
さまざまなモノがインターネットを介してつながる(=コネクテッド)のが当たり前となってきたなかで、電気自動車(EV)と親和性の高い「コネクテッドカー」が注目を集めています。そもそもコネクテッドカーとはどのようなクルマで、従来のクルマと何が違うのでしょうか。その定義や特徴、実現できる機能などについて、自動車ジャーナリストの山本晋也さんが解説します。
- 【図解】コネクテッドカーとは?
- コネクテッドカーで実現する機能やサービス
- 【トヨタ・日産・ホンダ】利用可能なコネクテッド機能
- コネクテッドカーのデメリットや懸念点
- コネクテッドカーはカーライフを快適かつ便利にしてくれる
【図解】コネクテッドカーとは?
EV普及が広がりを見せるなかで、「コネクテッドカー」という言葉を耳にする機会が増えてきました。“コネクテッド”はIoT(モノのインターネット)の分野などでよく使われる言葉ですが、コネクテッドカーとはどんなクルマを指すのでしょうか。
定義は「双方向通信機能を備えたクルマ」
コネクテッドカーの“コネクテッド(Connected)”とは、「つながった」「接続された」という意味です。IoTでは「モノがインターネットに接続された状態」を示す言葉として使われています。
この言葉の意味どおりに考えれば、広義のコネクテッドカーは「つながるクルマ」「インターネットに接続されたクルマ」「通信機能をもったクルマ」といったものになるでしょう。コネクテッドカーは「クルマのスマホ化」と表現されることもあります。
しかし、クルマが外部ネットワーク(クラウド)とつながるためには双方向通信を可能にするデバイスが欠かせません。
そのデバイスが「TCU(テレマティクス制御ユニット)」と呼ばれる通信ユニットです。この「テレマティクス」という聞き慣れない単語は、電気通信(テレコミュニケーション)と情報処理(インフォマティクス)を組み合わせた造語です1)。
〈図〉TCU(テレマティクス制御ユニット)の仕組み

TCUは、車両に搭載されたADAS(先進運転支援システム)やインフォテインメント、SRSエアバッグといったさまざまなシステムを制御する「ECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)」から情報を受け取り、車両と外部ネットワークとの間で双方向通信を行うことでコネクテッドサービスを実現します。
〈図〉コネクテッドカーのイメージ

つまり、コネクテッドカーとは、単に「つながるクルマ」「通信機能をもったクルマ」というだけではなく、「双方向通信(テレマティクス)機能を備えたクルマ」と定義できるのです。
この双方向通信をドライバーや乗員の快適性や利便性の向上、安全確保などのために役立てる機能をもっていることが、コネクテッドカーとして認められるクルマの条件といえるでしょう。
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コネクテッドカーはEVとの親和性が高い
じつはコネクテッドカーはEVやPHEVなどの電動車との親和性が高く、両者は密接に関わり合いながら開発が進められてきた経緯があります。
そもそも、自動車業界でコネクテッド機能が次世代自動車に必須のテクノロジーとして広く認識され始めたのは2010年代後半のことでした。「パリモーターショー2016」において、ダイムラー社(現在のメルセデス・ベンツ・グループ)が「CASE(ケース)」という概念を提唱したのが始まりとされています2)。

CASEとは「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング・サービス)」「Electric(電動化)」の頭文字を組み合わせた造語です。
これらの要素は完全に独立しているのではなく、それぞれが密接に関係しながら次世代のクルマづくりに生かされています。
とくにC(コネクテッド)とE(電動化)は不可分といえる関係にあり、たとえば、車両全体のシステムを制御するEVの電子プラットフォームはネットワークとの親和性が高く、EV普及が進んでいけばTCUの重要性がますます高まるとされています1)。
また、TCUを介した双方向通信によって、EVのソフト面におけるアップデートやアップグレードが容易になり、ソフトウェアがより重視されるようになっていくともいわれています1)。
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コネクテッドカーは「SDV」とどう違う?
ただし、双方向通信でクルマのソフトウェアをアップデートするといっても、コネクテッドカーと「SDV」は違うものです。
SDVは「Software Defined Vehicle(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」の略で、「ソフトウェア定義車両」という意味です。ようは「ソフトウェアをアップデートすることで、クルマの機能を向上・追加する設計思想」と考えればよいでしょう。

