エコキュート「開発と進化」の歴史〜国内累計出荷台数1000万台到達〜

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空気に含まれる熱を使って効率よくお湯を沸かすヒートポンプ式給湯機「エコキュート」の累計出荷台数がついに1000万台に到達しました。誕生から20余年、なぜエコキュートはこれほど多くの方に支持されてきたのでしょうか。当時の開発担当者へのインタビューをもとに、エコキュートの「開発と進化」の歴史を紹介します。

エコキュート

時代の要請によって生まれたエコキュート初号機

エコキュートの初号機・写真提供:(株)デンソー

 

累計出荷台数1000万台到達という数字が示すとおり、エコキュートは日本の家庭に広く普及している給湯機です。戸建住宅世帯における使用率はじつに約3割に達します1)。

なぜエコキュートはこのように広く普及したのでしょうか。カギを握るキーワードのひとつは「省エネ(※1)です。

 

※1:「省エネルギー」の略。限りあるエネルギー資源がなくなってしまうことを防ぐため、エネルギーを効率よく使うことを指す。エネルギーの安定供給確保と地球温暖化防止の両面の意義をもっている。

 

東京電力、電力中央研究所、デンソーの3社によるエコキュートの共同開発がスタートしたのは1998年秋のこと。まもなく「環境の世紀」とされる21世紀になろうとしていた時期でした。

第二次オイルショックを契機に制定された「省エネ法」が改正され、家電製品などのエネルギー消費機器に「トップランナー制度」が導入されたのはこの年のことです。前年の1997年にはCOP3で「京都議定書」が採択され、翌年の1999年には省エネ法に基づき住宅の「次世代省エネルギー基準」が制定されました。

当時は「カーボンニュートラル」という概念がまだ一般的ではなく、温室効果ガス削減と省エネがほぼ同義でした。1990年代終わりから「環境の世紀」を迎えた2000年代初頭にかけて、まさしく省エネこそが“時代の要請”だったといえるでしょう。

そうしたなかで2001年に東京電力などが実用化を発表したのが、世界初の家庭用自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯機、エコキュートの初号機でした。エコキュートは時代の要請によって誕生し、大幅な省エネと地球温暖化防止の時代を切り拓いた画期的な給湯機なのです。

しかし、エコキュートが誕生するまではさまざまな困難もありました。そこにはどんな努力や思いがあったのでしょうか。当時、エコキュート初号機の開発に携わった東京電力エナジーパートナーの草刈和俊へのインタビューをもとに振り返っていきます。

 

 

 

CO2冷媒との出会いでエコキュート開発がスタート

草刈和俊。東京電力に入社し、埼玉支店 工務部建築グループを経て、1998年夏に本店営業部DSM推進センター都市・生活システム部 生活営業グループに配属。エコキュートの初号機から少人数世帯専用「エコキュート・ライト」まで直接開発に関わる。

 

エコキュートの開発は、草刈の先輩社員が偶然目にしたひとつの円グラフが出発点だったといいます。住環境計画研究所「家庭用エネルギー統計年報」の1998年版(関東)にあった「家庭用用途別エネルギー消費の割合」を示した円グラフです。

当時の家庭では、給湯分野が家庭でのエネルギー消費全体の3分の1以上を占めていたわけです。このときのことを草刈はこう振り返ります。

「次世代省エネルギー基準により住宅が高気密・高断熱化して空調負荷は低減し、トップランナー制度の導入によって家庭の電化製品の省エネルギー化も進んでいく。これが当時の私たちの認識でした。しかし、家庭のエネルギー消費で3分の1以上を占める給湯分野には抜本的な対策が何も打たれていなかったのです。

環境の世紀、省エネの世紀である21世紀の家庭部門は、給湯分野の省エネルギーがきっと大きな課題になる。ヒートポンプの技術を使ってお湯を沸かせば、家庭部門の給湯エネルギー消費率を必ず減らすことができる…。円グラフを見た先輩社員がそう考えたのがエコキュート開発の原点でした」

しかし、ヒートポンプ式給湯機の開発には大きな“壁”がありました。それはエコキュートの正式名称にもある「冷媒(※2)」です。

 

※2:熱エネルギーを運ぶ役割をはたす物質のこと。冷媒を使用する代表的な電化製品にエアコンや冷蔵庫がある。空気の熱をくみ上げて冷却や加熱を行うヒートポンプ技術が使われ、熱をくみ上げるときに冷媒を利用する。

 

〈図〉エコキュートの内部構造

 

従来のフロン系冷媒は人工的に化学合成された物質で、沸き上げ温度は60〜65℃が限界でした。この温度では貯湯タンクが大きくなり設置場所に困ってしまいます。ヒートポンプ式給湯機を普及させるためには、もっと高温の沸き上げ温度が必要でした。

フロン系冷媒でもっと高温のお湯をつくるには、足りない分の温度を電気ヒーターで沸き増すしかありません。しかしそれではどうしても効率が悪化してしまいます。どうすればヒーターをなくすことができるのか…。行き詰まりかけていたとき、先輩社員が打ち合わせ先の電力中央研究所で思わぬ情報を耳にします。

それは「自然冷媒のCO2なら最高90℃のお湯をヒートポンプで沸かすことができる」というものでした。電力中央研究所は1995年からCO2冷媒の基礎的研究を開始していたのです。

