フォルクスワーゲン・ID.Buzz ポップで便利、現時点で日本唯一のEVミニバン

 

往年の“タイプ2”のヘリテージを継承したフォルクスワーゲン“ID.Buzz”が、2025年6月にジャパンプレミアとなりました。ユニークなデザインは、まさに“現代版ワーゲンバス”といえるもので、発表時点で日本国内における唯一※のEVミニバンの誕生となります。標準ホイールベースとロングホイールベースがあり、いずれも後輪駆動で500km台の一充電走行距離を実現しています。その魅力をモータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。

※2025年6月現在。メーカー調べ

 

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フォルクスワーゲンといえば、「真面目」というイメージが強く、クルマのデザインも控えめで端正なものが大半だ。ところが歴史をふりかえると、かつては「ビートル」と呼ばれる「タイプ1」や「ワーゲンバス」と呼ばれる「タイプ2」のように、ユニークなデザインのクルマが長いこと主役だった。

 

8年越しで日本上陸。真面目なメーカーの遊び心に溢れたクルマ

同じメーカーなのに、いつからどうしてこんなに変わったのかはわからないが、いまでは「真面目」を極めているフォルクスワーゲンだからこそなおのこと、ID.Buzzのようなクルマが出てくると、より与えるインパクトは大きくなる気がする。

 

ID.Buzzのコンセプトカーが初めて公開された2017年の北米デトロイトショーには筆者も取材に行っていて、ワーゲンバスのイメージに未来を重ね合わせたという展示車を見て非常に興味を持った。てっきりショーカーだと思っていたら実際にEVのバンとして市販する計画で、しかも完全自動運転モードを備え、LEDの「目」を駆使して周囲とコミュニケーションをはかることもできると聞いて驚いたものだ。

 

さすがに完全自動運転の道は遠いとして、ID.Buzzが現実のものとなるまでには少々時間を要したが、市販モデルは2022年の3月に本国で発表され、5月に欧州で予約販売が始まり、6月からフォルクスワーゲンの商用車部門であるハノーバー工場で生産が開始された。

 

そうと聞けば、もうしばらくしたら日本にも入ってくるものと思いきや、気がつけば初めてコンセプトカーを目にしてから8年あまり、本国で売り出されてから3年あまりも時間が経っていたわけだが、なにはともあれ日本で正式に発売されてくれてよかった。

 

900万円弱〜。実は値頃感のある、戦略的な価格設定

それも当初のコンセプトカーからイメージをあまり変えることなく、また価格も本国価格を日本円に換算すると下限が1000万円を超えてもおかしくないところ、888万9000円~と、手頃とはいえないまでも、だいぶ下回る価格とされたことを心より歓迎したい。

 

ひとめその姿を見たら老若男女を問わず誰だって「かわいい!」、「乗りたい!」と笑顔になるに違いない。大きなフォルクスワーゲンロゴやLEDヘッドライトの間でツートンカラーの色分けのラインにもなっているV字型のパネルを備えたフロントフェイスに、そのデザインを際立たせるカジュアルなカラーコーディネートなどは、“タイプ2”をよく知らない若い人にとっても魅力的に見えるはずだ。

 

見て楽しく、乗ってさらに楽しいのもID.Buzzのいいところ。商用車由来ゆえシンプルなインテリアも外観と上手くコーディネートされていて、ポップな雰囲気で居心地がいい。

 

ディスプレイ類が他のフォルクスワーゲン車と違って小ぶりなのも、この雰囲気をできるだけ崩さないためにあえてされているようだ。

 

樹脂製のドアトリムなどは雨に濡れてもサッと拭いてキレイにできる。ホーンがドイツ車に多い威圧感のある音ではなくやさしい音なのもID.Buzzには似合っていて、車内外のいろいろなところにID.Buzzのマークがあしらわれている。

 

発売時のラインアップは、シートレイアウトが2-2-2の6人乗りのNWB(ノーマルホイールベース)と、ホイールベースと全長を250mm伸ばした2-3-2の7人乗りのLWB(ロングホイールベース)となり、100万円あまりの価格差となる。

 

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国産ミニバンを凌駕する、圧倒的な広々空間

いずれも最高出力は286psで、バッテリーの総電力量はNWBが84kWh、LWBが91kWh、一充電走行距離はそれぞれ524kmと554kmと、気の合う仲間や家族を乗せて遠出するにも十分な距離が確保されている。

 

今回試乗したのは後者の「Pro Long Wheelbase」だ。大柄な車体のおかげで車内は広々としていて、ホイールベースが同じまま後ろだけ伸ばすのではなくホイールベースごと延長されているので、2列目だけでなく3列目の足元もかなり広い。

 

頭上一面に広がるパノラマガラスルーフが開放感を味わわせてくれて、好みに応じてワンタッチで遮光することもできる。90kWhを超えるバッテリーが積まれているのでフロアが高めなことで、より空が近く感じられる。

 

2列目の側面窓には、“タイプ2”由来のものを現代風にアレンジしたという電動開閉できるスライディングウインドウが設けられているのも独特だ。

 

シートアレンジも多彩。日本のお家芸に肉薄する実力

 

バッテリーをフロアに敷き詰めているおかげで、走りも見た目からイメージするほど重心が高い感覚がなく、トレッドが広いので安定している。ドライブフィールは世の箱型ミニバンとは一線を画している。静かでなめらかでトルクフルな走りもEVミニバンなればこそ。ドライブモードは、エコ、コンフォート、スポーツ、カスタムが選べる。

 

車内を使い方にあわせて自在にアレンジできるのもID.Buzzの強みだ。ボードを駆使して後席部分をフルフラットにしたり、いざとなれば3列目シートを取り外したりもできる。

 

LWBの荷室容量は最大で実に2469Lにも達するというから相当なものだ。これは日本のMクラスミニバン1.5倍超に相当する数字で、乗用車でそこまで広いスペースを確保できるクルマなどそうそうない。

 

真面目なフォルクスワーゲンが最新の電動化技術を投入して送り出した21世紀のワーゲンバスは、見てのとおりの魅力的なデザインはもとより、EVミニバンであるがゆえに実現できた走りと実用性を身につけている。これから日本の風景の中で見かける機会がどんどん増えていくだろうが、そのたび目で追ってしまいそうだ。

 

撮影:宮越孝政

 

フォルクスワーゲン ID.Buzz Pro Long Wheelbase(パノラマガラスルーフ装着車)

全長×全幅×全高 4965mm×1985mm×1925mm
ホイールベース 3240mm
車両重量 2730kg
乗車定員 7名
最小回転半径 6.3m
モーター種類 永久磁石交流同期電動機
最高出力 210kW(286ps)/3581-6500rpm
最大トルク 560Nm(57.1kgm)/0-3581rpm
バッテリー種類 リチウムイオン電池
バッテリー総電力量 91kWh
バッテリー総電圧 383V
一充電走行距離 554km(WLTCモード
電費交流電力量消費率 173Wh/km(WLTCモード)
駆動方式 RWD
サスペンション 前 マクファーソンストラット/後 4リンク
タイヤサイズ 前235/50R20 後265/45R20
税込車両価格 997万9000円~

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。