充電インフラの進化を着実に進める!【eMP新社長インタビュー】

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日本でも軽の電気自動車(EV)がヒットするなど、EVの利用が広がってきました。その中で、EV購入を検討する人にとって気になるのは「充電インフラが今後どのように充実していくのか」ということ。日本最大級の充電インフラネットワークを運営する、東京電力グループの充電サービス事業者・e-Mobility Power(イーモビリティパワー)の幸加木英晃新社長に、近年の実績とこれからの取り組みについて聞きました。

 

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【今回の取材でお話を聞いた方】

幸加木 英晃さん

幸加木 英晃さん

EVの黎明期である2010年以前からさまざまなEV関連プロジェクトに参加。2024年6月から株式会社e-Mobility Powerの代表取締役社長に就任。

e-Mobility Power Webサイト

 

2024年、充電インフラの現在地

EVユーザーにとって重要な充電インフラ。日本政府は、2030年までに30万口の設置目標を掲げる1)など、インフラ拡充の動きが進んでいます。現在、その多くがe-Mobility Power(以下、eMP)の充電インフラネットワークに接続されており、同社は全国で充電スポットの整備を進めています。

 

数・質・更新の3つを力強く進める


「2030年までの政府目標を踏まえると、やはりまだまだ力を入れて拡充しなければならない状況です。EVユーザーの移動に必要な充電場所の“数”を増やすのはもちろん、高出力・複数口の急速充電器やバリアフリー対応の充電スポットを充実させるなど、“質”の面でも強化が必要です。また、充電器の耐用年数は8~10年ほどですから、2010年代半ばに設置された充電器の“更新”も必要になっていますが、更新する際に口数を増やしたり、高出力化も進めます。数・質・更新、この3つを力強く進めていくつもりです」

全国約2万2000口の充電インフラネットワークを運営する同社(※急速充電器と普通充電器の合計)。2023年度は約700口の急速充電器の新設・更新を実施しました。2024年度は、前年を大きく上回る約1100口(750基以上)の新設・更新を予定しています。

 

高速道と一般道、郊外と都市部の違い


また、国内全体を俯瞰したとき、高速道路と一般道路、郊外と都市部といった切り口で、充電インフラの状況を、以下のように語ってくれました。

「高速道路については、各道路会社の関係者の方々とともに、複数口の充電器を有する充電スポットが一定の距離間隔で設置されるように進めてきましたし、高出力化にも取り組んでいます。もちろんまだ十分とは言えませんが、2024~2025年度にかけてさらに充実させていく予定です」

eMPでは、2023年度にNEXCO東日本・NEXCO中日本・NEXCO西日本管内における全国52カ所のSA(サービスエリア)・PA(パーキングエリア)に129口の急速充電器の新増設を行いました。2024年度も119カ所・約250口、2025年度にも114カ所・約190口と拡充を進め、2025年度末までに約1100口まで大幅に増やす計画です2)。これは3年間で2022年度比2倍以上の口数に増やすことを意味します。

〈図〉NEXCO 3社の高速道路SA・PAにおける設置口数推移

NEXCO 3社の高速道路SA・PAにおける設置口数推移グラフ

 

では、一般道についてはどうでしょうか。こちらは、「郊外」と「都市部」で分けて見る必要があるそう。まず郊外に関しては、コンビニが充電インフラの重要拠点になっていると見解を示してくれました。

「コンビニは全国にくまなく点在しており、私たちの生活に欠かせない拠点となっています。移動中にいつでも気軽に立ち寄って充電することができるため、コンビニの充電スポットはEVユーザーからも好評です。また、スーパーやホームセンター、ドラッグストア、道の駅など経路充電に欠かせないスポットを中心に、設置先の皆様にご理解・ご協力いただきながら続々と急速充電器を設置しています」

〈表〉2023年度の一般道における急速充電器の新設・更新実績2)

  100kW 50kW級
公道 1口(1基)

2口(2基)

道の駅

10口(5基)

24口(24基)

ガソリンスタンド

4口(2基)

9口(9基)

コンビニエンスストア

288口(144基)

123口(123基)

商業施設

60口(30基)

27口(27基)

そのほか

6口(3基)

21口(21基)

合計 369口(185基) 206口(206基)

※150kW級5口(3基)含む

 

続いて、都市部の状況について聞いてみました。

「都市部の充電インフラの課題は、やはり自宅で行う基礎充電の設備を充実させることです。集合住宅が多いため、マンションへの設置をどのように進めていくかを考えなければいけませんし、自宅に充電器がないEVユーザーのために基礎充電の代替となる商業施設などの身近な充電スポットを整備していくことも大切です」

 

 

2024年度注目の新型充電器も、eMPが進める新しい取り組み

幸加木 英晃さん

 

高速道路では「赤いマルチ」や超高出力機に期待


充電インフラの拡充を進めるeMPでは、新しい取り組みも続々と行っています。たとえば高速道路のSA・PAに、新たに開発した4口タイプの新型マルチコネクタ充電器を今年度から導入していく予定です2)。この充電器は、赤のカラーリングで複数口のマルチコネクタタイプであることから「赤いマルチ」の呼称がつけられています。

