世界のEVを牽引するアメリカ市場の舞台裏と、大迫力のEVたち

アメリカのEV

上昇し続ける関連銘柄の株価に、CEOイーロン・マスク氏のツイッター発言など、EV関連のニュースで何かと話題になることが多いのは、「テスラ」社、そして そのお膝元であるアメリカではないでしょうか。世界のEVトレンドを紹介する本シリーズの初回は、アメリカ。2003年に誕生したテスラを目標に、EVメーカーが次々と誕生しています。その背景にある事情を交えて、スタートアップ企業が手がける発売間近のEVや、アメリカの代表的な自動車メーカーが手がける最新EVを紹介します。

アメリカのEVスタートアップは、新規株式公開のラッシュが続く

世界的なEVシフトを追い風とし、アメリカにおけるテスラの株価はますます上昇トレンドにあります。2021年10月25日には、米レンタカー大手のハーツがテスラ車を10万台購入する計画を発表したことを受け、テスラの時価総額は1兆ドル(113兆円:1ドル=113円換算。以下同様)を突破。

これはトヨタの約4倍近い時価総額であり、1兆ドルの大台を超えているアップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アルファベット(グーグル親会社)などの仲間入りを果たしたことでも話題になりました。

こうしたテスラ株上昇の背景もあってか、アメリカのEV関連株価への注目はEVベンチャーにも波及。アマゾン・ドット・コムが出資しているリビアン・オートモーティブは、2021年11月10日に新規株式公開(IPO)を行い、一時の時価総額だけで見ればテスラ、トヨタに続く世界第3位の自動車メーカーとなりました。投機の対象として注目を集めている側面はあるとはいえ、EV市場は未来の産業を担うと期待されていることがうかがえます。

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バイデン大統領は「2030年までに新車販売の半数以上をEV・PHEV・FCVに」と明言

今年の8月にバイデン大統領が「2030年までに新車販売のうち50%以上をEV(PHEV含む)とFCV(燃料電池車)にする」という目標を大統領令として署名。

この目標を達成すれば、2030年に販売される新車からの温室効果ガスは、2020年比で60%以上削減できることになります。高まるSDGsへの期待も追い風になっているのです。バイデン政権が約1兆ドルのインフラ投資計画に、急速充電スタンドなどのEVインフラ整備費用として75億ドルを盛り込んでいることからも、アメリカのEVシフトが進んでいることがわかります。

EVにピックアップ車が多いのはアメリカならでは

そんなアメリカ国内では、テスラに続けとばかりに、ベンチャーのEVメーカーが続々誕生しています。今までにないEVの自動車メーカーを作ってしまおう! なんて発想自体、少し信じがたいかもしれません。

EVはガソリン車よりも部品点数が少なく済むケースが多いとはいえ、さまざまな認可を取得し、市場投入するのは大変難しいことです。どうにかコンセプトカーの発表に漕ぎ着けても、実際の販売になかなか辿り着けない事態も散見されます。ただ、100年ぶりの自動車革命と呼ばれているこの時代に、EVを自ら作りたいとする起業家が多数現れるのは、元祖クルマ大国ならではといえるかもしれません。

また、続々登場するアメリカ製のEVには、お国柄が色濃く出ています。それはフルサイズピックアップと呼ばれる大型のトラックや大型SUVが多いということ。元々アメリカでは、トラックに日常的に乗るユーザーが多く、2020年の自動車販売台数も1位から3位 が、すべてフルサイズピックアップです。

こうしたことから、スタートアップのEVメーカーもその市場を狙い、手始めに電動ピックアップトラックを製品化するという例が顕著です。

そこで、個性的なアメリカのEVの中から、話題のテスラ・サイバートラックや、満を持して登場した老舗フォードの最新電動SUVなどを5台ピックアップしてみました。見ているだけでも楽しく、いかにもアメリカらしいコンセプトのEVたちが並びます。

