BYD・SEALION 7 価格、走り、サイズ感。文句なしのクロスオーバーEV

2022年7月に日本市場への参入を表明し、2023年1月に正規販売店の1号店をオープンしたBYDはその後、「ATTO 3」、「DOLPHIN」、「SEAL」を送り込んできました。続く第4弾となるクロスオーバーSUVの「SEALION 7」が、いよいよ日本に上陸。本国では2024年6月にローンチされており、1年経たずに日本にやってきたのです。日本でも興味を持っている人が少なくないであろう最新作の実力を、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。

 

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「BYDってどうよ?」――自動車メディアに携わっていると周囲から話題のクルマについて聞かれることがよくあるのだが、このところもっとも多いのがBYDだ。

 

世界で急激にシェアを伸ばす中国メーカー、BYDとは

ざっとおさらいすると、もともとはバッテリーメーカーとして1995年に創業したBYDは、2003年に自動車事業に参入を果たし、順調に業績を伸ばしてきた。バッテリーから車体までを自社で開発・製造できる強みは、とくに近年の電動化の時代において追い風となっているのは言うまでもない。

 

2025年3月末のBYDによる発表によると、2024年暦年の売上高が前年比29%増の約7771億元(約16兆1000億円)で、純利益は前年比34%増の約402億元(約8300億円)に達したというからたいしたものだ。

※1元=20.7円で換算

世界販売台数についても、2024年は427万台まで数字を伸ばし、トヨタ、VW、ヒョンデ、GM、ステランティスに続く6位となり、もはや日産やホンダを超えた。しかもその大半がBEVPHEVなど新エネルギー車であることも特筆できる。

年初には最新鋭の運転支援システムである「天神之眼」を大半の車種に標準装備することや、わずか5分間の充電で400kmも走行できるという新技術を実用化するメドが立った旨が発表された。すさまじい勢いを感じさせる。

 

車内でカラオケも楽しめる! ユニークで斬新な、その中身

 

そんなBYDが日本導入第4弾として送り込んだのは、アシカを意味する海洋シリーズのフラッグシップクロスオーバーSUVとなる「SEALION 7」だ。少し前に紹介した「SEAL」とプラットフォームを共用するものの、サイズがひとまわり大きめで、「7」というから3列シートの7人乗りかと思ったら、そうではなく「7」は車格を示しているそうだ。そういえば第1弾の「ATTO 3」だって3人乗りじゃなかった(笑)。

 

 

 

「SEAL」を天地方向に伸ばしたように見えるクーペライクなフォルムは、ディテールの処理が新しいことも効いてか、より伸びやかでエレガントでありながら、SUVらしい力強さも感じさせる。極めてオーソドックスだった「ATTO 3」よりも、BYDらしさを感じさせるデザインといえそうだ。

 

バックスキンやステッチを施して質感を高めたブラック仕立てのインテリア。海を想起させる躍動感のあるデザインのインパネには、BYDお得意の縦にも横にもできるセンターディスプレイが配されていて、多くの情報や車両周辺の画像を表示できるほか、走りを含めさまざまな機能を操作・調整できる。

 

BYD Storeで取得できるカラオケアプリで、カラオケ音源を流せるだけでなく、マイクを使用して本格的にカラオケを車内で楽しむこともできるというのも面白い。そんな発想、他のメーカーにはなかなかないだろう。

スマホとの連携性も増して、新たにNFC(近距離無線通信)を駆使して、スマホをキーがわりにすることもできるようになったのも重宝する。

 

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なんと500万円以下から。プライスで他社を悠々と凌駕

 

駆動用バッテリーには安全性・耐久性が高く、優れた充電能力を実現したリン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリーをコンパクトに成型した「ブレードバッテリー」を採用しているのもBYDの特徴だ。それを隙間なく車体構造の一部として搭載することで、高い安全性と快適な室内空間を実現している。

 

車内はフロアがフラットで、3m近いホイールベースも効いて後席に座っても膝前が広々としている。広大なパノラミックガラスルーフによりどこに座っても開放感を味わえるのもBYDらしい。

 

荷室はリアに奥行きの長い500Lものスペースがあるほか、フロントにも58Lのストレージ(フランク)が設けられている。

 

