蓄電池の寿命は何年が目安? カタログでチェックすべきポイントや長持ちさせる工夫も解説

家庭用蓄電池の導入を検討するときに、「寿命は何年くらい?」と疑問に思う人もいるでしょう。しかし、蓄電池の寿命は他の家電製品と違って、「性能が下がっても実用に耐えられる状態かどうか」という視点で考えることが重要です。今回は、蓄電池の寿命を考える際のポイントや、買い替え・交換のタイミング、長持ちさせるための工夫などについて解説します。

 

 

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蓄電池の「寿命」とは

画像:iStock.com/Eoneren

 

家庭用蓄電池の寿命は使用環境にも左右されるため、一概に断定することは難しいものですが、貯められる容量(SOH)が減少し、通常の使用が難しくなる状態と考えるのがよいでしょう。蓄電池は、あるとき急に故障して使えなくなるというよりは、徐々に貯められる容量が減っていくという特徴があります。 イメージとしては、スマートフォンのバッテリーが、経年劣化により充電できる最大容量が減り、満充電(100%)でも使用できる時間が短くなることを想像するとわかりやすいでしょう。

蓄電池の寿命を考える際の指標としては「耐用年数」と「サイクル寿命」の2つがあります。それぞれの違いについて説明します。

 

 

耐用年数

国税庁によると、「蓄電池電源設備」の減価償却資産としての法定耐用年数は6年間1)とされています。ただし、法定耐用年数とは、税法上、資産価値がなくなるまでの期間ですので、機器自体の寿命とは考え方が異なります。そこでメーカーが設定している「機器保証」や「容量保証」に基づく使用可能期間として、一般的に10〜15年が“耐用年数”と言われています(詳しくは後述します)。

 

 

サイクル寿命

蓄電池の残量がゼロの状態から満タンに充電し、すべて使い切るまでの充放電の流れを1サイクルと呼びます。

 

サイクル数は蓄電池の種類によって異なりますが、ほとんどの家庭用蓄電池に採用されているリチウムイオン電池のサイクル寿命は、一般的に6000~1万2000回程度と言われています。また、リチウムイオン電池にも正極材に使われる物質により種類があり、三元系リチウムイオン電池よりもリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池のほうが長寿命でサイクル数は多くなります。なお、京セラの半固体クレイ型リン酸鉄リチウムイオン(LFP)蓄電池やダイヤゼブラ電機のチタン酸リチウムイオン(LTO)蓄電池2)などの一部の蓄電池は、サイクル数が2万回にもおよびます。

たとえば、サイクル数が1万2000回の蓄電池を1日に1サイクル充放電する場合、その寿命は1万2000回÷365サイクル/年=約33年となります。このように、蓄電池の寿命はサイクル数に大きく左右されるのです。

このように「耐用年数」と「サイクル寿命」にはそれぞれ異なる考え方がありますが、実際の使用環境やメーカー保証を踏まえると、家庭用蓄電池の一般的な寿命はおおよそ10〜15年程度と考えるのが現実的です。

 

 

蓄電池の種類

前述したとおり、サイクル寿命は蓄電池の種類によっても異なります。たとえば、自動車の12V補機用バッテリーには鉛蓄電池が多く使われていますが、サイクル寿命は500~3000回程度です。これに対して、リチウムイオン電池は、6000~1万2000回程度とされています。ナトリウムと硫黄を使ったNAS電池は約4500回、ハイブリッド車(HEV)などにも使われるニッケル水素電池は約2000回となっています。

ほとんどの家庭用蓄電池はリチウムイオン電池が採用されていますが、今後、技術がさらに進化すると、より長寿命で高性能な蓄電池が新たに開発されるかもしれません。

 

カタログでの「蓄電池の寿命」のチェックポイント

画像:iStock.com/ bsd studio

 

こうした蓄電池の寿命を確認するには、どうすればよいのでしょうか。蓄電池のカタログや仕様書でチェックすべきポイントを説明します。

メーカーは、蓄電池の機種ごとに「容量保証」や「サイクル期待寿命」といったデータを公表している場合があります。これらを調べることで、蓄電池の寿命の目安を知ることができます。なお、容量保証やサイクル期待寿命は、同じメーカーでも機種によって異なる場合があります。