また、車載通信機能を利用して無線でクルマのソフトウェアをアップデートする技術には、もうひとつ「OTA(Over The Air)」と呼ばれるものもあります。SDVもOTAも現在の自動車業界において一種のトレンドとなっている専門用語です。
しかし、SDVはソフトウェアのアップデートによって機能追加を行うことを想定した設計思想ですが、必ずしも無線通信でアップデートしなければならない“縛り”はありません。自動車メーカーのなかには「重いソフトウェアは整備工場などで有線アップデートするSDV」を想定しているケースもあります。
SDVというのは、あくまでもクルマの設計思想であり概念ですから、コネクテッドカーの発展型というわけではないのです。
一方のOTAは無線通信を使ってソフトウェアを更新し、機能向上や不具合の修正を行いますが、こちらは「双方向通信機能を利用した技術のひとつ」と理解したほうがよいでしょう。
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コネクテッドカーで実現する機能やサービス
コネクテッドカーの特徴は車両からクラウドなどに情報を発信する双方向通信にあります。気になるのは、それによりカーライフがどのように変わっていくのかということでしょう。コネクテッドカーによって実現する機能やサービスを紹介します。
車内でWi-Fiによるデータ通信を利用できる

コネクテッドカーにはデータSIM(音声通話機能がないデータ通信に特化したSIMカード)と同等の機能が求められ、現在のコネクテッドサービスは4Gおよび5G規格に対応しています。
そのため、4Gなどの車載通信機能をWi-Fiスポットとし、乗員がスマホやタブレットなどで容量無制限の通信を楽しむことができる「車内Wi-Fi」に対応する車種も少なくありません。
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クルマをリモート操作することが可能になる

多くのEVは専用アプリを介して乗車前の車両のエアコンや充電のオン・オフをリモート操作できますが、これもコネクテッドカーの特徴的な機能です。また、バッテリー残量や消費電力といった走行データをクラウドに上げておき、その情報をスマホから確認するといった機能も双方向通信機能が可能にしています。
そのほか、遠隔操作によってパワーウィンドウやドアロックの開閉を行うこともコネクテッドカーであれば可能です。
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SOSコールで車両事故対応が迅速化される

2025年10月時点でコネクテッドカーの代表的な機能といえるのが「SOSコール」です。運転中に体調不良になったりあおり運転に遭遇したりしたときなどにスイッチを押せば、オペレーターに接続され、警察や消防に連絡して緊急車両が手配されます。
単独事故で意識を失うほどの状態になったときもSOSコールが役に立ちます。コネクテッドカーはSRSエアバッグシステムにリンクしていますから、事故時にエアバッグが開くと自動でSOSコールを発信する仕組みになっているのです。
また、コネクテッドカーの双方向通信機能はGPS(全地球測位システム)とも連携しており、仮に乗員の意識がなく会話できない状態であっても、緊急サポートセンターがGPSの位置情報から車両の位置を特定し、消防や警察に連絡してくれます。
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テレマティクス保険で保険料負担が公平になる?

コネクテッドカーの隠れた機能のひとつに「走行距離や運転特性を把握する」というのがあります。たとえば、急加速や急ブレーキなどが多いドライバーであるかどうかを双方向通信(テレマティクス)機能によって把握することが可能なのです。
この仕組みを利用するのが「テレマティクス保険」と呼ばれる自動車保険です。テレマティクス保険では専用ユニットを車両に搭載することもありますが、自動車メーカーが提供する保険サービスの場合は、コネクテッドカーがクラウドに送信する走行データを利用するケースもあります。
この走行データ(走行距離や運転特性など)に基づいて保険料の算出を行うのがテレマティクス保険の特徴です。
テレマティクス保険という制度が進めば、保険料負担がよりフェアになっていくと考えられます。「荒っぽい運転をしていると自動車保険の保険料が上がる」となれば、安全運転を心がけるインセンティブになるでしょう。交通事故が減少する未来も期待できるかもしれません(デメリットは後述します)。
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災害時に通行可能なルートを教えてくれる

コネクテッドカーから集約される「各車の走行データ」というビッグデータはさまざまな用途に役立てられています。たとえば大きな災害が発生したとき、安全に避難できる通行可能ルートをコネクテッドサービスが提供した事例はいくつもあります。
しかも、スマホのGPS機能と違い、コネクテッドカーから集めた通行可能ルートは「クルマが通行した事実」を反映した実績ベースですので、情報の信頼性が高いという特徴があります。
ちなみに、カーナビ画面に表示される渋滞や通行止め、交通事故などの情報もコネクテッドカーの双方向通信機能によって入手されています。こうした機能は、少なくとも10年以上前から存在している「コネクテッドカーの基本」といえるものです。
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盗難車両の位置情報を把握して追跡できる

