世界最大級のEV大国、中国。約300社がひしめく市場と、注目EVをレポート

中国EV

2021年、世界の電気自動車(EV)販売台数は前年比108%増の約650万台に達し、中国はそのうちの45%、293万9800台でトップ (CleanTechnica調べ)。すなわち中国は世界一のEV大国であるといっても過言ではないのです。

国家戦略としてEVを推進したことによる成果

これは習近平国家主席が脱炭素社会を実現し、EVを中心とした世界トップクラスの自動車産業を築くというビジョンを2002年頃から国家戦略として打ち出してきたことが理由のひとつといえます。

具体的には、EVを含む新エネルギー車(NEV)を購入した場合に、補助金を出すという施策を2009年から行っています。また、都市部の上海ではガソリン車のナンバーが取得しづらい一方、EVであれば即時に、しかも無料で手に入る特典を設けるなど、EVの普及を後押ししてきました。

こうした中国の政策に支えられ、テスラの成功に続けと夢見る若き起業家が、中国の巨大IT企業の出資を受けながら次々とEVベンチャーを設立。たとえばアリババ集団はシャオペンに、テンセントはNIOに、百度(バイドゥ)はWMモーターにといった具合に、新興EVベンチャー勢に大型出資をするIT企業の例が数多く見受けられるのです。

こうした中国のEVベンチャーは、世界進出も見据え、次々と米ニューヨーク証券取引所に上場。中国のIT企業であり世界最大級のゲーム会社として知られるテンセントが出資する「NIO」は2018年に米国で上場。シャオペン、リ・オートといったEVベンチャーも続々と上場を果たし、中国ベンチャーEV銘柄は、一時欧米の投資家たちの間で注目の的となりました。

こうしたEVベンチャーが増えたことにより、中国で新エネルギー車を生産する自動車メーカーはその数にして約300社に及ぶといわれています。

 

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2021年、中国のベストセラーEVは45万円!

とはいえ日本ではあまり馴染みのない中国製のEV。2021年、ヨーロッパ各国では、BEVのベストセラーはどの国もテスラ勢が占めていましたが、中国でのトップセラーは中国製のコンパクトEV、ウーリン・宏光(ホンガン)MINI EVとなっています。その数はなんと42万4138台。2位がテスラ・モデルYで16万9547台。3位がテスラ・モデル3で15万879台と中国でもテスラが人気ですが、MINI EVは、車両価格45万円という圧倒的な安さを売りとして販売台数でトップに立ちました。

かつて、中国製の車というと、どこかで見たことのあるコピー製品的な商品も多く見られましたが、近年の車はデザインもスタイリッシュで、性能もヨーロッパ車に迫るレベルに達しつつあります。中国のメーカーは、これまでヨーロッパや日本、アメリカの自動車メーカーと合弁会社を設立することで、車づくりのノウハウを吸収。デザイン面では海外のデザイナーをスカウトすることで、見た目と性能を両立させているのです。

ここでは、そんなベンチャーEVメーカーをメインに、最新EVを紹介していきましょう。

●中国版テスラと呼ばれ交換式のバッテリーでも話題
NIO(蔚来汽車) ET5

NIO(蔚来汽車) ET5

 

2014年に創業したEVベンチャーのNIOはEVの製造販売を目的とせず「ユーザーのための喜びを創造」することを思想としている新しい自動車会社です。NIOハウスというコミュニケーション施設を世界に配置し、顧客と交流し、ライフスタイルを発信。2018年に発売した同社の電動SUV「ES8」には世界初の対話式車載AIが搭載されるほか、3分で完了する完全自動の交換可能なバッテリーシステムを搭載することも話題となりました。バッテリー交換ステーションは700カ所を超えるなど、さらに増やしていく計画です。

バッテリー交換ステーション

バッテリー交換ステーション

 

そんなNIOの最新EVが小型セダンの「ET5」。そのスタイルを見てもわかるとおりテスラ・モデル3を意識したものといわれており、サイズもほぼ同じとなっています。

モーターは前後にレイアウトし最大出力は489馬力、バッテリー容量はなんと最大150kWhで、航続距離は1000kmにも到達するとのこと。また、ET5には最新の自動運転システムが搭載されるだけでなく、業界初となるAR、VRテクノロジーによるデジタルコックピット「PanoCinema」を採用しています。

NIOは2022年に欧州5カ国に輸出をスタートするほか、スマホ業界にも進出すると報道があったばかり。これからの動きが楽しみなメーカーです。

●45万円で買える格安EVは、2021年のEVベストセラー
ウーリン(五菱)・宏光(ホンガン) MINI EV

ウーリン(五菱)・宏光(ホンガン) MINI EV

 

2002年に創業した、GMとの中国合弁ブランド、ウーリン(WULING)の3ドア4人乗り小型EVが「宏光(ホンガン) MINI EV」です。2021年は42万4138台を販売し、中国のベストセラーEVとなりました。

MINI EVの価格は政府補助金を利用すると、グレードにより2.88万人民元(約45万円:発売開始時のレート換算。以下同様)と3.88万人民元(約60万円)という、いずれもリーズナブルな価格が魅力。

グレードによりバッテリー容量を選べ、9.3kWhモデルの航続距離は120km、13.9kWhモデルの航続距離は170km。最高速度は100km/hで、モーターの最大出力は20kW。荷室を折りたためば741Lものラゲッジスペースが広がります。

寸法は長さ2917mm、幅1493mmということで、日本の軽自動車の車幅1480mmと比べると、幅が少し大きい程度。全長は軽自動車では最大3400mmなのでかなり短くなっています。

