質実剛健なクルマづくりで世界中にファンを持つボルボは、いち早くEVシフトを打ち出したメーカーとしても知られています。世界的にヒットしたXC40にもEVモデルが登場しました。モータージャーナリストのまるも亜希子さんがレポートします。
2018年から2025年までに、ボルボ車1台あたり40%のライフサイクルCO2排出量削減を目標に掲げているボルボが、最初の一歩として欧州市場に投入したのが今回ご紹介するXC40 Recharge。ガソリンモデルのXC40は、ボルボとして初めて欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した、人気も実力も確かなベストセラーモデルです。
コンパクトサイズのシティSUVは、運転しやすさ、収納力の高い室内、先進の安全性能を備えており、もちろん日本でも大ヒット。その魅力を活かしながら、電気自動車としてどんな進化、あるいはプラスαの魅力を手にしているのでしょうか。今回はツインモーター搭載のAWD(全輪駆動)モデルを試乗レポートします。
●Check1:エコノミカル
航続距離は484kmを誇り、細かく充電条件を設定可能
XC40 Recharge Ultimate Twin Motorは78kWhのバッテリーを搭載し、航続距離は484km(WLTCモード)となっています。150kWまでの急速充電器に対応し、充電時間の目安は外気温やバッテリーの状態によって変わりますが、50kWの急速充電器を使用した場合、一般的に10分間で約40km走行分が充電可能。150kWの急速充電器を使用すると、バッテリー残量10%から80%までの充電が約28分で可能とのこと。バッテリーは80%を超えて100%まで充電しようとすると充電速度が遅くなる傾向があります。XC40 Rechargeでは車内のディスプレイ画面から、あらかじめ80%で完了するようにするなど、充電条件を設定しておくことができます。
普通充電は9.6kWまで対応しています。200V充電ケーブルを使用すると、1時間あたり7~14km走行分の充電が可能となっています。充電料金は、ボルボ独自の充電カードや料金プランがないので、日本に設置されている公共の充電スタンドがほぼ利用できる「e-Mobility Powerカード」などの充電カードに入会すると便利です。一例ですが、月額4180円(税込)で急速充電器が1分16.5円(税込)で利用できるプランなどいくつか用意されていますので、自分の使い方に合ったプランを賢く選びたいですね。
またボルボのディーラーでは、店舗によって異なりますが、オーナー限定で普通充電器が30分550円、急速充電器が30分1100円で利用可能(料金は一例です)となっています。
●Check2:プライス
639万円からの2モデル。ライバルと比べると、割安感も
XC40 Rechargeにはシングルモーター(前輪駆動)とツインモーター(全輪駆動)があり、シングルモーターのXC40 Recharge Plus Single Motorは639万円(税込)。ツインモーターは739万円(税込)となっています。この価格は、ボディサイズがほぼ同じとなるメルセデス・ベンツEQAが782万円(税込)、ほぼ同等の80kWhのバッテリーを搭載するBMW iX3が862万円(税込)ということを鑑みると、リーズナブルに感じられます。
マイルドハイブリッドモデルのXC40が469万円からなので、それと比較すると割高に思えるかもしれませんが、EVは引き続き国からクリーンエネルギー自動車導入促進補助金が受けられます。令和4年度当初予算では65万円が受けられました。さらに各地方自治体でも独自に補助金を設定する場合がありますので、購入時にはお住まいの自治体に問い合わせてみましょう。
さらに、購入時と1回目の車検時にかかる自動車重量税が免除されるほか、環境性能割も非課税、自動車税も減税されます。
●Check3:ユーティリティ
上質なスカンジナビアンデザインは、使い勝手もいい
ボルボは次世代の安全なコネクテッド・ユーザー・エクスペリエンスに向けて、グーグルとのパートナーシップを結んでいます。XC40 Rechargeのインテリアは、これまでボルボが貫いてきたスカンジナビアンテイストを、さらにモダンに上質に、すっきりとした空間へと昇華させているように感じますが、それもセンターコンソールの中央に置かれたインフォテイメントシステムのディスプレイに、ドライバーに必要な多くの情報、操作を集約しているから。
スマートフォンと同じように、話しかけるだけで目的地までの最適なルートを検索し、リアルタイムの交通情報やフレキシブルな再探索、ルート上の充電スタンドの探索など、実際に使ってみるとEVならではのドライバーの不安を減らし、行動を先まわりしてくれるような賢いルート案内に感心しました。
