国沢光宏さんを直撃取材!「私がBYDのEVを買った理由」

国沢光宏さんは1980年代からクルマに関する執筆活動を行ってきた自動車評論家の第一人者です。これまで所有してきたクルマは約120台に上り、電気自動車(EV)にも何台も乗ってきました。その国沢さんが次に選んだEVは、破竹の勢いで成長を続ける中国の自動車メーカー、BYDの「SEALION(シーライオン)7」…! なぜこのEVを購入したのか? 国沢さんにじっくり話を聞きました。

 

【今回の取材でお話を聞いた方】

国沢光宏さん

1958年、東京都中野区生まれ。自動車評論家。得意分野は新車の評価、自動車メーカーの分析、新技術の紹介など。自動車雑誌への寄稿を中心に、テレビやラジオのコメンテーターもつとめ、EV DAYSでは記事監修を手がける。趣味はラリー全般。WRC出場4回。2012年のタイラリー選手権シリーズチャンピオン。

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国沢邸の駐車場にBYDの最新型EVが…!

2025年9月初旬の某日、EV DAYS編集部のスタッフは国沢さんを取材するべく、都内にあるご自宅を訪れました。

呼び鈴を鳴らすために敷地に入り、ふと駐車場を見ると、国沢さんが「最後の純エンジン車」として購入したオレンジ色の日産「フェアレディZ(RZ34型)」の隣に、最新モデルと思わしきピッカピカのクロスオーバーEVが鎮座しています。

ルーフラインが後方に向かって緩やかに下降していく優雅なクーペフォルム、そして、フロントの「BYD」のエンブレム…。EVの世界販売台数でテスラとしのぎを削る中国の最大手自動車メーカー、BYDの「シーライオン 7」です。

 

「これはもしかすると…! 国沢さん、『シーライオン 7』を購入されたのでは?」。そんな想像が頭のなかで膨らみます。そこで、ご本人に直接尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。

 

国沢さん「あれは私のクルマではなく、メーカーから貸し出してもらった広報車です。じつはいま、メインで使う新しい電気自動車を買おうと思っているんですが、購入候補のうち、『シーライオン 7』だけは試乗したことがなかったんですよ。だから、これから数日かけて、じっくり乗って試してみようと思ってね」

そう、この時点ではあくまで購入候補のうちの一台にすぎませんでした。しかし、結論からいえば、国沢さんはそれからしばらくして、熟慮のすえに「シーライオン 7」の購入を決め、2025年10月上旬にめでたく納車を迎えることとなったのです。

そうなると、気になるのは国沢さんが「シーライオン 7」の購入を決めた理由でしょう。国産車・輸入車ともに多くの選択肢があるなかで、国沢さんはなぜこのEVを選んだのでしょうか。あらためて後日、国沢さんに購入の理由を聞いてみました。

 

 

国沢光宏はなぜBYDのEVを選んだのか?

 

国沢さんのご自宅の一角には、色とりどりのたくさんのミニカーが展示されたスペースがあります。国沢さんによると、この多種多様なミニカーは「全部がそうではないけれど、これまで自分のお金で買って乗ってきた歴代の愛車」だといいます。

フェラーリ「328 GTS」、ジャガー「XJ6」、シトロエン「XM」、ホンダ「NSX」、スバル「レガシィGT」…。はたまた、フォード「エコノライン」などのフルサイズバン、日産「サニークーペ」やマツダ「サバンナRX-7」といった懐かしい国産車。さらに、フォルクスワーゲン「カルマンギア」やダットサン「フェアレディSR311」などの古き良き時代の名車もあります。

 

これらの愛車遍歴には、初代モデルから3台乗り継いだ日産「リーフ」、初代モデルから2台乗り継いだトヨタ「MIRAI」など、EVやFCEV(燃料電池自動車)も含まれています。国沢さんは2010年代初めから誰よりも早く次世代の電動車を購入して試し、自動車評論家としてその評価や課題を世の中に発信してきました。

そして、国沢さんが次にメインで使う愛車として選んだのも、やはりBYD「シーライオン 7」という最新のEVだったのです。

国沢さん「単純に電気自動車に乗りたいからです。電気自動車はエネルギーコストがかなり安く、なによりも走行フィールがスムーズかつ滑らかなので、乗っていて気持ちがいいんですよね。できることなら、エンジン車ではなく電気自動車に乗りたい。

ただし、実用的であることが条件です。私は八丈島の別荘ではホンダ『N-VAN e:』を使っていますが、それは離島生活では軽バンの電気自動車のほうが便利だから。都市部で生活して電気自動車をメインに使うのなら、やはりある程度の実用性が必要です」

国沢さんがいう「実用性」とは、一回の満充電で走行できる航続距離です。電欠を心配せず、快適に移動するためには「ある程度の航続距離を走れるかどうかが重要になる」といいます。

 

国沢さん「もっとも、そのためには容量が大きい駆動用バッテリーを搭載する必要があり、そうすると、どうしても車両価格が高くなってしまう。数年前まで航続距離が長い電気自動車はごく一部の高級車に限定され、価格が1000万円前後しました。そんな高価なクルマはおいそれと買えないじゃないですか。

