販売数は日本の8倍!フランスのEV戦略と、魅力的な個性派EV

フランストレンド

2022年4月24日に行われた仏大統領選の決選投票で、現職のエマニュエル・マクロン氏が再選されたことが話題のフランスですが、世界でも有数のEV先進国でもあるのです。2021年はEVの販売が前年比で46%も上昇するなど、EVシフトが進んでいます。

元々フランス政府は2018年に、国内のEVPHEVの普及台数を2022年までに5倍に増加するという目標を設定し、EVへの補助金や税優遇といった施策を推進してきました。

2020年5月には、コロナ禍による自動車の販売低迷を背景に、最大で補助金を6,000ユーロ(約81万円。1ユーロ=135円換算。以下同様)から7,000ユーロ(約95万円)に引き上げることを決定。2021年半ばには元の6,000ユーロ(約81万円)へと引き下げられたものの、当初計画していた2022年1月からの補助金削減を7月まで延長するなど、現在もEV購入に対する優遇政策は続いています。

興味深いのは、EV購入時に古いガソリン車やディーゼル車をスクラップ(廃車)する場合、上記のEV購入補助金に加えて最大5,000ユーロ(約68万円)のスクラップ補助金が交付されるということ。また新車以外にも、中古のEVを購入する場合にも、1,000ユーロ(約14万円)の補助金を出すなど、国をあげてEVシフトに取り組んでいる印象です。

 

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2021年に最も売れたのはフランス製のコンパクトEV

フランスEVトレンド

 

そんな努力もあり、2021年、フランスで売れたEVは16万2167台と、前年比で46%も上昇。商用EVは1万2085台とこちらも前年比で37%増と、どちらも急激に伸びています。ちなみに、日本で2021年に販売されたEV(軽自動車除く)は2万1139台。フランスでは日本の約8倍もEVが売れています。

気になる2021年のEVベストセラーランキングでは、1位がテスラ・モデル3で2万4911台。2位はルノー・ZOEで2万3573台となりますが、ZOEは商用登録が別途2,127台あったため、フランス国内の販売台数としてはテスラ・モデル3を抑え、なんと1位のベストセラーとなりました。3位はプジョー・e-208で1万7859台、商用登録が1,090台と、こちらもフランス製小型EVが大健闘しています。

2021年、世界的にEVの大ベストセラーとなったテスラ・モデル3の売り上げを、商用登録含めて超えたフランス製EV。元来、ガソリン車でも街乗りに適したコンパクトハッチバックが売れているフランスですが、ガソリン車の2021年ベストセラーは、プジョー・208の8万8013台で、2位はルノー・クリオ(日本名ルーテシア)の8万5247台とこちらもフランス製コンパクトが盤石です。

フランス製EVを増やすには希少資源の確保がカギ

フランスEVトレンド:エマニュエル・マクロン大統領が自動運転デモンストレーターを試運転している様子

2016年、経済産業・デジタル大臣時代の現、エマニュエル・マクロン大統領。当時、パリ近郊でルノー・エスパス自動運転デモンストレーターを試運転している様子

 

EVシフトの成否の鍵は政府の手腕にかかっているといえますが、マクロン大統領は2021年10月12日に「France 2030」と題した投資計画を発表。その中には、2030年までに200万台のEVとハイブリッド車を生産するという目標が掲げられています。

この投資計画は同大統領自らプレゼンを行いましたが、計画を成功させるための条件として、金属、レアメタル等、資源確保の必要性に言及していました。

マクロン大統領はかねてから「欧州の主権」回復を唱え、欧州が必要な資源を自前で確保することの大切さを強調してきました。フランスのみならず、欧州は半導体やコバルトなど希少資源の確保に奔走していますが、そんな中、ロシアによるウクライナ侵攻で、資源価格はさらに高騰を続けています。EVの電池に必要なリチウムもレアメタルと呼ばれる希少資源ですが、欧州連合(EU)はリチウムの約86%を輸入に頼っています。

こうした資源の確保のため、EUは2月に半導体の生産能力向上に、2030年までに430億ユーロ(約5兆8000億円)を投資すると決定しました。

マクロン大統領も2019年2月「フランスの大統領として、わが国のEV電池が100%、アジア製という現状は受け入れがたい」と述べ、EV生産に伴う電池産業の発展を促し、今後5年間に7億ユーロ(約945億円)を投じると発表しました。

コロナショック、ウクライナ危機という荒波の中、フランスは更なるEV開発を進めていかなくてはならず、マクロン大統領の手腕にも期待されているといえるでしょう。

 

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古いクルマのEV化を推進する一方、魅力的な新型EVも続々

さて、このフランスEV政策において、さらに興味深い事例を一つ。2020年4月3日の官報で「エンジン自動車を電気モーター自動車に改造する条件に関する2020年3月13日の省令」が公布されています。いわゆるガソリン車などをEVに改造するコンバートEVに対する省令で、フランスではこうしたコンバートEV事業を行う会社も存在しています。

つまり、シトロエンの名車、2CVやアッシュトラックなどがEVになって街を走るということ。古いものを大切にする文化が根強いフランスならではの感じがしてしまいますね。一方で、新たなEVも続々と誕生しています。

個性的でおしゃれなフランス製EV、5選

●フランスのベストセラー、コンパクトEV
ルノー・ZOE

ルノー・ZOE

 

2012年にEV専用モデルとしてデビューしたクルマがルノー・ZOEです。欧州のBセグメントにあたる5ドアのコンパクトハッチバックEVで、フランスのみならず、ヨーロッパでよく見るEVといえば、このZOEというほど長年ベストセラーとなっています。

