停電復旧に奔走する、現場の舞台裏。システムと作業員の汗が“日常”を守る

東京電力パワーグリッドの能登さんと吉田さん

私たちの暮らしにかかせない“電気”。日常生活を送るためになくてはならない大切なライフラインです。しかし、台風や地震、雷などの自然災害により「停電」が起こることも。電気がない生活はとても不安になりますが、その分復旧したときの安心感はとても大きいものです。そこで、そんな私たちの“当たり前の暮らし”を支える「停電復旧」の舞台裏をインタビュー。そこには苦労の末開発された緻密なシステムと、現場の人たちの努力がありました。

今回、「停電復旧」の舞台裏を教えてくれたのは、東京電力パワーグリッド 高崎支社の吉田典一さんと能登克昌さん。

能登さん(高崎地域配電保守グループ)、吉田さん(制御グループ)

(左から)能登さん(高崎地域配電保守グループ)、吉田さん(制御グループ)

東京電力パワーグリッドは主に関東エリアで一般送配電事業を行っている会社で、発電所で発電された電気を変電所や鉄塔、電柱を通じて私たちの元へ届けています。

吉田さんと能登さんは、停電復旧に必要な「システムの管理」と「現場の復旧」をそれぞれ担当しているそうです。早速、素朴な質問からお話を伺いました。

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実は停電は「安全のために起こるもの」

――そもそも、停電はなぜ起こるのでしょうか?

吉田さん(制御グループ)

送配電システムを管理する制御グループに所属する、吉田さん

吉田さん:ほとんどの停電は、電気を送るシステムがみなさんの安全を確保するために起こしています

まず、電線など電気を送る設備に損傷が生じると、“変電所”というみなさんの街に電気を送り出している場所で、異常を検知します。

そして異常を検知すると、その変電所から電気が送られている地域への送電を自動で停止する仕組みになっています。

〈くらしの電気の豆知識〉
変電所と停電の関係とは

発電所から送られてくる電気は、非常に高圧なため家庭でそのまま使うことができません。そのため、私たちの家庭に送られてくるまでにいくつかの「変電所」という施設や、電柱に設置されている「変圧器」を通って、低圧の電気に調整されます。

変電所と停電の関係(通常時)

変電所には、電圧を調整するほかにも電気を集めて街に分配することや、送電のオンオフを切り替える役割があります。

停電は、この変電所で異常を検知し、送電を止めているために起こります。

変電所と停電の関係(停電発生時)

 

――言われてみれば、電線などに損傷があった際、電気を流しっぱなしにしていたら二次災害に繋がってしまいますね…。

吉田さん:はい。少しの異常でもそのまま電気を流すことは危険です。たとえば、損傷した電線から電気が漏れてしまっていた場合、感電したり、火災の原因になってしまったりしますよね。不便をおかけするのですが、停電はみなさんの安全を守るシステムなんです。

停電後の初期対応は、システムで自動的に

吉田さん(制御グループ)

 

停電を自動で復旧させるシステム

――では、その自動で止まった電気はどのように再度流し始めるのでしょうか? すぐに復旧する停電と、長くかかる停電があるような気がするのですが。

吉田さん:停電にもいくつかレベルがあり、軽微なものだとシステム側で自動的に対処を行いすぐに復旧まで完了します。一方で、実際に現場への出動が必要になる場合もありますね。

――すぐに復旧する停電の場合、どのような対応を行っているのですか?

吉田さん変電所で異常を検知して送電を停止した場合、同じ変電所から電気が送られている地域は一時的にすべて停電します。けれど、1つの変電所から送られている地域はとても広いので、同じ地域内でも、問題のない場所から停電状態を順次復旧していきます。

〈くらしの電気の豆知識〉
街の配電の構造

停電復旧:街の配電の構造

1つの変電所から送られる範囲はとても広いのでエリアが分けられています。エリアの境目には電気の流れを入・切できる開閉器と呼ばれる“スイッチ”が設置されています。

 

吉田さん:地域はいくつかのエリアに分けられており、たとえば、この図のように3エリアで損傷があり停電が起きた場合、一時的に1〜4エリアまですべてのエリアで停電が起こります。

3エリアで事故が発生

 

変電所が異常を検知し送電を停止

吉田さん:そして、約1分後に再度電気を流すことがシステムで自動化されています。この際に何も問題がないことが確認できれば、停電が復旧します。停電してからおよそ3~5分以内には電気が点くイメージですね。

――完全自動化とはすごいですね!

