電気自動車(EV)は今後どうなる?普及率が上がったら、価格は下がる!?

EV今後

日に日に目にする機会が増えている、電気自動車(EV)関連のニュース。自動車メーカー各社からもEVの新車情報が続々とリリースされ、専門家の中には「2022年はEV元年になる」と予測する人もいるようです。これからEVは私たちの暮らしに定着していくのでしょうか? この記事では、ここ十数年の急速なEVシフトの動きを振り返りながら、今後のEVの普及について、自動車ジャーナリストの桃田健史さんの展望を見ていきます。

 

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量産型EV登場以降の、日本と世界のEVシフトを振り返る

2022年現在、EVシフトの先頭を走っているのは欧州ですが、EVの量産化を世界で初めて実現し、自動車業界に大きく影響を与えたのは日本でした。その最初の出来事と言えるのが、2009年、三菱自動車による世界初の量産型EV「i-MiEV(アイミーブ)」のリリースです。この項目では、2009年の量産型EVの登場以降から今日までの日本と世界のEV事情について振り返ります。

EVの可能性を大きく広げた量産型EVの登場

2009年の三菱自動車「i-MiEV」の登場は、量産型EVを実現できるという可能性を世界に示しました。その勢いに拍車をかけたのが、2010年に日産から登場した「リーフ」です。

リーフ

画像:iStock.com/joel-t

 

「リーフ」は、日本を筆頭に初めてグローバル展開された量産型EVだったことから、世界の注目をさらに集めることになりました。当時、「i-MiEV」よりも「リーフ」に注目が集まったのですが、これは「i-MiEV」が軽自動車であったのに対し、「リーフ」は5人乗りのファミリーカーだったことも理由のひとつだと言われています。

このように日本では十数年前から量産型EVが登場し、EVシフトが進んでいたように見えますが、その目的は、今のように「EVでカーボンニュートラル社会を実現する」というものとは少々違いました。もちろん、CO2(二酸化炭素)排出量削減や化石燃料使用量の削減も当時の目的として存在していましたが、自動車メーカー各社の目的は「他社でやっていない分野に強みを持つ」という事業戦略的な意味合いが強かったと言えます。

※カーボンニュートラルとは、排出されるCO2量から、(人為的な行為としての)植林・森林管理などで吸収されるCO2量を差し引いたとき、実質ゼロであることを意味します。

欧州のEVシフトが日本に波及

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画像:iStock.com/ASKA

 

では、日本がEVをエコカーとして意識し、EVシフトをはじめるきっかけは何だったのでしょうか。それを理解するには、欧州のEVシフトの流れを知る必要があります。

軽油を燃料とするクリーンディーゼル車(CDV)を強みとしていた欧州の自動車メーカーがEVシフトを加速する契機となったのが、2015年の排ガス試験不正、いわゆる「ディーゼルゲート事件」でした。

これは、環境規制検査をすり抜けるためにソフトウェア制御に手を加え、規制基準を満たさないCDVが販売された事件です。その背景には、欧州のCO2規制に対応するエコカー戦略の切り札としてCDVを使っていたことがありました。

しかし、このディーゼルゲート事件をきっかけに、環境規制検査に対してメーカー間での認識が変わりました。欧州の自動車メーカーは、ディーゼルエンジン戦略の根本的な見直しに迫られ、エコカー戦略の主軸をEVに移していきます。

さらに、2021年に欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)により、気候変動対策「欧州グリーンディール」に関する法案が発表されました。その中で、自動車分野については非常に厳しい目標が設定されており、その目標値は新車のCO2排出量を「2030年までに2021年比で55%削減」「2035年までに2021年比で100%削減」となっています。つまり、法案が通れば事実上、2035年にはハイブリッド車(HV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)も含めてすべてのガソリン車やCDVの新車販売が禁止されるということです。1)

これらの流れを受けて、欧州を中心にEVシフトがさらに加速。メルセデス・ベンツ「EQ」やBMW「i」、アウディ「e-tron」をはじめ、欧州の自動車メーカーから次々とEVが登場しました。欧州以外の世界を見ても、テスラをはじめとするアメリカ、国を挙げて推進する中国などその勢いは止まるところを知りません。

日本では2021年、菅義偉首相による施政方針演説において、「2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現する」という方針2)が示されました。ただし、ここで言う“電動車”には、HVや燃料電池自動車(FCV)も含まれていますので、すべての車をEVにするというわけではありません。それでも2035年までに純ガソリン車・ディーゼル車の新車販売禁止を目指していることになります。

日本でもこれらの目標の達成に向けてEV=エコカーの意識が高まり、トヨタとスバルの共同開発車、トヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」をはじめ、2022年にはさまざまなEVのリリースが予定されています。

また、日産と三菱自動車の合弁会社「NMKV」は、2022年に新型軽EVを発売することを明言しています。専門家たちが、「2022年は日本のEV元年になる」と予測する理由がここにあります。

 

 

 

EVシフトの過渡期に顕在化する課題

EVシフトが加速しているとはいえ、一歩引いて見ると、まだまだ過渡期であることは否めません。実際のところ、EVのある社会に向けて、クリアすべき課題が多いのは事実です。ここでは私たちユーザーが直面している課題と、インフラを含めた社会の課題を考えてみましょう。