モデルラインアップは駆動方式の違いのみのシンプルな構成で、ベースモデルで後輪駆動(RWD)の「SEALION 7」と四輪駆動の「SEALION 7 AWD」の2グレードとなる。価格は発売時点でAWDが572万円、RWDが495万円と、以下でもお伝えする充実した内容のわりに控えめなのもBYDらしい。

 

加速も走行距離も文句なし。足まわりの作り込みはかなりのもの

 

パフォーマンス的には、MAXで230kWと380Nmを発揮するリアモーターは共通で、AWDには同160kWと310Nmを発生するフロントモーターを組み合わせながらも、満充電での最大の航続距離が540kmと十分に長く、RWDは590kmとさらに長い。

 

AWDとRWDでは、タイヤとホイールのサイズと、AWDはレッドとなるブレーキキャリパーの色と、バッジの有無が異なり、黒基調のインテリアは同じと思っていい。装備の差もない。ドライブモード連動ではなく入力に応じて減衰力が変わる可変ダンピングアブソーバーが、SEALではAWDのみだったところ、「SEALION 7」では、RWDと両方に標準装備される。

ただし、出力値と駆動方式や重量、タイヤサイズと銘柄などが異なるとおり、ドライブフィールはそれなりに違う。

 

BEVらしく走りがリニアで力強く静かである点では共通しているが、動力性能はスペックのとおり、さすがは0-100km/h加速が4.5秒というだけあって、AWDのほうがかなり速い。再加速時などにも4WDのほうがパッと前に出る感覚がある。とはいえ、6.7秒のRWDだってなかなかのものだ。

 

足まわりはひきしまっていて、ハンドリングが俊敏で正確性に優れる点では共通しており、可変ダンピングアブソーバーも効いてかロールが小さくフラット感があるのは同じだが、操縦感覚は少なからず違う。タイヤサイズはAWDが1インチ大きくて幅が前後同じところ、RWDはリアがAWDよりも1サイズばかりワイドにされている。

 

走った印象もまさしくそのとおりで、操縦安定性はAWDのほうが高いが、RWDは走りが軽快で、いかにもリアが駆動して前に押す感覚があって楽しい。SUVということもあり、7:3の販売比率でRWDのほうが人気というSEALとは違って、80万円あまり差があっても、AWDが伸びそうな気もするが、どちらが売れるか興味深いところだ。

 

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V2Hにも完全対応。世界で売れまくる理由を垣間見た

V2HV2Lへの対応もぬかりはない。国内で販売されているほぼすべてのV2H機器が使用可能であり、V2Lも車両の給電口につなぎ、付属のコンセントに差し込むだけで家電製品を使用できる。V2Lアダプターにはコンセントが2つあるのも特徴で、最大出力1500Wの電力を供給可能となっている。

 

バッテリー温度管理システムの最適化により急速充電の受け入れ性能にも優れ、最大105kWまで対応しているほか、寒い時期にはあらかじめ設定しておくとバッテリーを事前に温めて充電効率を高めてくれるようになっている。

2025年4月に発表されたCEV補助金は、両モデルとも35万円、東京都で登録した場合は45万円(給電機能あり)で、さらに市町村単位でも適用される場合があるので確認してほしい。

 

すでに2024年6月にローンチされた中国での人気も非常に高いそうだが、これだけ中身が充実していてこの価格だったら、それは売れるのも無理はない。今回ドライブしていても、欠点らしい欠点もとくに見当たらなかった。日本にいるとまだピンと来ないところだが、BYDは世界ではとんでもない快進撃を続けている。そのすごさの片鱗を垣間見た快作であった。

 

撮影:小林 岳夫

 

〈スペック表〉
BYD SEALION 7 AWD

全長×全幅×全高 4830mm×1925mm×1620mm
ホイールベース 2930mm
車両重量 2340kg
モーター種類 前 かご形三相誘導モーター 後 永久磁石同期モーター
モーター最高出力 前160kW(217ps) 後230kW(312ps)
モーター最大トルク 前310Nm 後380Nm
バッテリー種類 BYD ブレードバッテリー(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー)
バッテリー総電力量 82.56kWh
一充電走行距離 540km(WLTCモード)
サスペンション 前ダブルウィッシュボーン式 後マルチリンク式
タイヤサイズ 前後245/45R20
税込車両価格 572万円

 

〈ギャラリー〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。