社会的に大きな問題となっている車両盗難についても、コネクテッド機能の普及によって減少していく可能性があります。各車の走行データが集約されるというのは、盗難された車両の位置が把握できるということでもあり、追跡が可能となるのです。
実際にトヨタはクルマが盗難にあった場合、所有者の要請によりオペレーターが盗難車両の位置を追跡するとしています3)。
盗難車両を追跡するだけでなく、コネクテッドカーなら遠隔操作によってシステムをシャットダウンすることもできます。もしかすると、コネクテッド技術を応用することで、いずれ盗難車両はシステムを起動できない時代がやってくるかもしれません。
参考資料
3)トヨタ「T-Connect 車両の位置追跡」
【トヨタ・日産・ホンダ】利用可能なコネクテッド機能

上記の機能はすべてのコネクテッドカーに実装されているわけではありません。コネクテッドサービスは自動車メーカーごとに少しずつ異なり、車種のモデル世代によっても違う部分があります。
そのなかでも、「SOSコール」はトヨタ、日産、ホンダなど、国産の自動車メーカーの多くが採用を進めていますし、エアコンの遠隔操作や車内Wi-Fiも標準的なコネクテッド機能として広まっています。
しかし、カーナビの地図データのOTAアップデート、ドアロックの遠隔操作、ライト消し忘れのワーニング(警報)機能などは、自動車メーカーによってサービス提供の有無に違いがあります。
最新のコネクテッド機能を知りたいという場合は、メーカーの公式サイトを常にチェックする必要があるでしょう。ただし、コネクテッド機能はまさしく日進月歩ですので、「必要なときに詳しく調べる」程度のスタンスで十分かもしれません。
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コネクテッドカーのデメリットや懸念点

コネクテッドカーには多くのメリットがあり、カーライフをより豊かで安全なものにしてくれます。しかし、一方でインターネットに常時つながることによる懸念点も指摘されています。
なかでも、いずれ「なんらかの対策が必要になるのでは」と予想されるのが「セキュリティ」や「個人情報の流出」です。
このうちセキュリティについては、たとえば米国がバイデン政権時代に日本や欧州などの主要同盟国とコネクテッドカーのリスクに関して共同で取り組むなど4)、各国が規制に乗り出していますが、悪意をもってハッキングをしようとする犯罪グループとはいたちごっこになる可能性が高いのも事実でしょう。
遠隔操作を行える範囲が広くなればなるほど、厳重なセキュリティが必須となり、そのためのセキュリティコストが車両価格を押し上げる原因となる可能性は十分に考えられます。また、「運転が荒っぽい」といった運転特性など、テレマティクス保険に利用される個人情報が流出してしまうことも懸念されます。
もっとも、前述のCASE(ケース)で「Connected(コネクテッド)」の次に「Autonomous(自動運転)」が配置されていることでもわかるように、双方向通信による自動運転テクノロジーの発展により、人が運転する時代はやがて終わりを告げるでしょう。
そういう意味では、運転特性が個人情報と紐づけられることによる懸念は、限定された期間の課題となりそうです。
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コネクテッドカーはカーライフを快適かつ便利にしてくれる
ここまでみてきたように、コネクテッドカーのテレマティクスという機能は利便性向上や安全確保に大いに貢献してくれます。ただし、知っておかなければいけないのは、それにより「新しいクルマの維持費」が発生するかもしれないということです。
コネクテッド機能は無料サービスではなく、利用料金を支払う必要があります。自動車メーカーにより料金体系は異なりますが、基本料金とオプション料金を毎月支払うケースが多いです。
また、前述したSDVによるソフトウェアの機能追加についても、いずれは有料サービスが主流になることが想定されています。スマホと同様に、通信費やサービス料金・アプリ代などが発生することになるのです。
コネクテッドカーが広まってその機能が増えれば増えるほど、クルマにかかるランニングコストが大きく変化していきます。まさしくコネクテッドカーは「クルマのスマホ化」なのです。
しかし、一方でコネクテッドカーはリアルタイムに交通情報を知ることもできますし、事故時の安心感も得られます。OTAテクノロジーを利用すれば、わざわざクルマを整備工場までもって行かなくても無線でソフトウェアアップデートが可能となり、常にクルマを最新の状態で利用することも期待できるでしょう。
このように、コネクテッドカーで実現できるさまざまな機能がカーライフを快適かつ便利なものにしてくれるのは間違いありません。コネクテッドカーのさらなる進化に期待しましょう。
※本記事の内容は公開日時点での情報となります