まだまだ高いEVの車両価格

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画像:iStock.com/kt-rogo

 

まず、私たちユーザーがEVの購入を検討する際に直面するのが、EVの車両価格がまだまだ高いということです。

たとえば、日産の「リーフ」(40kWhモデル)は約330万円~430万円(2022年4月1日時点の価格。以下同様)3)とEVの中では比較的安価なモデルですが、それでも同じサイズのガソリン車、トヨタ「カローラスポーツ」(約215万円~285万円)4)と比べると高価です。また、納車が始まったばかりのSUV、日産「アリア」は約540万円~5)ですし、トヨタ「bZ4X」6)、スバル「ソルテラ」7)も、約600万円~となります。

さらに輸入車も同様で、比較的安価なプジョー「e-208」が約425万円~8)、2022年秋以降に発売予定のアウディ「Q4 e-tron」は約600万円~9)です。また、輸入車には1000万円クラスのEVもたくさんあります。2022年度は国からの補助金が最大85万円出ますが、ガソリン車より高価なのが実情です。

しかし、すでに中国では日本円で約45万円の上汽通用五菱汽車の「宏光MINI EV」が大ヒットして欧州への進出が決まっていたり、BYDや長城汽車といった自動車メーカーからお手頃価格のEVが登場したりしています。

この動きをみると、EVの価格を補助金頼みではなく、企業努力によって抑えることができるフェーズに少しずつ突入しているように思えます。日本でも自動車市場で過半数を握るトヨタが、「2030年までに電気自動車を30車種投入する」と宣言し、EVの多モデル化を進める中で、メーカー間での価格競争のステージに入っていく可能性があります。

 

 

EV普及と充電インフラ整備は、ニワトリタマゴの関係

充電スタンド

画像:iStock.com/Atiwat Studio

 

EVの充電環境については、ユーザーの問題であると同時に社会の問題でもあります。EV普及と充電インフラは、「EVの台数が少ないから、事業としての投資が困難で充電設備を増やせない」「充電設備が身近にないから、EVを買わない」という、ニワトリと卵のような関係。どちらが先行し過ぎてもうまくいかず、いかにして両者を連関させて、EV普及の好循環を生み出すかが鍵となります。

好循環を生むには、やみくもに数を増やすのではなく、使いたい人が使いたいときに使えるよう、適正な場所、適正な数で設置していくことが必要で、今は「適正な場所と数」を模索しながら、高速道路のサービスエリア(SA)や自動車ディーラー、コンビニ、ショッピングモールなどを中心に数を増やしている段階です。

集合住宅に住む方が多い都市部では、そのような方々が不自由なく使える充電環境整備であることも重要です。EVは、ただ価格が安くなれば普及するものではなく、充電インフラやもっと大きな視点でのエネルギー政策も関わってきます。社会全体を俯瞰して考えた上で官民一体となってEV普及に取り組んでいく必要があります。

 

 

EVはライフスタイルに寄り添うモビリティに進化していく

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画像:iStock.com/Jae Young Ju

 

EV普及の課題として価格やインフラの話を出しましたが、今後はより個人のライフスタイルに合ったモビリティに進化していくことが予想されます。ここではEVがライフスタイルに合わせてどのように進化する可能性を秘めているかを考えます。

車種の選択肢が広がり、販売の仕方も変わる?

今後のEVの進化で期待したいことのひとつは、「車種の選択肢が広がる」ことです。現状、日本で手の届きやすい価格のEVは、数車種に絞られてしまいます。さらに「もっと小さい車がほしい」「7人乗りのミニバンがいい」などという要望がある人にとって、現在の日本市場にあるEVの選択肢は多くありません。

たとえば、日産の「リーフ」や「アリア」、トヨタの「bZ4X」にしても、5ドアのハッチバックやSUVスタイルの車であり、2022年4月段階では、ファミリーカーの主流であるミニバンのEVは国内では発売されていません。また、前述した日産と三菱自動車の合弁会社「NMKV」が発売するという軽EV以外に、軽自動車のEVの国内販売もここ1年以内では予定されていません。

そういう意味で、トヨタが2021年末に発表した「2030年までにEVを30車種順次投入する」という宣言は、30車種すべてが日本で発売されるわけではないにしろ、今後多くのユーザーにとってEVの選択肢が広がることが期待できます。EV普及を後押ししてくれそうです。

また、2021年にボルボが「C40 Recharge」の初回100台をサブスクリプションで提供したように、提供形態がEVを身近にしてくれる可能性もあります。現に、トヨタの「bZ4X」も、販売ではなくサブスクリプションに限定して提供されます。サブスクリプションは、頭金やリセールバリューを気にせず買えるようになるため、買いやすくなる可能性を秘めています。今後、サブスクリプションがEVを利用するためのひとつの選択肢となれば、EVが人々のライフスタイルに浸透していくかもしれません。

ライフスタイルに合わせた性能のEVを選べるように

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画像:iStock.com/Supersmario

 

