日産・アリアNISMO。先進性×モータースポーツ直系遺伝子の異色EV


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コロナ禍や半導体不足などの不運が重なり、長らく受注が中断していた日産・アリアがフルラインナップとなり、カスタマイズモデルまで追加されました。NISMOロードカーの一員であり、「風格のあるプレゼンスと電撃のパフォーマンスを掛け合わせた」という研ぎ澄まされた世界観を、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。

 

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発売から3年を経て、“本来”の実力を見せるアリア

専用のチューニングを施し、持ち前の動力性能と運動性能をさらに引き上げた、EV NISMOのフラッグシップモデルとして、「アリアNISMO」が登場した。その走りは、NISMOのコンセプトである「より速く、気持ち良く、安心して走れる車」をEVならではの高い完成度で実現していた。

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日産がEVラインアップのフラッグシップとして開発したアリアは、2021年に登場した。ところが、せっかく世に出たのに折からのコロナ禍や半導体不足などの不運が重なり、納期が長期化し受注が休止されていた。

そのアリアが2024年の3月、ようやく全グレード+αがそろって本来の状況になった。その際に正式に追加が発表されたのが、「アリアNISMO」だ。バッテリー容量の違いにより「アリアNISMO B6 e-4ORCE」(66kWh)と「アリアNISMO B9 e-4ORCE」(91kWh)の共に4WDとなる2グレードがラインナップされ、今回試乗したのは後者の方となる。

 

日産が誇るファクトリーカスタムブランドが手掛ける、特別なEV

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「NISMO」のことを、レースやカスタマイズに興味のある人なら多少は知っていることだろう。日産のモータースポーツ活動やチューニングパーツのブランドであるとともに、かつてのニッサン・モータースポーツ・インターナショナルの通称名であり、2024年には生誕40周年を迎える老舗ブランドだ。

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現在は、かねてより関わりの深かった同じく日産の関連会社である(株)オーテックジャパンと経営統合し、日産モータースポーツ&カスタマイズという会社になっている。NISMOのレーシングテクノロジーと、オーテックジャパンが持つ市販車をベースとしたファクトリーカスタムカー造りのノウハウを最大限に活用するのがその狙いだ。

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2024年8月時点のNISMOロードカーシリーズの顔ぶれとしては、GT-R NISMO、フェアレディZ NISMO、スカイラインNISMO、リーフNISMO、ノートオーラNISMOに、新たにアリアNISMOが加わった次第だ。

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アリアNISMOの情報をはじめて耳にしたときには、先進的なイメージを訴求するアリアとNISMOという意外な組み合わせにちょっと驚いた。しかし同じく純EVのリーフNISMOの例では、他のNISMOロードカーで見受けられた、いわゆる走り系の人とは異なり、50代以上で社会的地位や所得の比較的高い人が、輸入車から買い替えるにあたり、より目新しさや特別感のあるクルマに乗りたいと考えて購入するケースが多かったらしい。

さらに、その後のリサーチでも、NISMOブランドのファンでも、次の愛車としてEVやSUVを検討している人が少なくなく、家族のためにSUVを有力候補としながらも、自分自身も楽しめるクルマが欲しいので、ちょうどアリアNISMOのようなクルマがあったらぜひ欲しいと思っている人が大勢いることが判明したという。 NISMOがスポーティなだけでなく、付加価値と捉えられたわけだ。

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そんな思いに応えるべくアリアNISMOが開発され、よきタイミングで発売されることになったのだ。

 

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通常モデルより馬力は約1割増し。Formula-Eのようなユニークなサウンド演出も

わかりやすくアレンジされた外見は遠目にも存在感があり、現実的な都会の風景の中ではなおのこと異彩を放って見えるが、このデザインのすべてにモータースポーツ由来の空気抵抗の低減やダウンフォースの向上など空力性能を向上するための機能が盛り込まれている。

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せっかくのNISMOということで、まずは走りからレポートしていこう。NISMOロードカーは、「より速く、気持ち良く、安心して走れる車」を共通のコンセプトとしているが、アリアNISMOもまさしくそのとおりに仕上がっていた。

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最高出力をベース車の「B9 e-4ORCE」の394ps(290kW)から約10%増となる435ps(320kW)にまで引き上げることで実現したパワフルな加速性能は、乗れば即座に体感できる。中でも美味しいのが、NISMOモードだ。選択するとアクセルレスポンスが最大化されて、NISMOでしか体験できない俊敏で伸びやかな加速を味わうことができる。さらには、日産も参戦しているフォーミュラEマシンのようなユニークなEVサウンドの演出を楽しめるのもNISMOならではである(BOSEプレミアムサウンドシステム装着車)。

