日本に再上陸してからというもの、インパクト抜群のパッケージングのEVを発表している韓国・ヒョンデ。IONIQ5に続いて登場したコンパクトSUVのKONAも、日本市場を意識して意欲的にまとめられた一台です。モータージャーナリストのまるも亜希子さんが、その実力のほどをレポートします。
2022年に日本再進出を果たしたヒョンデは、モデルラインアップをZEV(Zero Emission Vehicle)のみとし、正規ディーラー網を持たずにインターネットでの販売をメインに行っている韓国の自動車メーカーです。
第一弾のバッテリーEV(以下、BEV)として登場したIONIQ5は、独創的なデザインやラウンジのような室内空間、きめ細かい快適装備の数々と高い走行性能が評価され、アジアブランドとして初めてインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。グローバルでの販売台数で世界3位に躍進したヒョンデが、本気でつくったBEVの実力を見せつけました。
新たに日本に導入されたKONAは、IONIQ5よりコンパクトなSUVで、手頃な価格が魅力的です。そして、決してデザイン優先ではない、使いやすさに配慮したBEVとなっていました。
独創的なデザインながら、若々しくフレンドリー
宇宙船のような、ちょっと奇抜ともいえるデザインのIONIQ5と比べると、ヒョンデらしいモチーフは継承しつつも、街の風景にも馴染みやすく、身近な存在に感じられるデザインとなっているのがKONAです。
でも個性はしっかりと主張しており、BEVらしいグリルレスのフロントマスクには、ドットをちりばめたような光を放つ、ヒョンデならではのピクセルグラフィックが前後バンパーに控えめに配され、未来的な雰囲気をプラス。サイドにはZ字を描くキャラクターラインが大胆に展開されており、タフさや緻密さを伝えてきます。
ドアを開けると、ドライバー中心に配置されたインパネが印象的。メーターからセンターパネルまでつながった、ヒョンデの次世代インフォテインメントシステム、デュアルパノラミックディスプレイが先進的です。一方物理スイッチも多く残されているので、BEVビギナーにもわかりやすいインターフェースです。助手席前の大きなオープントレイや大容量のドアポケットなど、収納スペースも豊富。必要に応じて飛び出してくるドリンクホルダーは、普段は大きな小物入れとしても使えるようになっています。なにもないガランとしたインテリアを採用するBEVもありますが、KONAは従来のガソリン車と同じような感覚で操作できる親しみやすさを感じました。
室内空間全体としては、IONIQ5同様にラウンジのような広さと心地よさを実現。KONAの全長は4.3mほどですが、ホイールベースが2.66mと長く、頭上や足元に広大なスペースが確保されています。車格を超えるような贅沢なサイズの前席ですが、背もたれの厚みが85mmと薄く抑えられているので、後席はスペースがより広く確保されており、足元はフラットでリクライニング機能もあってゆったりと過ごすことができます。
上位グレードには全席にシートヒーターが装備され、快適性はもちろんエアコンによるバッテリー消費を抑えることもできます。
ラゲッジは5人乗車時で466Lと大容量。BEVとしてはフロアが低めで、スッキリとしたフラットな形状です。後席が6:4分割で倒せるので、両方を倒すと容量は1300Lまで拡大します。また、フロントのボンネット内にも27Lの収納スペースがあり、小さなバッグなどを収納することができます。
100Vのコンセントがリヤコンソールに備わり、車内でも車外でもV2L機能が使用可能。V2Hにも対応しています。
余裕たっぷりのパワーと、ヒーリングサウンドも楽しめる走り
KONAにはバッテリー容量が48.6kWhで航続距離が456km(WLTCモード)の「KONA Casual」と、バッテリー容量が64.8kWhで航続距離が541kmの「KONA Lounge」「KONA Lounge Two-tone」、同容量で航続距離が625kmにもなる「KONA Voyage」が設定されています。
今回試乗したのは「KONA Lounge」で、運転席に座ると視界はスッキリと良好。3タイプ選べるインテリアカラーのうち、「ベージュ2トーン」はステアリングの色までベージュになるところが珍しく、華やかな空間となっています。シートはすっぽりと包まれるような形状で、本革らしいしっとりとした感触。BEVだから着座位置が上がっているということはなく、自然なアイポイントだと感じます。