エアコンやオーディオなどは声での操作も可能ですし、先進安全装備のオン・オフといった車両に関するさまざまな操作が、このディスプレイで切り替えられるようになっています。さらに、Google Playのアプリやオンラインサービスが利用でき、豊富なエンターテインメントコンテンツが車内で楽しめるのも嬉しいところ。充電中にYouTubeで動画を見たり、音楽のストリーミングサービスを利用したり、harman/kardonのプレミアムなサウンドシステムによる最高の音響とともに、お気に入りの動画や音楽を堪能する贅沢な時間が手に入ります。
そして、大きなドアポケットやセンターコンソールボックスなど、収納力の高さは維持したまま、レザーフリーというエシカルな発想でデザインされたシートやインパネは、見た目にはセンスよく、触れるとホッと心が温まる心地よさ。コンパクトサイズですが後席の足もとスペースも十分に確保されています。
ラゲッジも419Lあり、後席を倒すと最大1295Lに拡大しますので、レジャー用の大荷物もOKです。
●Check4:エモーショナル
鋭い加速に驚き、安定感も抜群
前後それぞれに204psのモーターを搭載し、システム合計で408psの大パワーを誇るXC40 Recharge Ultimate Twin Motorは、発進直後には2tオーバーの重量を感じるものの、そこからの加速は鋭くパワフル。市街地ではあっという間に制限速度に達して、スーッとクリーンで余裕に溢れた走りが快適です。四輪がシッカリと路面を捉えている感覚があるので、カーブでも安定感が抜群。乗り心地も落ち着いているのが印象的でした。
高速道路に入ると、車線変更での追い越しをしようとアクセルに力を込めた途端、頭がヘッドレストに押しつけられるほどの怒涛の加速にビックリ。さすが、0-100km/h加速が4.9秒! シングルモーターの0-100km/h加速は7.4秒なので、ツインモーターがどれほど速いかがわかりますね。エコ、スポーツなどの走行モード切り替えはなく、アクセルペダルのみで加速と減速、完全停止も可能となる設定ができるのみとシンプル。
前後の重量バランスもよいので、雪道などでも安全かつパワフルなドライブが楽しめるのではないでしょうか。
●Check5:ハウスベネフィット
Google アシスタントに対応し、自宅にいながら各種操作が可能
XC40 Rechargeの充電ポートは、普通充電用が左フロントフェンダーあたり、急速充電用が左リヤフェンダーあたりに設置されています。これから自宅の充電器を設置する場合には、充電しやすい位置を考慮するといいですね。ボルボでは今のところ、車両のバッテリーから家庭への電力供給ができる「V2H」には対応していません。
XC40 RechargeはGoogleアシスタント対応。自宅にGoogle Homeなどがあれば、いろんな機能を遠隔操作できるようになっています。あらかじめ車内のエアコンを作動させて暖めておいたり、ドアロックなどもできたりして便利です。
2030年までに全車種をEV化。その先鞭を付ける意欲的な一台
ボルボは2025年までに、日本で販売する車両の45%をBEVにすると発表し、2030年までに全世界で販売する車両をすべてBEVにすることを目指しています。実は、ボルボのガソリンエンジンやディーゼルエンジンはとても気持ちのいいフィーリングだったために、それがなくなると魅力が半減してしまうのではないかと案じていました。
でもこのXC40 Rechargeの試乗を終えてみると、静かななかにも心を満たす加速フィールと、手厚く守られているような安心感、Googleとの提携によってIT世代が馴染みやすいユーティリティ。それらが環境に配慮した新しいアプローチの北欧デザインとあいまって、まさしく次世代ボルボの魅力を手に入れていると感じました。
シングルモーターとツインモーターでは約100万円の価格差があり、パワーや航続距離のほかに、インテリアの仕上がりや装備の充実度なども変わってきますので、まずはEVのある暮らしにトライしてみたい、市街地中心で手軽に乗りたいという人はシングルモーター、パワフルでスポーティな走りを楽しみたい、上質な空間を堪能したいという人には、ツインモーターをオススメします。
<クレジット>
撮影:宮門秀行
●家庭と暮らしのハマり度 総合評価
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「連載:モータージャーナリスト・まるも亜希子の私と暮らしにハマるクルマ」
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
この記事の監修者
まるも 亜希子
カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。