかを慎重に見極めています」

EVのカスタムは暗中模索の手探りで、開発リソースの潤沢なプロショップやパーツメーカーを中心に進んでいる状況がうかがえます。そんななか、一般的なカスタムポイントに対して、現時点での可否をまとめてみました。

 

カスタムポイント1【足回り】


カスタムにおいてもっともポピュラーなのが足回り。ホイールを変えれば見た目の印象を、サスペンションなどを変えれば乗り味や車高を変えることができます。EVにおいても、手軽に施工可能な箇所のようです。

テスラ専用車高調整キット

 

「足回りにガソリン車との違いはありません。ただ車内がもともと静かですから、サスペンションや車高調整キットでは作動音が車内に響くケースがあります。そういった特性を踏まえて調整を行う必要があります。弊社で開発したテスラ専用車高調整キットは、作動音の少なさにこだわっていますよ。また、EVはガソリン車より重いケースが多いため、そのあたりも考慮に入れる必要がありますね」

 

カスタムポイント2【外装】


エアロキットやラッピング、テールランプなど、外装も定番のカスタムです。EVだからといってエクステリアが特別仕様であることはなく、安心してカスタムが施せます。

カスタムしたテスラ『モデル3』

 

「外装カスタムで困ったことはありませんが、テスラなどは外国車。純正パーツを本国から取り寄せる場合、日本の車検に対応するかどうかは慎重に精査しなくてはなりません。たとえば弊社で開発したテスラ『モデル3』のエアロ3点セットは、車検に対応しています。カーボン塗装を施したアクリル樹脂なので、スレやワレに強いのです。未塗装にしなかったのは、板金屋さんがテスラの色を再現できるかが未知数だからです」

エアロキット

 

各国産メーカーでも、エアロキットは徐々に増えてきている状況だとか。オートバックスの3点セットのような純正風のアプローチのほか、他と差別化が狙える個性的なものまで、今後もラインナップの充実が期待できそうな分野です。

 

カスタムポイント3【オーディオ】


スピーカーやオーディオキットなど、密閉された車内空間で高音質を望むユーザーは多く存在します。しかしシステムと密接に連携したカーテレマティクスを採用するEVでは、かつてのように手軽にナビを換装するわけにはいかないようです。

A PITオートバックス東雲の森田泰彰さん

 

「テスラなどの場合、地上波などテレビを見る機能がありません。またスマホ連携も、CarPlayやAndroid Autoに対応していません。それらに対応させたいというニーズはあるものの、システムに割り込ませることは難しい状況です。スマートな印象の後付けモニタキットなど、何か提案できないかなと検討しています」

反面、スピーカーやサブウーファーは従来通り換装可能なので、適性を見極めてデッドニング(音響性能を高めるスピーカー周辺加工)などとともに、チューニングを楽しむことができるようです。

 

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カスタムポイント4【モーター】


ガソリン車と比べて、すでに十分に速いEVですが、より走りを洗練させたいというニーズはあるようです。しかしモーターのチューニングは、現時点では大きなリスクを伴うため、「ほぼ不可能」という見解です。

RACECHIP の商品

 

「アメリカではモーターを冷却する強力なファンが出ているようですが、日本ではこれからですね。ただ、ガソリン車にあるスロットルコントローラー(アクセルレスポンスを制御する電子パーツ)のようなキットはチューニングメーカーから出ています。取り付けることによって、エコモードやスポーツモードなどに切り替えができ、加速特性などを自分好みに設定できます。スマホと連動して無線接続でセッティングを変えることができ、ノーマルとほぼ同じ電費という点でも安心です」

 

カスタムポイント5【インテリア】


自分好みの内装にしたいというコアなファンも多いなか、オーダーメイドが多いこの分野は、もちろんEVでも施工可能です。

テスラ モデル3専用エーモンサイレントきっと施工を説明するポップ

 

「たとえば弊社がカスタムしたモデル3には、専用のスライドレールを制作して電動のレカロシートを取り付けています。またEVだと意外に思われるかもしれませんが、『より静かにしたい』という声は多いんです。車内がもともと静かな分、ロードノイズなどが目立つんですね。そこでエーモンさんと協業でモデル3専用のサイレントキットを作りました。姫路に車体を持っていって、徹底的に検証して制作しました。施工には特別な技術が必要なので、オートバックスのなかでもA PITのみで取り付けが可能です」

 

現時点で可能なカスタムを取り入れた、A PIT謹製モデル3カスタム

A PIT謹製モデル3カスタム

 

「これらのカスタム技術をふんだんに取り入れて作ったのが、こちらのデモカーです。エクステリアにはエアロキットに加え、小傷などを防ぐウレタン仕様のプロテクションフィルムが全面に張られています。またホイールは米国製。20インチのHREを採用しました。サスペンションと車高調キットを入れ、ローダウン仕様にしています」

A PIT謹製モデル3カスタムのシート

 

インテリアは、電動のレカロシートがスポーティな個性を主張。静粛性に優れたEVですが、サイレントキットにより、走行時の静粛性はさらに向上しています。

モデルY

 

「新たなベースカーのモデルYにもサイレントキットを入れており、今後の仕様を検討しています。ただ、カスタムは安全が最優先です。壊れてしまうリスクは冒せないので、慎重な姿勢で臨んでいます」

 

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少しずつ高まるEVカスタムの気運。市場拡大に伴って盛り上がりそう


国産EVのデビューが続くなか、国内のチューニングメーカーも着手を始めているそう。A PITオートバックス東雲のEVアフターパーツコーナーは拡張を予定しているといいます。

A PITオートバックス東雲のEVアフターパーツコーナー

 

「まだまだマーケットの伸びしろはあります。デモカーを購入して、僕たちで解体しながら、その余地を見つけていきます。EVは電子的に出力を制限していますから、パソコンなどと同様に、システムをいじれるようになれば、むしろガソリン車よりも手軽にスペックアップさせることはできるようになるかもしれません」

 PITオートバックス東雲の森田泰彰さんとカスタムされたテスラ モデル3

 

すでに海外のシステムエンジニアを中心に、EVの走行性能向上を試みる事例はあるそうです。メーカーの保証対象外となり、危険を伴う可能性もあるため、現時点では避けるべきですが、アフターパーツメーカーやユーザーコミュニティのなかで、少しずつ着実にEVカスタムの気運は高まっているようです。

 

【今回の取材先】
A PITオートバックス東雲

A PITオートバックス東雲


テスラのコンプリートカスタムの制作実績を持つ、オートバックス旗艦店。EVの車検やカスタムからデイユースの小物まで豊富にラインナップするほか、TSUTAYAのブックコーナーも併設。ライフスタイルの提案も行う大型店。

https://www.apit-autobacs.com

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部