EVの使用済みバッテリー問題解決へ 「バッテリーリユース」最前線

バッテリーリユース

カーボンニュートラルな社会の実現に向けて普及期を迎えつつあるEV(電気自動車)。しかし、課題がないわけではありません。なかでも、解決が急がれているのが使用済みバッテリーの問題です。これからどんどん増えていく使用済みバッテリーにはどのような問題があるのでしょうか? そして、そのバッテリーを再利用(リユース)する画期的な事業を進める企業「フォーアールエナジー」社に注目し、そこで「バッテリーリユース」の最前線を取材してきました。

使用済みバッテリーの問題点

カーボンニュートラルの実現には、走行中にCO2を排出しないEVの普及が欠かせません。しかし、EVの本格普及の前に、廃棄される使用済みバッテリーの問題を考えておく必要があります。まずその問題点から整理していきましょう。

 

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廃棄バッテリーという環境問題

EVバッテリー環境問題

画像:iStock.com/KCULP Photography

 

EVで使用するバッテリーはリチウムイオン電池をつかっていますが、この原材料には、コバルトやニッケル、マンガンなどが含まれています。つまり、廃棄されたバッテリーがきちんと管理されず、野ざらしで放置されるようなことになれば、人体や地球環境に悪影響を及ぼすリスクをもっているのです。

バッテリーの製造時に6.2tのCO2を排出する

さらに、EVは環境性能に優れた車ですが、じつは製造時にはそれなりのCO2が発生します。その最大の原因がバッテリーです。

バッテリー製造時のCO2発生量の計算法はまだ国際的に確立されていませんが、仮に販売中のEVに搭載されている62kWhのバッテリーを1個製造する場合、国際エネルギー機関(IEA)のスタディに従うとCO2発生量は6.2tに上ると試算されます(※1)。これは、約3人が年間に排出するCO2量に相当します(※1)。新品バッテリーの製造にはこれだけ多くのCO2が発生しているのです。

(※1 フォーアールエナジー・牧野前社長のコメントより引用)

バッテリー問題が、EV普及の妨げに?

環境問題とは別に、EVの普及の足を引っ張ってしまうかもしれないのがEVの残存価値(リセールバリュー)の問題です。
一般的に、新車を購入する際は、将来その車が中古車として高値で販売できるかどうか(残存価値が高いかどうか)が、購入者の判断基準のひとつになります。現時点では、残念ながらEVはガソリン車などに比べて残存価値が低いケースがあります。そこにはバッテリーの劣化への懸念が関係しています。

新車購入時から何年経ったら寿命という基準があるわけではありませんが、EVのバッテリーには一般的に8年・7割などの容量保証が設定されています。実際には、8年以降もそれほどバッテリーは劣化するものではありませんが、近い将来に、決して安くはないバッテリー交換費用が発生するかもしれないという不安により、EVの中古車の価格が下がるケースがあります。そのことがEVを購入する方にとっての懸念材料にもなりかねないのです。

希少資源のレアメタルが不足して価格が高騰する

EVバッテリー価格高騰

画像:iStock.com/HT Ganzo

 

EV用バッテリーには先述の通り、リチウム、コバルト、ニッケルなどのレアメタル(希少金属)が使用されています。これらの資源が採掘できる地域や産出量は限られています。

EVが本格的に普及し、いまのように使用済みEV用バッテリーを廃棄していると、バッテリーに使用されるリチウムやコバルトなどのレアメタルが足りなくなるでしょう。そうなるとバッテリー価格が上がり、それが車両価格にも影響を与える可能性があるのです。

様々な問題を解決する「バッテリーリユース」

EVのリセールバリューを上げること。バッテリー製造時のCO2発生量を削減すること。希少資源のレアメタルを有効活用すること──。EVの普及に向けたこれらの課題の解決策として注目されているのが、使用済みバッテリーの再利用、「バッテリーリユース」です。

神奈川県横浜市に本社のある「フォーアールエナジー」は、EVから回収した使用済みバッテリーを再利用した製品を製造・販売している日本で唯一の会社です。同社の牧野英治社長は(取材当時。以下同様)、「EVで使い終わったバッテリーを再利用することで、EVの残存価値が上がり、それによりEVの普及も拡大する」といいます。

