【図解】EVシフトを加速させる「eアクスル」とは?仕組みやメリット、普及の背景を徹底解説

eアクスル

電気自動車(EV)の構造は、エンジン車に比べてシンプルで部品点数が少ないと言われています。特に、エンジンがモーターに置き換わることで、構造がシンプルになっているのです。近年、その「モーター」と電力を制御する「インバータ」やタイヤに繋がる「トランスアクスル」などの装置を一体化した、「eアクスル」と呼ばれる動力装置がトレンドとなっています。この記事では、いま話題の次世代動力装置eアクスルの仕組みやメリット、普及の背景を解説します。

 

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EVシフトを加速させるeアクスルとは?

「2050年のカーボンニュートラル実現」に向けて、世界各地でEVシフトが加速しています。EVの普及に向けた課題の一つが、手ごろな価格で販売するための生産性の向上です。そこで重要となるのが、EVの量産化であり、それを可能にするのが「eアクスル」だと言われています。

果たして、この言葉が意味するものとは何なのでしょうか。まずは、EVが走る仕組みや駆動の構造から整理してみましょう。

EVのパワートレインを構造する主な4つの部品

EVの動力源である「パワートレイン(タイヤを駆動させるために必要な部品群)」を構成するのは、大きく分けると、①電気を貯めるバッテリー、②電力を制御するインバータ、③電力を回転力に変換するモーター、④モーターの回転を適切に減速してタイヤに伝えるトランスアクスル(トランスミッション)、といった4つの部品です。

〈図〉EVのパワートレインの簡略図

〈図〉EVのパワートレインの簡略図

 

自動車メーカーは、こうした部品をサプライヤーと呼ばれる外部の企業から購入したり、自社で製造したりしてEVを生産しています。その過程では、部品同士の相性が問題になることもあります。また、実際に車体に組み付けることを考えると、事前にアッセンブリー(一体化)しておく必要もあります。

eアクスルは、パワートレインに必要な部品を一体化させたもの

自動車メーカーでは、相性のよい部品を選んだり、アッセンブリーしたりする工程が必要になるわけですが、これらの作業を大幅に省略してくれるのが、eアクスルです。

具体的には、②インバータ、③モーター、④トランスアクスル(トランスミッションとデファレンシャルギアを一体化した動力伝達機構)、の3つを一体化したものをeアクスルと呼んでいます(詳しくは後述)。

ただし、自動車メーカー自身がアッセンブリーして製作した部品はeアクスルと呼ぶことはなく、主にサプライヤーが手がけたものをeアクスルと呼びます。

eアクスルのメリットは、前述した部品同士の相性問題をクリアできている点にあります。トランスアクスルは、“歯車の塊”と言える部品ですが、組み合わせるモーターの特性によって歯車に求められる強度は変わってきます。

自動車メーカーが仕様を決めて、それぞれの部品メーカーに発注するよりも、モーターや歯車のノウハウに長けたサプライヤーが、特性に合わせた部品を組み合わせてeアクスルとしてパッケージングして製品化したほうが、自動車メーカー側の開発期間が短くなります。

また、インバータとモーターの間は高圧電線でつなぐ必要がありますが、バラバラに搭載するとある程度の長さの電線が必要になり、重量や電気抵抗を増やすことになってしまいます。それがeアクスルとして一体化していれば最小限で済むため、コスト削減や筐体の軽量化という面でも、自動車メーカーにメリットがあるのです。

eアクスルの構造と仕組み

では、具体的にeアクスルの構造を見ていきましょう。

eアクスルにおける「主な部品のレイアウト」

多くのeアクスルにおいて、インバータ、モーター、トランスアクスルの配置はある程度決まっています。レイアウトとしては、モーターとトランスアクスルを並べた上に、インバータを置く二階建てに近い構造です。このようなレイアウトにした上で、どんどん筐体を小さくするように工夫するというのが、eアクスルの最新のトレンドです。

〈図〉eアクスルにおける部品のレイアウトイメージ

〈図〉eアクスルにおける部品のレイアウトイメージ

 

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eアクスルにおける「主な部品の役割」

続いて、eアクセルに組み込まれている部品の役割を説明しましょう。

Ⅰ.インバータの役割

インバータは、バッテリーから流れる直流電流を交流電流(三相交流)に変換することがメインの役割です。三相交流ならモーターを動かすことができます。さらにアクセル操作に応じて、モーター出力をコントロールするためにも欠かせない部品です。

Ⅱ.モーターの役割

モーターは、そうした電力を回転力に変えるのが役割です。EVに使われるモーターとしては、永久磁石を使うタイプと、電流を流すことで磁力を発生する電磁石を使うタイプがあります。2022年6月時点では、eアクスルは永久磁石タイプのモーターを使用するのが主流となっています。

