英国車はどんな進化を遂げる? 伝統と革新が交錯するイギリスのEV事情

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イギリス発祥の自動車ブランドといえば「ロールス・ロイス」「ベントレー」「ジャガー」「ランドローバー」「アストンマーティン」、そしてブリテイッシュスポーツカーの老舗「ロータス」、コンパクトカーのアイコン「MINI」と、バラエティ豊かです。
いずれも名門ばかりですが、これら自動車ブランドにも、世界的なEVの波が押し寄せています。そこでイギリス政府によるEVシフトの方針やEU離脱、コロナ禍を巡る情勢を踏まえ、イギリスにおける最新EVをレポートします。

住宅のEV充電器設置に補助金も。ボリス・ジョンソン首相のEVシフト政策とは

2016年、イギリスは国民投票により、欧州連合(EU)離脱を決めました。いわゆる“ブレグジット”です。ジョンソン首相主導のもと、コロナ禍での最初のロックダウンの2ヶ月ほど前となる2020年1月31日にブレグジットは実現しましたが、その影響で国外の労働力に頼っていた輸送ドライバーも激減しました。

ロックダウンはその夏に一旦解除されたものの、9月にはガソリン供給が追いつかず、ガソリンスタンドが長蛇の列となったほか、スーパーの商品棚が空になるなど、2022年2月現在に至っても物流の混乱は尾を引いています。

このような事態に加え、イギリス政府は2030年にガソリン車およびディーゼル車の新車販売を禁止すると発表しており、2040年としていた当初目標を10年も前倒ししました。また、2035年にはプラグインハイブリッド車(PHEV)およびハイブリッド車(HV)の新車販売を禁止するなど、自動車の電動化が加速度的に進んでいます。

EV の普及と輸送の脱炭素化を加速するには、充電インフラの整備も欠かせません。そこで2021年11月22日、ジョンソン首相は英国産業連盟(CBI)の会議演説で注目の方針を発表しました。それは、「2022年から新築する住宅や建築物に電気自動車用の充電設備設置を義務化する」というもの。これが施行されると毎年最大で14万5,000台ものEV充電器が整備される見込みとなります。

現在、イギリスでは家庭や職場のEV充電設備について、1カ所当たり最大350ポンド(約5万5,000円:1ポンド=155円換算。以下同様)の補助金が交付されています。また、EV購入の補助金としては3万2,000ポンド(約496万円)以下のBEVに最大1,500ポンド(約23万円)を補助。購入補助金の政策は、2023年までを予定しています。

ちなみに、2021年11月の新車販売台数のうち18.8%となる約2万2,000台がBEVで、これは前年同月に登録された約1万台の2倍以上の数字となりました。2021年英国のBEVベストセラーはテスラ・モデル3で3万4783台。2位がキア・e-ニロの1万2271台、3位がフォルクスワーゲン・ID.3で1万1032台。イギリスでもテスラの強さがうかがえます。

 

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ロンドンバスもロンドンタクシーもEV化

ロンドンバスもEV化

 

さて、イギリスの首都、ロンドンのアイコンといえばロンドンバスにロンドンタクシー。これら公共交通においても、着々とEVシフトが進んでいます。

2021年の5月には、中国の電池・自動車メーカー BYDと、イギリスの大手バス・車体製造メーカー アレキサンダー・デニス社(ADL)は、累計500台目となるEVバスをロンドン交通局の運行会社に納品。今後もさらに500台の受注が決定していると発表しました。

このEVバスはイギリス国内で製造され、ディーゼル車と入れ替わることで、市内の環境改善や温室効果ガス削減に一役買っているということです。写真のダブルデッカーロンドンバスはBYD ADL Enviro 400EVという車両。赤いボディはEVになってもそのまま、ロンドンバスそのものですね。

ロンドンタクシーもEV化

 

また丸いライトが特徴的なロンドンタクシーも、EV化が進んでいます。写真のクルマはLEVC社のTX。LEVCは中国の浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)傘下で、イングランド北部・コベントリーに本社と専用のEV製造工場をオープン。2018年より販売が開始され、ロンドンタクシーとして街中を走り始めました。

このTXはレンジエクステンダー付きのEVで、バッテリー容量31kWh、航続距離はEVモードでの市街地走行だと126.6km。レンジエクステンダーモードで同じく市街地走行だと510.1km。同じモデルは「LEVC Japan」を通じて日本でも購入可能で、価格は1120万円です。

●MINI
英国ブランドも続々とEV化
MINIは2025年モデルが最後のガソリン車に

MINI

 

イギリスを想起させるクルマのブランドのひとつと言えばやはりMINIではないでしょうか。BMW傘下の「MINI」は、2030年代初頭までにEV専門ブランドとなることを発表。内燃エンジンを搭載した最後のモデルは、2025年に発表される予定となっています。