 

チェックポイント① 容量保証

容量保証とは、通常の使用による経年劣化によって、電気を貯められる容量が初期容量の一定割合を下回った場合、メーカーが製品の交換や修理を無償で行う保証のことです。

たとえばパナソニックの蓄電池ユニットの場合、機種により異なりますが、保証期間は10年または15年、保証容量は約55~70%となっており、それを下回った場合には「無料で修理対応する」3)といった記載があります。

保証期間や割合は、メーカーや機種によって異なります。一般的には、保証期間は10〜15年、容量の割合は50〜60%が多いです

 

 

チェックポイント② サイクル期待寿命

前述のとおり「サイクル寿命」とは、0%→100%→0%の充放電、いわゆるフル充放電(1サイクル)を繰り返したとき、どのくらいの回数、通常の使用ができるかを示す指標です。

一方、「サイクル期待寿命」はその名のとおり、「期待できるサイクル寿命」という意味で、通常の使用ができる状態とはSOHが60%以上であることが一般的です。

ただし、これはメーカーが特定の条件で試験をした場合の“期待値”であり、実際に家庭で使用する場合には環境が異なります。そのため、サイクル期待寿命はメーカーが保証した寿命ではありません。あくまで目安と考えるのがよいでしょう。

 

 

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【コラム】容量60%だとどのくらい使える?

画像:iStock.com/ Evgen_Prozhyrko

 

蓄電池の容量保証では、初期容量の60%が保証されるケースが一般的です。この「容量保証60%」はどのくらいの容量なのかイメージできますか?

蓄電池の容量は「kWh」で表します。たとえば、ミドルクラスの容量6kWhの蓄電池の場合、60%の容量は3.6kWhです。この容量は、普段どおりの暮らしを送るための一日分の電力量としては十分ではないかもしれません。しかし、停電などの非常時に、1〜2部屋の照明を一定時間つけたり、スマートフォン2〜3台を充電したりすることは可能でしょう。

このように、電池容量の60%を不十分と考えるかどうかは、蓄電池の目的・用途によって変わります。蓄電池は多目的に利用できるからこそ、使用シーンをしっかりとイメージして導入することが大切です。

 

主要メーカー6社の蓄電池における保証内容と寿命の比較

国内の主要な家庭用蓄電池メーカー6社について、10kWh前後の蓄電池をピックアップして、容量、初期実効容量、容量保証、サイクル期待寿命を一覧表で比較します。メーカーによってそれぞれの内容が異なるため、事前にしっかりチェックしておきましょう。

なお、初期実効容量とは、工場出荷時の蓄電池が、実際に充放電できる容量のことです。安全や劣化抑止のために一部使われずに残される容量(マージン)を含まないため、実際に使える容量を指します。

 

※以下、メーカーを50音順で掲載しています。

 

メーカー(機種) 容量 初期実効容量 容量保証(SOH) サイクル期待寿命
オムロン(KP-BU98B-2S)4) 9.8kWh 8.3kWh 15年(60%以上) 11,000サイクル
京セラ(EGS-MC1100)5) 11.0kWh 9.4kWh 15年(50%以上・サイクル制限なし) 20,000サイクル
シャープ(JH-WB2021)6) 9.5kWh 8.3kWh 10年(60%以上)※1 非公表
長州産業(CB-LMP98A)7) 9.8kWh 8.3kWh 15年(60%以上) 非公表
ニチコン(ES-E1L1)8) 9.7kWh 8.6kWh 15年(50%以上)※2 非公表
パナソニック(LJB1335+LJB2363)9) 9.8kWh 7.3kWh 10年(約55~60%)※3 非公表

※1 有償で15年(60%以上)
※2オーナーズ倶楽部に登録の上、申請を行うことで保証期間を15年に延長することが可能
※3 有償で15年(約55~60%)

 

 