Ⅲ.トランスアクスルの役割

冒頭で触れたようにトランスアクスルは、モーターの回転を適切に変速させるトランスミッションと、左右のタイヤに駆動力を分配するデファレンシャルギアから構成されています。

トランスミッションは複数の歯車を組み合わせたもので、モーターの回転数を変速する機構です。実際にはモーターは高速で回っているため、減速して(回転を落として)タイヤを回転させることから、減速機(リダクションギア)と呼ばれることもあります。

Ⅳ.冷却機構

eアクスルでは、部品の冷却方法について十分に考慮しなければなりません。インバータとモーターは、走行中に高い熱を持つ部品です。制御なしに大きな負荷をかけると、発熱して壊れる原因となるため、冷却方法がとても重要なのです。通常、車体パーツの冷却方法としては、水冷や油冷などのいずれかが選択されますが、バラバラの設計ではなく、まとめて設計するeアクスルは、求められる冷却性能を満たしやすい傾向があります。

 

 

eアクスルに種類はあるの? 構造の違いは?

eアクスルと一口に言っても、さまざまな種類があります。主な違いは、モーター出力とトランスミッションの構造です。

EVには、コンパクトカーから車体の大きなSUV、スーパーカーまでさまざまなモデルがあります。エンジン車では、車格にあわせて異なる排気量のエンジンがあるように、eアクスルでも車両に合わせてさまざまな出力のモーターを積んだタイプが用意されています。

トランスミッションについては、現時点では変速比が固定されたギア比の減速機、つまり1速が主流となっていますが、モーターの小型化や車両の高速巡行性能などを狙って複数の変速比を持つ、多段トランスミッションを組み合わせることも考えられています。

しかし、トランスミッションがあると言ってもエンジン車のオートマチックトランスミッションのように6速~10速といった多段タイプは不要なのがEVの特徴です。エンジンよりも全体に力強いモーターの特徴を活かして、市販車であれば2段変速もあれば十分にカバーできるというのが、現在の技術トレンドとなっています。

なお、モーターとトランスミッションの配置やトルクフローと呼ばれる動力の流れ方によって一軸式(同軸式)、三軸式といった区別もありますが、三軸式だから多段変速と言うわけでもありません。一軸式はコンパクトな傾向はありますが、モーターが巨大化すると一軸式では筐体サイズが大きくなってしまうこともあります。求められる性能によって適切な軸数が選ばれているのであって、ユーザーレベルでは軸数自体にこだわる必要はないでしょう。

eアクスルがもたらすユーザーへのメリットは?

eアクスル ユーザーへのメリットは?

画像:Adobe Stock/ Andrii Yalanskyi

 

前述のとおり、どのようなeアクスルを利用しているEVであっても、ユーザーレベルで変化に気づくことはないでしょう。そういった意味において、eアクスルを採用しているかどうかは、直接的なユーザーメリットには関係ないとも言えます。実際、eアクスルを搭載しているから性能がアップするわけでもありませんし、航続距離が極端に伸びるわけでもありません。

とはいえ、ここまで見てきたようにeアクスルはコスト抑制と小型軽量化には大いに寄与します。駆動系のコストダウンは車両価格を下げることに影響しますし、小型化はキャビンやラゲッジの空間的余裕を増すことにつながります。また、軽量であれば航続距離を伸ばすのにも有利だと言えるでしょう。

こうした点では、eアクスルの普及はユーザーにもメリットがあると言えますが、それ以上にeアクスルのメリットを享受できるのはやはり、自動車メーカーでしょう。

前述したとおり、インバータやモーター、トランスアクスルの相性を考慮することなく、ワンストップで部品を入手できるため開発期間を短くできますし、生産性も向上します。このような背景からeアクスルは自動車業界の技術トレンドになっているわけです。

 

 

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今後は、サプライヤーの受注競争が加速していく?

eアクスル 今後

画像:Adobe Stock/estherpoon

 

eアクスルという技術トレンドは、EVシフトに向けた自動車メーカーのニーズにサプライヤーが応えたことで生まれたと言えます。エンジン車に比べて部品点数が減ると言うことはサプライヤーの生き残りも激化しているということです。EVシフトによって新たなプレーヤーが参入しているのも垣間見られます。

日本国内におけるeアクスルのシェアは? 今後、開発は過熱する?

eアクスル 今後

 