中国でも都市部など近隣の移動だけであれば、この宏光 MINI EVのように100km走れば十分というユーザーも多いため、ベストセラーの要因と考えられますね。

 

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●バッテリーに強い、中国EV最大手の高級EVセダン
BYD 漢(ハン) EV

BYD 漢(ハン) EV

 

1995年、中国の深圳で電池メーカーとしてスタートしたBYDは、2003年に自動車業界に参入しました。2021年の車載バッテリー世界シェアでは、CATL、LG、パナソニックに次いで4位。また、EVとPHEVの新エネルギー車の販売台数では中国最大手で、2021年では59万3745台と、2020年比で2倍超えを達成した注目企業です。

中国では歴代王朝の「秦」「宋」「唐」という名前をつけた王朝シリーズが人気です。その最新EVが高級セダンの「漢EV」で、2021年には8万6860台を販売。注目は、自社開発したリン酸鉄リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」を採用し、その容量は76.9kWh、航続距離は最長で605kmを実現しています。

そのほか、テクノロジー面ではインテリジェント運転支援システム「DiPilot」を搭載したほか、世界で初めてファーウェイの車載用新システム「HiCar」と、5G技術を搭載しています。

2021年にドイツで開催されたiFデザインアワードを受賞するなど、デザイン面でも世界的な評価を受けています。

BYDのEVは日本にも進出

BYD

 

BYDの日本法人BYDジャパンは、日本で電動バスを供給していることで知られていますが、EVハッチバックの「e6」を自治体、法人向けにラインナップ。この車は中国やシンガポールでタクシーとして広く利用されており、航続距離522km、荷室容量589Lと実用性に優れていることがポイントとなっています。

 

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●LiDARを含む32のセンサーで完全自動運転を実現!?
WMモーター(威馬汽車)・M7

WMモーター(威馬汽車)・M7

 

2015年に創業したばかりながら、すでに4車種ものEVの製品化を果たした、中国のEVスタートアップ企業がWM(ウェルトマイスター)モーターです。

同社の注目は、SUVのW6。2021年の4月にリリースされ、中国初となる自動運転レベル4を実現しました。そして、2022年にデビューする中型電動4ドアクーペであるM7は、なんと自動運転レベルの最上位であるレベル5、すなわち、完全運転自動化を可能としています。

現在多くの自動運転車や先進運転支援システム(ADAS)に使われているのは、ミリ波レーダーやカメラが主流ですが、市街地など本格的な自動運転を実現するためには、LiDARと呼ばれるレーザー光を使ったセンサーが不可欠。しかし高価だけに現在では一部の高級車にしか採用されていません。M7では、3つのLiDARを含め合計32のセンサーを搭載。自動運転ソフトウェアメーカーであるNVIDIAのDrive Orinチップを使用することで、自動運転レベル5を実現するとしています。

航続距離は約700km、その他詳細はまだアナウンスされていませんが、今から登場が楽しみな一台といえそうです。

●すでにノルウェーにも進出した中国版テスラの新型SUV
シャオペン(小鵬汽車)・G9

シャオペン(小鵬汽車)・G9

 

2014年にアリババから出資を受けて誕生したEVメーカーであるシャオペンは、2020年8月にニューヨーク証券取引所でIPO(新規株式公開)を果たし、現在までに「G3」「P7」「P5」といった3車種のEVを販売しています。

同社は2021年8月には、P7をノルウェーでリリースするなど、海外進出を積極的に進めていることでも注目されています。そして2022年に発売を予定しているのが、SUVの「G9」です。このクルマは国際市場と中国市場の両方に向け、イチから構想を練り開発したモデルで、テスラ・モデルYの対抗馬といわれています。

先進性にも優れており、Xpilot 4.0と呼ばれる同社最新の先進運転支援システム(ADAS)にLiDARも搭載。充電インフラにも力を入れており、シャオペンのX-Powerスーパーチャージャーに対応。5分で最大200km分をチャージ可能とアナウンスしています。

価格はまだ発表されていませんが、世界的に人気が高まる電動SUV市場における台風の目となるかもしれません。

中国EVメーカーは今後、淘汰と再生が始まる!?

今回紹介したベンチャーEVメーカーである、NIOやシャオペンは、IT企業からの出資やIPOでの資金調達などで多額の資金集めに成功しています。しかしその裏ではすでに数々のEVブランドが新車を発表する前に倒産しているという事実もあります。

BMWや日産の幹部が立ち上げたEVブランド「バイトン(BYTON)」はまさにそんな企業で、スタイリッシュなボディと先進性が注目されていましたが、市販車を量産する前に経営破綻してしまいました。

バイトン(BYTON)

 

2021年9月には中国の肖亜慶工業情報相が、記者会見で「EVメーカーが多過ぎる」と指摘。経営統合が必要で、企業の合併・買収(M&A)が奨励されると述べました。また、中国政府によるEV補助金が2022年末で廃止されることも決定しており、今後はEVメーカーの淘汰が進むとも考えられます。

激動の中国EV市場は、生き馬の目を抜く勢力争いが繰り広げられているといえます。裏を返せば、市場が盛り上がっているということです。この先、どんなメーカーたちが覇権を争うのか。世界のEV市場に大きな影響を及ぼす中国の下剋上に、注目が集まります。

 

この記事の著者
陰山 惣一
陰山 惣一

エンタテインメントコンテンツ企画・製作会社「カルチュア・エンタテインメント株式会社」の「遊び」メディア部門「ネコパブリッシング事業部」副部長。「Daytona」「世田谷ベース」「VINTAGE LIFE」など様々なライフスタイル誌の編集長を経て、電気自動車専門誌「Eマガジン」を創刊。1966年式のニッサン・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いし、その日常をYouTubeでレポートしている。