世界中で存在感を増している中国製EVのなかでも、日本に初上陸したのがBYDです。その第二弾としてデビューしたのが絶妙なコンパクトサイズのドルフィン。個性的なデザインとインテリア、走行性能の高さを持ちながら、値頃感を実現。そのうえ日本市場に向けた特別仕様です。驚きの実力を、モータージャーナリストのまるも亜希子さんがレポートします。
「Build Your Dreams」の頭文字でBYD。中国・シンセンを本拠地とするBYDは、1995年に創業してから「ITエレクトロニクス」「自動車」「新エネルギー」「都市モビリティ」の4つの事業を世界で展開するグローバル企業で、2003年にリチウムイオン電池事業のノウハウを生かして自動車事業に参入しました。2022年3月をもってガソリン車の生産を終了し、日本にはEV専門メーカーとしてやってきました。そのBYDが、日本導入第一弾となったコンパクトSUVのEV、ATTO3に続いて、第二弾としてコンパクトクラスのEV、ドルフィンをリリース。
軽EVを除けば圧倒的にリーズナブルな価格をはじめ、ファミリーにおすすめしたいポイントが盛りだくさんな1台だったのです。
自由で美しくて人懐こい、イルカをイメージ
ドルフィンのデザインは、アルファロメオ・8Cコンペティツィオーネのデザイナーとしても知られる、ヴォルフガング・エッガー氏が担当。海洋生物の自由さ、美しさから着想を得ている海洋シリーズで、「オーシャンエステティックデザイン」と呼ばれています。
確かにフロントマスクは、イルカのつぶらな瞳を思わせる新型LEDヘッドライトがどこか人懐っこく、新しいのにホッと親しみやすいイメージ。サイドにまわると、フロントフェンダーからV字に流れるようなキャラクターラインが躍動的で、まるでイルカが海面からジャンプするようなダイナミックさも感じさせます。
ドアを開けてみると、室内にもあちこちに海やイルカを想起させるモチーフがあることに気づきます。イルカのフィンのようなドアレバー、小さく跳ねる波しぶきのようなエアコンアウトレット。インパネのラインやフロントガラス付近のダッシュボードはゆったりとした波のようで、思わずもっと探したくなってしまう楽しさです。
試乗車はボディカラーのアーバングレーと対になっているブラック+グレーのシックなカラーでしたが、他にもボディカラーごとにグレー+ピンク、ブルー+ブラックのインテリアカラーが設定されているので、フェミニンな雰囲気のインテリアや、もっと海っぽい雰囲気のインテリアも選ぶことができます。
そんなドルフィンの室内空間は、ロングホイールベースの恩恵もあって、とてもゆったりしています。とくに後席のスペースは、足元が広々としており頭上の余裕もあるので、チャイルドシートに座る子どもがいても十分に快適なはず。
ラゲッジ容量は通常で345L、6:4分割の後席をどちらも倒すと1310Lに拡大します。フロアボードの高さが2段階に変えられるようになっており、上の段にセットすれば下段に普通充電ケーブルが収納しておけるのもスマートです。
室内にコンセントはありませんが、V2L※には対応しており、AC充電口に装着して使えるV2Lアダプター(AC100V・1500W)がオプションとなっています。また、クルマの大容量バッテリーを自宅の電源として活用するV2Hにも対応しています。
※V2Lとは「Vehicle to Load」の略で、車のバッテリーに蓄えられた電気を電化製品等にコンセントを通じて供給するシステムのことをいいます
ユニークな音としっかりとした走りがドルフィンの世界観を創る
ドルフィンにはバッテリー容量44.9kWhで航続距離が400kmのスタンダードモデル(363万円)と、バッテリー容量58.56kWhで航続距離476kmのロングレンジモデル(407万円)の2タイプがあります。運転席に座った印象はどちらも変わらず、インパネ中央に大型モニターがドンと置かれ、ステアリングにあるスイッチを押すと、角度が縦と横にぐるりと自動で動くのがBYDらしいところです。これは家族でドライブしている際に、後席から画面が見やすいようにしたり、光の反射を避けたり、いろんな工夫ができそうです。
ATTO3から大きく変わったのは、小型化したというシフトノブ。縦に回すダイヤル式となってセンターパネルに並んでおり、「D」に合わせるとイルカがピシャッと水面に飛び込んだような、ユニークな音が聞こえました。「R」にするとまた別の音が鳴ったり、ウインカーの音が左右で異なったり、30km/h以下で発する車両接近通報音もほかでは聞いたことのない音色で、室内にもしっかりと響いてくるのが新鮮。車両接近通報音はメロディのような音と機械的な音の2タイプが選べます。ドルフィンはこうしたさまざまな「音」の演出があり、個性的です。