日本国内におけるeアクスルの先駆者となったのが、自動車に関する電子制御技術に長けた「デンソー」とトランスミッションのスペシャリスト「アイシン」のトヨタ系のサプライヤーによって、2019年4月に設立された「ブルーイーネクサス」です。まさに蓄積されたノウハウをフル活用して、EV時代の生き残りをかけた戦略と言えます。

同じく2019年4月には大小さまざまなモーター開発で知られる「日本電産」がeアクスルの量産を始めています。同社は、中国では累計35万機を販売するなど海外で実績を残していることでも知られています。

たとえば、中国の大手自動車メーカーである吉利汽車グループのプレミアムEVブランド「Zeekr」の第1号モデル「Zeekr 001」には、日本電産の200kW級eアクスルが採用されています1)。このモデルは、リアにeアクスルを積んだRWDモデルと、前後にeアクスルを搭載した4WDモデルがありますが、どちらも同じeアクスルを採用しています。このように搭載位置を選ばないのも、コンパクトなeアクスルならではの特徴だと言えるでしょう。

ちなみに、日本電産では同社のeアクスルに「トラクションモータシステム」2)という名称をつけていますが、2022年4月には永久磁石を使わない誘導モーターを使う次世代トラクションモータシステムの開発が、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による「グリーンイノベーション基金事業」に採択されています3)。磁石フリー化によるコンパクト化や高効率化、レアアース不要によるコストダウンなどが期待できるeアクスルです。

 

eアクスル 今後

画像:iStock/Galeanu Mihai

 

前述したブルーイーネクサスも、2022年以降、量産化を進めています。先日リリースされた新型EV、トヨタ「bZ4X」とスバル「ソルテラ」にはブルーイーネクサス製eアクスルが使われています4)

具体的には、FWD向けの150kW仕様、4WD向けの80kW仕様(フロント/リア)の3機種を採用しています。特に、リア用のコンパクトな設計は目を見張るもので、ラゲッジスペースを狭くすることなく、4WDを実現しているのが特徴です。

おそらく、トヨタから今後リリースされるEVについては、ブルーイーネクサスのeアクスルを搭載するモデルが中心になってくると考えられます。トヨタは軽自動車サイズから大型SUV、レクサスブランドのスポーツカーまで15車種ものEVを開発していることを発表していますが、その多くはeアクスルの採用を前提に開発が進んでいると想定されます。

EVの先駆者である「日産」については、サプライヤーが組み上げたeアクスルではなく、自社でモーターを製造するなどしています。そして、日産や三菱自動車と縁の深いトランスミッション系サプライヤーである「ジヤトコ」も、eアクスルの生産を始めることを発表しています。

実際、ジヤトコは、2022年5月に開催された「人とくるまのテクノロジー展2022 横浜」に出展し、一軸式eアクスルと三軸式eアクスルのコンセプトモデルを発表しています5)

スーパーカーのような特別なクルマなどは、自動車メーカーがインバータ、モーター、トランスアクスルなどを組み合わせて設計するように思われますが、量産車については各サプライヤーが作るeアクスルを採用することが、今後のEV開発における主流となるでしょう。

また、日本電産が実績を残している中国では、開発コストを抑えると言うeアクスルのメリットを活かして、EV市場に参入する企業が増えています。同様のことが日本の自動車業界で起きないとは限りません。このように、eアクスルというトレンドは、電動化が急務の自動車産業を活性化させていく可能性を秘めているのです。

 

 

 

eアクスルの普及がEVシフトに貢献する

eアクスルはEVの量産化を進める上で、自動車メーカーとサプライヤー双方のメリットとなる技術トレンドと言えます。ユーザーからしても、信頼性やコスト面での利点があるのがeアクスルです。

こうして技術トレンドとなることで、サプライヤーがさまざまなeアクスルを生み出すはずですし、そうなるとEV開発のスピードは加速します。また、ユーザーニーズに合わせた多様なモデルが誕生することも考えられます。つまり、eアクスルの普及が、EVの魅力を高めることに繋がるのです。

現時点では、EVユーザーは、eアクスルを製造しているサプライヤー情報を気にする人は少ないでしょう。しかし、パソコンにおいてCPUを製造する半導体ブランドを気にするように、マニアがeアクスルの製造元を気にして、EV選びをするような時代がやってくるかもしれません。eアクスルの今後の動向や進化に注目ですね。

 

 

この記事の著者
山本 晋也さん
山本 晋也

1969年生まれ。1990年代前半に自動車メディア界に就職し、中古車雑誌編集長などを経て、フリーランスへ転身。2010年代からWEBメディアを舞台に自動車コラムニストとして活動中。タイヤの有無にかかわらずパーソナルモビリティに興味があり、過去と未来を俯瞰する視点から自動車業界の行く末を考えている。