【特集④】充電インフラはどれだけ改善される?

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有識者にEV業界トレンドを問う「特集 2025年どうなるEV!?」。第4回目のテーマは「日本のEV充電環境はどれだけ改善されると思いますか?」。普及のキーポイントのひとつにもなる充電インフラ問題について、意見を聞きました。

 

日本のEV充電環境はどれだけ改善されると思いますか?

EVにとって「充電」は不可欠。ガス欠のように「電欠」にならないように日本では公共の充電スタンドが全国各地に設置され、いまもその拡充が図られています。今回、EVの有識者たちに「日本のEV充電環境はどれだけ改善されると思いますか?」と問いかけ、その見解を伺いました(以下、回答者名の50音順)。

 

充電環境は充実してきたが、ニーズ対応は不十分

 

急速充電器は入れ替えが進んでいるし、高出力タイプも増えてきた。また、普通充電も3kWばかりだったが、6kWの充電器も増えている。だが、EVの普及に伴って高速道路や観光地で使う人が増えたから充電器は十分とはいえない。トヨタが本気になって急速充電器を設置し、多くの人が使えるようにならないと充電インフラの問題は解決しないだろう。

回答者

片岡英明

片岡英明さん(モータージャーナリスト)

1954年、茨城県生まれ。自動車専門誌で編集に携わった後、独立してフリーのジャーナリストに。新車のほか、クラシックカーやEVなどの次世代の乗り物にも興味旺盛で、イベント参加することも多い。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

改善は不透明。充電インフラの“負のイメージ”払拭が鍵

 

少なくとも日本ではあまり改善されないと予想する。残念ながら現状を見る限り、日本は充電に関して負のループに陥っている。EVの普及率と見合わない拙速な電力ビジネスの展開により、充電環境への投資が思惑どおりの成果を生んでいないことでイメージが悪化。新たな投資が呼び込めないことで環境整備が進まずに、それがEV普及を妨げる要因にもなっていると感じる。負のイメージを払拭してやる気を起こさせない限り、改善は見込めないのでは。

回答者

楠一成

楠一成さん(KGモーターズ CEO)

元々、車のパーツなどのアフターマーケット用の企画・開発をする会社を経営。その後、YouTubeチャンネルを開設し、人気チャンネルへと成長させる。2021年から小型モビリティの開発を宣言し、現在ではさまざまな分野のスペシャリストを集めて、事業を拡大。2025年から小型モビリティロボット「mibot」を量産予定。

 

設置計画は予定通りに進行。バリューアップへ邁進中

 

充電器の提携事業者さま、設置パートナーさまのご協力により、2024年1年間でe-Mobility Powerネットワークの充電器数*1を、約3000口*2増やすことができました。2025年は、1月以降、「赤いマルチ*3」が設置された充電スポットが順次オープンします。秋以降には、「一口最大350kW出力の次世代急速充電器」も設置予定です。
また、2010年代半ばまでに設置された急速充電器の多くが更新時期を迎えていますので、2025年も引き続き充電器の更新・複数口化・高出力化を進め、更なる充電インフラの拡充・バリューアップに努めていきます。

※1:約2万4600口(急速充電器:約9600口・普通充電器:約1万5000口、2024年12月末時点〉
※2:急速充電器:約1000口、普通充電器:約2000口
※3:新型マルチコネクタタイプ急速充電器(一口最大150kW出力・4口/箇所)

回答者

幸加木英晃

幸加木英晃さん(e-Mobility Power 代表取締役社長)

EVの黎明期である2010年以前からさまざまなEV関連プロジェクトに参加。2024年6月から株式会社e-Mobility Powerの代表取締役社長に就任。

 

 

90kW級以上の急速充電器が主流に

 