バッテリー容量は52kWhで航続距離は約390km、最大出力は100kW(136馬力)、最大50kWの急速充電に対応し、30分の充電で最大145kmの走行を可能にしています。Bモードという回生ブレーキを利かせたモードにすることで、ワンペダルで走行可能。室内では10インチのドライバーディスプレイと、7~9.3インチの中央タッチスクリーンを採用したほか、ルノーのコネクテッドサービスにも対応。価格は3万495ユーロ(約412万円)となりますが、日本では残念ながら販売しておりません。

●電動化戦略で生まれた新世代EV
プジョー・e-208、e-2008

プジョー・e-208、e-2008

プジョーが進める電動化戦略「Power of Choice」。これは、同じボディながら消費者の好みによりパワートレイン(ガソリン・ディーゼル・EV・PHEV)を選べるというもの。この戦略のもと、2020年に日本へも導入が開始された新世代EVモデルが、コンパクトハッチバックのe-208とSUVのe-2008です。1972年登場の104から続く、プジョー伝統のコンパクトハッチバックの流れを受け継ぐe-208は、新開発のEV専用モジュラープラットフォームe-CMP(エレクトリック・コモン・モジュラー・プラットフォーム)を採用。最高出力100kW(136馬力)、最大トルク260Nmを誇るモーターと50kWhのリチウムイオン電池を搭載しています。

 

 

気になる航続距離はe-208が395km、e-2008は380kmとそれぞれ2022年モデルで若干伸びており、日本でも購入可能です。価格はe-208が425万5000円〜464万6000円(税込)で、e-2008は467万9000円~509万8000円(税込)です。

●14歳から免許不要で乗れる、超小型EV
シトロエン・アミ

シトロエン・アミ

 

シトロエンのブランド誕生から101年目となる2020年に、新しい時代のモビリティとして発表されたのが超小型の2名乗りシティコミューターEV、アミです。ボディサイズは、全長2410mm、全幅1390mm、車両重量は485kgという超小型サイズで、モーターの最大出力は8.2馬力、最高速度は45km/h。こうした超小型車は、フランスでは14歳から運転可能。運転免許とは別に、交通安全検定に合格することで交付される交通安全証明書(AM免許)を携帯していればOKなのだとか。

バッテリー容量は5.5kWh、航続距離は最大で70km、220Vの普通充電器では約3時間で満充電となるとのこと。価格は6,000ユーロ(約81万円)からですが、月額19.99ユーロ(約2700円)からの長期レンタルや、0.26ユーロ(約35円)/分のカーシェアサービスもスタート。残念ながら日本での販売はありません。

 

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●日本でも人気のカングーもEVに!
ルノー・カングーバン・E-TECHエレクトリック

ルノー・カングーバン・E-TECHエレクトリック

 

1997年に発売された初代カングーは、世界累計販売台数が400万台以上を数え、日本でもキャンプやアウトドアを楽しむ方に人気のフランス製ミニバンです。2021年11月には、商用仕様のEV版となる、カングーバン・E-TECHエレクトリックが発表されました。バッテリー容量は45kWhでモーターは最大出力122馬力。航続距離は最大で300kmというスペックで、バッテリーはフロア下に搭載され、荷室を最大限に利用可能とのこと。回生ブレーキモードは3種類、ドライブモードは6種類と、ドライバーの好みに合わせて運転を楽しむことができそうです。

ルノー・カングーバン・E-TECHエレクトリック

 

また、このカングーは北フランスのモブージュ工場で生産されますが、先日発表されカングーの兄弟車となるメルセデスベンツ・Tクラスも同工場で生産。EQTというEVモデルも追加されるとのこと。ルノー日産とダイムラーの提携が生産の背景にあり、こちらも興味深いところですね。

●フランスでも注目のコンバートEV
レトロフューチャー・エレクトリック・ビークルズ

レトロフューチャー・エレクトリック・ビークルズ

 

エンジンを搭載するクラシックカーをEVに改造するEVコンバージョンを「レトロフィット」と呼び、ビジネスとして展開している会社が「レトロフューチャー・エレクトリック・ビークルズ」です。

フランスでは、こうしたコンバートEVはベースカーを製造した自動車メーカーにしか認められていませんでしたが、2020年には省令で定められた条件に適合し、資格を付与された業者もEVコンバートを施すことが可能となりました。同社Webサイトではピニンファリーナデザインで知られるプジョー・504のEVデモカーを見ることができます。

 

【あわせてチェックしたい】
▶︎Retrofuture ELECTRIC VEHICLES

 

気になるスペックは82馬力のモーターへの換装と30kWhバッテリーの搭載容量で航続距離は165km。ポルシェ911、フィアット500などといったクラシックカーもEVにコンバートできるようで、今後のモデル展開が期待できます。

日本にも続々上陸。個性豊かでお求めやすい、フレンチEVの魅力

魅力的なコンパクトカーや商用車が日本でも人気のフランス車。その魅力はEVになっても変わることはなく、日本にも続々上陸しています。今回紹介したEVのほかにも、シトロエンË-C4 ELECTRICやマクロン大統領が乗ることでも知られる高級ブランドDSから、DS 3 クロスバック E-TENSEというEVも登場。

また嬉しいことに、フランスのEVは個性的なデザインをまといながら、輸入EVのなかでも比較的お求めやすい傾向があります。人とは違ったEVが欲しい……けどコストは抑えたい。なんて方には、ピッタリと言えるかもしれません。

 

この記事の著者
陰山 惣一
陰山 惣一

エンタテインメントコンテンツ企画・製作会社「カルチュア・エンタテインメント株式会社」の「遊び」メディア部門「ネコパブリッシング事業部」副部長。「Daytona」「世田谷ベース」「VINTAGE LIFE」など様々なライフスタイル誌の編集長を経て、電気自動車専門誌「Eマガジン」を創刊。1966年式のニッサン・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いし、その日常をYouTubeでレポートしている。