ステアリングコラムに備わっているシフトセレクターは、指でつまんで手前に回すとD、後ろに回すとR。一般的なセレクターとは逆なので、最初は間違えそうになりましたが、大きめで操作はしやすいです。
アクセルペダルに足をのせると、ビュンと出るような違和感はなく、とても自然に加速していきます。モーターの最高出力は150kW、最大トルクは255Nmで、市街地ではまだまだ余裕たっぷりな悠々としたフィーリング。いわゆるワンペダルの操作ができる「i-PEDAL」が新しくなり、加減速のコントロールがしやすく感じます。
停止までアクセルペダルのみで操作できるので、慣れればストップ&ゴーの多い市街地での運転がラク。カーブでの安定感が高く、乗り心地もフラットで快適です。
また、ナビゲーションにAR機能が搭載されており、実際の景色の上に矢印や車線が表示されるので、初めての道でもわかりやすく高速道路のICも迷わずに入ることができました。速度域が上がっていっても、安定感となめらかな加速フィールは変わらず、快適そのもの。
ウインカーを出すと、死角になりがちな斜め後方の様子がディスプレイに映し出されるのはIONIQ5と同様ですが、やっぱり安心感が違うとあらためて感心しました。
ディスプレイから「自然の音」を選択すると、鳥のさえずりや暖炉の炎が燃える音など、さまざまなヒーリングサウンドが流れてきて、いつしか心が穏やかになっていることに気づきます。エンジン音のしないBEVならではのドライブを堪能できました。
使いやすさを追求した装備と日本向け仕様を徹底
KONAが進化したポイントのひとつに、バッテリーの温度管理技術があります。IONIQ5では寒いときに温めるだけでしたが、KONAでは冷やす機能も加わり、さらに適切な温度を保ちやすくなりました。ナビで目的地を設定すると、途中や目的地で充電する頃に、適温になるように自動調整。充電が最も効率よくできるようにしてくれます。
そして充電は最大90kW程度までの急速充電と、6kWの普通充電に対応。充電口はフロント右側に備わっており、スライド式のリッドはわざわざ日本向けに仕様変更しています。
また、ドライブモードが「ノーマル」「エコ」「スノー」「スポーツ」と4つ用意されていますが、ノーマル以外のセッティングは日本向けにチューニングされており、エコはよりスローに、スポーツはよりハードになっているということで、きめ細かい作り込みに感心しました。
回生ブレーキの強さもステアリング左右のパドルシフトで0から3まで4段階に変更することができるので、ドライブモードと組み合わせれば多彩なフィーリングと、効率のよい回生が賢く使い分けられるようになっています。
さらに、先進の安全運転支援装備の充実度も申し分なく、NFCのデジタルキーは8名分まで登録可能なので、大家族や社用車などとしても使いやすくなっています。
日本車と変わらない乗りやすさの輸入BEV
輸入車でBEVともなると、ちょっと構えてしまう人も多いかもしれませんが、ヒョンデのモデルは右ハンドル、右ウインカーで操作性は日本車と同じであり、走行性能や使い勝手にも奇抜なところがないので、日本車からの乗り換えでもすんなりと馴染みやすいモデルだと感じました。
コンパクトサイズながら、ラウンジ空間や大容量ラゲッジも備えており、ファミリーのファーストカーとしても満足度の高い1台です。
撮影:堤 晋一
〈スペック表〉
全長×全幅×全高 | 4355mm×1825mm×1590mm |
車両重量 | 1650~1790kg |
バッテリー総電力量 | 48.6kWh(Casual)/64.8kWh |
一充電走行距離(WLTCモード) | 456km(Casual))/541km(Lounge)/625km(Voyage) |
モーター最高出力 |
99kW/3800-9000rpm(Casual)/150kW/5800-9000rpm(Lounge/Voyage) |
モーター最大トルク | 255Nm/0-3600rpm(Casual)/255Nm/0-5600rpm(Lounge/Voyage) |
駆動方式 | FWD |
税込車両価格 | 約399万~489万円 |
この記事の監修者
まるも 亜希子
カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。