世界最高峰の高級車ブランドであるベントレーが送り出した初のSUVベンテイガは、2016年6月に日本で発売。2018年3月にはジュネーブショーでプラグインハイブリッド車が世界初公開されました。今回紹介するのは、その最新版。フェイスリフトをはじめ数々の改良や変更が施された日本に上陸したばかりの一台を、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんが紹介します。
超高級車ブランドとして世界トップクラスの人気を誇るベントレーが送り出した、ラグジュアリーSUVの先駆者であるベンテイガ。そのプラグインハイブリッド版(PHEV)が新しく生まれ変わった。BEVではないがハイエンドクラスの電動車を象徴する1台として取り上げたい。
唯一無二のハイエンド電動化ラグジュアリーSUV
これほどまでにSUVの時代が来るとは誰も想像していなかったことだろう。SUVとは無縁だった高級車ブランドまでもが相次いで参入して賑わいを見せている。そんななか、ハイエンドクラスで先陣を切ったのがベントレーだ。ベンテイガはラグジュアリーSUVをもっとも象徴する1台に違いなく、高価ながら、北米や中国、中東などでの販売は非常に好調で、日本での売れ行きも当初の見込みをずっと上回っているという。
2020年の現行型になってからも、日本向けのパワートレインには伝統のW12とV8のガソリンモデルがすでにラインアップしていた。そしてこのほどプラグインハイブリッド(PHEV)が加わった。ベントレーの電動化戦略の第一歩となるPHEVを具現化し、新しくしたものだ。
思えば1919年に創業したベントレーが最初のモデルを発売したのは、2年後の1921年。19台が生産された「3リッター」だった。ちょうど100年後の2021年に世に現れたのが、同じ排気量のエンジンを積み、ベントレーが持続可能な未来に向け次なるステップとして送り出した、新型ベンテイガ ハイブリッドだ。
ラグジュアリーSUVの先駆者は、電動化においても先駆者となった。2000万円を超える価格帯をラグジュアリーカーと定義するならば、同車は世界で唯一のハイエンド電動ラグジュアリーSUVの最新版となる。
クラフトマンシップとテクノロジー
堂々たるサイズはもとより、印象的な楕円形のヘッドライトや光り輝くきめの細かいマトリックスグリルを備えたフロントフェイス、ボディサイドのシャープなパワーラインなどにより、どこから見てもひとめでベンテイガとわかる。よりスッキリとしてモダンに洗練された最新版の外観は、これまでにも増してスタイリッシュになり毅然とした印象を受ける。
丁寧に作り込まれたキャビンデザインもさすがというほかない。究極のクラフトマンシップと贅をつくした装備の数々が、この上ないラグジュアリー感を味わわせてくれる。左右対称イメージのインパネに配されたクロームパーツたちや、平面なのに立体的に見えるデコラティブパネルなど、目にするものすべてが印象深い。刺繍の施された新感覚のシートがもたらす夢見心地の着座感も素晴らしい。
ベントレーならではの世界観がある一方で、デジタルディスプレイがコクピットをモダンに演出している。ハイブリッドではタコメーターからEVドライブモードであることが表示されるメーターに置き換わり、水温計がバッテリー状態を示すメーターになるなど、いくつかの表示が専用となっている。インフォテイメント画面にはEVドライブモード含む3種類のEモードのエネルギーフローが表示される。
夜間走行時の歩行者や大型動物などとの衝突を避けるために装着されたナイトビジョンは、気をつけるべきと認識された存在を黄色く囲んで注意を喚起する。
直前にどのモードを選んでいても、始動時には必ずEVドライブモードからスタートする。たとえ操作し忘れていても、このクルマに乗って走り始めるときにはそのように使ってほしいというメッセージも込められているようだ。
スポーツモードに切り替えると、足まわりも含め全体的にスポーティな特性となるものの、けっして快適性を損なわないあたりの絶妙なさじ加減もさすがベントレーらしい。これほどの巨漢ながら車両重量の大きさをハンデと感じさせない走りを実現しているのもたいしたものだ。4輪のタイヤがしっかり路面を捉え、ずっと理想的に接地している感覚があるあたりも基本性能の高さを感じさせる。
エアサスにより走行時にはドライブモードに即して自動的に最適な車高に調整される。アウトドアユースで荒れた路面を走る際にはより大きなロードクリアランスを確保したり、逆に荷物の積み下ろしのために荷室側を低くしたりすることもできる。
新たな100年を迎える象徴として
走りの仕上がりも素晴らしい。極めてスムーズで速くて、至極なめらかで静かで、もう言うことはない。このクルマの場合、ハイブリッドになったことで得られる「電動感」が、W12モデルで実現している内燃エンジンにおける究極的なスムーズさを、モーターで再現したような印象も受けた。もちろんそれを、化石燃料を消費することなく、ゼロエミッションで実現しているところに大きな価値がある。
17.3kWhのリチウムイオン電池は200Vの普通充電に対応。急速充電には対応していないが、空の状態から約2時間45分で満充電となる。
ベントレー本社の調査によると、従来型のハイブリッドでは、実に90%以上のユーザーがほぼ毎日または週に数日クルマを運転していて、ほぼすべてがEVドライブモードすなわち電気だけで走るモードを利用していた。さらにその約半数はふだんの走行距離が30マイル(約48.2km)未満であることが判明した。
このクルマであれば、究極的な快適性とラグジュアリーさと洗練性を味わいながらも、日常ユースの大半を電気だけのゼロエミッションでまかなえる。エンジンを使うことなく電気だけで最大約50km(NEDCモード)、音もなく滑るように街中を走ることができる。さらにはエンジンを組み合わせると約858km(同)もの距離を走行することが可能となる。グランドツアラーとしての実力も兼ね備えており、都会を離れてロングドライブを楽しむこともできる。
既存のベンテイガオーナーの44%が電動車に興味があると答えているという。これからの100年に向けてキーになるのが電動化であることは間違いなく、ベントレーも2023年までに全シリーズにハイブリッド車を設定し、2025年までにBEVを発売、2030年までに全車をBEV化して、カーボンニュートラルを達成する目標を立てている。それに向けて、ベンテイガ ハイブリッドは新たな価値観をユーザーに提供できるゲームチェンジャーとなり、将来的にはベンテイガシリーズを代表する人気モデルとなることが期待されている。
〈スペック表〉
全長×全幅×全高 | 5125mm×2010mm ×1710mm |
ホイールベース | 2995mm |
車両重量 | 2648kg |
バッテリー容量 | 17.3kWh |
EV走行換算距離 | 50km(NEDCモード) |
エンジン | 3.0リッター V6ターボ |
エンジン最高出力 | 340ps/5300-6400rpm |
エンジン最大トルク | 450Nm/1340-5300rpm |
モーター最高出力 | 128ps |
モーター最大トルク | 350Nm |
システム最高出力 | 449ps |
システム最大トルク | 700Nm |
総航続距離 | 約858km |
トランスミッション | 8速オートマチック |
駆動方式 | 4WD |
最高速度 | 254km/h |
0-100km/h加速 | 5.5秒 |
税込車両価格 | 2269万円 |
〈ギャラリー〉
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
記事内容に一部誤りがありましたので、修正致しました(2022年2月4日)