高速道路の急速充電インフラは、スロット数が増えるとともに高出力化も大きく進むと思われます。旧世代の40〜50kW級の急速充電器が代替時期を迎えていることや、充電インフラに関する政府目標が上方修正されたこともあり、充電サービス事業会社であるe-Mobility Powerが急ピッチでSA・PAの充電器の拡充を進めています。今後は90kW以上を中心に、一部では150kWの充電器も設置が始まっています。また普通充電については、商業施設を中心に各事業社が6kWの充電器の敷設を進めています。

回答者

佐藤耕一

佐藤耕一さん(モータージャーナリスト)

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT業界に転じて自動車メーカー向けビジネス開発に従事。2017年ライターとして独立。自動車メディアとIT業界での経験を活かし、CASE領域・EV関連動向を中心に取材・動画制作・レポート/コンサル活動を行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

 

充電インフラの更新期だが、改善は限定的か

 

今ある国内の充電インフラは2010年代前半に大急ぎで整備されたものが基本となります。それから15年近くが過ぎ、更新の時期を迎えています。そういう意味で、今が底辺であり、今後は更新が進むほど、機器も新しく、そして高性能・高出力化するはずですから、上向きになるはずです。ただし、EVの販売が、それほど伸びていませんし、充電ビジネスは収益性に問題があります。また、月極駐車場や集合住宅の充電インフラが難しいという課題も解決していません。そのため急激に向上するとは思えません。

回答者

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチさん(モータージャーナリスト)

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

 

EVでの長距離走行の課題解決に期待

 

すでにeMPの公開している高速道路上における急速充電器設置計画を見ると、2025年度までで主要なSA・PAへの複数基の設置が予定。またSA・PA以外でもテンフィールズファクトリー社やPower X社など複数の充電サービスプロバイダーが高性能な急速充電器の設置を計画しており、2024年よりも改善されることは間違いない。
あとは宿泊施設に6kW普通充電器が複数基設置されるようになると、EVの長距離運用の安心感がさらに高まると感じる。2025年はこの宿泊施設などに対する普通充電器がどれだけ普及するのかという点も要注目。

回答者

高橋優

高橋優さん(EV専門ジャーナリスト)

1996年、埼玉県生まれ。2020年よりYouTubeチャンネル『EVネイティブ【日本一わかりやすい電気自動車チャンネル】』を運営。世界の最新EVニュースをわかりやすく解説している。新型EV情報はもちろん、充電インフラ、バッテリーの最新情報、国内外のEV事情など、深く、広く情報を網羅。同時にさまざまなEVの1000キロチャレンジ、極寒車中泊など、EVの運用を体を張ってテスト。ユーザー目線の情報も数多く発信している。

 

充電インフラ整備は順調に推移。課題はEV普及の進度

 

すごく改善されると思います。「どれくらい」の数としては、e-Mobility Powerが高速道路SA・PAの急速充電器を2022年度末の511口から2025年度末に約1100口に倍増する計画を明示して達成しつつあります。経産省が示した「2030年までに30万口」などの目標もさまざまなCPO(※編集部注)の取組で前進中。ただし日本でもっとEVが普及しないと、増やした充電インフラの維持が困難になることを心配しています。

回答者

寄本好則

寄本好則さん(EVsmartブログ編集長)

コンテンツ制作プロダクション三軒茶屋ファクトリー代表。一般社団法人日本EVクラブのメンバー。2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成。ウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開。電気自動車情報メディアや雑誌特集などに多く寄稿している。著書に『電気自動車で幸せになる』(Kindle)など。

 

注:「Charging Point Operator」の略で、充電サービス事業者のことを指す。

 

充電インフラは改善見込み。一方で、収益性やEVの普及速度に懸念の声

概ね改善傾向にあるという見方が強いものの、課題も多く残されているという結果になりました。

改善されているというポイントは、高速道路のSA・PAを中心に急速充電器の増設や高出力化が進んでいる点です。一方、課題としてEV普及のペースが想定より遅く、充電ビジネスの収益性が低い現状と、それにより更なる投資を呼び込みにくいという点が挙げられました。

 

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
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