MINIのBEVモデル、クーパーSE

 

写真は現在ヨーロッパで発売されているMINIのBEVモデル、クーパーSE。最高出力184PS、バッテリー容量は32.6kWhで、航続距離は最大234km。残念ながら日本には正規輸入されていません。

 

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●LOTUS
ロータスのEVスーパーカー「エヴァイヤ」

LOTUS 「エヴァイヤ」

 

ブリティッシュスポーツブランドの老舗、ロータスは2021年7月7日に最後のガソリンエンジンモデルであるエミーラを発表。そしてその後の新たな幕開けを飾るのがEVスーパーカーのエヴァイヤで、最高出力は何と2,000PSです。

エヴァイヤ

 

このエヴァイヤは、2017年にロータスが中国の吉利汽車(ジーリー)傘下に入って以来の完全新型車。「Type130」という開発コードナンバーにちなんで130台限定での販売となり、価格は200万ポンド(約3.1億円)とアナウンスされています。また、生産はロータスの本拠地であるイングランド東部・ヘセルの工場で行われています。

 ●JAGUAR
2025年からジャガーはEV専門のブランドに!

ジャガー

 

英国ラグジュアリーブランドのジャガーは2021年の2月、2025年をもってEV専門のブランドになると発表しました。ジャガー・ランドローバーは現在、インドのタタ・モーターズが親会社となっており、ジャガーだけでなくランドローバーも、電動化が加速しています。

ジャガー初のEVであるI-PACEは、他のヨーロッパの自動車メーカーに先駆けた2018年の発売。その先進性とスタイリング、独創性により世界で60以上ものカー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。モーターを前後に配置してバッテリーを車体下部に搭載したことで、キャビンを広くとった美しいプロポーションを実現。最高出力400PS、バッテリー容量90kWh、航続距離は438km。日本では1,005万円から購入可能となっています。

●LUNAZ
古いロールス・ロイスなどをEVに英国流コンバート

LUNAZ

 

美しいフォルムを持つブリティッシュヴィンテージカー。1961年式のロールス・ロイス ファントムVを皮切りに、アストンマーティンDB6、ベントレー フライングスパーといったクラシックカーを次々とEVにコンバートすることで注目されている企業が、LUNAZです。

同社の本拠地はシルバーストーン。「クラシックカーの所有という価値に新しい伝統を確立する」というビジョンに基づいて設立されました。エアコン、パワステはもちろん、Wi-Fi、オーディオ、ナビなどの最新装備もオーダーメイドで追加することが可能。

LUNAZ

 

ファントムの場合はバッテリー容量が120kWhで航続距離は約480km。価格は50万ポンド(約7,800万円)からという設定です。

 

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●AURA
政府がアシストするコンセプトロードスター「オーラ」

AURA

 

名車ロータス・エランなど、小型2人乗りのロードスターはイギリス郊外の峠を楽しく走るのに最適なイギリス伝統のスタイル。オーラは、そんなロードスターをEVで実現したコンセプトモデルです。イギリス政府のゼロエミッションビークルオフィス(OZEV)が支援し、複数企業のコンソーシアムという形で実現したこのスポーツEVは、44kWhのバッテリーを2つ搭載、後輪駆動で航続距離は約640kmです。

AURA

 

EV時代になっても、英国ブランドの「らしさ」は残る

古くから続く英国車も、続々とEV化を進めています。一方で、コンセプトカーとはいえ、フロントウインドウもない抜群の開放感で、新しいEV時代のブリティッシュロードスターの姿が垣間見えるオーラのようなブランドや、古いものを長く愛する英国人の気質に、LUNAZが提案するコンバートEVの文化も浸透しそうです。

伝統的な英国ブランドたちは、今では大半が外国資本となりましたが、生産はイギリスの工場で行われるなど、EVになったとしてもイギリスらしさはこの先も残っていくことでしょう。

ほかにも、ロールス・ロイス、ベントレーなどもEVのコンセプトカーを発表しています。英国ブランドは、激動の自動車業界で今なお大きな存在感を発揮しているといえるでしょう。古式ゆかしき伝統的なブランドたちが、EVシフトの先の未来でどのような立ち回りを見せるのか、注目したいと思います。

 

この記事の著者
陰山 惣一
陰山 惣一

エンタテインメントコンテンツ企画・製作会社「カルチュア・エンタテインメント株式会社」の「遊び」メディア部門「ネコパブリッシング事業部」副部長。「Daytona」「世田谷ベース」「VINTAGE LIFE」など様々なライフスタイル誌の編集長を経て、電気自動車専門誌「Eマガジン」を創刊。1966年式のニッサン・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いし、その日常をYouTubeでレポートしている。