 

赤いマルチ

 

総出力は従来の「青いマルチ」の倍となる400kW、2台同時の充電でも1口最大150kW、4台同時でも1口最大90kWを実現するものです。

〈図〉「赤いマルチ」の充電出力イメージ

「赤いマルチ」の充電出力イメージ

 

「EVユーザーからの『待ち時間なく高い出力で充電したい』という声にお応えするため、4口の新タイプを開発しました。2024年度中に、全国10カ所以上への導入を予定しています」

eMPでは、全国にある充電器の稼働データをつねに分析しており、充電器が混雑しやすい交通の要衝において、複数口化に対するニーズが高いことも把握しています。たとえば新東名高速の浜松SAや駿河湾沼津SAでは、2023年3月に既存の充電器の高出力化・複数口化を行ったところ、設置後まもなく人気の充電スポットになったといいます。4口の新型充電器の開発には、こうしたデータやEVユーザーからの声が反映されています。

そのほか、高電圧対応・高出力の急速充電器の開発も進行中。東光高岳と共同で行うプロジェクトで、1口の最大出力はなんと350kWを予定。CHAdeMO規格では世界初とのことです3)

「今回の開発では、東光高岳様やケーブルメーカーの皆様とともに、より速く充電できるだけでなく、少しでも充電ケーブルを扱いやすくできるように、コネクタやケーブルの軽量化とともに、新型のケーブルマネジメントも導入予定です。また、充電器に大型液晶画面を配置し、情報をわかりやすく伝えられるよう細かな利便性にも配慮した設計にしていきたいですね」

2024年度中にプロトタイプ公表とCHAdeMO認証取得を行い、2025年秋の設置を目指す予定です。

 

公道に急速充電器を設置する取り組みも


「赤いマルチ」や高電圧対応・高出力の急速充電器の設置場所は高速道路が中心となるそうですが、都市部の一般道でもeMPは新しい取り組みを進めています。それは、公道上に急速充電スポットを整備する活動。おもに東京都や神奈川県横浜市で行われてきました。

2024年8月には、東京駅丸の内南口付近と、東京都港区芝公園近くの増上寺裏に新たな公道充電スポットをオープンしました4)

東京駅丸の内南口付近に設置された急速充電器<写真:東京都提供>

 

「2021年6月に横浜市青葉区のしらとり台で初めて急速充電器の公道設置を行ったのを皮切りに、これまで東京都と横浜市を合わせて8カ所ほどに設置してきました。都心部の利便性が高い場所にあることから、EVユーザーの皆様から大変好評をいただいています」

また、空白地域については「これからも地道に数・質・更新を重ねていくことが大事」と、幸加木社長は口にします。

「充電器はインフラだからこそ、長距離にわたって充電することができない“空白地域”をなくすことが大切です。様々なツールを使って充電器の分布や利用状況を把握するほか、実際に全国各地へ足を運び、ユーザーの視点に立ってどこに充電器が必要なのか、ユーザーとしての感覚も大切にしながら設置計画を立てています」

 

「kWh課金(従量制課金)」導入に向けた実証実験


こうした活動と並行して、eMPでは「kWh課金(従量制課金)」の導入についても検討しています。

kWh課金とは、充電した電力量(kWh)に応じて課金されるシステムのこと。日本は充電時間に応じて課金される「時間制課金」が主流ですが、政府はユーザーの納得度向上の観点から、2025年度より充電した電力量(kWh)に応じた課金を順次導入していく方針を示しています。

そこで、eMPは2024年10月から2025年3月まで、神奈川県の2拠点(DCM 洋光台店、セブンイレブン相模原橋本台1丁目店)にて、kWh課金の実証実験を行っています5)

「kWh課金の導入に向けて検証しなければならない点もあります。今年度中に実証実験を行い、EVユーザーの生の声を収集しながら、検討を進めていきます」

 

DCM 洋光台店の急速充電器の画像

DCM 洋光台店の急速充電器

 

この2カ所については、「ビジター利用」であればkWh課金での充電が可能。興味のある方はぜひ体験してください。

 

 

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いつでもどこでも、EVを充電できる未来を目指して

幸加木 英晃さん

 

こうした活動を通して、日本の充電インフラ拡充を進めるeMP。幸加木社長はこれからの意気込みをこう伝えます。

「EVに乗る方が、いつでもどこでも充電できて、安全で、リーズナブル、使いやすい充電インフラを創っていきたいですね。まだまだ先は長いですが、e-Mobility Powerの充電ネットワークに接続いただいている充電器設置事業者の皆様や、充電器設置パートナー、充電器メーカー、施工会社など全ての関係者の皆様とともに、社員が一丸となって、一歩一歩着実に進めていきたいと思います」

EVを利用する人にとって欠かせない充電インフラ。その拡充が日本のEV普及のカギを握ることは間違いありません。誰もが充電に困らない環境の構築を目指して。eMPの活動はこれからも続きます。

 

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
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