吉田さん:1989年あたりまでは、すべて人の手により復旧作業をしていたようですね。ただ、1990~1991年頃からはある程度自動化されたシステムが導入され、停電してから復旧までの時間がとても短くなったんです。

軽微な停電の原因は、天候不良や木々などの接触

――“異常が検知されて、1分後には問題がない”というと、異常の原因としてはどんなものがあるのでしょうか?

能登さん(配電保守グループ)

現場での復旧作業を担当している、配電保守グループの能登さん。

能登さん:原因としては雷や雪などの天候のほか、小動物の接触、あとは風に揺れた木々の接触など、一過性のものが当てはまります。また、珍しいところだとハンガーなどの金属でつくられたカラスの巣が原因になっていることもありますね。

電柱の上に作られたカラスの巣

電柱の上に作られたカラスの巣

――雷の際に経験した、体感数十秒の停電の謎が解けました。木々やカラスの巣のような小さなものも原因になるのは、意外ですね。

吉田さん:雷が近くに落ちた場合には、一時的に大きな電流が電線に流れ込むことで異常が検知されます。一方で、小動物や木々、カラスの巣については、一時的に電線に障害物が当たることが原因で異常が検知されます。

 

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自動復旧しない場合、システム&現場が対応

まずは、システムで停電箇所を特定

――テスト送電の際に、もう一度異常があった場合にはどうなるのでしょうか?

吉田さん:再度異常が検知された場合には、まずはシステムで原因エリアの特定を行います。これはエリアの境目に設置された“スイッチ”を、時間をあけて入れることで見つけられます。

1エリアに電気を送った数秒後に2エリアとの間のスイッチを入れる、そのさらに数秒後に3エリアとの間のスイッチを入れる。エリアごとに時間差をつけることで、再度異常が検知されたタイミングから原因のエリアを特定できる

吉田さん:さらに原因エリアの特定ができた後は、原因エリア以外の復旧も自動で行います。この図でいうと、原因までのエリア(1〜2エリア)には通常通り送電し、原因エリアの先のエリア(4エリア)には反対側にある別の変電所から電気を送ります。停電中のみ普段とは逆側から送電が行われる、ということになりますね。

ここまでの一連の流れまでを含めて、すべて“配電自動化システム”で機械が自動的に行うようになっています。

停電復旧:図

――より早く停電を復旧するために、こんなにすごい自動化システムが駆使されていたのですね。原因があったエリアはどのように復旧されるのでしょうか?

吉田さん:ここで能登さんのような現場の配電保守グループの出番です。緊急出動してもらって、より詳細な場所の特定と復旧作業を行います。ただ、緊急出動になると、復旧までに時間がかかる場合が多いです。先ほどお伝えした約3~5分という目安で停電が解消しない場合には、どこかで作業員が出動していますね。

――先ほどの停電の場合と、原因に違いはあるのでしょうか?

能登さん:一過性の軽微な原因ではないので、大規模なトラブルが原因であることもありますね。たとえば、台風や地震などの自然災害による電柱や電線の損傷、倒木で電線に引っかかってしまった場合などが当てはまります。

倒木が電線に引っかかっている様子

倒木が電線に引っかかっている様子

吉田さん:ちなみに、長時間停電が続いていても、それが「自分の家だけ」というような世帯単位で起きていることもあるんです。自宅や隣家のみといった数軒単位で起こる停電に関しては、システム側で検知ができないこともあるので、停電が長引く場合にはご連絡ください。

過酷な復旧現場。10kg超の装備で電柱を上り下り

――現場に出動するとのことですが、どのような装備で向かうのでしょうか?