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買い替え・交換のタイミング

前述したとおり、蓄電池は耐用年数やサイクル期待寿命を超えたとしても、使用すること自体は可能です。では、買い替えや交換のタイミングの判断はどのようにすべきなのでしょうか。

画像:iStock.com/ mrgao

 

保証期間を目安にする

買い替えや交換のタイミングの目安になるのが、保証期間です。蓄電池はメーカーや機種によって、10年間や15年間といった保証期間が設定されています。これを過ぎると、経年劣化によって蓄電池の容量が一定割合を下回っても、修理などの対応が有償になってしまいます。こうしたコストを考えると、保証期間の満了にあたって買い替えや交換を検討するのが賢明です。

 

エラーや異常が見られる場合は速やかに対応を

蓄電池に何らかの異常が見られるときも、買い替えや交換を検討すべきだといえます。 たとえば、リモコンにエラー表示が出たり、蓄電池からの異音や異常な発熱が見られたりする場合には、メーカーや工事店に連絡し、速やかに対応を検討するのがよいでしょう。

 

蓄電池を長持ちさせる3つのポイント

蓄電池は暮らしを守るための大切な設備ですが、決して安い買い物ではありません。 一度蓄電池を導入したら、大切に使ってできるだけ長持ちさせたいものです。 蓄電池を長持ちさせるため、導入する際や日々の使い方で気をつけたいポイントを3つご紹介します。

 

推奨される設置環境で使用する

各メーカーは、温度や湿度といった蓄電池の設置環境を指定しています。たとえば、長州産業の場合、蓄電池を使用する周囲の温度に関しては-10〜45℃を指定しています7)。直射日光の当たらない場所や高温・低温ではない場所などが設置に適した環境です。

内部の化学反応を利用するリチウムイオン電池は、温度変化の影響を受けやすく、低温では性能が低下し、高温では劣化が進み寿命が短くなるおそれがあります。とくに、近年は猛暑で気温が極端に高くなることもあるため、直射日光の当たらない場所など、設置場所の選定にあたっては工事店などとよく相談するようにしましょう。

 

ライフスタイルに合った容量を選ぶ

自宅で使用する電気の量に対して、極端に容量が小さい蓄電池を選んでしまうと、蓄電池が1日に何度も充放電を繰り返すことになります。蓄電池の寿命はサイクル数に影響を受けるため、充放電を頻繁に繰り返すと寿命が短くなります。

こうした事態を避けるため、蓄電池をどういった使用パターンで使うかイメージを具体化し、ライフスタイルに合った容量を選ぶことが大切です。

たとえば、太陽光発電を設置している場合、昼間の余剰電力で蓄電池に充電し、貯めた電気を夜間に放電して使用すると1日1サイクルとなります。この際、太陽光発電の容量と昼間に使用する電力量から、1日にどのくらい余剰電力量が出るのかを参考にして蓄電池の容量を決めるとよいでしょう。

 

長時間の満充電・充電切れは避ける

種類によっても異なりますが、一般的にリチウムイオン電池は、満充電(100%)の状態や充電切れ(0%)の状態のまま長い時間放置していると、寿命が短くなる傾向があるため、なるべく避けるほうがよいでしょう。ただし、ほとんどの蓄電池では劣化を抑制するための対策が施されているため、ユーザーが過度に注意を払う必要はありません。知識として知っておくとよいでしょう。

 

 

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「蓄電池の寿命=実用できる期間」であることを認識しよう

蓄電池の寿命は、充放電のサイクル数に影響されるため、明確に何年と決めにくいものの、一般的にはメーカーが容量を保証する10〜15年間といえます。

この期間を過ぎても、蓄電池をすぐに使えなくなるわけではありませんが、使い勝手が悪くなったり、期待する効果を得にくくなったりする可能性があります。つまり、蓄電池の寿命とは実用に耐える最低ラインであるといえます。蓄電池の購入を検討する際は、こうした特徴をしっかりと理解して、長く使えるかどうかをシミュレーションしてみるとよいでしょう。

 

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
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