ジープ・アベンジャー。ブランド初EVは、“らしさ”に溢れた軽快な出来

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1941年に米軍兵士をサポートするために生まれたジープ。80年を超える長い歴史の中でも、ひとつの大きな節目になるクルマが登場しました。ジープとして約2年ぶりの新作となるアベンジャーです。2022年末に発売された欧州ではカー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、2024年9月の日本導入発表時点ですでに欧州で10万台を超える受注があったとか。モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがローンチエディションをレポートします。

 

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ひと足早く発売された海外でも高く評価されたアベンジャーは、ジープとして初めてどころか、記憶ではアメリカ国籍のクルマとしても初めての快挙となる、「欧州カー・オブ・ザ・イヤー 2023」をはじめ、多くのアワードを受賞している。

遊び心に彩られた、コンパクトサイズSUV

ドイツのプレミアムブランド勢とは反対で、ジープの属するステランティスは小柄な車種からEV化を進めている。電動化とは縁が遠いようなイメージのあったジープについても、もっとも象徴的な存在であるラングラーがPHEV化されたことに驚いていたら、今度はついに100%EVだ。

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全長が4mあまりで全幅が1.8mを切るボディサイズはジープ最小となるが、一目見てジープとわかるデザインは小さいながらも存在感がある。もちろんジープファミリーの一員として、オフロードを走ることを想定して前後のボトムが路面にヒットしにくい形状にされているほか、フロントの「7スロットグリル」は、衝撃からヘッドランプを保護するよう、前面に張り出して配置されている。

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さらに、リアのジェリー缶を模した「X」のシグネチャー・ライトと「X」をカモフラージュデザインに仕立てた「X-camo」や、隠れキャラクターを内外装のさまざまな部位に配するなど、ジープらしい遊び心も見られる。

 

航続距離は485km。小気味よく、ストレスのない走り

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リチウムイオンバッテリーは54kWhとそれほど大きくないものの、比較的コンパクトで軽いことも効いて、一充電走行距離のWLTCモードは485km(標準グレードは486km)に達している。

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日本発売時点ではEVの前輪駆動のみ、グレードは「アルティテュード」のみで、ボディカラーは無彩色系も含め全4色が選べるが、カジュアルな雰囲気のあるアベンジャーには今回試乗した「サン」がよく似合っている。

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前輪駆動でありながら、ジープブランドの前輪駆動車で初めて6つの走行モードを選べる「Selec-Terrain(セレクテレイン)」と「ヒルディセントコントロール」というオフロードで役立つデバイスが搭載されているのもポイントだ。

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舗装路での走りは、いたって軽快で乗り心地がよく、あまり気になるところもなく、特筆すべきネタがないのだが、それがまさにアベンジャーの特徴だったりする。

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156psと標準的な出力のモーターを搭載していて、加速力もそれ相応だが、普通に走るにはなんらストレスはない。「セレクテレイン」でスポーツモードを選択すると、アクセルレスポンスがいくぶん俊敏になる。ガバッと踏んだときにひと呼吸おいて加速するのは、急激な入力による駆動系への負荷をできるだけ小さくするために、あえてそうしているんだろう、と思う。

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ステアリングの操舵力が軽くて扱いやすく、フロア下にバッテリーを搭載しているので重心が低くて車体の中心近くにあり、前後の慣性が小さく挙動が乱れにくいおかげで、足まわりを硬くしなくてもスイスイと小気味よく走れる。

 

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充実の運転支援機能。悪路に強いのは、さすがオフロードの名門

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最近ではジープも先進装備に相当に力を入れているので、運転支援機能も充実している。ひととおりの機能が搭載されている中でも、アダプティブクルーズコントロールを作動させているときに、任意に設定した車線内の位置を維持して走行する「レーンポジショニングアシスト」というジープならではの機能もあり、高速道路を巡行するのもラクラクだ。

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せっかくなので、房総の南西端にあるアメリカンスタイルのホースクラブにオジャマした。広大な敷地にいくつもの馬場がある中で、特別にメインの馬場にアベンジャーを乗り入れて記念撮影することになった。