●TESLA
三角形の衝撃デザインに特殊ステンレスボディ
テスラ「サイバートラック」
https://www.tesla.com/ja_jp/cybertruck

テスラ「サイバートラック」

 

2019年11月にCEOであるイーロン・マスク氏自身のプレゼンで初公開されたテスラ初のピックアップトラック。「今までのトラックは、横から見るとどれも同じ形だが……」と氏が説明したあとに登場したのは、ステンレス製で真横から見ると三角形の衝撃デザインでした。

ボディに使用されている特殊ステンレス合金は、ロケットの素材としても使われており、防弾効果もあるとか。

テスラ「サイバートラック」

 

モーターはシングル、デュアル、トリプルの設定があり、最上位モデルのトリプルモーター、オールホイールドライブでは、0-96km/h加速が2.9秒という驚きの速さ。しかも航続距離は805kmを実現。

テスラ「サイバートラック」

 

気になる価格はシングルモーターで3万9,900ドル(約450万円)から。日本でもデポジット1万5,000円で予約可能で、2022年に生産開始予定とのことです。

●RIVIAN
週末のリクリエーションを楽しむEV
リビアン・オートモーティブ「R1T」「R1S」
https://rivian.com

リビアン・オートモーティブ「R1T」「R1S」

 

2009年にマサチューセッツ工科大学出身のR・J・スカリンジ氏が創業し、2011年の社名変更により誕生したのが「リビアン・オートモーティブ」です。

2018年のロサンゼルスモーターショーで発表されるや話題となった、電動ピックアップトラックR1Tと、SUVのR1Sをラインナップ。2021年9月14日にR1Tを初出荷したばかりです。

R1Tの航続距離は505km。最初に発売される「ローンチエディション」で価格は7万3,000ドル(約825万円)からとなっています。さらに日本で上陸が発表され、期待が高まります。

リビアンのブランド思想は、リクリエーションやアウトドアによって、家族や友人との週末をいかに楽しむかといったもの。ライフスタイルとしてのクルマの楽しみ方を研究し、実際のプロダクトに落とし込んでいます。

小売り大手・アマゾン向けの配送バンも開発しLAで走行テスト中

リビアン

 

リビアンでは、丸いライトが特徴のアマゾン向け配送用EVも開発し、現在ロサンゼルスではテスト走行が行われています。アマゾンはリビアン株の約20%を所有しており、温室効果ガス削減のため、配送用EVを10万台リビアンに発注しているのです。

アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏は、宇宙開発ベンチャーであるブルーオリジンを設立したことでも知られていますが、彼はそのテスト飛行の際、自ら宇宙飛行士をR1Tに乗せてリビアンの知名度を高めました。

●Lucid Motors
富裕層に向けたラグジュアリーセダン
ルーシッド・モーターズ「エア」
https://www.lucidmotors.com

ルーシッド・モーターズ「エア」

 

元テスラのチーフエンジニアであるピーター・ローリンソン氏がカリフォルニア州で創業した高級EVブランドが、「ルーシッド・モーターズ」です。

同社初のEVセダンがルーシッド・エア。最大の特徴は空気抵抗係数(CD値)が0.21という高スペックで、スムーズかつエレガントなデザインを採用しました。

ルーシッド・モーターズ「エア」

 

インテリアも曲線を多用したくつろげるデザインとなっていて、34インチもの湾曲した大型スクリーンが印象的なほか、天然木やレザーがふんだんに使われ、さながら飛行機のファーストクラスをイメージさせます。

ルーシッド

 

同じセダンタイプのEVとしてはテスラ・モデルSがライバルと目されており、価格は7万7,400ドル(約874万円)から。最上級モデルは最大出力1,111馬力で0-96km/h加速は2.5秒を実現。前身がバッテリーメーカーだったということもあり、航続距離は圧巻の836kmを実現しています。

また、同社はカリフォルニア州をメインとしたアメリカ各地に次々とショールーム、サービスセンターをオープン。ラグジュアリーなブランド戦略を前進させ、2021年10月30日には、最初の顧客に無事納車を終えました。2022年にはSUVの販売を予定しているルーシッド・モーターズは、今後の展開が楽しみなメーカーです。