アクセルペダルに右足をのせると、思いのほか足裏にしっかりとした応答性を感じ、どこかガソリン車の感覚に近いようなナチュラルな加速をしていきます。スタンダードのモーター最高出力は70kW(95PS)、ロングレンジは150kW(204PS)で、どちらも市街地、高速道路ともに余裕たっぷり。市街地では軽やかな中にも低重心感があって、こちらの予想よりビュンと出過ぎてしまうような不自然な感覚がなく、EVビギナーにも乗りやすいのではないでしょうか。最小回転半径が5.2mなので、車庫入れなども扱いやすく感じました。
高速道路では、合流や追い越しの際にはさすがのEVらしい瞬発力を発揮。硬さはないのにガッシリとした剛性感があり、コーナリングもぴたりと安定しています。走行モードは「ノーマル」「スポーツ」「エコ」の3つ、回生の強さがスタンダードとハイの2段階で選択でき、シーンに合わせてさまざまなフィーリングが選べるのも楽しいところです。
欧州車的なガッシリ感と、日本車的なしなやかさ、柔らかさがうまく融合しているような世界観を感じることができました。
徹底した日本向けの仕様変更と、充実した安全装備
ドルフィンはすでに2021年からタイやオーストラリア、シンガポールなどで販売され、その数はグローバルで約43万台にものぼります。しかも今回の日本導入にあたり、日本市場に合うようにさまざまな仕様変更をしていることに感心しました。
右ハンドル&右ウインカーやCHAdeMO規格の急速充電対応、日本語音声認識への対応に加えて、日本の都市部に多い機械式立体駐車場の高さ制限1550mmに合うように、本国では1570mmある全高(アンテナ含む)を20mm下げているのはビックリ。
また日本人ユーザーから要望の多い、誤発進抑制システム(正式名称はペダル踏み間違い時加速抑制装置)や、国産車では例のない車内置き去り防止装置も全車標準装備となっています。小さな子どもがいるファミリーや、ペットとドライブすることが多いファミリーにも、うっかりミスによる事故防止のサポートが手厚いことは、何よりの魅力ではないでしょうか。居眠りなどの事故を引き起こしかねない原因を検知する、「ドライバー注意喚起機能(DAW)」も全車標準装備となっています。
充電時間の目安としては、最大出力90kWの急速充電で30分行うと、約30%から80%まで充電可能。これはスタンダードもロングレンジも同様です。6kWの普通充電では、0%から満充電までがスタンダードで約7.5時間、ロングレンジで約9.8時間となっています。
バッテリーの劣化を抑制し、効率的な充電をするための温度管理技術にも自信を持っていることは、もともとバッテリーメーカーとして創業し、「ブレードバッテリー」という独自のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを搭載しているBYDの強み。新車購入から8年/15万kmの容量(70%)保証がついています。
サクラとリーフの間を埋める、実力派コンパクトEV
愛着が湧きそうなデザインや、ユニークな音の演出、遊び心のあるインテリア。そんなコンパクトクラスらしい魅力に加えて、快適でゆったりとした室内は家族のファーストカーとしても十分な実力を持ち、安全装備は格上のクラスをも凌駕するほど。あとは、2025年末までに国内100店舗以上を整備するという正規ディーラーでのサービスがどうなのかが気になるところですが、軽EVではちょっと小さい、リーフではちょっと大きい、と悩んでいた人にとって、ドルフィンはド真ん中に刺さるコンパクトEVといえそうです。
〈クレジット〉
撮影:堤 晋一
〈スペック表〉 ※( )内はロングレンジの値
全長×全幅×全高 | 4290mm×1770mm×1550mm |
車両重量 | 1520kg(1680kg) |
バッテリー総電力量 | 44.9kWh(58.56kWh) |
一充電走行距離(WLTCモード) | 400km(476km) |
電費(WLTCモード) | 129Wh/km(138Wh/km) |
モーター最高出力 | 95PS/3714-14000rpm(204PS/ 5000-9000 rpm) |
モーター最大トルク | 180Nm/0-3714rpm(310Nm/0-4433 rpm) |
駆動方式 | FWD |
税込車両価格 | 363万円(407万円) |
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「連載:モータージャーナリスト・まるも亜希子の私と暮らしにハマるクルマ」
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
この記事の監修者
まるも 亜希子
カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。