しかし、最近は航続距離が600km程度あり、それでいて価格が手頃な電気自動車が韓国のヒョンデやBYDなどの海外メーカーから続々と出てきました。たとえば、それがヒョンデ『IONIQ(アイオニック)5』や、私が買った『シーライオン 7』です」

 

 

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航続距離590kmのEVを300万円余りで購入

 

たしかに「シーライオン 7」のスペックを見ると、82.56kWhもの大容量バッテリーを搭載し、航続距離は590km。にもかかわらず車両価格は495万円〜(税込)と、500万円を切っています1)

国沢さん「これだけでも、性能を考えたら数年前までの電気自動車に比べると相当安い。しかし、私が購入を考えたのは、もっと安く買えるさまざまな制度が用意されていたからです」

たとえば、BYDの日本法人は2025年9月1日から9月30日まで「BYD補助金」という値引きキャンペーンを実施していて、「シーライオン 7」を73万円安く買えたそうです。つまり、そのキャンペーン期間の「シーライオン 7」は、「495万円−73万円=422万円」という破格といえる価格で販売されていたのです。

国沢さん「そこに国の補助金35万円と、私の場合は東京都に住み、自宅に太陽光発電を設置していますから、東京都から基本補助額45万円、太陽光発電の設置による上乗せ補助額30万円がプラスされる。そうするとBYD補助金と合わせて183万円です」

 

495万円から183万円を差し引くと、じつに312万円。オプションやメンテナンスパックなどの費用が別途必要だとしても、航続距離590kmの高性能EVをこの価格で購入できるとすれば、相当にお買い得です。

国沢さん「ヒョンデも同じ時期に同様の値引きキャンペーンを実施していて、国や東京都の補助金以外に、バッテリー容量84kWh、航続距離703kmの『アイオニック 5』を158万円も安く買うことができました。だから、最後までどちらにするか迷いましたね」

そもそも、BYD「シーライオン 7」は全長4830mm、全幅1925mmという堂々たるボディサイズのSUVで、「300万円ちょっとで買える電気自動車にはとても見えない」と国沢さんはいいます。

 

国沢さん「インテリアの仕上げもよく、質感はレクサスやメルセデス・ベンツなどの高級車にも負けていません。しかも、BYDはオプションで儲けるつもりがないらしく、ADAS(先進運転支援システム)から車載インフォテインメント、エクステリアにいたるまで、考えられるすべての装備が標準でついてきます」

ただし、BYDが自動車事業に参入したのは2003年のことで、日本や欧州の自動車メーカーなどに比べるとかなり歴史が浅く、信頼性・耐久性という意味で心配な点があるのも事実でしょう。

国沢さん「いまはBYDに勢いがありますが、今後はどうなるかわからない不安な部分はあります。しかし、300万円と少しでこのクラスの電気自動車を買えるなら、後で『失敗したかもしれない』ということになっても許せるじゃないですか。それも『シーライオン 7』の購入を決めた理由のひとつですね」

 

参考資料
1)BYD「BYD SEALION 7」

 

 

「それなら私がBYDのEVに乗ってやる」

 

もうひとつの大きな理由は「日本の自動車ユーザーの中国車や韓国車に対する拒否反応にある」と国沢さんはいいます。

国沢さん「BYDやヒョンデの電気自動車に試乗し、自動車メディアやブログなどでそのレポートを書くと、必ずといっていいくらい『BYDやヒョンデの電気自動車がいいと思うなら、自分で買ってみろ!』といった批判の声が寄せられるんですね。

こういった反応の背景にはおそらく、国産車に対する信仰に近い信頼感と、中国や韓国の自動車メーカーがつくるクルマの品質に対する疑念や懸念などがあるんじゃないかと思います」

しかし、国沢さんは「BYDやヒョンデは日本のユーザーの想像よりも、はるかに優れた自動車をつくるメーカー」といいます。

 

国沢さん「たとえば、いま電気自動車の駆動用バッテリーに使用されるリチウムイオン電池は、従来の三元系(NMC)ではなく、安価で安全性が高いリン酸鉄系(LFP)が世界的に主流になっていますが、BYDはこのLFPで世界の最先端を走っています。

スズキが2026年1月に発売する予定の『eビターラ』は駆動用バッテリーにBYD製のLFPを採用し、トヨタも中国ではBYDとタッグを組んで電気自動車をつくっています。トヨタはおかしなクルマを絶対につくりません。トヨタが組む時点で、BYDが日本のユーザーが思うようなメーカーではないとわかるはずです」

それなのに、「クルマの評価を専門としている自動車ジャーナリストたちのなかにも、BYDやヒョンデの電気自動車に乗っている人を誰もみたことがありません」と国沢さんは嘆きます。

国沢さん「だったら私がBYDに乗ってやろうじゃないかと。もちろん、いいクルマじゃなかったら買いませんよ。だから広報車を借りてじっくりと試し、最終的に購入を決断したんです」

 

いいクルマかどうかは先入観にとらわれずに判断し、そのクルマが安く買えるのであれば自分自身で試してみて、リスクを含めて最終的に決める。国沢光宏さんの行動からは「クルマというのはこうやって選ぶんだ」という姿勢が伝わってくるようです。

国沢さんがこの次にどんなEVに試乗するのか、要注目です。

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部