●Ford
アメリカの老舗フォードの電動化戦略車
フォード「マスタング マッハE」
https://www.ford.com/suvs/mach-e/

フォード「マスタング マッハE」

 

1964年にデビューした「フォード」のスポーツカー、マスタングの名前を冠した電動SUVが、マスタング マッハEです。

すでにアメリカでは発売され、2021年7月からはイギリスでもオンライン受注がスタートしました。残念ながら2016年にフォードが撤退してしまった日本では、正規輸入の見込みはありませんが、エントリーモデルが4万2,895ドル(約484万円)からと、電動SUVの中では比較的お求めやすいプライスレンジであるだけに、いささか悔やまれるところです。

フォード「マスタング マッハE」

 

テールランプは初代マスタングのデザインを踏襲、バッテリーは70kWhのスタンダードと91kWhのエクステンデッドの2つで、航続距離は「カリフォルニアルート1」というグレード(91kWh)で約490kmを実現。高性能モデルのGTはモーターを前後に搭載して480馬力を発生し、0-96km/h加速は3.5秒という速さを誇っています。

フォードは2021年5月、EV開発の投資を2025年までに300億ドル以上に増やすと発表。アメリカの自動車販売台数で不動のベストセラーであるフルサイズピックアップのF-150のEV版、F-150ライトニングを2022年の春に発売予定ですでに予約が殺到している状況です。

F-150ライトニング

 

●BOLLINGER MOTORS
無骨でクラシカル。ミシガン州に拠点を構えるEVスタートアップ
ボリンジャー・モーターズ「B1」「B2」
https://bollingermotors.com

ボリンジャー・モーターズ「B1」「B2」

 

世界初の電動SUT(スポーツ・ユーティリティ・トラック)をコンセプトに、無骨でクラシカルなデザインのEVの生産を進めているのが、ミシガン州の「ボリンジャー・モーターズ」です。

ボ

 

ラインナップするEVは、SUVタイプで2ドアと4ドアのあるB1と、ピックアップトラックボディのB2。直線的なボディは、フレームのほか外装もアルミニウムで構成され、一見すると最新のEVには思えないかもしれません。

ボ

 

B1、B2ともにモーターは前後に1基ずつ搭載されており、最高出力は614馬力、航続距離は321kmです。モーターはボディ下のシャシー内にセットされているため、ボンネットは収納スペースとなっており、ボンネット内からテールゲートまで長尺物を積み込むこともできます。

ボ

 

室内は余計な装備を一切排除した直線的なシンプルデザインで、価格はB1、B2ともに12万5,000ドル(約1,412万円)。生産は2022年から2023年になるとのことです。

拡大を続けるアメリカのEV市場

紹介した以外にも、カヌーやフィスカーなど多くのスタートアップ企業がEVの開発・生産を見込んでおり、スタートアップ系のEVは創業者の思想が色濃く反映されているケースが多く見受けられます。一方、ハマーなどブランド力のある車名で、原点回帰とともにEVでも覇権を握ろうとする老舗メーカー。どのEVもコンセプトやデザインに特徴があり、大変魅力的です。世界的なEVシフトが起きるなか、アメリカでは今後ますますバリエーションが増えていくことでしょう。と同時に、こうした素敵なEVたちが、日本でも購入できるようになることを祈るばかりです。

 

この記事の監修者
陰山 惣一
陰山 惣一

エンタテインメントコンテンツ企画・製作会社「カルチュア・エンタテインメント株式会社」の「遊び」メディア部門「ネコパブリッシング・カンパニー」副社長。「Daytona」「世田谷ベース」「VINTAGE LIFE」など様々なライフスタイル誌の編集長を経て、電気自動車専門誌「Eマガジン」を創刊。1966年式のニッサン・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いし、その日常をYouTubeでレポートしている。