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明け方まで降った雨で砂が湿っていたにもかかわらず、セレクテレインを活用すると、あれ、このクルマ4WDだっけ?……と感じたといえばちょっと大げさだが、本当によりラクに走れて感心した。

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セレクテレインには計6つの走行モードが設定されていて、凍結した道路やトレイルで最大限のトラクションを発揮するスノーモード、ぬかるんだ路面でのグリップ力を高めるマッドモード、砂地で最大限のトラクションを発揮するサンドモードなどから選べるようになっている。

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移動の際に少し試してみた程度でも、走行モードを選択したとおり制御が変わることがよくわかったのだが、ここではサンドモードが適していたようで、もっとも走りやすかった。

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さらに、馬場の裏手にある未舗装の場所をちょっと走ってみたところ、これまたけっこう走れて感心した。フロア下のバッテリーを保護するスキッドプレートが装着されているのもジープらしい。

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前輪駆動でもこんなことができるとはさすがはジープ、おそれいった。ジープが持つ豊富なノウハウに緻密に駆動力を制御できるモーター駆動の強みが利いて、こうしたことが実現できたに違いない。急勾配の下り坂ならヒルディセントコントロールが頼りになる。もっと条件の厳しいオフロードではよりありがたみを実感できることだろう。

 

サイズ感と使い勝手は良好。日本市場にも「ちょうどいい」

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日本でも扱いやすい手頃なボディサイズでありながら、車内は意外と広く、後席の居住性もまずまずだ。機能性を考慮したというインテリアは整然としていて、多くの収納スペースが設けられている。

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10.25インチの大型タッチパネルを備えたインフォテインメントシステムのほか、専用のモバイルアプリで車両の位置を特定したり、ドアロックの遠隔操作や車載バッテリーの残量を確認したりできる。

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ラゲッジは355Lの容量があるというとおり十分な広さで、ジープのエントリーモデルながらバンパー下で足を動かすとトランクゲートが開く、「ハンズフリーパワーリフトゲート」が標準装備されるのもありがたい。

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開発者の姿勢も垣間見える、ほどよく肩の力が抜けた一台

「どこへでも行ける。何でもできる。」というジープのDNAが垣間見えた。最新モデルらしく装備は最新ではあるが、乗るとどこかなつかしい感じがした。おそらく開発関係者は「すごいEVを作ってやろう」と躍起になってはいなくて、それがよかったんだと思う。肩の力が抜けた感じがいい。

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リチウムイオンバッテリーは200万kmを超えるほどの走行テストを行ったらしく、信頼性にも期待できる。充電時間は出力6kWの普通充電器で満充電まで約9時間、最大出力50kW以上の急速充電器で80%充電まで約50分と伝えられている。自宅の電源にEVのバッテリーを利用できるV2Hには、残念ながら対応していない。

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日本導入時点で595万円(標準グレードは580万円)という価格は、周囲も同様とはいえやや割高に感じるところだが、2024年度の国からの補助金は65万円だ。電気の力を得た最新のジープをお楽しみあれ。

 

撮影:茂呂 幸正

協力:アマハホースクラブ

モデル:坂本 みわ

 

〈スペック〉
ジープ アベンジャー Launch Edition

全長×全幅×全高 4105mm×1775mm×1595mm
ホイールベース 2560mm
荷室容量 355~1053L
車両重量 1580kg
モーター種類 交流同期電動機
モーター最高出力 156ps(115kW)/4070-7500rpm
モーター最大トルク 270Nm/500-4060rpm
バッテリー種類 リチウムイオンバッテリー
バッテリー容量 54.06kWh
バッテリー総電圧 375V
一充電走行距離 485km(WLTCモード)
電費 128Wh/km(WLTCモード)
駆動方式 FWD
最小回転半径 5.3m
サスペンション 前マクファーソンストラット式/後トーションビーム式
タイヤサイズ 前後215/55R18
税込車両価格 595万円

 

※試乗車両のローンチエディションのスペック。標準グレードは価格や航続距離などが異なります。標準グレードのスペックはこちら

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

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この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。