牧野社長(当時)

牧野社長(当時)

 

劣化したはずのバッテリーの再利用がなぜ可能なのでしょうか。ポイント整理してできるだけ簡単に説明しましょう。

もともとEV用バッテリーは性能が良い

EVは重量1t以上の車両を動かすために急速にパワーを出し、減速時は逆に電気を回生します。また、外出先では急速なスピードで充電も行います。EV用バッテリーは、もともと一般的なリチウムイオンバッテリーより高い性能を持っているのです。

そのため、EV用として数年間使用され、EV用としては性能が多少落ちたバッテリーでも、ほかの用途であれば十分に使える性能を残しています。牧野社長によると「状態の良いものならEV向けの再生バッテリーとして使うこともできる」といいます。

火災事故ゼロのEVバッテリーを再利用

しかも、日産リーフから回収した使用済みバッテリーは「耐久性、信頼性が非常に高い」(牧野社長)といいます。

「2010年12月に初代モデルが発売されてから、バッテリーに起因する火災事故は一度も発生していません。世界で延べ210億kmを走り続けながら、重大な不具合はゼロです。

リユースバッテリーはEVだけでなく、踏切のバックアップ、大型蓄電設備など、さまざまな用途に再利用していますが、それはこうした高い安全性・信頼性があるからです」(牧野社長)

 

EVバッテリーは、再利用しやすいモジュール構成

EV用バッテリーは大きく分けて、レトルトパックのような薄いラミネート構造(円筒型や角形構造もあり)の「バッテリーセル」、セルをまとめた缶詰のような形状の「バッテリーモジュール」、モジュールを1台のEV用にまとめた「バッテリーパック」の3つで構成されています。

EVバッテリーのモジュール

EVバッテリーのモジュール

 

初代リーフ(24kWh)は4つのセルで1モジュールを構成し、48個のモジュールを搭載していますが、すべてのモジュールが均一に劣化していくとは限りません。たとえば、48のうち一部だけが容量60%に減り、残りは80%ということもあります。

この場合、60%に減ったモジュールに引っ張られるかたちで、バッテリー全体の容量も60%になります。逆にいうと、60%に減ったモジュールを80%の状態のいいモジュールに交換すれば、バッテリー全体の容量も80%に回復するわけです。

バッテリーリユース

 

このモジュール再構成がバッテリーリユースのポイントです。牧野社長によると、EVから回収した使用済みバッテリーの多くは60%から85%の高い残存容量を持っているそうです。

 

バッテリーリユースがもたらすメリット

使用済みのEV用バッテリーの再利用が普及すると、所有するEVの中古車市場におけるリセールバリューが高まっていき、結果的にEVの価値そのものが向上していくと考えられます。

また、バッテリーのリユースが増加すれば、当然ながら新品のバッテリーの製造量も抑制されることになります。すると、バッテリー製造時に発生するCO2を削減することができます。EV普及にともなって大きな問題となってくるリチウムやコバルトなどの資源問題にもバッテリーリユースは貢献することでしょう。

このように、使用済みバッテリーの再利用には、さまざまなメリットがあります。世界的にも今後、使用済みバッテリーのリユースやリサイクルの動きは広がっていくものと思われます。

 

コラム:フォーアールエナジー浪江工場レポート

リーフ発売前に始まったEVバッテリーリユース計画

ここからはEV用バッテリーのリユース事業を行う「フォーアールエナジー」について、もう少し詳しく紹介しましょう。

フォーアールエナジーは日産自動車と住友商事の合弁会社として2010年9月に設立されました。2010年9月といえば、日産自動車から初代リーフが発売される3カ月前です。フォーアールエナジーの事業は、リユースによる使用済みEV用バッテリーの再製品化・再販売です。それを初代リーフの発売前に始めたのは、この時点で、いずれEVの残存価値やバッテリー製造時のCO2排出、レアメタルなどの資源問題がEV普及の課題になると予見していたということでしょう。

また、同社は2018年3月に「福島イノベーション・コースト構想」の一環として、福島県浪江町に使用済みEV用バッテリー再製品化専用工場をつくりました。現在、全国各地から回収したEV用バッテリーは、この専用工場に集められています。

