日本名「ヒュンダイ」あらため「ヒョンデ」が、約12年ぶりに日本再上陸。今や世界第5位の規模を誇るグローバルメーカーが満を持して発売したのが、IONIQ 5です。グローバル戦略車として斬新な印象と心地よい乗り味を与えられた注目の一台を、モータージャーナリスト・まるも亜希子さんが試乗します。
今やファッションやエンターテインメント、グルメに至るまで、「韓国発」のものが日本でも人気を博す時代になりました。そんな韓国から約12年ぶりに日本に再上陸した自動車メーカーが、ヒョンデです。かつて、日本の奥様たちを熱狂させたペ・ヨンジュンさんこと“ヨン様”をイメージキャラクターに起用した、ソナタというセダンを販売していた頃は、「ヒュンダイ」と呼ばれていましたが、再上陸にあたり世界統一呼称であるヒョンデへ改められました。
世界第5位の規模を誇る自動車メーカーのヒョンデが日本で販売するのは、EVのIONIQ 5(アイオニックファイブ)と、水素で走るFCVのNEXO(ネッソ)のみ。今回はIONIQ 5のトップグレード・Lounge AWDに試乗して、その魅力をチェックしてきました。
●Check1:エコノミカル
急速充電にも対応し、ガソリン代の場合よりかなりオトク
バッテリーに充電した電気をどのように使うか。速度を抑えてのんびり走るか、高速道路でビュンと速く走るか、はたまたエアコンをしっかり効かせて室内の快適性を重視するのか。そうした選択ややりくりの工夫によって、維持費の節約をすることもできるのがEVの魅力のひとつです。
IONIQ 5は街中や高速道路に設置されている急速充電器と、自宅にも設置できる200V/100Vの普通充電器で充電することができます。出力90kWの急速充電器を利用した場合は、約32分で10%の状態から80%までへの充電が可能です。
家庭で充電する場合の電気代は、1kWhあたり31円(全国家庭電気製品公正取引協議会の公表情報参照 ※1)と考えると、500km走行するのに約2000円※2となります。ガソリン価格が高騰している昨今では、かなりランニングコストが抑えられるのではないでしょうか。
※1:電力量料金のみの金額です。基本料金・燃料費調整額・再生可能エネルギー発電促進賦課金は加味していません。
※2: 2WD(RR)の場合で試算
さらに自宅に太陽光発電を取り入れたり、電気を賢く使う習慣をつけたりすることによって、家計だけでなく地球環境にもやさしく走れますね。
●Check2:プライス
バッテリー容量に応じたグレード展開。価格は実質約400万円から
IONIQ 5はボディサイズが全長4635mm、全幅1890mm、全高1645mmで、アウディ・e-tronやBMW・iXよりひと回り小さく、メルセデス・ベンツのEQCとほぼ同じくらいのサイズ感です。バッテリー容量が58.0kWhのベースグレードと、72.6kWhの3グレードの計4グレードが用意されており、価格は479万円〜589万円(税込)。バッテリー容量が80kWhのEQCで960万円台、76.6kWhのiXで1070万円台ということを考えると、ややバッテリー容量は小さくなりますがコストパフォーマンスの高さが魅力といえそうです。
また、EVはクリーンエネルギー車(CEV)として補助金が受けられます。交付条件を満たせば、IONIQ 5の場合、国の令和3年度補正・令和4年度補助金から85万円が交付されます。さらに自治体によっても補助金が交付される場合があり、最大100万円以上になることもあります。購入検討時には最新の補助金情報について確認してみてください。
そしてIONIQ 5はオンラインによる販売のほかにも、サブスクリプション型のカーリース「SOMPOで乗ーる」や、カーシェアリング「Anyca(エニカ)」でも取り扱われるなど、初期費用や月々の支払いを抑えながら乗ることも可能となっています。
●Check3:ユーティリティ
心地よいインテリア空間と、大容量の荷室
室内に入ると、ラウンジと呼びたくなるような心地よい空間が迎えてくれます。走るだけでなく、電源を使って停車中の時間も楽しむ「V2L」(Vehicle to Load)を提案しているIONIQ 5らしく、シートは前席・後席とも電動スライド機能付き。
とくに前席は、運転席にも助手席にもフットレストがあり、90度近くまで背もたれがリクライニングします。天井の大きなガラスルーフを開ければ、まるでサンデッキでくつろぐような素敵な時間に。後席もゆったりとした広いスペースがとれるので、休憩やリモートワーク、カフェスペースなどとして使い方が広がります。
