「EVの保険料はガソリン車より高い」は本当か?保険の専門家に聞いてみた

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【連載:EVのウソ・ホントVol.4】電気自動車(EV)にまつわる噂話を検証していく本連載。第4回目のテーマは、EVの故障や事故などに備えて加入する保険についてです。「EVの保険料はガソリン車より高い」というのですが、これは本当の話なのでしょうか。保険の専門家にこの情報の真偽について聞いてみました。

 

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英国や中国でEVの保険料が高騰って本当? 

計算機の上に置かれた車の模型

画像:iStock.com/AndreyPopov

 

安心して車に乗るためには保険が欠かせません。EV・ガソリン車にかかわらず、多くの自動車オーナーは法律で加入が義務づけられている自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)はもちろん、任意加入の自動車保険(任意保険)にも入っていることでしょう。

この車の保険について気になる話があります。それは「EVの保険料はガソリン車に比べて高い」という噂です。

実際にEVの普及率が比較的高いイギリスや中国では、数年前からEVの保険料が急上昇しているといい、「EVオーナーは保険料の高騰に直面」「EVの保険料が高騰…どうして?」などと一般紙にもニュースとして大きく取り上げられました1、2)

海外ほどではありませんが、国内にも「EVの保険料はガソリン車に比べて割高」だとする見方があり、自動車メディアが「EVの保険料は高い」という噂を紹介したこともあります。

はたして「EVの保険料はガソリン車より高い」というのは本当の話なのでしょうか。保険の専門家にズバリ聞いてみました。

 

 

 

車両保険料は「型式別料率クラス」で決まる

コインの上に置かれた任意保険の文字が書かれた積み木

画像:iStock.com/Seiya Tabuchi

 

話を聞いたのは、損害保険の専門家である京都産業大学経営学部の諏澤吉彦教授です。諏澤さんによると、自賠責保険にも任意保険にもEVだけが高くなるような保険料区分は設けられていないそうで、「一般的にEVもガソリン車も保険料の構造に違いはない」といいます。

 

■諏澤さん(京都産業大学教授)のコメント

保険料率の算出には、「合理的かつ妥当なものでなければならず、また、不当に差別的なものであってはならない」という“3つの原則”があります。EVとガソリン車のリスク格差が統計上認められない、EVとガソリン車の区別が社会的に許容されていないのであれば、両者の保険料率に差をつけることは適切ではありません。不当に差別的であってはならないとの原則に則って考えると、EVとガソリン車の保険料率の考え方・算出方法に違いはないはずです。

 

この考え方は公的な保険の自賠責保険だけでなく、任意保険でも変わりません。諏澤さんは「EV割引はあっても、逆にEVだけが高くなるように明示的に設定したような保険商品、保険会社は、国内において現時点では見当たらない」といいます。

その一方で、幅広いリスクに対応する任意保険の保険料は、運転者や補償内容が同じでも契約車両の型式によって料率が変わります。その算出に適用されるのが、車両ごとのリスクを「1」「2」「3」などのクラス別に設定した「型式別料率クラス」3)です。

 

■諏澤さん(京都産業大学教授)のコメント

任意保険では、車の形状や構造、性能などの特性やユーザー層によって、車の種類によりリスクに差が見られます。そこで、車の型式ごとの「損害率(保険料収入に対する保険金支払いの割合)」に基づいてリスク実態を評価してクラスを決定し、保険料に反映させる「型式別料率クラス」という仕組みが採用されています。

 

自家用乗用車の場合、料率クラスは1から17(軽自動車は1~7)に区分され、クラス1がもっとも保険料が安く(=リスクが低い)、クラス17がもっとも保険料が高く(=リスクが高い)設定されています3)

型式別料率クラスの図

 

また、「対人賠償責任保険」「対物賠償責任保険」「人身・搭乗者傷害保険」「車両保険」の4つの補償内容ごとに、それぞれ料率クラスが設定され、毎年見直しが行われます。

なお、新しく発売された型式については保険データの蓄積がないことから、排気量や新車価格、発売年月などに基づきクラスが決定され(軽自動車の場合は一律クラス4が適用)、約3年経過後に実績に基づいて大幅な見直しが行われます。

この4つの補償内容のなかでも、「EVの保険料はガソリン車より高い」との噂に影響していそうなのが、自分の車が事故や盗難などによって損害を受けた場合に修理費や買い替え費用を補償してくれる「車両保険」です。

 

■諏澤さん(京都産業大学教授)のコメント

任意保険の補償は「対人賠償責任保険」「対物賠償責任保険」「人身・搭乗者傷害保険」「車両保険」がおもな構成要素となっていますが、対人賠償、対物賠償、人身・搭乗者傷害では、おそらくEVとガソリン車で保険料に大きな違いはないでしょう。もし指摘されるようにEVとガソリン車の保険料に違いがあるなら、車両価格が高ければ保険料も連動して高くなる傾向にある車両保険料の可能性があります。

 

車両保険は修理費や買い替え費用を補償する保険なので、修理費が高額になったり盗難の対象になったりするような高級車やスポーツカーは料率クラスが高くなる傾向にあるといいます。