能登さん:パトカーや消防車と同じく、サイレンがついた一般緊急自動車で現場に向かいます。出動状況によりますが、高所作業車も利用することがありますね。

緊急出動車と高所作業車

サイレンがついた緊急出動車。奥の2台は、バケットが備え付けられている高所作業車。

能登さん:現場では、直接電気が流れている線に触って仕事をするので、身を守る装備は必須です。とくに腕や上半身は重装備ですね。ゴムなどの絶縁素材でできていて、感電しないようとても厚い素材になっています。春夏秋冬、どんな天候のときもこの装備をつけないと命の危険につながるので、真夏などは本当に暑くて大変です。

高圧線作業の際の装備一式を装着した能登さん

高圧線作業の際の装備一式を装着した能登さん。

能登さん:あとは、傷ついた電線をつなぐための復旧材料や工具、そして障害物を撤去するための道具なども持っていきます。

高圧線の復旧作業の際に持ち出す装備一式

高圧線の復旧作業の際に持ち出す装備一式

――身につける装備だけで、いかに危険と隣合わせの仕事なのかよくわかりました。かなり重装備そうですが、全部で何キロくらいあるのでしょうか?

能登さん:そうですね。全部で10kgくらいでしょうか。

――10kg! 相当な重さですね。これを装備した状態で、電柱に登って作業するのでしょうか?

能登さん:車が入れる場所であれば、高所作業車のバケットに乗って作業するので電柱に登る必要はないのですが…。災害で道路が崩れていたりする場所には車が入れないので、原因があるだろと想定される範囲の電柱に、一本一本昇って作業することもあります。

現場に到着したら、まずは地道に原因特定

――重い装備をつけての上り下り……相当大変そうですね。具体的にはどのように作業を進めるのでしょうか?

能登さん:現場では、原因箇所を特定することが最初にする作業であり、一番大変な作業です。具体的には課電装置、スイッチ、コードレスアンテナという3つの装置を使用します。

まずは、課電装置で大まかな範囲を特定し、次に電柱に取り付けられたスイッチを操作しながら中範囲を特定。さらに、コードレスアンテナでより狭い範囲を特定していきます。

〈図〉装置を使って停電の原因箇所を特定するまでの流れ

装置を使って停電の原因箇所を特定するまでの流

吉田さん:私たちが担当している地域は、とても広いです。その中の1エリアのみが停電しても、その広さは数百mほど。その広い範囲の中で、原因の場所を少人数でより早く見つけるのは、かなり地道な作業です。

高所作業車に搭載されている課電装置

高所作業車に搭載されている課電装置

能登さん:より狭い範囲まで特定するコードレスアンテナという棒状の道具は、電柱の一番上を通っている高圧配電線に直接掛けて作業をします。詳細な原因箇所を特定するために、何箇所も掛けて・確認して…を繰り返すので、この工程はかなり大変、かつ危険な作業です。

高圧配電線は、電柱の最上部に位置している。エリアの境目にある電柱には、中範囲まで特定するスイッチも設置されている

コードレスアンテナを持つ能登さん

コードレスアンテナを持つ能登さん

能登さん:原因箇所の特定ができたら、あとは損傷箇所を修復、障害物を撤去といった復旧作業を行います。電線が損傷している場合などは、絶縁テープで補修したり、倒木の場合は除去します。

 

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復旧作業も、システムと現場の連携が重要に

――想像していたよりも、はるかに地道な手作業なのですね。

能登さん(配電保守グループ)

能登さん:そうですね。ただ、これらの装置を使う前に地域特性を考えて原因箇所を特定することもあります。日頃の通常業務の際に、たとえば「この近くに木が生い茂っているところがある」などの事前情報を入手していれば、「もしかして木が倒れているかもしれない」など予測を立てて先にその場所を見に行くこともあります。

――日頃のフィールドワークが迅速な復旧につながっているのですね。

能登さん:その通りです。逆にそういった要因がなさそうな場合、光や音などでわかることもあります。そうした場合には、お客さまから通報をいただくこともありますね。あと、吉田さんのような制御チームからも情報をもらいながら動きます。

――お互いにどのような情報共有をされているのでしょうか?

能登さん:現場から制御チームには、できるだけその場の状況がわかるような情報を逐一伝えています。原因につながるような現象はないか、災害時であれば道路の通行可能状況なども細かく伝えています。たとえば、報告の内容に写真や動画を追加して一目で確認できるようにしています。

吉田さん:制御チームでは、現場からもらった情報をもとに、足りない装置の手配や、人員の増員なども行っています。陥没してしまった道路がある場合には、迂回ルートを伝えたりなどのサポートも行います。

能登さん(高崎地域配電保守グループ)、吉田さん(制御グループ)

能登さん:現場では見えないけれど、システム側からは見えるもの、というのが結構あるんです。たとえば、電柱の設置場所です。自然災害下で出動する場合、現場では2〜3本先の電柱でさえ状況がわからないことがあるので、そういった情報を制御チームから教えてもらいながら作業をしています。

――お互いがサポートし合いながら、スムーズな復旧が行われるのですね。今まで経験した中で、すごく大変だったのはどのような現場だったのでしょうか?