車内V2L(外部給電器)、いわゆるアクセサリーコンセントは最大1.6kWの電力供給が可能で、パソコンからキャンプ用品など消費電力の高い電化製品を使うこともできるようになっています。
また、ラゲッジ容量が527Lと大きく、後席をフルフラットに倒すことができるので、アウトドアレジャーやゴルフ、ウインタースポーツはもちろん、車中泊にも適しています。
●Check4:エモーショナル
名車のDNAを引き継ぐ美しいデザインと、パワフルな走り
斬新なデザインが目を惹くIONIQ 5は、世界的に著名なイタリアのカーデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが1974年にデザインしたヒョンデのロングセラーモデル、「PONY」のDNAを受け継いでいます。
ライトを点灯するとその姿は一変。独創的な「パラメトリックピクセル」というデジタルな光が浮かび上がり、幻想的かつ未来的な美しさを放ち、見る人をときめかせてくれるのです。
そして、ステアリングから手を離さずに操作できる電動式シフトダイアルで、「D」をセレクトすると、スポーツカー並みのパワフルかつ俊敏な加速を披露。回生の強弱も選べ、思い通りの走りが楽しめます。
その上、先進の安全運転支援技術も惜しみなく搭載。
とくに、ウインカーを出して交差点を曲がろうとすると、目の前の液晶モニターにドアミラーでは確認できない死角を映し出す、「ブラインドスポットビューモニター」が現れ、歩行者や障害物がないことをしっかり確認して曲がれることに感心しました。もちろん、駐車の際に周囲の状況を俯瞰映像で確認できたり、ドライブレコーダーの機能も備わっていたりと、運転が苦手な人にもやさしいEVです。
●Check5:ハウスベネフィット
「V2H」にも対応し、日本仕様の使い勝手のよさを実現
IONIQ 5の充電口は、右リヤフェンダーに設置されています。フラップは電動で開き、急速充電用と普通充電用が並んでいるので、これから自宅に充電器を設置する場合には、位置を考慮するといいですね。現在、標準装備の車載充電ケーブルは100V用ですが、200V用もオプションで提供するとのこと。ラゲッジのフロアボードをめくったところに収納されています。
また、スマホに「Bluelink」アプリをダウンロードしておくと、充電時間の予約や出発前のエアコン稼働などを操作できて便利。ナビゲーションなどアップデートが必要な最新のソウトウェアがある時にも、ワイヤレスで自動アップデートが可能です。家にいながらにして、最新のIONIQ 5にアップデートできるのが嬉しいですね。
さらに、IONIQ 5はクルマの大容量バッテリーに蓄えられた電気を家庭で利用でき、万が一の災害時の備えにもなる「V2H」(Vehicle to Home)にも対応しています。
日本市場を研究し、日本人好みに仕立てた、使い勝手のいい一台
ヒョンデは日本に再上陸するにあたり、日本のユーザーがクルマを使う上でどんなポイントを重視しているか、かなり研究したそうです。今回、試乗してみてそれが本当だということを細かなところからも実感できました。例えばそれは、カーナビやディスプレイの鮮明さや、日本語での表示のわかりやすさ。
とくに日本のユーザーにとってカーナビの性能は重要なポイントだということで、正確性に定評のあるゼンリンの地図データを用いて開発しています。
乗り心地も欧州仕様車より柔らかいセッティングにしているといい、これも日本人好み。ラウンジのように心地よい室内空間とあいまって、欧州プレミアムブランドのEVと比べても引けを取らない、魅力的なEVに仕上がっていると感じました。最小回転半径は5.99mとやや大きめですが、航続距離は最大で618km(WLTCモード)と十分。あとは、ディーラーを持たず、販売からサポートまでオンラインで完結するという体制の信頼性や満足度にかかっているのではないでしょうか。そうしたヒョンデの世界観やサービスの拠点となる「Hyundaiカスタマーエクスペリエンスセンター横浜」は、2022年夏に開業予定となっています。
●家庭と暮らしのハマり度 総合評価
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「連載:モータージャーナリスト・まるも亜希子の私と暮らしにハマるクルマ」
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
この記事の監修者
まるも 亜希子
カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。