ガソリン車の高性能化は、熱効率の向上などによるエンジンの高出力化・低燃費化が主な手法でした。EVでいうと、モーター出力の向上による加速性能アップや大容量バッテリーによる航続距離の拡大が当てはまります。

もちろん、これらの性能向上はEVでも続けられていくと思われますが、EVの場合、こうした従来の価値での高性能化だけが、進化ではないと考えられます。どういう意味かというと、EVの進化の方向性のひとつとして、“ライフスタイルに最適化したモビリティになる”ことが予想されるからです。

たとえば、従来のガソリン車なら、軽自動車から大型SUVまで、どんな車でも満タンから燃料切れまで、500km程度以上の距離を走れます。しかし、日産の「リーフ」に40kWhモデルと62kWhモデルがあるように、今後は自分の暮らしに適した性能を選ぶようになっていくことが予想されます。

現在の車種ラインナップでも、「一度に長距離を走らないなら、航続距離の長さよりも、価格の安さを重視しよう」という選択ができますし、もし充電速度が速い車種が登場すれば、「航続距離の長さよりも、素早く充電できる手軽さを重視しよう」という新しい選択が可能になるでしょう。また、「日常で使うなら、1回の充電で100kmも走れば十分」と考える人が増えれば、より都市部での暮らしに密着したコンパクトなシティコミューターが選ばれるかもしれません。

EVが普及したらガソリン車はどうなる?

世界各国では「2050年のカーボンニュートラル実現」に向けて、「2040年にガソリン車の販売を禁止する」「2035年にHVも含めてガソリン車の販売を禁止する」などといった方針や目標を掲げるようになりました。将来的にEVが増え、ガソリン車が減っていくことは間違いないでしょう。しかし、もしガソリン車の販売が禁止になっても、ある日突然、街を走るガソリン車がゼロになるわけではありません。

仮に2040年にガソリン車の販売が禁止されたとしても、2039年に作られた車はその後、10年20年と走り続ける可能性があります。当然、それ以前に作られたガソリン車も存在していますから、当面の間はガソリン車とEVが共存する社会が続くでしょう。

2030年半ばにガソリン車が販売されなくなるって本当?

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画像:iStock.com/miodenbalinovac

 

では、実際に「ガソリン車販売禁止」になる日はいつ訪れるのでしょうか? 現時点ではそれがいつになるか明確な答えは示されていません。

現在、EVシフトと同時に、自動車の脱炭素化に向けて、水素とCO2の合成液体燃料であるe-Fuelなどのカーボンニュートラル燃料の普及を目指しているフェイズでもあるからです。

また、各国の政府は「20◯◯年までのガソリン車販売禁止」の方針・目標を打ち出してはいますが、産業への影響も大きく、決して簡単なことではありません。とはいえ、ガソリン車が減りEVの比率が高まっていくことは、間違いないでしょう。

ガソリン車販売禁止に関する世界の動向

具体的に世界のガソリン車販売禁止の動きを見ていきましょう。現在、明らかになっている各国の状況をリストアップしました。

〈表〉各国のガソリン車販売禁止に向けた方針・目標

販売禁止目標年
ノルウェー 2025年10)
スウェーデン(EU加盟国) 2030年10)
ドイツ(EU加盟国) 2030年11)
※連邦参議院決議
アメリカ(一部の州のみ) 2030年(ワシントン州)12)
2035年(カリフォルニア州など)13)
イギリス 2030年10)14)
中国 2035年15)
※自動車エンジニア学会公表。HV・PHEVは除く
フランス(EU加盟国) 2040年16)

※国としての正式な方針・目標でない場合も含む。また、ここではガソリン車にディーゼル車も含む。ただし、HVやPHEVがガソリン車に含まれるかどうかは国により異なる。

ただし、動力源の種類は国や地域によってまちまちなので、いろいろなものが混在する時代が長く続くことが予想されます。

 

 

EVのポテンシャルが発揮されるのはこれから

EVが、環境面で高いポテンシャルを持った自動車であることは間違いありません。そして、世界各国が目指す「2050年のカーボンニュートラル実現」に向け、そのポテンシャルが現実ものとして発揮されようとしています。また、現在世界各地で自動運転車の開発競争が繰り広げられていますが、自動運転車とEVの相性が良いことも、EV普及の加速につながるかもしれません。

とはいえ、EVの車種バリエーションや価格の問題、充電環境の問題、そしてエネルギー政策を含めた国の方針……と、身近なものから政府レベルの問題まで、クリアすべき課題が多いのも事実です。すぐにベストな答えが見つかるものではなく、今は少しずつ答えを導き出している過程にあると言えます。

「次に買う車はEVにしよう」という身近なところから、「EVによって社会がどう変わるのか」「EVのある社会をどう受け入れるのか」といった広い視点で、自分自身の将来のこととして考えてみると、またEVの見方が変わるかもしれません。

 

この記事の監修者
桃田 健史
桃田 健史

日本自動車ジャーナリスト協会会員。専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。ウェブ媒体、雑誌での執筆のほか、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組や海外モーターショーの解説も担当。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ』(ダイヤモンド社)、「IoTで激変するクルマの未来」(洋泉社)など。