だとすると、車両保険の保険料を決める型式別料率クラスにおいて、EVはどの程度のクラスに設定されているのでしょうか。

 

 

 

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EVとHEVの料率クラスを比較してみると…

自動車保険のパンフレットの上に置かれたお札と計算機

画像:iStock.com/ Yusuke Ide

 

そこで、損害保険会社を会員とする料率算出団体「損害保険料率算出機構」のホームページにある「型式別料率クラス検索」4)を利用し、おもなEVの車両保険の料率クラスを調べてみました。

EVの料率クラスがどの程度なのかをよりわかりやすくするために、最初に同サイズのおもなHEV(ハイブリッド車)の料率クラスを紹介し、その後にEVの料率クラスを紹介します。

なお、保険金支払いの実績がまだ乏しい発売から2年未満のEVは除外し、さらに一番車種が豊富なミドルサイズSUVを対象としました。

 

※保険始期は2025年1月1日~12月31日、車両価格はすべて税込。

 

【おもなHEVの料率クラス】

 

トヨタ「RAV4」(型式「AXAH54」)

車両価格 料率クラス
385万9900円〜433万2900円 5) 7

 

トヨタ「ハリアー」(型式「2WD:AXUH80/4WD:AXUH85」)

車両価格 料率クラス
411万9000円〜514万8000円 6) 9(2WD) /10(4WD)

 

日産「エクストレイル」(型式「2WD:T33/4WD:SNT33」)

車両価格 料率クラス
360万1400円〜475万2000円 7) 10(2WD) /12(4WD)

 

レクサス「NX350h」(型式「2WD:AAZH20/4WD:AAZH25」)

車両価格 料率クラス
550万円〜687万6000円 8) 9(2WD) /10(4WD)

 

【おもなEVの料率クラス】

 

トヨタ「bZ4X」(型式「2WD:XEAM10/4WD:YEAM15」)

車両価格 料率クラス
550万円〜650万円 9) 10(2WD)/11(4WD)

 

日産「アリア」(型式「2WD:FE0/4WD:SNFE0」)

車両価格 料率クラス
659万100円〜860万3100円 10) 11(2WD) /15(4WD)

 

BYD「ATTO 3」(型式「SC2EXSQ」)

車両価格 料率クラス
450万円 11) 14

 

テスラ「モデルY」(型式「2WD:YL1YT/4WD:YL3YT・YL3YPT」)

車両価格(参考) 料率クラス
563万7000円〜 727万9000円 12) 17(2WD) /14(4WD)

 

ご覧のように、EVの料率クラスは軒並み「クラス10」以上に区分されています。HEVが350万~500万円中心、EVが500万〜700万円中心と車両価格に違いもあり、全体としてEVの料率クラスのほうが高く設定される傾向にあるのは事実のようです。

 

 

 

EVの保険料が高い原因のひとつは修理費?

項目の書かれた紙の上に置かれた車の模型

画像:iStock.com/ Yusuke Ide

 

なぜEVの車両保険の料率クラスはガソリン車に比べて高めに設定される傾向にあるのでしょうか。たしかに先ほどの比較ではEVのほうが車両価格は高めでしたが、理由はそれだけではないようです。

HEVのなかには、先ほどのEVと同じく車両価格が500万〜600万円台なのに料率クラスが「10以下」の車種も見受けられます。

たとえば、トヨタ「アルファード」のHEVモデルは車両価格510万円〜882万円13)ですが、料率クラスは「9/10」です。諏澤さんは、その理由を「EVの修理費が影響している可能性がある」と指摘します。

 

■諏澤さん(京都産業大学教授)のコメント

EVは大容量バッテリーなど高価な部品を使っていたり、一部メーカーは先進的な車体製造工法を使っていたりします。そのため、ガソリン車に比べて修理期間が長くなり、修理費がかさむ可能性はあるでしょう。修理費がかかって支払い保険金が増え、損害率が高くなれば、その実績から料率クラスが高くなります

 

実際にイギリスにおけるEVの保険料高騰をニュースとして取り上げた英大手紙「ガーディアン」も、修理費がEVの保険料高騰に影響を及ぼしている可能性について言及しています1)

さらに、諏澤さんは「台数が多くないことから修理費が割高となっている可能性や、統計データの少なさから損害率が安定していない可能性もあるのではないか」といいます。

EVは発売されてまもない車種が多く、また、年間の販売台数が1000台に満たない車種(型式)も少なくありません。逆にいえば、EV 普及が今後進めば料率クラスも下がっていく可能性があります。

ちなみに、2010年から2017年まで7年近く販売されていた初代の日産「リーフ(ZE0)」の料率クラスは「7」です。EVだからといって一様に保険料が高くなるというわけではなく、あくまでその車両の損害率、過去の保険金支払いの実績によるわけです。

そもそも、EVの車両保険料がガソリン車より高いとしても、燃料代(充電代)などのランニングコストはEVのほうがガソリン車より安く済むことが多く、税金にも優遇措置があります。EVもガソリン車もそれぞれメリット・デメリットがありますから、自分がどのように使いたいかを考えて車を選ぶことをおすすめします。

 

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

 

この記事の監修者
鈴木 ケンイチ
鈴木 ケンイチ

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。