 

俊敏で伸びやか。それでいて扱いやすい、フラッグシップEVの走り

ドライブモードはスタンダードモードに加え、走りに振り切った「NISMO」モードのほか、エコモードやスノーモードも選べるようになっている。アクセルワークだけのワンペダルで加減速できる「e-Pedal Step」もある。もちろんベース車と同じように、静かでなめらかに走らせることもできる。

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シャシーにもひととおり手が加えられていて、具体的にはスプリング、ショックアブソーバー、スタビライザーを専用にチューニングするとともに、タイヤとホイールも専用品を履かせ、それらに合わせてパワステ、ブレーキ、VDCの特性の最適化を図っている。

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ストラット外筒板厚を上げてキャンバー剛性を高めたほか、ホイールはワイドリム化と軽量化とともに空力の向上まで意識したものであることも付け加えておこう。

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日産が誇る電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」についても、トラクションと旋回加速性能を高めるべく駆動力配分をリア寄りとするなど専用にチューニングされている。ノーズが軽やかに向きを変え、アクセルを踏み込むとフロントでひっぱりながらリアからグイグイと押し出してくれる感覚のある、よりスポーティになったハンドリングは、一般道でも味わうことができる。

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NISMOというとスパルタンな乗り味をイメージする人もいることだろうが、足まわりもガチガチに固められているわけではなく、コーナリングでのロールも自然な感覚で、クルマがどういう状態にあるかが掴みやすい。乗り心地はチョイ乗りでは硬めに感じなくもないが、不快に感じるほどではない。空力も効いて高速巡行するとフラットな姿勢を維持してくれるあたりもさすがはNISMOだ。軽快な中にも濃厚な味わいのある走りは、スポーティなだけでなく上質でもある。

 

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スタイリングも特別感あふれるもの。EVのなかでもかなり尖った選択肢

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あらためて述べると、未来的で流麗なワンモーションフォルムのアリアに、モータースポーツ直系のNISMO流のアレンジを施した二面性のあるスタイリングは見た目にも印象深く、イメージカラーのNISMOステルスグレーに黒ルーフの2トーンがよく似合う。

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インテリアも黒を基調にレッドのアクセントを配し、専用シートを装備するなどNISMOらしくアレンジされている。

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車内空間が実際のサイズ以上に広く感じられるのもアリアの強みで、床面のフラットな後席の足元は広々としている。開口面積の大きなパノラミックガラスルーフも絶大な開放感を提供してくれる。

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荷室は十分に広くシートアレンジしやすいので、アウトドアレジャーで使いたいアイテムもたっぷり積める。平日はバリバリ働き、休日はオフを満喫したい士業やビジネスマンにももってこい。そのときには、いちはやく高速道路での同一車線内ハンズオフドライブを実現した「プロパイロット2.0」が重宝する。

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アリアNISMOは持ち込み登録のため、一充電あたりの航続距離は公表されていない。ハイグリップタイヤ採用に伴い、基準車から約1割程度短くなるようだが、基準車の航続距離が560km(B9 e-4ORCE プレミア)なので、500kmは確保されていると見ていいだろう。充電ポートは左右のフロントフェンダーに設けられていて、急速充電は最大130kWに対応する。自宅とクルマをつなぎ、家電などの電気を車載バッテリーでまかなうV2Hも利用できる。

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EVの選択肢はまだまだ限られるのは否めず、ましてやアリアNISMOのようなクルマというのはなかなかないわけだが、実はこうしたクルマの登場を待っていたという人は少なくないのではないだろうか。

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撮影:茂呂幸正

 

〈スペック表〉
アリアNISMO B9 e-4ORCE

全長×全幅×全高 4650mm×1850mm×1660mm
ホイールベース 2775mm
荷室容量 408リットル
車両重量 2220kg
モーター種類 前/後 交流同期モーター
フロントモーター最高出力 218ps(160kW)/5950-11960rpm
フロントモーター最大トルク 300Nm(30.6kgfm)/0-4392rpm
リアモーター最高出力 218ps(160kW)/5950-10320rpm
リアモーター最大トルク 300Nm(30.6kgfm)/0-4392rpm
システム最高出力 435ps(320kW)
システム最大トルク 600Nm
バッテリー容量 91kWh
駆動方式 4WD
最小回転半径 5.4m
サスペンション 前ストラット式 後マルチリンク式
タイヤサイズ 前後255/45R20
税込車両価格 944万1300円

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

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この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。