能登さん:やはり台風や雪など天気が悪い中で、先ほど紹介したような通気性のない装備をつけての作業になるので、暑い、寒いなどの大変さは日頃からあります。ほかには、24時間365日、電気の事故というのはいつ起きるかわからないものなので、真夜中の暗いところでの作業なども大変ですね。

大きな災害時の復旧作業は特に記憶に残っています。近年では、2014年にあった関東地方の大雪や、2019年にあった千葉県の台風による大規模停電などです。

このような広範囲での停電が起きた場合、その原因は複数箇所に及びます。県をまたいでの応援出動もあるのですが、それでも人手が足りなくなってしまい、現実的にはほとんど休む時間がとれない状態でどんどん復旧作業を続けました。

千葉県へは応援で向かったのですが、地理が不案内で不安だったことや休養を取れる場所があまりなかったことも大変でした。一晩以上ずっと復旧作業することもありましたね。

千葉停電の際の現場の様子

千葉停電の際の現場の様子

千葉停電の際の復旧の様子

千葉停電の際の復旧の様子

――環境が過酷なことがよく想像できました。作業する電柱の高さも、改めて見るとビルの5階くらいのものもありますね。

能登さん:そうですね。広範囲の停電の際に触れることになる高圧配電線は電柱の一番上を通っている線なので、復旧の際にはそれに届くところまで登る必要があります。高所作業車のバケットの最高の高さが15m。作業のときは悪天候なことが多いので、雨風に晒されながら高所での作業となると、揺れも相当あります。

バケットに乗る能登さん

13mまで伸びたバケットに乗る能登さん。(筆者も体験させていただいたのですが、13mの高さに立ってみると、思わず足がすくみました……。)

――私たちの当たり前の暮らしを守るために、停電を元通りに復旧してくれている裏側では、能登さんたちのような方の相当な努力があったのですね。

能登さん:大変ではありますが、やりがいのある仕事だと思っています。送配電事業を行っている以上、電気が止まってしまっている間は本当に心苦しいのですが、復旧が完了した際には、みなさまから直接感謝の言葉をいただくことが多いんです。小さいお子さんが飲み物を持ってきてくれることもあったりして、そういう人の温かみに触れると本当にやってよかったと思いますね。

装備をチェックする能登さん

装備を入念にチェックする能登さん

停電対策として、私たちも協力できることがある

――最後に、私たちにも協力できることがあればぜひ教えてください!

能登さん:私たちも普段から定期的に電気の設備を点検したり、常に街の様子をチェックするようにして、停電が起きないように予防をしていますが、どうしてもすべてを見られるわけではありません。「木が電線に倒れかかっているので不安」「洗濯物が電線に引っかかってしまった」など、些細なことでも何か身近に異変を感じた際には、まずお電話でご連絡をいただければと思います。

吉田さん:お電話をいただいた際に、現場の写真提供をお願いすることもあります。写真をお送りいただけますと、状況の把握がスムーズになり出動も素早くできますので、ぜひご協力いただけるとうれしいです。

――ありがとうございます。私たちからの情報提供も、停電予防につながるということですね。

吉田さん(制御グループ)

吉田さん:はい。お客さまからの通報はとても大事な情報ですので、遠慮なくご連絡いただければと思います。また、東京電力パワーグリッドのホームページや、TEPCOの公式アプリでは、リアルタイムの停電情報を公開しています。ほかにも災害時マップや地震情報、雨雲・雷雲情報も提供しているので、ぜひご活用ください。

ホームページで公開している停電情報

東京電力パワーグリッドのホームページで公開している停電情報

東京電力パワーグリッド「停電情報」
https://teideninfo.tepco.co.jp/

 

TEPCO公式スマートフォンアプリ「TEPCO速報」

TEPCO公式スマートフォンアプリ「TEPCO速報」

――便利な情報提供も行っているのですね。今回のインタビューを通して、私たちの“当たり前の暮らし”を色々な方面から支えてくださっているのを実感しました。今日は本当にありがとうございました!

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部