フォーアールエナジー浪江工場

 

フォーアールエナジー浪江工場

福島県浪江町にある工場。同町の産業復興や経済発展にも貢献しています

 

日産リーフのバッテリーを補完するラック

日産リーフのバッテリーを補完するラック

 

バッテリー性能の試験は様々な観点から

バッテリー性能の試験は様々な観点から行われます

 

バッテリー

モジュール単位で分別されたバッテリー。見た目には新品と変わらないほどのパーツもあります

 

フォーアールエナジー浪江工場

踏切の予備電源として再構成されたバッテリー。このほかにも様々な用途で使われるバッテリーの基本構成はこの工場で再構築されます

 

リユースバッテリーの活用先は?

フォーアールエナジーでは現在、年間約1500台の使用済みEV用バッテリーを再利用しています(今年度から3000台に倍増予定)。回収した使用済みバッテリーは「どのように使われたか?」「充放電を何回したか?」「急速充電がどれくらい行われたか?」など、ビッグデータを活用して劣化度合いを詳しく測定。そのうえで、使用済みバッテリーをモジュール性能でAランクからCランクにグループ化し、各グループに適した製品に再利用しています。

リユースバッテリーの活用先<図>

 

劣化が少ないバッテリーは日産リーフの交換用

モジュールの性能劣化がもっとも少ないAランクの高品質バッテリーは、日産リーフのバッテリー交換に使われます。日産が実施している「有償交換プログラム」では再生バッテリーは新品バッテリーに対して30%以上安い価格で交換する事が出来ます。

劣化の進んだバッテリーはバックアップ電源に

Bランクは電動フォークリフトや電動ゴルフカート、そして劣化の進んだCランクは、使用頻度が低い工場や事業所などの定置型蓄電池に提供されます。2021年2月からは、JR東日本の踏切保安装置の電源としても活用されるようになりました。

JR東日本には約7000の踏切があり、停電時の踏切のバックアップに鉛の蓄電池を使用しています。この電池をリユースバッテリーに置き換えることで、充電時間を短縮してコストを下げ、地球環境にも貢献しようというわけです。

フォーアールエナジーとJR東日本による取り組み

フォーアールエナジーとJR東日本による取り組み

 

そのほか、リユースバッテリーはV2X付蓄電池などにも活用されています。環境への貢献、コスト削減の両面からも、今後はさまざまな用途に使用済みバッテリーが活躍しそうです。

牧野社長(当時)が語るバッテリーリユースの可能性

牧野社長(当時)

牧野社長(当時)

 

「EVの車両価格はガソリン車に比べてまだ割高です。しかし、EVは使い終わって廃車にしたとしても、バッテリーがあります。ガソリン車は廃車になったら価値はゼロですが、EVは使用済みバッテリーによって、価値が生まれます。そうなると購入費が高くても、ガソリン代と電気代の差額によりランニングコストはEVが優れますし、バッテリーのリユースによる残価向上を考えると、利用者のライフサイクルでのメリットを作れる可能性があります。

私たちがフォーアールエナジーという会社をつくって11年以上のあいだ取り組んできたのは、そうやってEVの価値を向上させることです。使用済みバッテリーを再利用することでEVの残存価値が高まれば、EV普及に貢献することができます。

カーボンニュートラルの実現に向けて、いま世界中の車メーカーがEVの販売を拡大しようとしています。私たちが会社を立ち上げたときに想定した以上の変化が、これから起ころうとしている。そのとき、バッテリーのリユースが非常に重要になります。

バッテリーをリユースする仕組みができれば、車を販売する方法も変わっていくでしょう。たとえば、私たちがEVの残存価値を約束できれば、車を売り切るのではなく、サブスクリプションやリースなどに変わっていくかもしれない。そうなったら、利用者の負担も変わっていきます。使用済みバッテリーのリユースによって、さまざまな可能性が広がっていくと思います」

EVが普及期に差し掛かっているいま、「EVの価値向上」、「バッテリー製造時のCO2削減」、「希少資源問題への貢献」、「再生可能エネルギー拡大へ貢献」といったカーボンニュートラルの実現に資するフォーアールエナジーの今後の取り組みに注目ですね。

フォーアールエナジーの詳細についてはコチラ

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部