「『これはもしかすると…』と思いましたね。結果的に話が一気に進み、このCO2冷媒との出会いがエコキュートの開発につながっていくのです。ただ、開発のパートナー探しには苦労しました。当時の生活エネルギー分野の状況では、ヒートポンプ式給湯機の開発はメーカーにとってリスクが伴うものだったからです。

そうしたなかで、パートナーとなってくれたのがカーエアコン用のCO2冷媒の研究を行っていたデンソーでした。こうして東京電力、電力中央研究所、デンソーの3社による共同研究開発としてエコキュートの開発が1998年秋にスタートしたのです」

 

 

エコキュート

 

徹底した開発の末の実用化。省エネ大賞受賞も

電力中央研究所での研究風景(写真提供:電力中央研究所)

 

しかし、約2年の開発期間は数々の苦難の連続でした。東京電力による“要求性能の提示”、デンソーの“製品開発”、電力中央研究所による“評価とフィードバック”というサイクルが何度も繰り返され、連日深夜になるまで議論が交わされたそうです。

とくに開発担当者の草刈がこだわったのが機器のサイズでした。

「エコキュートを普及させるには、初号機で東京など都市部の狭あいな住宅にも設置可能であることを示す必要がありました。販売台数が増えて住宅メーカーの採用が進めば、住宅の設計者がエコキュートの設置場所を配慮してくれるようになります。

ところが、最初に試作機をつくったときは、機器の筐体の大きさが六畳一間くらいあったのです。ただ、そんな試作機でも、90℃のお湯が火傷しない程度にチョロチョロと出てくるわけです。みんな感動していましたね。『おお、沸いた!』って」

こうした多くのトライアンドエラーを重ね、前述のようにエコキュートは2001年1月に実用化が発表されます。翌年の2002年には、国が支援・主催の「第12回省エネ大賞」、それも同賞の最高評価にあたる「経済産業大臣賞」を受賞しました。

「2002年は省エネ大賞受賞だけではなく、政府によるエコキュート導入補助金制度の実施がスタートし、大手ハウスメーカーによるエコキュートの標準採用も始まりました。“エコキュートの需要拡大の手応えをつかんだのはいつだったか?”と質問されたら、間違いなく“2002年だった”と答えると思います」

 

性能の進化とともに販売は加速。さらなる進化へ

 

当然ながら性能も大きく進化しました。たとえば、もともと高効率給湯機のエコキュートは発売当初から効率のいい給湯を実現していましたが、現在では中間期のCOP(エネルギー消費効率)が1.5倍に向上しました。

また、貯湯式の給湯方式を採用するエコキュートはガス給湯器に比べてシャワーなどの水圧が弱い傾向がありましたが、よりパワフルな超高圧型や水道直圧給湯方式も登場するなど、その不安は解消されつつあります。

そして、性能の進化とともに出荷台数もどんどん伸びていきました。2007年度に早くも累計出荷台数が100万台を突破し、2009年度には200万台、2015年度には500万台、2021年度には800万台を突破…と、まるで倍々ゲームのように広く普及していったのです。

〈図〉エコキュートの国内累計出荷台数の推移

 

ただし、エコキュートを取り巻く環境もこの20余年の間に変化しました。なかでもその最たるものが、2015年に採択された「パリ協定」を契機に、時代の要請が「省エネ」から「脱炭素社会(カーボンニュートラル)の実現」へと大きく変わったことでしょう。

カーボンニュートラルを実現するには、太陽光発電などの再生可能エネルギーを最大限に活用することが重要です。この時代の要請によりエコキュートも進化する必要がありました。

そこでエコキュートの開発当時に倣い、東京電力エナジーパートナーと電力中央研究所がメーカーと連携して共同開発したのが、2022年2月に発表された「おひさまエコキュート」です。

 

 

 

エコキュート

 

高効率給湯機エコキュートはさらに進化を続ける

 

おひさまエコキュートは、太陽光発電を導入している家庭向けに太陽光発電でつくった電気の自家消費を促進するために開発されたエコキュートです。

エコキュートの開発担当者である草刈は、その進化版である「おひさまエコキュート」の特徴についてこう説明します。

「おひさまエコキュートは、いずれも再生可能エネルギーである“太陽光"と"空気の熱"をダブルで利用するいわば『再エネ型給湯機』です。また、従来のエコキュートはおもに夜間の時間帯にお湯を沸き上げますが、おひさまエコキュートはおもに昼間の時間帯にお湯を沸き上げます。昼間に稼働すれば、夜間よりも暖かい昼間の空気の熱を利用できるため、ヒートポンプの効率が向上するとともに、お湯を使うまでの時間が短いので貯湯タンクの放熱ロスがより小さくなります。

つまり、おひさまエコキュートは『再エネ型給湯機』であると同時に『進化した高効率給湯機』なのです。さらには、再エネ大量導入時代に太陽光発電の余剰電力を吸収する『DR(※3)型給湯機』でもあります」

 

※3:「デマンドレスポンス」の略で、電気の需要(消費)と供給(発電)のバランスをとるために電気を使う側が使用量を制御すること。たとえば、太陽光発電の導入拡大によって電力供給が過剰となった場合には、エコキュートやEV・蓄電池などで需要を増やし電気の需給バランスを維持する。

 

なお、従来のエコキュートにも今後は機器を自動で制御するタイプのDRに対応する機種が登場する方向だといいます。累計出荷台数1000万台に到達したエコキュートは、この先もカーボンニュートラル時代の高効率給湯機として、さらなる進化を遂げていくことでしょう。

 

 

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